東京都府中市は、けやき並木通り周辺(約18.8ha)で試行的に道路施設管理の包括的民間委託を行った。全国的にも珍しい事例として話題になった取り組みだ(関連記事)。2014~16年度に実施した事業内容を検証を結果、効果が認められたため、範囲を拡大して市の北西地区(約755ha)の道路についてプロポーザルで事業者を選定。2018年度から、市内事業者を中心とするJVが試行的事業第2弾として包括管理を行っている。第1弾では前田道路ら市外の大手事業者を中心としたJVに委託したが、今回は市内事業者を中心としたJV(岩井・府中植木・日東建設共同企業体)を選定している。

  府中市が道路施設の維持管理に民間事業者の力を活用する検討を始めたのは、2010年度にさかのぼる。公共施設(建築物)の管理に民間のノウハウを生かす動きが全国的にも市内でも活発化するなかで、インフラ管理にも公民連携の考え方を取り入れる方針を打ち出したのである。2011年度には国交省の先導的官民連携支援事業による補助を受けて事業化調査を行った。

PFIや指定管理なども検討した結果、包括管理委託に

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包括的な管理委託と従来の民間委託との違い(資料:府中市)

  「PFIをはじめ、様々な公民連携の形を模索した。指定管理者制度を適用できれば理想的だったが、道路占用などについては民間事業者に許認可を任せることが認められていなかった。それができないのであれば指定管理者制度を利用するメリットが少ないので、条例制定などの事務手続きが不要でより簡便に実施できる委託の形を選んだ」

  府中市都市整備部管理課で課長補佐兼インフラマネジメント担当副主幹を務める小林茂氏は、包括管理委託という手法にたどり着いた経緯をこう説明する。

  市は2012年度に策定したインフラマネジメント計画にこの事業を盛り込み、2013年度に試行的事業の第1弾(けやき並木通り周辺地区道路等包括管理事業)について委託先を募集。前田道路・ケイミックス・東京緑建JVが受託し、当該地区の道路の巡回や清掃、植栽や街路灯の管理、補修・修繕、事故や災害への対応、苦情や要望への対応などを2014~2016年度にわたって請け負った。「民間の力を最大限に活用できるよう、複数年契約・包括発注・性能発注という3つの手法を組み合わせたことが特徴だ」(都市整備部管理課インフラマネジメント担当主査の多田真知子氏)。

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京王線「府中駅」の西側に位置するけやき並木通り。包括管理事業区域に含まれている道路の1つだ(写真:赤坂麻実)

第一弾のけやき並木通りのテスト事業は「三方良し」

■試行的事業第1弾の調査結果の例
包括管理事業の導入(試行的事業第1弾:2014年4月)以前と比べて、きれいになっていると感じるか、という質問に64%が「きれいになったと感じる」と回答した(資料:「道路施設等包括管理検討事業調査」2016年2月、府中市)
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2013年度と比べて包括管理事業導入後の2014年度は苦情・要望件数が減少(資料:「道路施設等包括管理検討事業調査」2016年2月、府中市)
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  試行的事業の第1弾として3年間行われた道路の包括管理委託について、市は2017年度に事業評価を行った。その結果、発注者(市)、受注者(事業者)、利用者(市民)の3者に利益があったことを確認できたという。

  まず、発注者である市にとっては、事業目的である市民サービスの向上とコスト削減が確認できた。「サービス向上に関しては、3年間の苦情件数の平均が事業開始前の2013年度比で約42%減少した。コストも、市が道路施設を直接維持管理する場合に比べて約7.4%削減できた」(多田氏)とする。

  受注者の効果については、事業者にヒアリングを行い効果を確認した。「複数年契約であるため人員を確保しやすい」「PDCAサイクルを回して効率的に事業を運営できる」「複数業務の一括契約であることから異業種同士のJVを組むことになり見識を広げられる」「技術力が向上する」といった効果があったという。

  市民にもヒアリングやアンケートを実施。事業開始前よりも「きれいになった」「対応がよくなった」などの意見が聞かれたという。市では「不具合などが発生した際に、事業者が発見して自ら判断し、補修などを(市職員の現地確認・発注という工程を経ずに)行える。そのスピード感が満足度の向上につながった」(多田氏)と分析している。

