公・民がそれぞれ課題を解決しながら一つの拠点を形成

 KADODE OOIGAWAにおける公民連携は、それぞれ機能の異なるパーツを作り上げて組み合わせる形だ。まず、KADODE OOIGAWA自体は、JA大井川が総工費(土地取得・整地費用を含む)34億円をかけて整備した。土地、建物ともJA大井川の所有だ。運営するKADODE OOIGAWAの資本金は9995万円。JA大井川が70%、島田市、大井川鐵道、アグリビジネス投資育成(東京都千代田区)が10%ずつ出資している。

包括連携協定における4者の役割分担(資料:島田市)
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 JA大井川は国道473号の拡幅に伴い、支店の移転を検討するなかで、にぎわい交流拠点事業に着目した。ちょうど、農協改革の一環として、新しい活動を検討していたタイミングでもあったという。

 「現時点では支店の移転は保留だが、農協改革の取り組みはここで実現しようという話になり、これまでの直売所にはなかった新業態に乗り出すこととした。なお、支店移転に関しては、道路事業の状況をみながら今後も検討する。現在も、KADODE OOIGAWAのバスロータリー部分は移転候補地の一つだ」(KADODE OOIGAWAの小林氏)。

 マルシェでは、定番の野菜から、触れる機会の少ない野菜まで様々に取りそろえ、店頭で扱い方やレシピを掲示しながら販売している。精肉店や鮮魚店などを併設し、集合レジで会計できるようにしたことで、幅広い食材や惣菜がそろうスーパーマーケットのように利用できる。JA大井川は直売所を4カ所運営しているが、このような試みは初めてという。KADODE OOIGAWAの社員は20人中16人がJA大井川からの出向で、新たに雇用した4人はレストランのシェフたちだ。施設内の各所のプロデュースにも社員が挑戦している。

マルシェを中心に精肉店や鮮魚店を配置。利用者からは一つのスーパーマーケットの売り場のように見える(写真:赤坂 麻実)
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 島田市は国道473号をまたいで東西の敷地をつなぐ歩道橋などの周辺インフラを整備した。加えて、新東名高速道路の高架下の敷地を日本高速道路保有・債務返済機構から借り(公共用途のため無償で占用)、「無料観光駐車場」を整備し、KADODE OOIGAWAを含めた周辺エリアの観光向けに開放している。これらに関わる市側の費用負担は14億円だ。さらに、KADODE OOIGAWAの駅直結棟の一角に、島田市観光協会が観光案内カウンター「おおいなび」を設置し、運営している。

KADODE OOIGAWAの建物を、島田市が架けた歩道橋がつなぐ。歩道橋の下を走るのは国道473号(写真:赤坂 麻実)
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観光案内所の黒板には、大井川流域のイラスト地図が。周辺観光スポットのほか、SLが門出駅を通過する時刻も黒板で案内(写真:赤坂 麻実)
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 また、KADODE OOIGAWAの敷地については、JA大井川の依頼で、用地の取得から粗造成までを島田市土地開発公社が手掛けた。権利者約30人から取得した土地2.1ヘクタールを整地した上で、JA大井川に有償譲渡したものだ。

 KADODE OOIGAWAの小林氏は「用地取得や(土地所有者など向けに市が開いた)説明会など、地元との調整部分を担っていただけて心強かった。開発のイメージを市から地元へしっかり伝えてもらえたことがありがたかった」と話す。地域における合意形成については、JA大井川でも組合員を対象としたワークショップを繰り返し開催し、地元農家の意見を吸い上げたという。

 大井川鐵道は、KADODE OOIGAWAと直結する形で、大井川本線の合格駅と神尾駅の間に新駅の「門出駅」を設置した。新駅の命名権をKADODE OOIGAWAが取得し(随意契約)、「門出」と名付けた。大井川鐵道も、KADODE OOIGAWAの駅直結棟の一角でキオスクと待合スペースを運営している。さらに門出駅が開業した2020年11月12日、大井川鐵道では隣駅の五和駅を合格駅と改称し、両駅を含む金谷~門出間の一日乗車券を「合格祈願周遊きっぷ」の名称で発売した。

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門出駅のホームに電車が入ってくるところ(左写真)。SLや他社から譲り受けた電車の動態保存で知られる大井川鐵道は、島田市にとって重要な観光資源でもある。右写真はSLの煙をイメージした「SLソフトクリーム」。KADODE OOIGAWA内にあるキオスクで販売している(写真:2点とも赤坂 麻実)

 NEXCO中日本は、KADODE OOIGAWAの施設単体に直接寄与するのではなく、この施設を玄関口とする大井川流域一帯の観光振興に努める。例えば、島田金谷ICで高速道路を降りて、大井川流域を観光する利用者に、高速道路割引や商品券などの特典をつけるドライブプランなどが考えられる。ただし、現在はコロナ禍で外出や移動の自粛が求められる社会情勢があり、キャンペーンは実現していない。

KADODE OOIGAWAの小林正二代表取締役(左)と島田市産業観光部内陸フロンティア推進課の塩谷吉隆課長補佐(右)。小林氏は「市と緊密に連携が取れている。施設のちょっとしたことで何か検討事項があるとき、社内より先に相談するほど」と話す(写真:赤坂 麻実)
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 このように、公民の4者が連携を取りながら、それぞれの領域で課題解決に努め、一個のにぎわい交流拠点を形成している。島田市 産業観光部 内陸フロンティア推進課の塩谷吉隆課長補佐(基盤整備係長)は「拠点全体のコンセプトやイメージについては4者で意見を交わし、アイデアを出し合った。拠点は施設が開業して終わりではない。今後、公民で連携しながらコンテンツをより充実させ、人の流れを活性化させていくことが重要」と話す。

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ウッドチップ敷きのドッグランを設け、リードフックも敷地内に多数設置。犬の散歩に毎日訪れる地域住民もいるという。「まず、来てくださった方が満足して帰られることを第一に考える。散歩や買い物、SL見物など、それぞれの目的を思うように達成できることが大切だ。その次の段階として、来場の主目的以外の楽しみもご案内していきたい」(KADODE OOIGAWA小林代表)(写真:2点とも赤坂 麻実)
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