静岡県島田市に2020年11月、公民連携によりにぎわい交流拠点「KADODE OOIGAWA(カドデオオイガワ)」が誕生した。島田市は、この拠点を含めた大井川流域の地域振興に、大井川農業協同組合(以下、JA大井川)、大井川鐵道、中日本高速道路(以下、NEXCO中日本)と連携して取り組んでいる。KADODE OOIGAWAは施設自体をJA大井川が建設し、直結の鉄道駅を大井川鐵道が新設、歩道橋などのインフラを市が整備。一つの施設を共同で作るのではなく、それぞれがパーツを作って、来場者に一体的な体験を提供できるようにした。

KADODE OOIGAWA(イベント広場より)。インターチェンジ至近という意味でも、この場所から北に向かって登り勾配という地形的な意味でも、地区の玄関口に当たる(写真:赤坂 麻実)
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新鮮な農産物のマルシェや緑茶体験施設など地域の特色を前面に

 農産物直売所やカフェ、子どもの遊び場、観光案内所などを備えるにぎわい交流拠点「KADODE OOIGAWA」が2020年11月12日、開業した。島田市を南北に流れる大井川の西岸、新東名高速道路の島田金谷インターチェンジ(IC)のすぐそばに位置し、大井川本線の新駅「門出(かどで)駅」に直結。敷地面積は約1万4500m2に及ぶ。運営するのは、施設と同名のKADODE OOIGAWA(静岡県島田市)。同社はJA大井川、大井川鐵道、島田市らが共同出資した株式会社だ。

 KADODE OOIGAWAは国道473号をまたいで、3棟の建物とイベント広場やドッグランなどの豊富な屋外スペースから成る。バスロータリ―や550台分の駐車場、サイクルピットも設けた。運営会社・KADODE OOIGAWAの小林正二代表取締役は「(観光客などが)高速道路を降りて、別の交通手段などで地域へ足を延ばす拠点になることを目指している」と話す。

 拠点全体のコンセプトは「緑茶・農業・観光の体験型フードパーク」。市のシティプロモーションである「島田市緑茶化計画」とも連動しており、緑茶を使った土産物の売り場や、緑茶をその場で自らいれて味わえる設備など、施設のあちらこちらに関連機能が配置されている。

 門出駅と直結する棟には、待合スペースやキオスク、観光案内所、土産物売り場、地場産の野菜を使った料理を提供するレストランが入った。野菜の魅力を発信できる飲食店は、JA大井川の組合員からも要望が強かったという。

KADODE OOIGAWAの施設ゾーニング(KADODE OOIGAWAの資料を一部加工)
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KADODE OOIGAWAの一般向け案内図(資料:KADODE OOIGAWA)
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左は島田市のシティプロモーション「島田市緑茶化計画」のウエブサイト。緑茶化計画のロゴマークやイメージカラー「緑茶グリーン」を使いながら、市内外に向けて発信していこうという取り組みだ。KADODE OOIGAWAでも、同計画のロゴをあしらった商品を販売する(右写真)など、連動したプロモーションを展開している(左画像:島田市、右写真:赤坂 麻実)
門出駅のキオスクは、KADODE OOIGAWAのレストラン棟の一角にある。大井川鐵道の名物であるSLは門出駅には停車しないが、ホームやレストランから走行する姿が見られる(写真:赤坂 麻実)
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観光案内所「おおいなび」のカウンター。土産物を販売するショップも併設している(写真:赤坂 麻実)
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平日の日中でも、買い物や食事に訪れる近隣住民が

 駅直結のレストラン棟と歩道橋でつながる最大の棟には、地元の野菜が並ぶマルシェ、ラーメンやハンバーガーなどが食べられるフードコート、緑茶を身近に感じられる体験施設などを配置した。このマルシェ棟と同じく国道の西側には、子どもがツリーハウスやミニ列車などで遊べる施設「ちゃめっけ」と、カフェが入った棟も設置した。マルシェとカフェに挟まれた屋外空間は、テーブルやいすが置かれたオープンスペースとして、地域住民の憩いの場になっている。イベント広場として使われることもあるという。

