有力地銀の静岡銀行は、2015年に「地方創生部」を立ち上げ、産業振興や企業の育成、地域活性化などで実績を積み重ねている。まず力を入れたのが、「観光」と「農業」だ。地方創生に即効性がある有望分野と考えている。同部を率いる地方創生担当営業副本部長常務執行役員の大橋弘氏に、現状と課題、今後の計画、さらにこれからの地方創生、公民連携のあり方などについて聞いた。

(写真=清水真帆呂)
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――まずお伺いしたいのが、なぜ地銀内に「地方創生部」をつくられたのか。その狙いなどから教えてください。

 地方創生部は、2015年の6月に新しい部として立ち上げました。当時、増田寛也さんが座長の「日本創成会議」のレポートの中で、日本の少子高齢化は世界一のスピードで進んでいて、2040年には896の自治体に消滅可能性があると指摘されて話題になっていました。そうした中で当時の静岡県にも、北海道の次に人口が減っているという実態がありました。

 このままでは、人口減によって地元の市町が経済的な活力を失ってしまう。地元で商売をしているわれわれ地域金融機関も、真剣に危機感を持ってやっていく必要があると考えて、地方創生部がスタートしたわけです。地域の未来のために活性化策をやっていく、その取っ掛かりだったと思っています。今部員は15人いるのですが、半分以上の8人が自治体や商工会議所、観光DMOなどに出向しています。

――創部3年目。どのような成果が上がってきているのでしょうか。

 例えば三島市に「三島スカイウォーク」という日本一の長さの人道吊り橋があります。この建設事業の支援を発案当初から行っていたのですが、2015年11月に完成してから1年で160万人。今年でオープン2年ですが、2017年は200万人を超える観光客が来ています。

 2017年の5月にオープンした道の駅「伊豆ゲートウェイ函南(かんなみ)」(静岡県函南町)は、弊行がPFIの主幹事となり、県内で初めて道の駅を民間主導でつくった事例です。こちらも当初年間70万人の予想だったのですが、今は100万人に上方修正しています。

 地域開発の案件を進めるには、行政と関わらないといけないのですが、一番うまくいくのは、行政に一生懸命規制緩和をしてもらって、民間主導で事業を進めていく形ではないかと思っています。民間主導、行政の規制緩和というパターンです。函南の道の駅でもそうでしたが、土地活用をしようにも、数十年前にできた土地の利用区分などがまだ残っていたりしますから。

2017年5月にオープンした道の駅「伊豆ゲートウェイ函南」のホームページ
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――つまり、まずは観光分野に力を入れられたということでしょうか。

 地方創生には、人口減を止めるなど2世代、3世代にわたる長期的な取り組みをやらなければいけない部分もあるのですが、まずは比較的短期的に、即効性があるものは何かと考え、それは観光と農業でないかと結論づけました。ですから今は、観光と農業に力を入れて取り組んでいます。

 まず観光でいえば、人口減で地方の消費が落ちこんだ時の1つの試算として、人口が1人減った時に、7人の観光客を呼び込むと消費がカバーできるというものがあります。例えば1000人減ってしまった場合は7000人観光客を増やせば、交流人口の増加によって、地元の消費減少はカバーできるということです。観光には、こうした可能性があります。

 ただ、地方創生というのは、隣の市町から何かを奪って持ってきても、地域としてはゼロサム・ゲームになってしまいますので、それだと意味がありません。広域連携の中で、ほかから新たに人を呼び込むとか、新たな産業を創業するということをやらなければならないのです。

――なるほど、ゼロサムではなくて、広域連携が大事なのだと。

 はい。そうした広域連携の動きとしては、箱根と伊豆の観光活性化をしようということがありまして、弊行と横浜銀行が連携協定を結びました。これに行政がすぐ反応してくれて、静岡県と神奈川県もその枠組みに入って、今はもう三島の商工会議所や、箱根・小田原の商工会議所もその枠組みに入っています。連携しても得てして箱を作って終わってしまうケースも多いのですが、当初からスピード感を持ってワーキンググループを3つ立ち上げて、すでにいくつかの結果を出しています。

富士・箱根・伊豆で県境のない観光地図を作成

――成果としてはどのようなものがありますか。

 例えば、富士・箱根・伊豆の観光地図を作ったのですが、この地図は伊豆半島が真ん中になって、北に富士山、西は静岡空港、東は羽田空港までちょうど入る形になっています。観光客にとっては、県境や市町の境というのは全く関係ないんですね。ですから「県境のない地図」なんです。こうしたことは、自治体だけでやろうとしても、なかなか難しいことだと思います。

