有田町長 松尾佳昭氏に聞く
「有田焼を磨き続けることが使命、だからITを活用する」

有田町長の松尾佳昭氏(写真:菅敏一)
有田町長の松尾佳昭氏(写真:菅敏一)
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 有田町を代表する有田焼は、2016年に創業400年という節目の年を迎えました。有田町はよく「歴史と伝統の町」と言われます。私は、歴史や伝統は守るものではなく攻めるものだと思っています。挑戦しない限りは歴史も伝統も残りません。だから、常に挑戦をやっています。

 では、挑戦とは何でしょうか。私は、民間企業に属していた人間なので、役所が役所内で固まっているのが大変気になっています。まずは民間の力をいろいろと入れていかなくてはいけません。新型コロナウイルス感染症が発生し、世の中の見方が大きく変わるようになりました。ここから一気に民間の力を借りながら、一気にデジタルに業務をシフトさせようという思いがあります。

 そういった取り組みを進めるうえでも、有田焼という伝統のところを強みにしていきたいと思っています。有田焼というエッジの効いたモノがあるのです。ここを磨き続けることが私の使命です。そのような観点から、新しくAIを専業とするLIGHTzとの協力を開始しました。彼らは有田町の進出を決め、操業を開始しています。

 AI自体は私は専門家ではないので、詳しくは知りませんでした。最初にLIGHTzの乙部社長に会ったときも、そうでした。ただ、彼の熱意とか、実直さは伝わってきました。また、彼は岩手県出身なので、田舎の心地よさとか堅苦しさとかいろんなことも分かったうえで、進出を考えていると言ってくれました。しかも単なる拠点ではなくてランドマーク、要は旗印になるぐらいの拠点にしたいなと話してくれて、そういった意味ではフィーリングはばっちり合いました。

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有田焼を磨き続けるためにITの活用を模索している。上はヤマト陶磁器の店舗に陳列された人間国宝による有田焼、下は有田町役場の前に立つ松尾町長(写真:2点とも菅敏一)
有田焼を磨き続けるためにITの活用を模索している。上はヤマト陶磁器の店舗に陳列された人間国宝による有田焼、下は有田町役場の前に立つ松尾町長(写真:2点とも菅敏一)
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 先ほどもお話ししたように有田焼を磨き続けることが私の使命であり、そのためには有田町出身の人が有田焼に多く携わっていってほしいです。もちろん次世代を担う若者にもです。ただ、伝統工芸は堅苦しく徒弟制度のようなイメージがあります。有田焼に限らないかもしれませんが、なかなか若者が継がないために、職人さん不足が進んできています。

 そんな課題がある中で、LIGHTzがAIによって熟練者の思考を「汎知化」していることを知りました。一流の熟練者がどのような思考をたどって行動をするかといったことを可視化し、それによって熟達者たちの知を後世に伝えていくことを実践しているのです。その汎知化をスポーツのコーチングに活かすというお話しを聞き、それを有田焼の職人さん達の汎知化にも応用できないかと相談しました。

 職人さんたちの「知」を入れたコーチングのフォーマットができれば、たとえば10年後に有田焼に興味を持った人たちが、その職人さんが働いてなくても、その人の考えていることが分かることになります。「どこに力を入れて絵を描いているのか」「全体を見たうえでどこに意識を集中しているのか」、そういったいろいろな思考回路をLIGHTzの技術は明確にしてくれるので、是非組んでみたいと思ったのです。

 そもそも人が減るのは間違いないことだったので、そういった課題をデジタルでどう補っていくのかは、常に意識していました。私は「アーカイブ化」だと思っていたのです。たとえば動画を撮影して、それをVRで見て、そこから盗めみたいな形です。でもそれって、職人さんの「背中を見て盗め」という技術承継と似ているなとも思っていました。そんなことを考えていたときに、AIの話があって、まさにこれだと思ったのです。

 有田焼の工程は、分業制で成り立っています。絵を描く人、ろくろを引く人、窯に積む人といったように分業されていて、それぞれの職人さんがいます。それぞれに特化しているので、そのフェーズごと汎知化できればいいということになります。この汎知化のプロジェクトには佐賀県窯業技術センターにも入っていただき進めています。

 一方で、このプロジェクトはあまり急ぎ過ぎたくないなとも思っています。10年後ぐらいに、汎知化によってプログラムとシステムが少しでもできていればいいかなといった程度です。簡単にできることではないと思っているので、Xデーを決めてそこまでに成果を出すというよりは、有田町らしさを大事にしていきたいですね。(談)

松尾 佳昭(まつお よしあき)
有田町長
1973年生まれ、佐賀県有田町出身。福岡大学法学部卒業。参院議員秘書などを経て、2006年の有田町議選で初当選し、連続3選を果たす。2018年に有田町長に就任。