先進的な英語教育で移住を後押し

 境町が移住・定住型の住宅整備を促進する背景には、多くの地方自治体が抱えている人口減少の問題がある。1994年の2万7619人をピークに町の人口(常住人口ベース)は減少に転じ、2020年1月時点では2万4123人となった。このため、いかにして移住者や定住者を増やし、地域の活力を維持するかが、大きな課題となっている。

 同町では、隣接する古河市に日野自動車が工場を移転したとき、同社の独身寮が建設され、単身者の移住増につながった。しかし、子育て世代の移住はなかなか進まなかった。理由の一つとして、「子育て世代が違和感なく転入できるような、間取りや設備グレードの住宅が、そもそも町にはなかった」と橋本町長は語る。前出のPFI住宅や戸建住宅は、こうした層の新たな受け皿となっている。

 もっとも住宅を整備したからといって、それだけで人が移住してくるわけではないと橋本町長は考える。「町内に鉄道駅がなく、交通の便が悪い境町には、それを上回る魅力が求められる。必要なのは住宅も含めた総合的な移住政策だ」(同)。

 移住政策の柱と位置づけたのが子育て支援だ。なかでも先進的な英語教育をウリにした「英語移住」に力を入れている。17人のフィリピン人のALT(Assistant Language Teacher、外国指導助手)を町内の小中学校に配置。小学校1年生から日常のなかで英語に触れる機会を増やし、英語力を高める。2017年9月にモデル校で先行実施し、2018年度から町内の全小中学校で行っている。

市内小学校の英語教育の様子(写真:境町)
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子育て支援などをまとめた移住促進のチラシ。クラウドソーシング(ランサーズ)を利用してネット経由で発注・制作した(資料:境町)
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 町では、小学校卒業時に実用英語検定3級、中学校卒業時に2級に合格できる英語力をつけることを目標にする。検定料はふるさと納税を活用し、全額補助が受けられる。2020年4月からはALTをさらに10人増やすとともに、保育園でも英語教育を実施する予定だ。

 このほか出産祝い品のプレゼント、20歳までの学生の医療費助成、子育て・新婚世帯への奨励金や家賃補助など、様々な子育て支援のメニューを用意。公私連携型保育所「コビープリスクールさかい」や子育て世帯向けのコワーキングスペース「S-work+kids(仮称)」などの施設整備も進めている。

2016年度からは転入超過基調に

 こうした施策の効果は、具体的な数字となって現れている。2004年度から続いていた人口転出が、2016年度には13年ぶりに転入超過となった。その後、2018年度にはわずかに転出が上回ったものの、直近の2019年11月時点では再び転入が上回っている。

境町人口の社会増減
(転入・転出の人口の推移。境町の資料を基に編集部で作成。2019年度は11月15日時点)

 今後はPFIによる企業の社員寮建設などにも取り組んでいく方針だ。日野自動車子会社の社員寮をPFI手法で建設する計画が、すでに検討されているという。

「PFIを上手に活用すれば、自治体はお金を使わずに、人口を増やせるし、町も活性化できる。ただ非常に良い制度なので、近隣市が取り組み出したら競争になりかねない。そんななかでも成果を上げるためには、単にハコモノとして住宅を作るだけでは難しい。その住宅に住めば無料で英語レッスンが受けられるとか、自動運転の車がついてくるとか、何らかの付加価値をつけることが、これからのPFI住宅では重要になってくるだろう」と橋本町長は語る。

境町(さかいまち)
利根川と江戸川の分岐点に位置する茨城県西南部の町。人口2万4123人(2019年1月1日現在)、面積46.59km2。江戸時代には水運を活かした河岸の町として栄えた。茶(さしま茶)、レタス、ネギ、トマトの産地として知られる