――なるほど、そうしたところに地銀・地方創生部の存在意義があるわけですね。

 そして観光では、やはりインバウンド(訪日外国人客)を中心に力を入れています。2020年の東京オリンピック・パラリンピックも控えていますし、日本のインバウンドは昨年2400万人ということですが、安倍内閣は、2020年までにインバウンドで4000万人と言っています。こうした新しいマーケットを、いかに早く確実に地元に取りこむかというのが、近々の課題だと思っています。

「富士・箱根・伊豆 県境のない地図」はA2版の八つ折。裏面では、富士山のビュースポット12カ所をそこから見た富士山の写真入りで日本語と英語で紹介。QRコードを付けて位置情報なども分かるようにしている(資料:静岡銀行)
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――静岡のインバウンドの現状は、どうなっているのでしょう。

 静岡でも、2015年と2016年とを比べると、宿泊した外国人の方は70万人から150万人へと2倍以上増えました。ただ問題は、平均宿泊日数が1.3日なのです。ということは、静岡空港などに着いてとりあえず1泊して、その後京都や東京に行ってしまうということ。本当に静岡に観光目的で滞留してもらうというのはまだまだ少ないです。

 ただ、そこに伸びる余地はあると思っていまして、まず横浜銀行との連携の中で始めたのが、「インセンティブツアー」です。横浜銀行の取引先も弊行の取引先も、東南アジアを中心に工場進出していて、現地に従業員が1000人以上いたりします。そこでは、例えば3年間辞めないで勤めたら、1週間ぐらい日本の本社を見学するといったご褒美のツアーを実施されている。こうした取引先に、本社を見た後に伊豆・箱根に1泊してもらうという話を持ちかけて、すでに数社にやっていただきました。このほかにも、JTBさんと静岡県と静岡銀行で提携して、平均1.3泊の外国人観光客に少しでも多く滞在してもらうためのツアーの提供をお願いしています。

 インバウンド向けということでは、商店街の方々や、旅館のおかみさんを集めて「インバウンドセミナー」も開催しています。弊行も数年前から地元の大学を卒業した外国人の採用をしていて、中国の女性も地方創生部に1人います。彼女に中国人を迎える時のおもてなしの仕方や、注意事項を紹介するセミナーを、あちこちでやってもらっています。

2017年3月に開催した「インバウンド対策セミナーin箱根」(資料:静岡銀行)
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――観光客を呼び込むための、海外への情報発信も必要になってきますよね。

 2017年の2月には、経済産業省と組んで「海外メディア伊豆ツアー」を実施しました。これは在日の海外メディアや大使館員を対象に、20数人に伊豆を一泊で観光してもらったものです。ツアーには外国人のユーチューバーやブロガーの方々も来られたのですが、彼ら彼女らは、もうその場で写真を撮って一言コメントを入れて、バンバン海外に発信していきます。フォロワーが大勢いるインフルエンサー、海外のユーチューバーやブロガーの発信力にはすごいものがあります。

 その行く先々で、地元の観光協会の方などにも来てもらったのですが、いい刺激になりました。お金をかけて立派なパンフレットを作るというアプローチもありますが、もっと手軽で効果がある発信の仕方というのが、ちょっと分かったのではないかと思います。

 また、このツアーの参加者アンケートでは、一番感動したのは、伊豆天城のわさび田でわさびを自分で抜いて、それをすし屋に持ち込んで自分ですって、そのわさびを使ったおすしを食べたこと、というものがありました。また、中国やタイの方はイチゴが好きなのですが、イチゴ農園でイチゴ狩りをやると、実ったイチゴを自分の手でもいでそのまま口に入れるというのが彼らには考えられないことなんだそうです。現地ではどんな農薬が使われているかわからないといった事情もありますし、そうした体験型のコンテンツが良いというヒントも得られました。こうした体験型を考えていけば、増えている個人客にも、もっとアピールできるのではないかと思っています。

2017年2月に開催した「海外メディア伊豆ツアー」(資料:静岡銀行)
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地方創生に特化したローンやファンドで地元支援

(写真=清水真帆呂)
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――なるほど。そこでの民間への融資などは、どのような形でされているのですか。

 融資は「地方創生ローン」という形でやっています。地方創生に関わる案件、あるいは地域活性化、雇用が増える案件については、もちろん審査部には当然回りますが、われわれの部でこれは地方創生に資するということを判断してやっています。今は地方創生ローンで103件、融資額は263億円を超えました。

