福岡県みやま市は、県の南西部に位置し、約12年前の2007年に瀬高町、山川町、高田町が合併して現在の姿となった。人口は約3万8300人で、主産業は農業である( 図1)。

図1●主産業である農業をスマート化する試みにも注力している
(出所:みやま市)
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 国内の多くの地方自治体と同じように、みやま市でも、人口の減少や高齢化が進みつつある。人口の減少は、地方自治体にとって税収の縮小につながり、財政の縮小を招く。これによって、必要な社会インフラ整備への投資が滞ったり、行政が提供すべき住民サービスの規模を縮小したり、特定のサービスの提供を断念しなければならない恐れが出てくる。特に、高齢化に対しては、これまでにないインフラやサービスが求められる。それに対して、十分に投資できず、高齢者が住みにくい街になることは避けたい。

 地方自治体の多くに共通するこうした行政の課題に対して、みやま市は、通常の行政の活動に加えて、市が過半を出資(55%)している地域新電力「みやまスマートエネルギー」(みやま市瀬高町)を通じて解決を試みようという、挑戦的な取り組みを始めていることで知られる(図2)。

図2●新電力をテコに行政課題を解決
(出所:みやま市、みやまスマートエネルギー)
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 みやまスマートエネルギーを通じた取り組みは、ドイツにおける電気・ガス・水道・交通などの公共インフラの整備・運営を担う地方自治体所有の公益企業であるシュタットベルケの日本版とも言われ、地域新電力が目指す姿の一つと位置付けられることもある。みやま市の活動は、2015年度には「グッドデザイン賞」の金賞(経済産業大臣賞)を受賞したり、外部から年間約800人が視察に訪れるなど、注目度が高い。

 シュタットベルケといわれる通り、同社の事業は単に地域の再エネ電源を活用して、地域に電力を供給するだけにとどまらない。ここにきて増えつつある高齢化や地域コミュニティの希薄化、単身世帯の増加、晩婚化などといった様々な行政上の課題の解決に寄与する事業を、新電力の立ち上げ当初から積極的に手がけている。

行政の課題解決を前面に

 みやま市が、地域新電力の設立を主導するきっかけとなったのは、2014年にはじめた住宅エネルギー管理システム(HEMS)の実証事業だった(図3)。市内の1万2000世帯中、約7分の1となる2000世帯にHEMSが導入された。この実証が終わった後にも、HEMSを使った市民向けサービスを続けることを決め、それを実施する企業が必要になった。

図3●市内の住宅の7分の1にHEMSを設置
(出所:みやま市、みやまスマートエネルギー)
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 また、2011年3月の東日本大震災を機に、分散型電源を地域に多く導入し、災害時でも市内に電力を供給し続けられる環境を確立する面からも、地域新電力が必要だった。

 みやま市では、地域への太陽光発電の導入促進策として、まず2010年に市内の住宅への太陽光発電システムの新設に対する補助を始めていた(図4)。これにより、市内の住宅における太陽光発電の普及率を、補助開始前の8.9%から、約15%に高めた。全国平均の5.6%を10ポイント近く上回る。

図4●住宅の屋根への補助、市有地へのメガソーラーの誘致。住宅用太陽光発電システムの普及率(左)は、図の作成当時の約8.9%から、現在は約15%に増えている
(出所:みやま市、みやまスマートエネルギー)
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 住宅の太陽光発電システムについては、固定価格買取制度(FIT)の買取期間が2019年度に終わる、いわゆる卒FIT住宅からも、買取期間の終了後、みやまスマートエネルギーが発電電力を購入する意向を示している。これに関連し、日本気象協会と発電量の予測技術の高精度化にも取り組んでいる(関連ニュース)。

 市内の遊休地に出力5MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)も導入した。発電事業者である「みやまエネルギー開発機構」も、地域新電力のみやまスマートエネルギーと同じように、市が20%を出資している第3セクター方式となっている。

 最近では、FITを活用した太陽光発電システムの導入が難しくなりつつあることから、新たに市有の施設の屋根を貸す取り組みを始めた。NTTスマイルエナジーと協定を結び、同社がみやま市の31カ所の市有施設の屋根上に太陽光発電設備を新たに導入し、新電力に売電する(関連ニュース)。これによって、地域でさらに再エネを導入するとともに、その発電電力を地域で活用するという再エネ需給の両方を増やすことを狙う。