ワークショップで市内事業者の参加を促す

  2016年度まで実施したけやき並木通り周辺の試行的事業(約18.8ha)での成果を受け、府中市では2017年度、範囲を大きく広げた北西地区(約755ha)での試行的事業第2弾に向けた説明会を開催した。さらに2018年度にも公募型プロポーザル実施までに市内事業者向けのワークショップを3回開催した。

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試行的事業第2弾では範囲を拡大し、北西地区(市全域の約4分の1)で道路包括管理事業を実施(資料:府中市)

  ワークショップは、市内事業者の参加増を期待してのものだ。前回、市内事業者はJVに参加したものの、代表企業としての応募はなかった。今回は、代表企業として応募できる企業の登場が望まれていた。

  市内事業者の参加は、この事業の要諦であり、さらに積極的な参加が望ましいと府中市では考えていた。背景には、市内の経済活性化はもちろんだが、「市と市内の事業者は、災害時の協力について協定を結んでいる。業務を発注しないのに、災害時だけ協力を要請するのでは、良好な関係を維持できない」(小林氏)という思いもあった。

  ただ、包括管理委託によって広いエリアを一括発注すると、参画できる事業者が減るという懸念を持つ事業者もいた。市は説明会などの場で「例えば、複数の造園業者がJVに参加して、エリア内で分担したり、組合として参加して業務を振り分けたりすることもできることなどを、ていねいに説明していった」(小林氏)という。

  さらに、公募型プロポーザル方式での選考では、160点満点のうち30点を市内事業者の参画、地域への配慮に関わる部分に配点した。

 

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府中市都市整備部管理課の小林茂氏(右)と多田真知子氏(左)

  公募には、前回も含め、4事業者から応募があり、地元中心の岩井・府中植木・日東建設JVが選ばれて契約に至った。このJVを構成する岩井建設工業と府中植木は府中市の企業である。地元企業の参画や地域貢献性が高く評価されての選定だ。

  「市の生活環境部で、毎月20日に府中駅周辺(けやき並木を含む)の清掃活動を行っているが、岩井・府中植木・日東建設JVはその清掃活動をはじめ、市のイベントなどに参加して、本事業の周知に努めている」(多田氏)。また、市内事業者の従業員の多くが地元住民であり、「プライベートでも周りの人と事業についての話ができるのも地元の強み」(小林氏)という。

事業者にメリットある「1億円」を基準に包括管理委託の範囲を拡大

  北西地区の道路等包括管理事業は、2018~2020年度の3年間を事業期間とする。契約金額は包括委託型業務に関して年間9720万円(税込)だ。包括委託型業務に含まれるのは、道路、橋梁、ペデストリアンデッキ、街路樹、標識、道路反射鏡(カーブミラー)、法定外公共物などの清掃、軽微な補修、区域内の巡回、剪定などである。街路灯に関しては、ESCO事業の対象としたため、この事業の対象からは外れている。

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今回の道路等包括管理事業(北西地区)受託者の業務範囲(図:府中市)
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けやき並木通りの歩道を補修する様子(写真:府中市)

  包括委託型業務の契約金額は、約1億円となるよう、対象区域(市全域の約4分の1・約755ha)を逆算で設定した。どの程度の事業規模ならスケールメリットが出るのか、市が事業者から意見を聞いて検討し、1億円を基準としたものだ。

  単価契約型業務として包括委託とは別途計上するものもある。軽微でない(1工種50万円以上の)補修・更新業務(約1378万円)や、国の天然記念物に指定されているけやき並木通りのケヤキの剪定(約2600万円)だ。

  ここでいう補修・更新業務には、予防保全的に対応する場合の補修・更新にかかわる500万円未満の業務も含める。「例えば、道路の舗装がはがれた際に、その個所だけ補修するのではなく、契約期間内で補修が必要になりそうな周辺のほかの個所も含め、ある程度まとめて対応するほうが効率的なケースがある。今後、そうした予防保全的な提案が事業者から出てくることに期待している」(小林氏)。