 このほかに「しずおか観光活性化ファンド」や、「しずおか農林漁業成長産業化ファンド」という農業ファンドも立ち上げています。観光ファンドでは既に4件ほど出資しています。

 そして地方創生でやはりそうだと思うのは、よくいわれる「よそ者、若者」ということ。観光ファンドの1号案件というのは伊豆の下田市の案件で、これはテレビでも紹介されたのですが、いわゆるグランピング(グラマラス+キャンプの合成語)のはしりといいますか、1日1組しかお客様をとらないキャンプ場です。ここの代表は静岡県とは全くゆかりのない方で、元々IT企業をやられていて、ふと伊豆に来た時にこの場所でグランピングみたいなものをやりたいと思ったそうです。地元の方はそこを何十年見ていても、その場所がそんなに魅力がある、商売になる土地だということに気付かなかったのですが、彼が始めたら予約も取れないような状況になっています。そこが観光ファンドの第1号で、8000万円出資させてもらいました。

――銀行にも、これまでにない目利きの力が必要になるということですね。

 そうです。静岡県はもともとオートバイ、楽器、製紙、自動車産業などの「ものづくり県」です。我々も製造業には精通している部分もあって支援もしっかりできてきたんですが、観光などについては我々ももっと勉強しないといけない。ただ、ものづくり企業というのは自動車産業に代表されるように、もうすでに生産性が高いんですが、宿泊を含めたサービス業では生産性が高いとはいえない。逆に言えばまだまだチャンスがあるし、伸び代がある。この分野を我々ももっと勉強して、支援していこうということなんです。

――もうひとつの重点分野の、農業についてはどうでしょう。

 農業ファンドの第1号で出資したのは、地元の富士宮地区で畜産農家や農協団体が地域一体となって立ち上げた「富士の国乳業」という会社です。実は今まで富士宮で採れた生乳は地産地消されずに、他の地域で牛乳に加工され学校給食などに使われていたのですが、地元のおいしい生乳を地元で牛乳にして、地域に届けたいとの思いで新会社を設立して、来年の4月から富士市と富士宮市の学乳を富士の国乳業で提供することになりました。また、新工場に7億円ぐらいかかっていると思うのですが、それも融資でお手伝いさせていただきました。

 融資では、磐田市の農業ベンチャー「スマートアグリカルチャー磐田」も今支援しています。そこを立ち上げたのは富士通、オリックス、それと地元の増田採種場です。はじめ富士通さんと農業というのはイメージが湧かなかったのですが、農業も生産性を上げる中で、温度管理から生育管理などIT化が進んでいます。そういう時代になりつつあるのだと感じています。

 ほかにも、農産物の販路開拓などを、我々のネットワークを使って支援しています。例えばもう10数年前から、東京からも一流のバイヤーの方々に来ていただいて「しずぎん@gricom(アグリコム)」という商談会を県内でやってきました。静岡の農業や水産業の生産者というのは、東京や大阪といった大消費地に囲まれているので、実はあまり努力しなくてもそこそこ売れていました。でもせっかくいいものを作っているのだから、全国とか海外にプラットフォームを作って提供していこうということで始めたわけです。ほかにも、行政と一緒になって大規模イベントなどに出展をして、静岡の産物を売り込んだりもしています

 また、今年行ったのは、ヤマト運輸とANA総合研究所、静岡県との連携協定です。静岡空港を利用して、静岡のいいものを海外に売り込んでいこうという試みで、既にいくつかは始まっています。しっかりしたサイトを作って海外に売り込んでいこうということもやっています。

地元の農産物を、全国、そして海外へ

――観光もそうですが、農業でも全国、そして海外へと。

 そうですね。例えば静岡名産のわさびなどは、シンガポール行くと「メイドインジャパンのわさびが手に入るのだったらいくらでも買うよ」といわれます。おすしや和食ではわさびが必要になりますが、海外ではホースラディッシュのような、粉わさびみたいなものしか手に入らない。そこで県と組んで、伊豆半島を中心に「伊豆わさびバレー構想」という取り組みをスタートしたところです。

 わさびは山の中の棚田でやるものですから、やはり仕事もきついですし、後継者がどんどんいなくなっています。そうやって放置されたわさび田を、若い人と一緒になってうまく再興して、新しいわさびの生産ができないかを考えたり、外国人の口に合うようなドレッシングなどを一緒に考えて開発したりしていこうとしています。もちろん先ほどの、自分で抜いてみてすってみるという観光わさびなども含めて、今事業を立ち上げようと思っています。