 みやまスマートエネルギーは、こうした地元の屋根上太陽光発電システムや太陽光発電所で発電された電力を購入し、地域の公共施設、企業や住宅にその電力を供給するとともに、HEMSを活用したサービスを提供する。さらに、こうした電力事業による収益を原資に、本来は市が手がけることがふさわしいものの、財源や人員の制約で十分に手がけられない市民サービスも提供する。

 このように、行政の課題の解決に向けた取り組みの一環で、電力はあくまで手段に過ぎないという姿勢を明確に打ち出している。こうした特徴的な地域新電力は、2013年に構想され、2015年に設立された。出資比率は、みやま市の55%のほか、みやまパワーホールディングスが40%、筑邦銀行が5%となっている(図5)。

図5●新電力の出資比率
(出所:みやま市、みやまスマートエネルギー)
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 地方自治体との関連が深い国内の他の多くの地域新電力の多くは、主な目的をあくまで地域新電力の本分、すなわち地域の再エネ電源の活用、地域の電力コストの低減、関連業務による雇用の創出などにとどめ、できるだけ早く経営を軌道に乗せることを優先している。みやま市の取り組みは、こうした他地域の一般的な取り組みとは一線を画している。

 みやま市による地球環境を意識した再エネ以外の取り組みには、生ごみ焼却をなくす「ゼロ・ウェイスト化」もある(図6)。こちらは、市による単独の事業として実施している。2018年12月に稼働を開始した新たな処理施設によって、生ごみを焼却せずに液体肥料に代えている。こうした生ごみ処理は、1万人程度の規模の地方自治体では前例はあったが、4万人規模の自治体では初めての例としている。

図6●生ゴミは燃やさずに液体肥料に代える
(出所:みやま市)
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 生ごみを「ゼロ・ウェイスト化」し、電力も地域新電力を通じて再エネの活用率を100%相当に高めていくことが、みやま市が目指す理想の姿の一つという。

職員は50人減も、新電力で50人の雇用

 みやま市の人口減の抑制にも、地域新電力の事業が寄与するのではないかと同市は期待している。

 同市では、人口の減少のうち、他の地域への流出超過を指す「社会減」が起こる要因の一つを、「その地域の未来を創っていく方法を学んだことがない」点にあると考えている。そして、これまでに多く見られた大企業の拠点や大型商業施設の誘致は、地域の未来を創っていくための根本的な策ではないと感じ始めていた。

 できれば、地域に何らかの資源があり、その上に成り立つような産業が生み出せれば、地域の未来を創っていく姿として望ましく、地元に新たな仕事を生み出すことも実現しやすいと考えた。その手段として、再エネ発電やその発電電力を活用する地域新電力は最適だった。

 みやま市では合併後、約5000人の住民が社会減で減った(図7)。この影響もあって、市の職員も約50人減らした。この職員の減少による行政サービスの低下は、非営利団体(NPO)を活用することで、できるだけ維持できるように努めている。ただし、そこには限界がある。

 みやま市の電力事情をみると、これまでの九州電力からの電力購入では、みやま市内から年間約40億円が他の地域に流出している状況にあった(図8)。これを、地元の再エネ発電所などの発電電力を使った地域新電力ですべて代替できれば、この約40億円を地元に残して回せる状況に変えられる。

図8●地域外に流出していた電力関連費は40億円
(出所:みやま市、みやまスマートエネルギー)
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 もし、地域新電力によって、電力関連の他地域への流出分を地元にとどめておくことができるならば、電力に関連した分野や、市の意向を汲んで行政課題の解決に寄与するような市民サービスを地域新電力が増やして行くことで、地域に新たな仕事や雇用の機会が生まれる。

 このように、市の職員や予算の減少によって市では十分に実現できないサービスを新電力が担い、その雇用も生むことができれば、行政側のサービス低下分を補えるのではないかというのが、目指す姿となっている。

 地域新電力が市有の公共施設や企業、住宅に電力供給をはじめ、同時に市民サービスの提供も始めたことで、すでに2017年度末時点で、関連企業を含めて約50人の雇用が生まれている。みやまスマートエネルギーで約30人、みやまパワーホールディングスで約20人となっている。みやまスマートエネルギーの30人のうち、約20人が電力事業、残りの約10人が地域コミュニティ施設「さくらテラス」で働く。