多種多様な農産物が並ぶマルシェ。店頭POPでレシピの提案も。このマルシェに農産物を出荷するJA大井川の組合員は約80人に上る(写真:赤坂 麻実)
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フードコート。緑茶をバンズに練り込んだハンバーガーや、静岡県の食材を使ったオリジナル茶漬けが人気(写真:赤坂 麻実)
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緑茶を自分でいれて、特製ボトルで持ち帰れる体験施設。16種の茶葉が用意されている。料金は500円(写真:赤坂 麻実)
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利用客が茶葉になって製造工程を体験できるアトラクション。設計・制作は東宝映像美術。緑茶4種の試飲付きで料金は500円(写真:赤坂 麻実)
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ツリーハウスはアート建築集団「フォレストワークス」主宰の稲垣豊氏が設計(写真:赤坂 麻実)
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カフェには茶畑をイメージした大階段が(左写真)。バスを待つ人や、子ども向け施設「ちゃめっけ」で遊ぶ子どもを見守る保護者がくつろげるようにした。カフェをプロデュースしたのは、KADODE OOIGAWAの若手社員だ。右写真は「ちゃめっけ」の目玉の一つ、富士山形のネット遊具。こちらも、KADODE OOIGAWAの社員が考案したもの(写真:赤坂 麻実)
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マルシェ棟とカフェ棟の間の屋外空間(左写真)や、パラソルがあるマルシェの東側(国道側・右写真)のオープンスペース。地域住民の憩いの場となっている(写真:2点とも赤坂 麻実)

 来場者数の年間目標は80万人。コロナ禍を受けて、当初の年間目標100万人(地域住民と観光客が年間50万人ずつ)から下方修正したが、2021年1月末までに施設全体の来場者は20万人に達した。平日の日中でも、買い物や食事に訪れる近隣住民でにぎわいを見せている。子ども向けの施設「ちゃめっけ」は県外から訪ねる親子も少なくなく、週末の予約はすぐに埋まる状況だ。

 小林氏は「こんなに来てもらえると思わなかった」と率直に手ごたえを語る。現在は社員が20人、パートやアルバイトが80人いるが、「毎日が(商業施設がにぎわう)週末のようで、まだ人手が足りないほどだ。地域在住の女性を中心に雇用が生まれたことはよかった。県内の大学から新卒採用の予定について問い合わせがあったり、小学校から社会見学の要望があったりして、地域に価値を認められていることをうれしく思う。ぜひ、地域の皆さんが誇らしく思えるような施設にしたい。そうなれば、地域を出て活躍している人の目が故郷に向いて、Uターンのきっかけになるかもしれない」という。

公・民がそれぞれ課題を解決しながら一つの拠点を形成

 KADODE OOIGAWAにおける公民連携は、それぞれ機能の異なるパーツを作り上げて組み合わせる形だ。まず、KADODE OOIGAWA自体は、JA大井川が総工費(土地取得・整地費用を含む)34億円をかけて整備した。土地、建物ともJA大井川の所有だ。運営するKADODE OOIGAWAの資本金は9995万円。JA大井川が70%、島田市、大井川鐵道、アグリビジネス投資育成(東京都千代田区)が10%ずつ出資している。

包括連携協定における4者の役割分担(資料:島田市)
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 JA大井川は国道473号の拡幅に伴い、支店の移転を検討するなかで、にぎわい交流拠点事業に着目した。ちょうど、農協改革の一環として、新しい活動を検討していたタイミングでもあったという。

 「現時点では支店の移転は保留だが、農協改革の取り組みはここで実現しようという話になり、これまでの直売所にはなかった新業態に乗り出すこととした。なお、支店移転に関しては、道路事業の状況をみながら今後も検討する。現在も、KADODE OOIGAWAのバスロータリー部分は移転候補地の一つだ」(KADODE OOIGAWAの小林氏)。

 マルシェでは、定番の野菜から、触れる機会の少ない野菜まで様々に取りそろえ、店頭で扱い方やレシピを掲示しながら販売している。精肉店や鮮魚店などを併設し、集合レジで会計できるようにしたことで、幅広い食材や惣菜がそろうスーパーマーケットのように利用できる。JA大井川は直売所を4カ所運営しているが、このような試みは初めてという。KADODE OOIGAWAの社員は20人中16人がJA大井川からの出向で、新たに雇用した4人はレストランのシェフたちだ。施設内の各所のプロデュースにも社員が挑戦している。

