ロゲイニングとは、野山などに設置されたチェックポイントを制限時間内に何人かのグループで巡り、得点を競うオリエンテーリングのようなアクティビティのこと。これを地域活性化に活用しようとしているのが茨城県つくば市だ。全国から集まってきた筑波大学の学生が中心となって企画・参加することで「関係人口」の増加も目指す。

  地図代わりのタブレットを覗き込みながら、親子連れや友人グループが町を楽しそうに歩き回る。「こんなに多くの人が、ここを歩いているのを見るのは久しぶり」と、迎える商店主も笑顔を見せる。2月9日、茨城県つくば市・吉沼地区で行われた「R8ロゲイニングin吉沼」での1シーンだ。高齢化、人口減少、コミュニティの活力低下のトリプルパンチに見舞われた「周辺市街地」を活性化させる一手段として実施された、つくば市の地域活性化コンペ採択で採択された取り組みだ。

「R8ロゲイニングin吉沼」の様子。地図を手に目当てのポイントを探す親子(写真:吉澤咲子)
[画像のクリックで拡大表示]

TX沿線以外の「周辺市街地」活力が低下

つくば市に所在する8カ所の周辺市街地。それぞれ合併前は各町村の中心部として栄えていた(出所:つくば市)
[画像のクリックで拡大表示]

 2005年のつくばエクスプレス(TX)開通以来、つくば市のTX沿線エリアは、東京への通勤、通学の便が良く、子育てもしやすいと人気が上昇している。2020年3月1日時点の同市の人口は23万8008人。日本の人口が減少し続ける中、5年前の2015年の同日データと比べて約7.8%も人口が増えている。

 一方で、沿線から離れた周辺地区は、衰退がささやかれるようになって久しい。つくば市都市計画部の大塚賢太次長は、「つくば市もまた、地区間の賑わい格差に悩む地方都市の典型」だと市の現状を説明する。

 つくば市は1987年、谷田部町・大穂町・豊里町、桜村の3町1村の合併により誕生した。翌88年に筑波町、2002年に茎崎町を編入し現在の市域となり、面積も283.72km2にまで拡大した。市の中心地域となるのは、大学や公的機関、民間企業の研究機関も多いつくば駅や市役所がある研究学園駅周辺だ。一方、かつて6町村の中核だった8地区(北条、小田、大曽根、吉沼、上郷、栄、谷田部、高見原)の周辺市街地は、高齢化、人口減少、コミュニティの活力低下に見舞われ、活性化策の模索が急務となっている。

 そこでつくば市は2017年、都市計画部 市街地振興課に「周辺市街地振興室」を設立。周辺市街地をRegion 8(リージョンエイト)=R8と名付け、活性化に本腰を入れ始めた。

周辺市街地活性化のコンペを実施

 活性化への取り組みの第一歩は、2018年1月から始まった「まちづくり勉強会」。多くの場合、地域振興の方向性やテーマの選定は、地域の資源や課題を住民自身が把握することから始まる。8地区もまた、地域資源を掘り起こすことからスタートした。だが、「地域の中の何が資源になりうるのか事例を具体的に提示しないと、住民がイメージをつかみづらい」(つくば市周辺市街地振興室の吉岡誠⽣室長)ということが分かってきた。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
左:つくば市都市計画部周辺市街地振興室の吉岡誠生室長。右:同・都市計画部の大塚賢太次長(写真:2点とも佐々木温)

 そこでまず、議論のたたき台として、各地区の実際の資源や魅力を地図に落とし込んだ「市街地カルテ」を周辺市街地振興室が中心となって作成した。その結果、「ならばこれはどうか」と住民が意見を述べやすい雰囲気が生まれ、勉強会でのディスカッションが活発になった。結果、「行政側も把握していなかった様々な資源や課題が明らかになり、地区の魅力の再発見につながった」(吉岡室長)と言う。

 勉強会は多い地区で10回程度実施した。洗い出された資源や魅力を軸に、それぞれの地区が目指す将来像と地域振興のテーマを決定していった。

つくば市資料を基に日経BP総研作成
[画像のクリックで拡大表示]

 各市街地ごとのテーマに沿った地域振興の実現に向け、19年度には2つの取り組みが始動した。まず、勉強会の発展形として住民主導による「周辺市街地活性化協議会」を設立。各協議会は、一市街地につき50万円が支給される「周辺市街地活性化チャレンジ補助金」を活用、地域の魅力を伝えるマップ製作などを行った。

 もうひとつが「つくばR8地域活性化プランコンペティション」の開催だ。8地区の活性化につながるプランを市内外から募集し、採択されたプランの提案者自身が最高200万円の賞金(実証支援金:総額400万円)を使い、実証事業として活性化に取り組むというものだ。