 合併後の市の職員が、これまでに約50人減っていることを考えると、ちょうどその分の仕事や雇用が生まれたことになる。

農業の6次産業化、見守り、レストラン、多様なイベント

 新電力の業績は、2015年度は売上高が1億2896.2万円、経常利益が1668万円の赤字、2016年度は売上高が7億6792.1万円、経常利益が1673.5万円の赤字、2017年度は売上高が18億1101.4万円、経常利益が496.9万円の黒字で、初めて単年度黒字になった(図9)。電力部門のみに限ると、黒字は約4000万円とみられる。2018年度も黒字を見込んでいる。

図9●新電力の業績推移
(出所:みやま市、みやまスマートエネルギー)
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 2018年12月時点で、契約容量は5万8000kW、契約数は約4000件となっている。売り上げの約8割は法人向けで、市内の法人約1000社のうち半数の約520社が契約している。市の取り組みに賛同する企業が多いことがうかがえる。

 立ち上げ当初から市有施設を中心に高圧の需要家を確保でき、売り上げ面では規模のベースができていた。その後、手間が比較的かかる住宅向けを増やしている状況にある。その中で、黒字化までに3期を要したのは、電力事業ではなく、後述する他のサービスの負担が相対的に重くなっていたことが大きいようだ。

 みやまスマートエネルギーが手がけている市民サービスとは、どのようなものがあるのだろうか。

 まず、タブレット端末を使った市民サービスがある。HEMSを通じて得た電力利用状況を元にした高齢者の見守りや、市内の商店の品物を宅配するといった内容となっている(図10)。

図10●タブレット端末を使った市民サービス
(出所:みやま市、みやまスマートエネルギー)
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 高齢者の見守りは、新電力の電力供給先のうち、65歳以上が住む世帯が対象で、希望する世帯にサービスを提供している。対象世帯の約半数がサービスを希望している。

 このサービスは、2017年度に数百万円の黒字になったという。ただし、宅配の需要は思ったほどに伸びていない。個人の住宅向けという、手間がかかる割に売り上げが伸びない事業構造であることのほか、市内では周囲で声を掛け合って高齢者の単身宅の分まで買い出しするような地区が多いためという。

 みやま市によると、こうした状況から、公助や共助に分類されるサービス分野のうち、どの領域を今後は注力していくべきなのか、検討や模索を繰り返していく必要があるとしている。

 また、市役所に隣接するレストランを中心とするコミュニティ施設「さくらテラス」の建設・運営もある(図11)。これまでの赤字の理由には、さくらテラスの建物の償却や、運営費の負担が相対的に重かったこともあった。

図11●「さくらテラス」
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(出所:上はみやま市、みやまスマートエネルギー、下の2点は日経BP)

 さくらテラスは、市民の憩いの場や地域の情報発信などを目的に、2016年に開業した。特に力を入れているのは、みやま市の主産業である農業の6次産業化(第1次産業が食品加工・流通まで手がける経営形態)に寄与する取り組みである。その際に、市内の加工業者が加工などを担うことができれば、さらに波及効果が広がる。

 レストランでは、みやま産の農作物のおいしい料理を、シェフが実際につくってメニューとして提供する。イベントスペースとしても活用している。これまでに、ピアノや弦楽器の演奏会、書道展、婚活イベントなどに活用された。こうした機会を通じて、市民が集う場所に育てていきたいという。

 みやまスマートエネルギーが手がけた市民サービスの中には、トライアル(実験)で終えたものもある。

 例えば、高齢者向けの体操教室がある。狙いは、元気な高齢者を少しでも増やして社会保障費の支出を減らすこと。もちろん、憩いの場の提供という目的も兼ねている。2回開催したものの、新電力側が支出できる予算と、実際の開催に必要な費用との間に隔たりがあり、断念した。ただし、開催の意義の高いイベントのため、今後、違う形での企画を検討している。

 小学校向けのエコ・エネルギー教室も、現在は特定の学校で年1回、開催するのみに変えた。また、宴会向けのケータリングサービスも実験的に試したものの、現在は引き受けていない。

市が「利益相反」で調査も

 電力事業で稼いだ収益で市民サービスを生み出すという高い理想を掲げ、しかも、設立当初から、できるだけその方針を多く実行することは、一方で、そのサービスが時期尚早だったり、取り組み方に改善の余地が大きかったりするといった、試行錯誤や模索を、経営基盤が十分には確立しきれていない状態で実行することを意味する。

 しかし、国内の多くの地方自治体にとって、いずれ向き合うことを余儀なくされる課題に対して、新電力をテコにしながら、いち早く解を模索していこうという活動の意義は大きく、参考になるべき点も多い。