マルシェを中心に精肉店や鮮魚店を配置。利用者からは一つのスーパーマーケットの売り場のように見える(写真:赤坂 麻実)
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 島田市は国道473号をまたいで東西の敷地をつなぐ歩道橋などの周辺インフラを整備した。加えて、新東名高速道路の高架下の敷地を日本高速道路保有・債務返済機構から借り(公共用途のため無償で占用)、「無料観光駐車場」を整備し、KADODE OOIGAWAを含めた周辺エリアの観光向けに開放している。これらに関わる市側の費用負担は14億円だ。さらに、KADODE OOIGAWAの駅直結棟の一角に、島田市観光協会が観光案内カウンター「おおいなび」を設置し、運営している。

KADODE OOIGAWAの建物を、島田市が架けた歩道橋がつなぐ。歩道橋の下を走るのは国道473号(写真:赤坂 麻実)
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観光案内所の黒板には、大井川流域のイラスト地図が。周辺観光スポットのほか、SLが門出駅を通過する時刻も黒板で案内(写真:赤坂 麻実)
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 また、KADODE OOIGAWAの敷地については、JA大井川の依頼で、用地の取得から粗造成までを島田市土地開発公社が手掛けた。権利者約30人から取得した土地2.1ヘクタールを整地した上で、JA大井川に有償譲渡したものだ。

 KADODE OOIGAWAの小林氏は「用地取得や(土地所有者など向けに市が開いた)説明会など、地元との調整部分を担っていただけて心強かった。開発のイメージを市から地元へしっかり伝えてもらえたことがありがたかった」と話す。地域における合意形成については、JA大井川でも組合員を対象としたワークショップを繰り返し開催し、地元農家の意見を吸い上げたという。

 大井川鐵道は、KADODE OOIGAWAと直結する形で、大井川本線の合格駅と神尾駅の間に新駅の「門出駅」を設置した。新駅の命名権をKADODE OOIGAWAが取得し(随意契約)、「門出」と名付けた。大井川鐵道も、KADODE OOIGAWAの駅直結棟の一角でキオスクと待合スペースを運営している。さらに門出駅が開業した2020年11月12日、大井川鐵道では隣駅の五和駅を合格駅と改称し、両駅を含む金谷~門出間の一日乗車券を「合格祈願周遊きっぷ」の名称で発売した。

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門出駅のホームに電車が入ってくるところ(左写真)。SLや他社から譲り受けた電車の動態保存で知られる大井川鐵道は、島田市にとって重要な観光資源でもある。右写真はSLの煙をイメージした「SLソフトクリーム」。KADODE OOIGAWA内にあるキオスクで販売している(写真:2点とも赤坂 麻実)

 NEXCO中日本は、KADODE OOIGAWAの施設単体に直接寄与するのではなく、この施設を玄関口とする大井川流域一帯の観光振興に努める。例えば、島田金谷ICで高速道路を降りて、大井川流域を観光する利用者に、高速道路割引や商品券などの特典をつけるドライブプランなどが考えられる。ただし、現在はコロナ禍で外出や移動の自粛が求められる社会情勢があり、キャンペーンは実現していない。

KADODE OOIGAWAの小林正二代表取締役(左)と島田市産業観光部内陸フロンティア推進課の塩谷吉隆課長補佐(右)。小林氏は「市と緊密に連携が取れている。施設のちょっとしたことで何か検討事項があるとき、社内より先に相談するほど」と話す(写真:赤坂 麻実)
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 このように、公民の4者が連携を取りながら、それぞれの領域で課題解決に努め、一個のにぎわい交流拠点を形成している。島田市 産業観光部 内陸フロンティア推進課の塩谷吉隆課長補佐(基盤整備係長)は「拠点全体のコンセプトやイメージについては4者で意見を交わし、アイデアを出し合った。拠点は施設が開業して終わりではない。今後、公民で連携しながらコンテンツをより充実させ、人の流れを活性化させていくことが重要」と話す。

