欧米で普及しているガストロノミーツーリズム――。「その土地を歩きながら、その土地ならではの食を楽しみ、その土地の歴史や文化を知る旅」である。ここに日本が世界に誇る「温泉」をプラスした新しい観光コンテンツが「ONSEN・ガストロノミーツーリズム」だ。2016年10月に設立されたONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構には現在、17自治体が加盟している。同機構の小川正人専務理事(ANA総合研究所取締役会長)に、滑り出しの手ごたえと今後の展望について聞いた。
――ONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構設立の経緯を教えてください。
ANA総合研究所(以下、ANA総研)の事業の大きな柱の1つに地方活性化があります。私もいろいろと地方を回る中で、地方活性には「コンテンツが必要だ」と常々感じていました。観光客を呼び込むにしても、インバウンド(訪日外国人)を呼び込むにしても、その街に来て何かをするという目的を持ってもらうことが大切だ、と。
また、ANA総研はフランスのCEEJA(アルザス・欧州日本学研究所)と提携して、アルザス地方のことを研究していました。アルザス地方では、各村でそれぞれ300人から500人ほど集めて、日曜日にガストロノミーウォーキングをやっています。私も参加してみたのですが、地元のワインを飲み、おいしいものを食べ、ワイン畑の絶景を見て歩いて、とても楽しいんですね。
このガストロノミーウォーキングを日本の温泉地でやったらいいと思ったんです。その地域ならではの食あり、酒あり、絶景ありで、最後に温泉につかることもできる。ウォーキングですから二次交通も箱モノも不要です。そんなところから発想しました。
そうして、ANA総研とぐるなびが主導して、涌井史郎・東京都市大学特別教授に会長に、別府市(大分県)や長門市(山口県)など温泉地の7市町の首長に発起人になっていただき、推進機構が2016年10月に立ち上がりました。
最初に手を挙げていただいたのは別府市です。トライアルということで参加費を無料にして、2016年11月にONSEN・ガストロノミーウォーキングを実施したのですが、非常に評判が良かったです。また、参加者の女性比率が約半分、40代以下の比率が高いことが特徴です。
――ウォーキングというと中高年の方が多いという印象ですが。
もちろん高齢の方もいましたが、ベビーカーを押す家族連れ、女性だけのグループ、外国人もいて、いろいろな人たちが楽しそうに歩いていた。これはいけるなという感触を持ちました。
翌年(2017年)5月から本格的に始めました。最初は熊本地震から1年ということで、阿蘇市で開催しました。参加費(2000円)は阿蘇神社の復興資金として寄付しました。17年度中(18年3月末まで)に、16カ所で開催予定です。
――開催した自治体からはどのような反応がありますか。
自治体が支援したとしても、少ない経費で発信力があり、地域食材の購入でお金が地元に還元されるということで、投資効果が高いと評価していただいています。2018年度も、17年度に実施した自治体を含めて続々と応募があり、倍増の勢いになっています。