磐田市(いわたし)
日本のほぼ中央、静岡県西部の天竜川東岸に広がり、遠州灘に面している。人口は約17万人(2020年1月末現在)。繊維産業に加え、金属や自動車、楽器などの工業、温室メロンや茶、白ねぎ、海老芋、中国野菜、シラスなどの農水産業が盛ん
[画像のクリックで拡大表示]

 静岡県磐田市は、県の西部に位置する。浜松市の東隣にあり、人口は約17万人で、ヤマハ発動機の本社があるなど二輪・四輪車や楽器、電気・機械の大手メーカーが拠点を置く、機械加工系の企業が多い地域である。

 この磐田市において、同市が設立に関わった地域新電力であるスマートエナジー磐田(磐田市)がエネルギー供給を手がけている。電気だけでなく、熱の供給も予定している。同社によると「公民の出資による地域新電力では、国内初の熱電両方の供給」だという(図1)。

 2017年4月の新電力設立の起点となったのは、東名高速道路の遠州豊田パーキンエリア(PA)周辺と、遠州豊田スマートインターチェンジ(SIC)の整備だった。

図1●電気を供給し、熱と二酸化炭素(CO2)の供給も協議中(出所:スマートエナジー磐田)
[画像のクリックで拡大表示]

 磐田市の産業部はこれを機に、PAの周辺に広がる土地に商工業団地(磐田ららシティ)などを整備し、これまでの同市にはなかった産業も含めて企業を誘致し、地元の企業を活性化したいという期待があった(図2)。

図2●PAの北側に整備した商工業団地(出所:磐田市)
[画像のクリックで拡大表示]

 商工業団地に進出した企業には、エネルギーを地産地消できる環境を提供する。さらに、市域全域にエネルギーの地産地消を広げていく。既存の市内の中小企業にも、地元産の電気を供給し、旧・一般電気事業者からの電力購入に比べて、電気代を安くして経営環境を強化したり、新たな投資に振り向けたりしたい。あるいは、新たな雇用を生む余力を生む助けにしたい。こんな発想から出発した。

 地方自治体が関与する地域新電力といえば、市の環境関連部署が主導するケースがよく見受けられる。この場合、ゴミ処理施設内の廃棄物焼却発電による電力を生かすことを起点に、新電力の事業が構想されることが多い。また、所管の業務上、どうしても、既存の地元企業にとっての電力コストの削減のみに、魅力が偏りがちになることが多い。

 しかし、スマートエナジー磐田は事情が異なり、市の産業部の主導で設立されたことが大きな特徴だ。産業部は、その名の通り、産業政策の策定や実行を担い、地域の産業の活性化を最大の目的としている。この点は、商工業団地の企業進出とセットで構想された新電力の性格にも表れている。

エネルギーと新電力のノウハウ

 地域新電力の母体となる企業には、事業運営ノウハウをある程度持ち、エネルギーの地産地消を実現するための技術や知見も持っていることが求められる。磐田市では、JFEエンジニアリング(東京都千代田区)を選んだ。元々、磐田市と深いつながりがある企業ではないが、同社によると「磐田市側から熱の入ったアプローチを受けたのがきっかけだった」(JFEエンジニアリング 電力ビジネス事業部 新電力事業推進部長 兼 スマートエナジー磐田 代表取締役の小林 厚氏)という。

 磐田市にとっては、地元の企業が地域新電力の母体となって事業運営を担えるのが、もちろん理想だった。しかし、そうした企業は、地元にはない。そこで、磐田市では、こうした企業を手広く探し、JFEエンジニアリングを新電力の担い手として誘致、合弁会社を設立した。

 JFEエンジニアリングは、エネルギー関連サービスの経験が豊富で、太陽光・風力・バイオマスといった再生可能エネルギー発電も手がけている。現在、求められている技術だけでなく、例えば、蓄電技術の応用や電気自動車(EV)の急速充電技術のような再エネ電力をより多く活用する上で、将来、必要になるとみられる技術にも積極的に取り組んでいる。新電力のアーバンエナジー(横浜市鶴見区)も立ち上げ、既に電力供給の実績もあった。「事業運営ノウハウと技術や知見を持っている」という、磐田市が重視していた条件が揃っている企業だった。

 アーバンエナジーは現在、約36万kWの供給契約を持つ新電力で、電源確保や電力小売りを全国展開している。再生可能エネルギー比率の高さが特徴で、約4割に達している。再エネ比率が高いのは、地方自治体のゴミ処理施設の施工や運営を担っている実績が多く、これらの施設内でゴミを燃やす廃棄物発電を含めたエネルギーの需給まで担っていることが大きい。

