自治体との連携で生活密着の地域通貨へ

 では、さるぼぼコインが普及した後に、どのように地域経済の活性化に結び付くのか、様々な施策によって課題を克服したのちに実現する理想像を以下にイメージしてみよう。

地域通貨で経済を回す理想の姿を映す

 「どれにしようかなー」。山田A美さん(仮名、47歳、主婦)は。新しい財布を買いに来たが、最近小銭を使わない生活になっているので迷っていた。「昨日も財布を一度も使ってない。夕食の買い物も、美容院も、洗剤や薬、税金の支払いまで、さるぼぼコインだけで済んだ。もう財布は小さくて安いものでいいかな」。

 さるぼぼコインのアプリは、決済だけでなく、生活に密着したものになってきている。先週、この地域の防災訓練は、この地域に住む人だけに、さるぼぼコインのアプリで連絡がきた。どうやらGPSの位置情報で選別しているようだ。子供のサッカークラブの会費支払いも、さるぼぼコインから簡単に行えた。主婦ランチの割り勘も、さるぼぼコインでやり取りすればよい。友達から飼い犬を預かったときや、市のボランティアで活動したときなどにいただいたコインで、庭仕事の手伝いを募集することもできた。

さまざまな店舗で、さるぼぼコインが利用できるシールやフラッグが示されている(写真:3点とも日経BP総研)
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さまざまな店舗で、さるぼぼコインが利用できるシールやフラッグが示されている(写真:3点とも日経BP総研)
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さまざまな店舗で、さるぼぼコインが利用できるシールやフラッグが示されている(写真:3点とも日経BP総研)
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さまざまな店舗で、さるぼぼコインが利用できるシールやフラッグが示されている(写真:3点とも日経BP総研)

 観光に来た友人にも、さるぼぼコインの利用を勧めた。さるぼぼコインだけで利用できる特別な観光プランや食事プランが用意されているからだ。駅前のチャージ機で、さるぼぼコインを5万円チャージしておけば、500円(1%)のお得。おすすめの飛騨牛レストラン、高山ラーメン店、高山の古い町並みのおみやげ屋でももれなく使える。一緒にきていた外国人の友達も、「小銭をかぞえなくて済むから便利」と喜んでいた。

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高山の古い町並み「三町伝統的建造物群保存地区」にも、さるぼぼコインの加盟店が並ぶ(写真:4点とも日経BP総研)
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高山の古い町並み「三町伝統的建造物群保存地区」にも、さるぼぼコインの加盟店が並ぶ(写真:4点とも日経BP総研)
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高山の古い町並み「三町伝統的建造物群保存地区」にも、さるぼぼコインの加盟店が並ぶ(写真:4点とも日経BP総研)

 さるぼぼコインだけでしか食べられない「飛騨牛の希少部位を使ったコース料理」を提供するレストランは、観光客から得たさるぼぼコインで、飛騨牛やその他食材を購入する。精肉店も、飛騨牛の食肉卸会社に対して、さるぼぼコインで支払う。地域の企業間の多くはさるぼぼコインで取り引きされているのだ。

 観光客の支払ったさるぼぼコインや、飲食店から精肉店、そして卸会社など企業間取り引きの各過程で集まったコインは、それぞれの会社の従業員の給与としても利用される。例えば、卸会社の従業員に、給料の3割分として支給される。A美さんの夫、山田B郎さん(仮名)の給料として支払われたさるぼぼコインは、A美さんに渡され、生活費として循環していくことになる――。

理想像への到達に向けた各種ハードルと越え方

 このような「理想像」を想定すれば、そこに到達するために残すハードルが明らかになってくる。

 1つめのハードルは、さるぼぼコインのさらなる普及だ。さるぼぼコインでほとんどの支払いが可能にならなければ、上記の「理想像」のような便利な生活の実現は難しい。市民同士でのやり取りにもつながらない。加盟店と利用者の両方をもっと増やさなければならない。

 そのためには、自治体とのさらなる連携がカギになる。さるぼぼコインのアプリを利用するシーンが、生活と密着するための大きな要素となるからだ。そこで、窓口手数料の決済、納付書からの支払いなど、まずはとっつきやすい利用方法からスタートした。防災情報はその次の段階だ。様々な情報配信をさるぼぼコインのアプリに載せることで、さらに生活面での密着度が高まる。高山市では、協定の中で積極的にさるぼぼコインを利用する方針を打ち出しており、現状にとどまらない、新たな施策を検討中である。

 2つめのハードルは、多くの企業間の取り引きに、さるぼぼコインを使うことを促進すること。地域内の経済をさるぼぼコインで回すには、店舗が仕入れる材料や商品なども、さるぼぼコインで支払われる必要がある。2018年4月から、手数料0.5%で企業間の支払いが可能になっている。ただ、まだその利用は少なく、総金額で1500万円程度にとどまる。

 三つめとして、企業間の取り引きで、最上流にくる卸問屋などがさるぼぼコインを日本円に換金する方法も課題となる。現在の形では、手数料が1.5%かかるため、“ババヌキ”となってここで流れが滞ってしまう。そこで現在、従業員の給料としてさるぼぼコインを使えるように、当局の方針表明を期待しているところだ。これが実現すれば、さるぼぼコインが生活費としてもっと循環しやすくなる。