新潟市は生活支援・介護予防の柱として、高齢者らの居場所となる「地域の茶の間」の設置を進め、その数は現在600近くに達している。子供から高齢者、障がい者まで誰でも集える居場所を設けることで、生きがいや助け合いの風土を育み支え合う地域をつくろうと考えてのことだ。モデルは、市内東区で「実家の茶の間・紫竹」を運営する河田珪子氏の取り組み。地域包括ケアシステムの要と位置付け、そのノウハウの全市展開を図っている。厚生労働省が介護予防事業の柱に据える、「通いの場」のあり方の一つとして注目される。

長年、互いに助け合う地域づくりを進めてきた河田珪子氏(写真:加藤康)
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――ここ(実家の茶の間・紫竹)はどういう場所なのでしょうか。

 2階建ての民家を借りて2014年秋にオープンした、住民主体の通いの場です。月曜・水曜の週2回、10時から16時まで開催し、利用料300円、昼食代300円で高齢者のみならず誰でも利用できます。ただし政治行為、宗教活動、販売行為は禁止。行く場所・居られる場所があってそこで人と知り合える、人の役に立てることが分かれば高齢者でも元気になれます。そして地域に「助け合い」が広がることを目指しています。

――今日は体操帽をかぶった小学生も来ていますね。30人はいます。

 近くにある小学校の2年生が生活科の「地域の人を知って交流する」という授業の一環で訪ねてくれました。地方でもおじいさん、おばあさんと同居している子供は減ってきて、大人とのコミュニケーションの機会は少なくなってきています。世代ギャップが生じる中、世代を超えた交流は大切です。高齢者とは子供時代の話で盛り上がっていますよ。

委託ではなく協定で連携した理由

「実家の茶の間・紫竹」は年齢や国籍にかかわらず誰でも受け入れる。取材当日は近くにある小学校の2年生が高齢者と触れ合っていた(写真:加藤康)
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 ほかにも県の作業療法士会による生きがい・生活相談、市の保健師の健康相談なども定期的に開催しています。自治会や老人クラブなど地域の寄り合いや会議にも利用されています。こうした集まりへの参加者なども含め、2018年10月~2019年9月の1年間で約7500人の参加者がいました。開設から5年間の延べ参加者数は約3万人を数えています。

――どのような仕組みで運営されているのですか。

 私が代表を務める任意団体の「実家の茶の間」と新潟市が、高齢者を地域で支えるモデル事業の協働運営協定書を交わしています。市からは委託でというお話もありましたが、本当の意味での協働を進めたかったので、市から業務の委託を受けるのではなく、協定を結んで協働運営する形にしました。協定書にはそれぞれの費用分担などを盛り込んでいます。この家の使用料、補修工事費、水道光熱費などはウチの負担。参加者からもらうお金のほか、バザーなどの売り上げを充てています。

◆実家茶の間・紫竹と新潟市の役割分担
実家の茶の間が負担 新潟市が負担
運営全般
(*かかる費用を含む)
・家賃
・水道光熱費
・電話代
*参加費、食事代のほか賛助会費、バザー売上金などで賄う。出所:厚生労働省第2回「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」の新潟市提出資料
◆実家の茶の間・紫竹の概要
開催日時 毎週月曜と水曜の午前10時から4時まで
(祝祭日も開催)
参加費 毎週月曜と水曜の午前10時から4時まで
(祝祭日も開催)
こころやからだ、
くらしの相談
毎月第3月曜に保健師・看護師による健康相談、
毎月第2水曜に作業療法士による生活の困りごと
などの相談を実施
出所)新潟市のウェブサイトをもとに日経BP総研作成

――こうした場所が必要だと思ったきっかけは。

 私は新潟出身ですが、結婚後は大阪の特別養護老人ホームで働いていました。ところが夫の両親が認知症になり、その介護のため単身で新潟に戻ってきたのです。介護保険制度ができる前のことでしたが、その際介護者を支援する仕組みが何もないことに気づいたのです。