地区の魅力や課題を自然な形で理解できる「ロゲイニング」

 「つくばR8地域活性化プランコンペティション」には47件の応募が寄せられた。その中から選ばれた4プランのうちの1つが、筑波大学芸術系環境デザイン領域(藤田直子研究室)が提案する「つくばR8ロゲイニング」だ。

筑波大学人間総合科学研究科芸術専攻 環境デザイン領域の藤田直子教授(写真:佐々木温)
[画像のクリックで拡大表示]

 藤田教授の専門は環境デザイン。地域の課題を可視化し、解決の方法を提示することがテーマだ。「大学で私の授業やゼミに参加する学生は、地域振興に興味を持っているものの、大学やショッピングセンターがある中心市街地で生活が完結している。つくば市の周辺地域に行ったこともなければ地域の名前すら知らない。もちろん住民の方と話したこともない。活性化プランの立案と実践は、実体験に乏しい学生にとって貴重なアクティブラーニングになると考えた」と、コンペ応募の理由を語る。

 R8各市街地の資料を読んだ学生たちは、「魅力の発見・発信/イベント/賑わい/交流拠点/まち歩きマップ」の5つが各地区共通の願いだと解釈。「住民自身が地域を知り、明示し、そこに人を呼び、場を活用する」プランを実現することが、課題解決への近道だと考えた。プランを模索する中、出てきたのがある学生が提案したロゲイニングだったという。

 ロゲイニングは、野山などに設置されたチェックポイントを制限時間内に巡り、得点を競うオリエンテーリングのようなアクティビティ。宝探し的な楽しさがあり、ヨーロッパなどに愛好者が多い。オリエンテーリングでは参加者が単独で回ることが多いのに対し、2~5人程度のグループを組んで回ることが多いのも特徴だ。

 「地区内の資源をチェックポイントに設定すれば、参加者はポイントゲットの楽しさを味わいつつ、地区の魅力や課題を自然な形で理解できる。各地区の特性に応じ、テーマの異なるロゲイニングプランを作成できるのもメリット」と藤田教授は地域振興との相性の良さを説明。つくば市周辺市街地振興室の吉岡室長は「座学のワークショップにはないスポーツ的なコンセプトにも、ロゲイニングという馴染みのないネーミングにも好奇心をくすぐられた」と評価する。

 ロゲイニングへの参加を希望した地区には、一地区あたり2、3名の大学院生のリーダーと10~15名の学部生が担当として就いた。約60名の学生たちが担当地区を繰り返し訪ね、地域活性化協議会のメンバーや住民と会話を重ねながら、地域の魅力を探り、チェックポイントを決めていった。

 「参加者にGPS機能のついたタブレット端末を貸与し、地図代わりにする」「遠くて周りにくいチェックポイントと、近くて周りやすいチェックポイントとの間に得点差をつけ、ゲーム感覚を盛り込む」といったルールやシステムづくりのほか、告知のためのポスターやWebサイトの制作、チェックポイントとなる地元の店舗や施設との交渉も行った。

ロゲイニング当日は、地図を片手にチームでチェックポイントを回り、訪れた証拠にタブレットで写真を撮影する(写真:吉澤咲子)
[画像のクリックで拡大表示]
ロゲイニング当日の様子。チームについた大学生を交えて作戦会議。得点の高いポイントを回るか、得点の低いポイントを数多く回るかなど作戦を練る。学生と市民との交流が生まれる場としても機能する(写真:吉澤咲子)
[画像のクリックで拡大表示]
<

 そして2020年1月から3月に大曽根、上郷、栄、吉沼の4地区でロゲイニングイベントを実施することが決まった(3月に実施予定だった栄地区でのロゲイニングは新型コロナウイルスの影響で延期)。

吉沼地区では、地元の蔵元、和菓子店、精肉店などが参加

 実際のロゲイニングの様子を見てみよう。R8ロゲイングin吉沼は、吉沼、元気!協議会が主催した「食と酒の祭」との同時開催で実施した。「食と酒の祭」に合わせ、ロゲイニングのサブテーマを「美味しく知る。つくば産の食と酒の多様性」と設定。地元の蔵元、つくば銘菓のどら焼きを提供する和菓子店、から揚げが人気の精肉店などをチェックポイントに加えた。さらに神社など複数のチェックポイントに、つくば市内で生産される農産物の試食・試飲コーナーも設置した。

[画像のクリックで拡大表示]
スタート&ゴール地点の吉沼小学校。「食と酒の祭」と同時に開催された(写真:吉澤咲子)
[画像のクリックで拡大表示]
スタート&ゴール地点の吉沼小学校では周辺市街地の紹介も(写真:吉澤咲子)