 このように、理想と現実の間を蛇行しながら、将来に備えて適正なサービスを模索し続けているのが、みやま市の取り組みの特徴といえる。

 「拙速ではないか」「地に足をつけた活動に徹すべきだ」などといった評価や指摘を受けることがあるなど、評価が分かれる試みも少なくない。実際に、取り組みや経営体制・手法の一部には、市議会や一部の一般紙などから、是正すべき点の指摘が続いている。

 この一つに、みやまスマートエネルギーと、同社の40%の株式を所有するみやまパワーホールディングスの間の取引に関するものがある。利益相反取引の調査を始めたことを、みやま市は明らかにしている。両社とも代表者が共通していることに加えて、地域新電力としての目的に該当しないと思われる業務があり、市議会から疑問が挙がったことに対応したものである。2018年10月の市長選で、新市長に代わったことも影響しているようだ。

 また、需給管理業務は、みやまパワーホールディングスに委託している状況が続いている。元々、みやまパワーホールディングスは、みやまスマートエネルギーにおいて、これまで準備が整っていない業務を担い、準備が整った時点で、業務を移管する手法を採ってきており、現在のみやまスマートエネルギーには、自社で需給管理を手掛ける素地は整っていると見られる。

 にもかかわらず、需給管理業務をみやまスマートエネルギーに移管していないのは、みやま市や同社が鹿児島県のいちき串木野市、肝付町、大分県の豊後大野市、竹田市、福岡県大木町、東京都港区、福島県白河市、山形県庄内町と提携している関係で、現在は地域新電力6社から需給管理業務を受託しているためという。

 新電力に関する制度が二転三転する中で、みやまスマートエネルギーのみ、需給管理の業務を移管しても、両社にとって需給管理の業務やコストの効率が悪くなり、利点がほとんどない状態であるため、需給管理を委託し続けているとしている。

出力抑制による発電インバランス

 みやまスマートエネルギーの電力需給については、2018年の平均で、九州電力の常時バックアップが 65%、商社が15%、市内の住宅屋根とメガソーラーが15%、市場が5%となっている。九電の常時バックアップと商社の両方から購入するのは、一般電気事業者の常時バックアップの購入量には上限があるためである。不足分を商社から購入している。

 九電の常時バックアップは、新電力への供給価格が比較的安く設定され、さらに、1kWh単位で取引できるのが大きな利点となっている。例えば、市場からの購入は50kW単位となるので、「30分間で3%」というインバランスのズレの規定を超えやすくなってしまう。

 第3セクターの出力5MWのメガソーラーからは、発電量の半分を購入している。全量を買うことができないのは、土日・祝日の需要減に柔軟に対応することが難しいためである。

 みやまスマートエネルギーの供給先の契約容量は約5万8000kWだが、公共施設などが多く、土日・祝日の需要は約3分の1に下がる。もし、全量を購入していると、土日・祝日の需要の2倍以上となってしまい、それを市場で4~5円で売ることになり、採算性が悪くなる。

 また、九州電力は、2018年10月13日以降、全国で初めて太陽光発電所に対して出力抑制(出力制御)を実施した。輪番制で出力抑制の対象とし、年内に2巡目に入ったことを明らかにしている。

 みやまエネルギー開発機構のメガソーラーも2回、出力抑制の対象となった(図12)。

図12●出力5MWのメガソーラー
(出所:みやまエネルギー開発機構)
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 みやまスマートエネルギーは、小売電気事業者による再エネ電力の活用に関する「FITインバランス特例制度(1)」の適用を受けている。この制度上、発電量の予想を出力抑制の通知後に変えることができず、当日の発電量はゼロになることから、後日、ペナルティを支払った。

 特例制度(1)では、再エネ発電量は九州電力が予想する。そして、前日の午前に新電力が翌日の需給の予測に基づいて、九州電力や商社などに翌日分の相対取引を依頼する。

 出力抑制の通知は、その後、前日の14時に九州電力から対象となる発電所に通知されるので、すでに締め切られてしまっている相対取引などには反映できない。

 新電力によると、この出力抑制による発電側のインバランスの支払いは、たまたま現在の市況が格安のため、太陽光発電電力の調達コストよりも、インバランスの支払いの方が少なく、収益面で悪影響は受けなかったものの、今後を考えると何とかして欲しいと強調している。

 この出力抑制時のメガソーラーの売電損失は、1回あたり約100万円だったという。

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