義理の父母の介護をきっかけに、河田氏は支え合う仕組みづくりの大切さを知った(写真:加藤康)
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 特養に勤めていたときにも、制度の枠内でできることに限界があるのは実感していました。死期が近づいているお年寄りの手を握っていてやりたくても、勤務時間外にはできません。介護保険のある今でも、訪問介護のヘルパーはペットの世話にはかかわれないのです。

  制度に平等性・公平性が求められるのは当然ですが、一人の住民としては自分の気持ちに従って、ヘルパーのできないこと、制度を補う部分を提供していきたい。そうすれば、介護による離職や別居を防ぐことにもつながると思い、30年前に新潟市内に事務所を借り、有償の助け合い活動「まごころヘルプ」をスタートさせました。

集まれば助け合うのが人

――それが居場所づくりにどうつながるのですか。

 事務所には活動する会員が出入りしていました。当番の日だけでなく、次第に時間があれば顔を出すように。自宅でヘルプを受けていた高齢者もやって来るようになりました。大学病院やがんセンターへの道沿いに事務所があったから、立ち寄りやすかった面もありましたね。こうして事務所が、地域の様々な人が集う場所になっていったのです。これが地域の茶の間のはじまりです。

実家の茶の間・紫竹が開催されている民家。専門職による相談や住民組織の会合なども開かれている(写真:加藤康)
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 そこにいる人たちがお互いに気遣いし合ったり、助け合ったりしているのを見て、私はこうした場所の大切さを痛感しました。人は集まると助け合うものなんだ。人が集まる場所がたくさんあれば、親戚・縁者がいない人でも、支え合いの中で生きていけるまちができると思ったのです。そこで1992年の市の福祉公社立ち上げに際し、中心的な事業として有償助け合いが組み入れられることになったとき、事務所の一部を“居場所”とすることを認めてもらいました。

――「茶の間」というネーミングの由来は。

 20年ほど前、自分の住んでいる地域で子供から高齢者まで誰でも集える場所を設けたときに、地元の新聞にそう紹介されたのがきっかけです。その後、空き家を利用して宿泊もできる常設型の居場所づくりも手掛けました。そして2014年に新潟市と協働運営協定書を交わし、市の地域包括ケアのモデルハウスとなったのです。 今でも、支え合いのきっかけにと「実家の茶の間・紫竹」の参加券を6枚1組1500円にして販売し、車に同乗させてもらった、衣服を直してもらったなどの際のお礼にやりとりできるという、有償の助け合いの仕組みを設けています。

1日の活動の締めくくりはラジオ体操。体の不自由な人もできる範囲で行う(写真:加藤康)
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行動原理の違いが協働を生む

――認知症の高齢者も参加していますね。

 福祉公社時代に、こんなエピソードを経験しました。認知症の高齢者が家からお弁当を持ってきたのですが、食べるのを忘れてしまった。隣にいた車イスの高齢者がそれに気づいて、教えていました。ここでは誰一人受け身にはしません。特別扱いの必要はなくてそばにいればいい。そして一日に一言でいいから声をかけることができれば、認知症の症状は改善するのです。

――支え合いの仕組みの普及にも携わっています。

 ええ。新潟市や地域の公民館と共催して、これから地域の茶の間を立ち上げたい人や既に運営している人向けのセミナーを開催し、私が講師を務めています。うちでサポート役をしている「お当番さん」も含め、その開設や運営のノウハウなどをお知らせしています。

 2018年秋には、ここに「お互い様・新潟」という組織の事務所も設けました。有償での助け合い経験者をコアメンバーとして、市内各区で助け合いの普及を図っていますが、その連絡や調整を担うためのものです。

助け合いの普及を図る「お互いさま・新潟」の事務局もこの民家に置かれている(写真:加藤康)
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――生活支援・介護予防分野での公民協働のポイントは何でしょう。

 住民と行政では組織が違います。いうまでもなく自治体は首長を頂点とするピラミッド型ですが、住民は百人百様の参加動機に基づいて自由に動き回る存在。行政が重視する「公平・平等」にとらわれず、「自分の心」を大事にして動けばいいので、ここにこそ協働が成り立つわけです。併せてお金を払って助け合いを利用する住民の方には、料金は謝礼であって労働の対価ではなく、指揮・命令できるものではないという考え方をしっかり持ってほしいと思います。

