多くの地方自治体が抱える人口減少問題。茨城県境町では多様な移住・定住政策でその進行を防いでいる。柱の一つであるPFI住宅は、町の財政負担なしで建設。この住宅を通じて、これまでに町外から82人の移住を実現した。
茨城県の西南部に位置し、江戸時代は利根川水運の拠点として栄えた境町。町役場のある市の中心部から徒歩10分ほどの町有地で、2020年3月の完成をめざして、2棟のマンションの建設が進む。定住促進を目的に町が取り組むPFI住宅の第3弾「アイレットハウス さくら館」だ。
地上3階建てで、総戸数は27。間取りは3LDKで、宅配ボックスやオートロック、児童遊園などの設備を有する。主なターゲットは町外から転入する新婚・子育て世代。エレベータの設置や段差のないバリアフリー設計、水回りを中心部に集約した家事動線など、子育てがしやすいように様々な配慮がされている。
居室面積は約70m2と広めながら、所得基準(月額15万8000円~48万7000円)をクリアすれば、近隣相場より2割ほど安い月額5万2000円の家賃で入居できる。建設費用の45%を地域優良賃貸住宅制度による国からの交付金(社会資本整備総合交付金)で賄うことなどで、このような家賃設定を可能にした。2019年11月から入居者の募集を開始し、20年1月末時点で14組が応募。このほかにも多数の問い合わせが寄せられているという。
82人が町外からの移住

境町が、移住や定住の促進を目的にPFI住宅建設の検討を開始したのは、2015年ごろのこと。きっかけは関東町村会が主催したセミナーだった。出席した橋本正裕町長が、たまたま隣に座った神奈川県山北町の町長からPFI住宅の話を聞いた。山北町は、PFI手法で地域優良賃貸住宅を整備した全国初の自治体である。
興味を持った橋本町長は、山北町やPFI住宅で豊富な実績を持つ佐賀県みやき町を視察。その後も、地元事業者を含めた勉強会などを開催し、2018年3月に北関東で初となるPFI住宅「アイレットハウス モクセイ館」を、2019年7月には第2弾の「アイレットハウス カンナ館」を完成した。「アイレット」は英語で「小さな島」という意味。「もくせい」と「カンナ」は、それぞれ町の木、花に指定されている。
総戸数はモクセイ館が35戸、カンナ館が20戸。どちらも3LDK・約70m2の間取りで、家賃はさくら館と同じく5万2000円(所得制限あり)だ。両館とも入居開始以来、ほぼ満室稼働が続いている。入居にあたっては、町外から転入する子育て・新婚世帯を優先。モクセイ館は48人、カンナ館は34人が町外から移り住んできた。古河市や坂東市など近隣自治体からの移住が目立つが、なかには、福島県や大阪府など遠方から移り住んでくる人もいる。