静岡県、ヤマト運輸、ANA総合研究所との「静岡県産品の販路拡大に向けた連携協定」は2017年3月に締結
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――地元の方々も、盛り上がりそうですね。

 盛り上がっていますね。伊豆などで観光に従事している経営者層がちょうど世代交代期に入っていて、二代目、三代目の若い人たちが経営に入りつつあるので、彼らと一緒になって非常にいい形になっています。

 例えば今定期的に、若手の観光業の方を集めて地区ごとにランチミーティングなどをやっています。地方創生も「産官学金」といいますが、やはり、官も民間の実態をあまりよく知らないだろうし、一方で我々は、市町の行政とも、公金を扱う取引などがありますし、当然民間企業はわれわれのお客様ですし。そうした地域の産官学金のコーディネートをできるのは、やはり地域の金融機関。ですから、いかにコーディネートの機能、あるいはコンサルティングの機能を強化していくのかというのがこれからの課題であるし、地域の金融機関がやらなければいけないことだと思います。

 地域で、この話をどこと結び付けたらいいか、どこに持っていけばスムーズに進むか、そうしたコーディネートの機能をこれから地元の金融機関がしっかり強化したり、活用したりしなければいけないと思います。そうしたことは、メガバンクができないところです。

地方創生のコーディネーター、故郷に誇りを持つ子どもたちを増やす

――そうですよね。では、今後やってみたいこととは。

 究極的には各地域の未来図を作るというのをやりたい。当然金融の力だけではできませんし、行政の力も民間の力も借りながら、この地域を将来、50年後にどのような形にするかを描いて、一緒になってやっていきたいというのが私の究極の夢です。

 一緒にやっていくというのは、アクティブシニアもそうなのですが、特に若い人たち。今やっている活動で一番手ごたえがあり、自信を持ってやっていこうというのが、「しずおかキッズアカデミー」なんです。

 これはなぜ始めたかというと、去年の熊本地震で被災に会われた方はとても大変だと思うのですが、崩れた石垣の熊本城に対する熊本県民の思いはすごいなと思いました。自分が生まれ育った故郷を誇りに思って、自信を持てる子どもたちが育ってくれば、一時的に大学で都会に出ても、将来戻ってきてくれるだろうと考えます。

 静岡は19~24歳の世代の県外流出が圧倒的に多い。大学で都会に行って就職で帰ってこないというのが非常に多いのです。東京の大学の先生と話す中でも、他の地方から来た学生は、ゼミやサークルの活動の時に、「うちの故郷にはこんなおいしいものがあって、こんないいところがあるんだよ」って自慢するんだけど、静岡出身の学生はあまり自慢しないのだと(笑)。ひょっとしたらそういったことを教わっていないのかもしれないし、いいものがあり過ぎて、何を自慢したらいいかわからないのかもしれない。それで今、県内数カ所でやっているのですが、地元の小学生の高学年の子たちを集めて、地元の文化や歴史、地元の産業、おい味しいものなど観光の見どころを一緒に勉強しようという「しずおかキッズアカデミー」の勉強会を始めました。

「しずおかキッズアカデミー」は2016年8月から開催している
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――故郷に誇りを持つ子どもたちをいかに増やすか、ですね。

 実は静岡市というのは、プラモデルで有名なタミヤさんとかバンダイさんがあり、全国の94%の出荷量を誇っています。そこで、タミヤさんと組んで、プラモデルについての仕事やプラモデルの歴史や状況を一緒に勉強しようということで、300人募集したら、応募が1300人来ました。これは参加した子どもも、もちろん喜んでくれたのですが、地元の誇れる産業を一緒に勉強できてよかったと一緒に来た父兄の方も非常に喜んでくださいました。

 昔「故郷に錦を飾る」という言葉がありましたが、一旦外に出ても、最後は故郷で錦を飾るような子どもたちを育てていきたいと強く思っています。自分の生まれ育った故郷を誇りに思ったり、愛してくれたりする子どもたちを増やしていけば、将来戻ってきてくれる。真の地方創生は、そこから生まれる。これは、強い信念を持ちながら、続けていこうと思っています。

大橋弘(おおはし・ひろし)
静岡銀行 地方創生担当営業副本部長 常務執行役員
大橋弘(おおはし・ひろし) 1980年慶應義塾大学法学部卒業後、静岡銀行入行。審査部、経営企画部、欧州静岡銀行出向、支店長、法人部長などを経て、2013年に執行役員沼津支店長。15年より現職。(写真=清水真帆呂)

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