「日本百貨店(にっぽんひゃっかてん)」は、「日本のモノヅクリとスグレモノ」を旗印に、全国の伝統工芸品や食料品を選りすぐったセレクトショップを首都圏で展開している。今年9月には東京・日本橋に旗艦店となる「日本百貨店 にほんばし總本店」をオープンした。バイヤーとして全国の作り手の商品を発掘するかたわら、地方自治体と連携し、地域産品の開発も担う。同社社長の鈴木正晴氏に、「売れる作り手」の条件を聞いた。

日本百貨店の鈴木正晴社長(写真:日経BP総研)
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よその自治体、作り手、バイヤーなどと、もっと交流を

――日本百貨店は自治体と連携し、地方産品の開発や販促活動も行っていますね。

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さくらさく農園のパン屋のクッキー。れもん玉、りょくちゃ玉など5種類をそろえる(写真提供:さくらさく農園のパン屋)

 「ゼロベースからの商品開発」「既存商品をブラッシュアップし、当店でテスト販売する販促活動」が2本柱です。最近の成功事例の1つが岡山県の依頼でブラッシュアップした、さくらさく農園のパン屋のクッキー。良質な素材をふんだんに使った、ナチュラルローソンなどでも通用する自然派クッキーなのですが、全体的な雰囲気があか抜けていなかった。そこでパッケージを変更するなどして、都会の単身者や少人数の家族向けにブランディングし直した結果、当店でも人気の商品になりました。

 とはいえ、地域産品には、「どこか郷愁が漂う、その地方ならではもの」という近年のニーズにそのまま合致する、ブラッシュアップの必要性がない魅力的なものも多い。そうした“お宝情報”を握っているのは地方自身にほかなりません。自治体の販促担当者は、地域に残る伝統的な産品を積極的に掘り起こし、情報発信すべきでしょう。

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再開発の進む東京・日本橋に建設された複合商業施設「コレド室町テラス」の1階路面で展開する「日本百貨店 にほんばし總本店」。全国から選りすぐった食品、雑貨、伝統工芸品など1500アイテムがそろう。店内ではワークショップや実演販売などの企画も取り入れている(写真:日経BP総研)
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――他にも自治体の販促担当者へのアドバイスはありますか?

 トレンド全般の動向を広く探るのは、民間企業の販促担当者なら当然のこと。自治体の販促担当者には、域内の商品の売り込みには熱心でも域外の商品には関心が低い人が少なくありません。トレンド系の情報誌やウェブサイトに目を通すなど、視野を少し広げるだけで、商品開発のヒントや方向性が見つかることもある。そうな れば地域の作り手に、有益な情報を提供できることにもつながります。

 また当店には、各自治体の販促担当者、作り手、バイヤーなどが頻繁に出入りしています。そうした人たちとも積極的につながってほしいですね。交流を重ね、親しくなれば、商品への率直な意見を聞くこともできるでしょうし、仕入先や販路を紹介してもらえるかもしれません。

広域でつながることで、新たなチャンスも

――2018年に東京・丸の内でオープンした居酒屋、「日本百貨店さかば」は、2つの自治体の販促担当者同士がつながり結実したプロジェクトだとか。

 ともに地元産品への愛情が半端なく深い、香川県丸亀市と静岡県西伊豆町の担当者を引き合わせたところ、すっかり意気投合。両市町の食材の首都圏での販路拡大を図るべく、当店も参入し、“丸亀+西伊豆+日本百貨店セレクトの日本全国の美味しいモノ”を集めた居酒屋を開店しました。1企業2自治体による広域連携事業です。

 地場産品を活かしたメニューの提供により、丸亀市も西伊豆町も、地域の食材や観光地としての魅力を来店客に広く周知できています。これからの地方自治体は、自分たちの利益を追求するだけでは先細りする一方です。様々な相手とつながり、共存共栄を目指してほしいですね。

日本百貨店さかばのオープニングの会見の模様。左から西伊豆町の星野浄晋町長、日本百貨店の鈴木社長、丸亀市の梶正治市長(写真:日経BP総研)
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日本百貨店さかばの店内。地域ブランドの商品の展示やイベントなども随時行っている(写真提供:日本百貨店)
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作り手と売り手はチームメイト、互いを認め合う素直さが大切

「日本百貨店 にほんばし總本店」にて。鈴木氏はチーフバイヤーでもある(写真:日経BP総研)
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――一般的なセレクトショップとの違いはどこにありますか?

 普通のショップは、作り手が商品を10種類作っていたら、バイヤーが2、3種類程度を選び、陳列しますよね。でも私たちは10種類すべてを見せたいんです。作り手は「いいモノを協力して世に送り出す、大切なチームメイト」。仲間だからこそ、その魅力や価値をふるいにかけたくはありません。私たちがセレクトするのは、「作り手のモノ作りへの姿勢が真摯であるか否か」という部分。商品の絞り込みは私たちがしなくても、売れ行きというお客様の判断基準により、自然に行われるものです。

――そうはいっても、売れるようにするための工夫も必要ですよね。

 日本には、各地の作り手が手掛ける「いいモノ」が数多く存在します。それらがきちんと売れ、作り手にお金が回り、次のモノ作りにつながる仕組みを作りたい、という思いから始めた店が日本百貨店です。ただ「いいモノ」はそれなりの値段がする。100円ショップで何でも揃う今、お客様に選ばれるには、その値段である理由を伝え、適正価格だと納得してもらうことが必須です。

 その有効な手段の1つが、作り手自身が売り場に立ち、商品の魅力を説明する販売方法です。例えば和歌山県海南市の髙田耕造商店が作る一個2400円のたわしは、硬いパームヤシではなく、体を洗えるほど柔らかい紀州産の棕櫚が原料。そのため野菜やグラスも傷つけずに洗えます。作り手である髙田氏の説明には実にリアリティがあり、それを聞いたお客様は「いい買い物をした」と喜んで帰られる。もちろん私たち売り手も商品の魅力を全力で伝えますが、作り手が発する言葉はよりストレートに響くもの。だから日本百貨店には、商談でやってきた各地の作り手たちが、「ちょっと時間があるから」と気軽に売り場に立つんです。

――伸びる作り手には、共通点がありますか?

 1つ挙げるなら「素直さ」でしょうか。売り上げが芳しくないときも、店のせいだけにせず、「商品に改善すべき点はないか」と謙虚に探り、率直に相談してくれる。そうした作り手には、「パッケージを変えてみませんか」などと、こちらも改善策を提案しやすい。売り手も人間ですから、「一緒にいいものを育てよう」という前向きさや素直さを持つ作り手の商品をより応援したくなる。売り手を味方につければ、商品が売れやすくなるのは当然のことです。これは事業者だけでなく、自治体の方にも押さえておいてほしい話ですね。

鈴木正晴(すずき・まさはる)
日本百貨店社長
鈴木正晴(すずき・まさはる) 1975年神奈川県生まれ。伊藤忠商事でアパレル部門やマーケティング部門を担当。退社後の2006年に国内外のブランドのブランディング業務を行うコンタンを設立。2010年には東京・御徒町に地方産品を取り扱う「日本百貨店」の1号店をオープン。現在、全国で12店舗を展開。そのほか、コラボレーション店舗やサービスエリアでのコーナー展開なども進める(写真:日経BP総研)

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