 アーバンエナジーを有するJFEエンジニアリングが地域新電力に参画することで、運用ノウハウを活用できるだけでなく、例えば、余剰電力の融通などでも利点が出てくる。磐田市の地域新電力で、調達先の発電電力が需要を上回った時間帯の余剰電力は、市場で売ることもできるし、アーバンエナジーが買い取ることもできる。

 こうして、磐田市において、地域新電力「スマートエナジー磐田」が2017年に設立された(図3)。JFEエンジニアリングが磐田市に構想を提案した2015年から2年の準備期間を経た。出資者は、JFEエンジニアリング(出資比率94%)のほか、磐田市(5%)、浜松磐田信用金庫(1%、出資当時は磐田信用金庫)である。

図3●新電力の概要(出所:スマートエナジー磐田)
[画像のクリックで拡大表示]

 磐田市による出資は、JFEエンジニアリングが望んだ。地元に根付いた地域新電力とするために、地元の自治体による出資や営業への協力が不可欠と考えていたからだ。信用金庫の出資は、磐田市がこだわった。産業政策の一環で、地元の企業の活性化などを目指す以上、地元の金融機関の協力は欠かせないと考えた。

風力と新設のガスエンジン発電を活用

 地産地消する分散型電源は現在のところ、2つの風力発電所の発電電力と、新たに開設したガスエンジン発電所である(図4)。熱は、このガスエンジン発電で生じる排熱を供給している。

図4●3カ所の地元の電源を活用(出所:スマートエナジー磐田)
[画像のクリックで拡大表示]

 スマートエナジー磐田では、高圧の電力を供給しており、2019年度の全供給電力量の約70%を再エネ電源で賄うとしている。これらの地産エネルギー源から調達できるようになるまでの間は、アーバンエナジーから電力を調達して供給していた。

 風力発電所は、磐田市が開発・運営している出力1.9MWの「しおさい風力発電所」、コスモエコパワー(東京都品川区)の出力15.0MWの「磐田ウィンドファーム」である(図5)。いずれも、海沿いの竜洋海洋公園地域に立地している。

[画像のクリックで拡大表示]
図5●市営(上)と民営(下)の風力発電所(出所:上は磐田市、下はコスモエコパワー)
[画像のクリックで拡大表示]

 市営の風力発電所は、2003年に稼働し、2005年に5つの市町村が合併して現在の磐田市となる前の旧・竜洋町の時代から、近隣のシンボルとなっていたものである。コスモエコパワーの風力発電所は、出力3MWの風車5基からなり、2009年9月に稼働した。

 この2つの風力発電所の発電電力を使いつつ、不足分を新設のガスエンジン発電電力で賄っている(図6)。ガスエンジン発電所の出力は745kWで、PA北側の商工業団地内に設置し、2019年10月に発電を開始した。商工業団地に進出した企業の拠点にとっては、同じ商工業団地内での発電電力を活用できることになる。

図6●商工業団地内にガスエンジン発電所を新設(出所:スマートエナジー磐田)
[画像のクリックで拡大表示]

 ガスエンジン発電は、JFEエンジニアリングが得意とする分野の一つである。海外メーカー製のエンジンを軸に発電システムを構築し、納入した例が少なくなかった。

 商工業団地には現在、17社の施設が進出している。この17社の施設のうち、高圧の電力を受電しているのは15施設で、このうち7施設が既に新電力から調達している。

サッカー場には「CO2フリー電気」

 民間企業の顧客は、この商工業団地のほかにも広がり、現在は約50施設(契約量:0.6万kW)となっている。このほか、磐田市の高圧受電の約100施設(約1.2万kW)が、新電力から電力を購入している。合わせて約150施設(約1.8万kW)に供給している。

 市民が集まる代表的な施設の一つであるサッカー専用競技場「ヤマハスタジアム」(ヤマハ発動機が所有)では、新電力からの調達に切り替えるだけでなく、「CO2フリー電気」(CO2排出係数がゼロの電気)の調達にまで踏み込んだ(図7関連記事)。同スタジアムは、プロサッカーのJリーグに加盟しているジュビロ磐田の本拠地で、市民への訴求力は抜群の場所であり、スマートエナジー磐田のPR効果も期待できる。

図7●ヤマハスタジアム(出所:ジュビロ)
[画像のクリックで拡大表示]

 CO2フリー電気は、スマートエナジー磐田の新たな電力プラン「いわたゼロエミでんき」を選んだことで実現した。

 このプランでは、2つの風力発電所などの地産電源からの電力と、再エネ由来の証書を組み合わせた二酸化炭素(CO2)排出係数ゼロの電力を提供する。ヤマハスタジアムとの供給契約量は約1000kWとなっている。