サービス向上が課題、事業者の「自ら判断」が重要に

  事業目的であるサービス向上とコスト削減のうち、コスト削減効果は市が直接、道路を維持管理した場合と比べ、約2.1%である。ただし、市が管理した場合の担当職員の人件費を比較対象に加えていないため、実際にはもう少し効果が大きいものと思われる。

  サービス向上は道半ばの状況だ。今回の試行的事業第2弾を開始する前年の2017年度に比べて、苦情は減っていないという。例えば「雑草で道が荒れている」という苦情が寄せられた。除草が行き届いているかどうかは、一般市民の目につきやすい。苦情が減ったかどうかで、管理の質の向上を最も分かりやすく見ることができる部分だ。草の生長具合は毎年の雨の降り方次第で変わるため、コストと利用者満足の兼ね合いをみて除草のタイミングを計るには、経験やノウハウが必要になってくる。

  「道路の維持管理は一般に、行政が時機を判断して発注する。事業者が自ら判断する部分は少ないので、こうした包括管理事業を始めれば、最初の年に苦情が多少増える可能性があることは予期していた。このため、市から事業者へ、気づいた点を随時フィードバックし、定例会議でも問題点は共有している。今後は苦情が減るように、市としても事業者をバックアップしたい。サービスが向上しなければ、包括委託をする意義を問われることにもなってくる」(小林氏)。

  なお、除草の遅れについては、「ちょうど事業者が発注をかけようとした時に台風に見舞われたために、(台風被害の対応が先になり)除草を延期せざるをえなかった」という不運な事情もあったという。

  そのほか、契約では、道路が機能不全に陥ったり、利用者に支障をきたすことがないよう、市はモニタリングを行って改善を要求したり、状況によっては支払額の減額につながる罰則点を付けたりしている。罰則点は累積され、年度末の累計点数でその年の減額率が決まる。30点未満なら減額は0%、60点以上なら減額率は4%以上になる。例えば書類の遅延などは罰則点1点だが、管理不十分で安全性に支障をきたして重傷者が出た場合などは、その1件だけで30点が加算されるといった具合だ。

2021年度から包括委託事業を5カ年に、エリアも市内全域に拡大へ

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2021年度からは、市内全域での道路の包括管理委託を目指す(府中市の資料を日経BP総研が一部加工)

  今回の北西地区での試行的事業第2弾を経て、府中市では2021年度から市全域をいくつかの区域に分けて、道路管理を民間事業者へ包括的に委託していく方針だ。エリアの分け方については、事業規模(委託金)1億円を基準に検討していく。また、試行的事業では2回とも3カ年の契約だったが、2021年度からは5カ年での委託として、事業者が複数年契約のメリットをより享受しやすくする考えだ。

  この事業が成功すれば「市の職員を単純に減らすという話にはならないだろうが、より必要な業務に人員をかけられるはず。例えば、橋梁その他、多くのインフラが老朽化し、より精緻な点検や補修が求められる中で、そうした業務に職員を配置転換できる可能性がある」と、小林氏は期待を寄せる。

  課題は、市全域を4つや5つの区域に分けたとして、それだけの数のJVが組成されて公募に応じてくるかどうか。市も「例えば2グループで5区域を請け負うなど、(契約の)書類だけが増えて競争原理が働かない事態になりかねない」と懸念している。市全域を分割せずに一つの包括委託とすることも考えられるが、それだとどうしても参画できる市内事業者数は減ってしまう。

  市としては市内事業者のより一層の参画を促したいところだ。一方で、今回の北西地区事業の公募型プロポーザルでは、市外の大手事業者のユニークな提案が目立ったという。「ノウハウを豊富に持つ大手事業者の提案はやはり質が高い。2019年度からはワークショップなどを行い、市内事業者の理解促進や育成に努めたい」(小林氏)。

  さらにその先には、市域を超えた包括委託も展望する。「難しい面もあるが将来は、近隣都市と連携しての包括管理や、東京都との連携下で市内の都道の包括管理を民間委託するといったことも理論上は可能」と小林氏。そうなれば、よりスケールメリットの出る事業に育つ。そのためにも、まずは市全域に展開して事業を軌道に乗せたい考えだ。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/011400092/