河田珪子(かわだ・けいこ)
「実家の茶の間」代表
新潟県生まれ。大阪で特別養護老人ホームに勤務した後、1989年に義父母の介護のため新潟に帰郷。1990年有償助け合い「まごころヘルプ」を開始。1997年、任意団体「実家の茶の間」を立ち上げ、地域の中で助け合いを育み、誰でも来られる居場所づくりを手がける。2003~2013年にかけて宿泊も可能な常設型の地域の茶の間を運営。2014年に新潟市と協働協定を結び基幹型地域包括ケア推進モデルハウス「実家の茶の間・紫竹」をオープン。介護福祉士、社会福祉主事任用資格。
住民が主体、行政は周知・啓発で下支え
――新潟市福祉部地域包括ケア推進課係長 金子和雄氏
新潟市福祉部地域包括ケア推進課係長 金子和雄氏(写真:加藤康)

 地域包括ケアを推進するうえで、新潟市では介護予防と生活支援は土台と考え、その充実に取り組んでいます。「地域の茶の間」は、有償の助け合いや通いの場といった困ったときお互いに支え合える仕組みづくりの一環として、推進を図っているものです。財源は介護保険ですが、要支援の高齢者だけでなく外国人も含め様々な人たちを包み込む場にしていきたいと思います。

 新潟市は2007年に13市町村を編入し、8区からなる政令指定都市として新たなスタートを切りました。そのため若い人や様々な世代が住む地域もあれば、高齢者夫婦・単独の世帯が多い地区もあります。高齢者が多い地域では、簡単に人にものを頼めないから日常のちょっとした困りごとが解決できず、それが住み続けられない一因となっています。

 地域の助け合い・支え合いによる生活支援は、この穴を埋め、住み慣れた地域で最期まで暮らしたいという希望をかなえることにつながるわけです。

 ただこれは自治体の力だけではカバーしきれず、高齢者自身の力、すなわち互助が欠かせません。こうした「地域の茶の間」の活動に参加することで、自身の介護予防にもなるという効果も期待できます。

 「地域の茶の間」は、空き家を借りたり、施設の空きスペースを活用したりするなど、開設・運営形態は様々。補助はしますがあくまで住民主体の取り組みで、行政がとやかく言うことはできません。2018年度の補助対象475カ所のうち約400は月1、2回の開催。週に1回は開いてほしいと思っても、運営するのは地域住民だから無理はいえません。市の役割は徹底した周知・啓発だけかもしれません。

 新潟市には、「地域の茶の間」などの支え合いの仕組みづくりを進めていくための「地域包括ケア推進モデルハウス」が9カ所あります。実家の茶の間・紫竹は「基幹型」という位置付けで、「地域の茶の間」創設者である河田さんのノウハウを継承・普及させていく新潟市の地域包括ケアシステム構築の要です。

 河田さんは、30年以上介護・福祉分野で活躍し、有償の助け合いや常設型の地域の居場所を立ち上げた実績があります。そこで市長の決断により、その取り組みをモデルとして全市展開を図っているわけです。自然発生的なものなので設置目標は持っていないのですが、右肩上がりで増えておりもうすぐ600カ所になりそうです。地域包括ケアを支えるインフラとして一定の効果は出ていると考えています(談)

※補助金などの実績による。出所:厚生労働省第2回「一般介護予防事業等の推進方策に関する検討会」の新潟市提出資料
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◆「地域の茶の間」への助成
出所:新潟市のウェブサイト
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(1)月1回以上定期的に開催し、参加者がおおむね10名以上の地域の茶の間への助成
(2)週1回以上定期的に開催し、高齢者の参加者がおおむね10名以上の地域の茶の間への助成
(3)週1回開催への移行応援制度  月2回以上定期的に開催し、参加者がおおむね10名以上の地域の茶の間への助成 ※3年以内に週1回以上開催することが見込まれることが条件

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