 「いわたゼロエミでんき」は、アーバンエナジーが先行して手がけていたプラン(関連記事)を磐田市版にアレンジしたもので、ここでも他地域での経験が生きている。

植物工場には、電気と熱、CO2の「トリジェネ」

 スマートエナジー磐田では、電気と熱を合わせて供給するシステムがコジェネレーションと呼ばれていることに引っ掛けて、電気、熱、CO2の3つを供給するサービスをトリジェネレーションと称している。

 このサービスを利用しようと考えているのが、PAの南側にある植物工場群だ。スマートアグリカルチャー磐田(SAC iWATA、磐田市高見丘)の施設栽培拠点である。同社は、富士通(出資比率:51%)、オリックス(39%)、増田採種場(10%)による合弁会社で様々な野菜や果物を、多様な環境で育成している(図8)。市が誘致した企業で、植物工場では、日照や温度、湿度といった環境だけでなく、水や栄養分の供給まで管理・制御する。電気と熱だけでなく、光合成に必要なCO2も、生産計画の下に適宜、供給する必要がある。そこで、電気と熱に加えて、CO2についても、同社ではスマートエナジー磐田からの調達も検討しているという。

図8●PAの南側に点在する植物工場群(出所:スマートアグリカルチャー磐田)
[画像のクリックで拡大表示]

 このような先進的な事業への取り組み意欲が旺盛なのが、磐田市における分散型エネルギー源や地域新電力の事業者全般に見られる特徴といえる。磐田市、JFEエンジニアリングともに、お互いが「新しい動きに対して貪欲」と評価している。

地元の太陽光発電の活用では、蓄電池・EVとの連携も模索

 太陽光発電では、地元の発電事業者を調達先に加える交渉を進めている。固定価格買取制度(FIT)に基づく買取期間が終わった後の、いわゆる「卒FIT」の太陽光発電設備では、既に2カ所の市の施設の屋上にある設備の発電電力を買い取っている。2カ所とも、2019年11月にFITの買取期間が終わり、新電力が新たな買取先となった。

 今後、こうした卒FITの太陽光発電設備からの調達が増えてくる。FITの買取価格ではなく、市場価格が比較対象となるため、新電力にとって、プレミアム分を支払ったとしても安い再エネ発電電力となる。しかも、地元産で、発電事業者にとっても、供給先にとっても価格面で魅力のある電気となる。

 こうした地元産の再エネ発電電力を、より多く使いこなすためには、蓄電池の活用も有効になってくる。現在はコスト面で障壁が高いが、二輪車や四輪車といった磐田市と親和性の高い産業でも、蓄電池を搭載した車両が増えてくると見られている。地元の企業が開発・販売する蓄電池を載せた二輪車や四輪車を、移動していない時間帯には、再エネ発電の余剰電力を吸収する蓄電池として活用するような取り組みでは、連携しやすい環境にある。

新潟や熊本など4市での取り組みに発展

 設立後、3年目に入った新電力の経営状況は、薄利ではあるが、黒字を続けている。売上高は、2018年度で約8億円としている。産業政策の一環であることからも、持続性のある健全な経営を続けることが重要としている。

 また、この磐田市の新電力の動きを見て、他の地方自治体でも、同じようにJFEエンジニアリングやアーバンエナジーが関わる地域新電力の設立とエネルギー供給を求められることが増えてきた。

 磐田市との取り組みが始まった後、新潟県新潟市、埼玉県所沢市、広島県福山市、熊本県熊本市において、地方自治体と地域新電力を設立した(関連記事:所沢市で地域新電力、太陽光・ごみ発電から調達、同記事:福山市、地域の再エネで国内最大級の地域新電力)。この四つの市は、清掃工場の設備で元々、付き合いがあった自治体としている。

 新電力をめぐる環境は、旧・一般電気事業者系や大手商社系などに、価格競争を挑まれて顧客を奪われる、新電力ごと吸収されるという動きが強まっている。今後も、こうした流れは加速するとみられている。

 その中で、長期的に地元に根付く地域新電力とは、どのような姿なのか。磐田の新電力では、「電気の調達コストが少し安くなるという利点だけの取り組みでは、顧客の心情から、再び大手に契約を切り替えられても仕方がないのではないか」という点を、スマートエナジー磐田代表取締役の小林 厚氏は強く意識している。

 そうならないために同社が心がけているプラスアルファの付加価値として、小林氏は「調達先の再エネ電源が地元で、かつ明確であること、市況の好況を頼りにしすぎない事業構造とすること、さらに、今後の動向に備えた新たなネタを仕込み続け、的確に提供できるようにすることが重要」と力を込める。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/022800145/