全国で社会実装に向けた実証実験が相次いでいる自動運転バス。茨城県境町は人口約2万4000人の小さな町ながら、2020年11月に自動運転バスを実用化、定常運転を開始した。自動運転バスは、高齢化が進む地方の交通弱者を救済するために有効な手段として期待が高まっている。導入から1年を経て、何が見えてきたのか。実際に乗ってみた印象も含めてリポートする。

 「町民みんなで大きなペットを飼っているようなもの」――。境町の橋本正裕町長は2020年に実用化を開始した自動運転バスについて、こう表現する。この言葉にはいくつかの意味が含まれている。その存在が町民から愛されて可愛がられていることや、まるで生き物のように手が掛かり、それを町民がみんなで支える気持ちが必要という意味もある。東京・上野動物園のパンダのように、地域の活性化や市民プライドの形成に一役買っているという面もある。

境町に導入されている自動運転バス「ナビヤ アルマ(NAVYA  ARMA)」(仏ナビヤ社製)。ボディは地元出身のアーティストによるデザイン彩色が採用されている(写真:高山透)
境町に導入されている自動運転バス「ナビヤ アルマ(NAVYA ARMA)」(仏ナビヤ社製)。ボディは地元出身のアーティストによるデザイン彩色が採用されている(写真:高山透)
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 茨城県の西南部に位置する境町は、鉄道路線がなく自動車が地域住民の交通手段を支えている北関東の小さな町だ。古くは利根川を利用した江戸への物流の拠点として栄えた交通の要衝だったが、現在、最寄りの鉄道駅は、東北本線の古河駅か、東武伊勢崎線の東武動物公園駅でいずれも自動車で30分程度かかる。路線バスはあるものの地域内の公共交通インフラが弱く、住民の高齢化が進んでも自動車を利用しないと移動手段がなく、なかなか高齢者も運転免許の返納ができないという事情がある。

 こうした課題を抱えていた境町が自動運転バスの導入に向けて動き出したのは2019年11月。橋本町長がネットで自動運転バスの記事を読んだことがきっかけだったという。それから1カ月後には運営会社の社長と会い、年が明けた2020年1月には町議会で導入に向けた予算の承認を得た。そして実際に公道での定常運転が始まったのが同年11月26日だった。運行体制の構築業務はソフトバンクの子会社であるBOLDOLY(以下ボードリー)が受託し、運行管理はセネック、車両のメンテナンスはマクニカが受託している。

 それから1年後の2021年11月末までの時点で、累計の利用者は約5300人。運行距離は約1万4525km。自動走行比率は公道で平均73.5%に達した。利用料金は無料だ。

 運行そのものに大きなトラブルはなく、事故は年間1件のみ。2021年10月に駐車場で発生した接触による事故だ。駐車場に止まっていた車が誤って発進し停車していたバスに接触したもの。バス自動運転システムに起因する事故ではなかったため、警察による現場調査の後、引き続き代車による運行を行った。

 自動運転バスの運行を視察に訪れるほかの自治体や研究機関は多く、2021年12月末時点で自動運転バスとその他の施設等をセットにして100件を超える視察が境町を訪れている。

境町(さかいまち)
境町(さかいまち)
茨城県の西南部に位置する。人口2万4031人(2022年2月1日現在)、面積46.59km2。主要産業は農業。古河市や茨城県東部のつくば市へ通勤する住民も多い。