 当日の参加者は12組、42名で、大半は地元在住者。数年前に吉沼に転居してきたという若い母親は、「吉沼にも様々な店があるのは知っていたが、子どもが小さいと車で行けるスーパーに足が向きがち。だが商品が魅力的で、店の人との会話も楽しい。これを機に時々は利用したい」と話した。

 車で1時間かけ、隣接する牛久市から来たという親子連れは、ポケモンGOにはまって以来、「歩くイベント」に家族でしばしば参加しているという。「今日は高得点狙いで遠くのチェックポイントばかり回ったが、吉沼に地酒があることを知った。制限時間内に行けなかった店や神社を後日、あらためて巡ってみたい」と話した。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
左:ロゲイニングを楽しむ子供たち。次のポイントを目指す足取りも軽い。右:チェックポイントとなったから揚げが人気の精肉店にも多くの参加者が訪れた(写真:2点とも吉澤咲子)

 チェックポイントのひとつである神社の境内にはR8ロゲイニングと同じく、つくばR8地域活性化プランコンペティションに採択されたプランの1つ「旅する大八車と小さなパレード」もコラボ出展していた。事業者はつくば市出身の2人を含む、4名の若手建築設計士ユニット。R8(周辺8市街地)地区でかつて使われていた大八車を修理し、地元食材を紹介する移動式店舗として祭やイベントに参加している。メンバーの一人、横山大貴氏はつくば市出身で、大手ゼネコンに勤務。「地元の賑わい演出に一役買える上、大八車というヒューマンスケールのモノづくりも楽しめた」という。

R8ロゲイニングと同じコンペで採択された「旅する大八車と小さなパレード」もコラボ参加。大八車で地元の酒やドリンクを販売(写真:吉澤咲子)
[画像のクリックで拡大表示]

全国からやってくる筑波大生が地域の「関係人口」に

 3地区で行われたロゲイニングの集客人数は総勢200人。上郷と大曽根の2地区は早くも「次回以降も参加したい」と表明した。上郷市街地活性化協議会の土田清さんは、「タブレットをまちおこしに使う柔軟な発想は、若い大学生ならではと感じた。刺激を受け、協議会メンバーの士気もあがっている。今回とは別のチェックポイントを設定し、新たな切り口でロゲイニングイベントを企画したい」と意気込む。また協議会ができたばかりで態勢が整わないなどの理由で参加を見送った地区からも、今後の参加を望む声が上がっている。

 藤田教授は、少なくとも今後も数年は大学主導のロゲイニング運営を続け、地域と大学生とのつながりを継続的に強めたいと考えている。全国からやってくる筑波大の学生たちの多くは大卒業後につくば市を離れるが、R8が彼らにとって愛着のある地となれば、卒業後も繰り返し訪れ、地域と交流しつづけるなど、「関係人口」の増加につながることも期待される。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
左/つくば産ワインの試飲コーナー。「聞いたことはあったけど、飲んだことはなかったのでいい経験になりました」との声も。右/制限時間内に全員揃ってゴールに戻ってきた証拠にタブレットで写真を撮影(写真:吉澤咲子)

「私たちが大事にしたことは地域の資源と住民の皆さんの思いを読み解き、大学生が地域に関わり、ともに何かを作り上げていくプロセス。地域振興は本来、その土地の人々が主体的に進めるのが望ましい。地区の方々が意義を実感してくださるなら、各地区の活性化協議会が主体となって大学生とともにロゲイニングを継続していければ。また、今後は活性化協議会が連携してR8全域をコースにする、さらには筑波山も組み込んだ24時間耐久コースを作る、といった展開も不可能ではない」(藤田教授)。

 大学が活性化協議会から委託費を得て、ロゲイニングを実施するシステムが生まれれば、一定の収入も見込める。つくば市が掲げる「地域が自走するまちづくり」という理念にも合致、周辺市街地のさらなる活性化にもつながるはずだ。

 一方、つくば市はコンペをさらに拡充する。「つくばR8地域活性化プランコンペティション2020」は、賞金総額を前年度の400万円から700万円に増額、「地域ぐるみ活動創生コース」(1件100万円、総額300万円)と「稼げる地域づくり創生コース」(1件200万円、総額400万円)の2つのコースで募集する。「稼げる地域づくり創生コース」では提案者の専門性を活かした事業を地域と連携しながら展開、コンペの実証期間修了後も事業を継続するプランを求めている。

 周辺市街地の関係人口を増やしつつ、地域の価値を向上、「稼ぐ力」をつける――。つくば市の取り組みは実を結ぶのか。しばらくは目が離せない。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/022800146/