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ウッドチップ敷きのドッグランを設け、リードフックも敷地内に多数設置。犬の散歩に毎日訪れる地域住民もいるという。「まず、来てくださった方が満足して帰られることを第一に考える。散歩や買い物、SL見物など、それぞれの目的を思うように達成できることが大切だ。その次の段階として、来場の主目的以外の楽しみもご案内していきたい」(KADODE OOIGAWA小林代表)(写真:2点とも赤坂 麻実)
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“ふじのくに”フロンティア推進区域の一角、農振除外スムーズに

 KADODE OOIGAWAの開発背景を振り返る。KADODE OOIGAWAを整備した辺り一帯は、従前は農業振興地域、農用地だった。2012年4月に、新東名高速道路(御殿場JCT~三ヶ日JCT間)が開通し、同時に島田金谷ICも供用を開始した。インターチェンジの周辺開発は、この新東名が都市計画決定した1991年に気運が生じていたものの、当時は農業が堅調であったため、農地をつぶして街づくりをすることに理解が得られなかったという。実際に、合併前の金谷町が区画整理事業を検討しながら実現しなかった経緯がある。

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大井川鐵道で営業運転していたC11形蒸気機関車312号機を同社が復元し、KADODE OOIGAWAが買い取ってレストラン棟前に展示している(左写真)。右写真手前は、島田市のシティプロモーション「緑茶化計画」により、緑色に塗装された郵便ポスト。奥に見える「門出」駅看板は、駅名に赤い水引のイラストをあしらっている(写真:赤坂 麻実)

 しかし新東名の開通が近づくにつれ、緑茶の出荷量が減少し、農家では高齢化や後継者不足などの課題を抱えるようになり、農地の転用に対する地元の抵抗感が小さくなった。また、2011年の東日本大震災を受けて、静岡県では知事自ら音頭を取って「内陸フロンティア」政策を進めた(現在は「“ふじのくに”フロンティア」と呼ぶ)。防災・減災と地域成長の両立を目指した支援事業で、対象区域(ふじのくにフロンティア推進区域)に指定されると、その区域の民間事業者に対して県からも優遇措置がある。例えば、対象区域に企業が立地する際(用地取得、造成から建設、設備導入までを行う場合)に、指定金融機関から融資を受けると、5年間、最大0.7%の利子補給が受けられるといったものだ。

 島田市も支援事業に申請し、2014年5月に島田金谷IC周辺が「ふじのくにフロンティア推進区域」の指定を受けた。2016年の区域変更(拡張)を経て、現在、指定を受けているのは約84ヘクタールだ。区域全体で農振除外の手続きを行い、工業用地や住宅地の造成を進めている。

島田金谷インターチェンジ周辺地区の開発構想。静岡県の「ふじのくにのフロンティアを拓く取組」の各推進区域における事業は企業・工場と住宅の立地が中心であり、商業施設整備はKADODE OOIGAWAが初めての例だ(資料:島田市)
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 島田市は2015年3月、新東名島田金谷IC周辺まちづくり構想を策定。推進区域の西部では、6次産業化に関わる企業、施設の誘致を進め、北東部に住宅の立地を誘導し、南東部ににぎわい交流拠点や物流拠点を整備する方針を固めた。にぎわい交流拠点(KADODE OOIGAWA)には、誘客の役割に加えて、職住近接の環境における利便施設としても機能することが求められた。

 島田市、JA大井川、大井川鐵道、NEXCO中日本の4者は同年7月に「賑わい交流拠点プロジェクト会議」を設立。11月までにワークショップを3回開催して施設のコンセプトなどを話し合い、11月末に「島田金谷インターチェンジ周辺賑わい交流拠点整備基本計画」を策定した。2018年6月に4者で包括連携協定を締結。2019年10月から2020年9月に建設工事を行い、2020年11月の開業に至った。

島田市(しまだし)
静岡県のほぼ中央に位置する。人口9万7748人(2020年12月末現在)、面積315.70km2。北には南アルプスへ続く山々が連なり、南西には牧之原台地が広がる。市の主要産物はお茶。
訂正履歴
初出時、3ページ目写真キャプションに「NEXCO中日本が管理運営する国道473号」とありましたが、管理運営をしているのは静岡県でした。お詫びいたします。記事は修正済みです。 [2021/2/12 17:20]

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/020200172/