1回目の公募は応募者ゼロ

 2017年9月に小田原漁港交流促進施設条例が公布。10月に施設建設に着手した。建設費は約7億円で、このうち約1億2000万円は国の補助金で賄った。小田原市が公設の商業施設を整備するのは、これが初の事例となる。

 とはいえ商業施設を運営するノウハウは市にはない。そこで維持管理や運営は、外部の事業者に委託することとし、運営手法としてPFIと指定管理者制度を検討。最終的に後者を採用した。

「TOTOCO小田原の最大の目的は、小田原の魚の知名度を上げること。スキームにもよるのだろうが、PFIだと公益性が希薄になり、利益追求型の施設になりかねないという心配があった。その点で指定管理者制度は、地方自治法に基づいて公的関与がかなり保証されており、施設の性質によりマッチしていると判断した」(佐藤課長)。

 新施設の運営には、漁業関係者との連携や地域振興などが重視されるのに加え、地域住民が使う多目的室の管理や隣接する県営駐車場も含めた警備など、公共的な色合いの強い業務も含まれる。事業者の裁量がより大きいPFIでは、こうした公共性が疎かになるのではないかという不安が、行政サイドにはあった。しかしその一方で、事業者に指定管理料を支払わない独立採算を原則としていた。

 こうした考え方のもと、指定管理者のプロポ―サル公募が2017年12月に行われた。ところが蓋を開けてみると、“応募者ゼロ”という結果に終わってしまう。市では今後の方針を決定するため、現地説明会に参加した事業者のうち12社にヒアリングを実施。すると事業者からは、「新規施設で実績がないのに、指定管理料がない」「市への納入金が売り上げの3分の1以上というのは、事業リスクが高い」「指定期間5年では費用の回収が見込めない」「指定後の協議事項も多く、これらに係る経費負担が大きい」といった声が寄せられた。

 2回目の公募で指定管理者に選ばれたTTCの店舗開発担当者によると、1回目に手を挙げなかったのは、指定期間での投資回収が難しいと考えたからだという。市が用意した新施設は、海に⾯していて眺めが良く、漁港エリアの中にあるなど立地はよかった。ただし、公民館のような真っ白い建物だったため、市が要求する内容を満たした商業施設として集客するには、事業者側で手を入れる必要があった。そうなるとかなりの投資が必要になり、収支が合わないと判断したのである。

「実績のない新規施設にも関わらず負担や制約が多く、全体的に事業リスクが大きいと、事業者の方々に判断されたようだ。我々としても、民間の商業施設運営についての理解が不足していた」(佐藤課長)。

 事業者からの意見を踏まえたうえで、新たな募集要綱を作成し、再び公募を行った。新たな要綱では「原則、支払わない」としていた指定管理料を認め、その内容については事業者に提案させることにした。さらに納入料も納付割合などを事業者サイドから提案できる形にした。

新旧募集要綱の主な変更点

 再公募には2社が応募し2018年6月、TTCが指定管理者に選ばれた。指定期間は準備期間を含めて6年9カ月。TTCはテナントから売り上げの15%(市外事業者の場合は25%)を施設利用料として徴収し、2%を市に納入金として支払う。また指定管理料については、初年度は年間1300万円のうち5カ月分を市が支払い、それ以降は毎年度、両者で協議することとした。

TOTOCO小田原の事業スキーム図
注1:2019年度は年間1300万円の指定管理料を、開業から5カ月分のみ月割で支払う。2020年以降は毎年、協議のうえで決定。注2:市内企業の場合。市外企業は25%

 開業準備にあたってTTCでは、1階の販売フロアと2階のフードコートのそれぞれ一部を、自社がテナントとなって運営し、残りのフロアを他社に貸し出すことを計画した。しかし最上階の3階の飲食スペースについては、テナントがなかなか決まらなかった。TOTOCO小田原にはエレベーターが1基しかなく、構造的に最上階まで客を誘導するのが難しい。さらに、施設が設備や内装工事の費用をテナントの負担とするスケルトン貸しだったため、投資費用が余分にかかることもネックになっていたようだ。

 このため3階部分についても、TTCが自らテナントとなって運用することにした。社内で議論を重ねた結果、冒頭で紹介した「お刺身食べ放題」のビュッフェレストランというヒット企画が生まれた。もっとも、このコーナーは薄利多売を方針としており、利益的には「赤字にならない程度だ」とTTCのTOTOCO小田原開発担当者は話す。シャワー効果(上階の店舗を充実させて集客し、施設全体の売り上げ増加につなげる販売方法)を期待するとともに、食材として地元の魚の購入などを通じて、地域経済の活性化に貢献していくことが大きな目的だという。

新鮮な刺し身が食べ放題のビュッフェレストラン。59分間で大人2849円(写真:坂井敦)

 オープンから約1カ月の2019年末時点で、同施設の来場者数は約7万5000人。小田原市では年間来場者数50万人、年間売上高7億5000万円を目標としている。「まだスタートしたばかりだが、今のところは想定以上の結果が出ている」(佐藤課長)という。

 今後は、この状態を維持・向上するとともに、漁港内の他の敷設との回遊性を高め、漁港全体の賑わいを創出していきたいと市では考えている。

「小田原漁港はウナギの寝床のように細長く伸びていて、TOTOCO小田原と魚市場やその周辺の飲食店の間には、徒歩十数分ほどの距離がある。訪れた人が“点”ではなく“面”で楽しんでいただけるような工夫を考えていきたい。また小田原漁港は最寄りのJR早川駅から徒歩数分の場所にあり、『駅から日本一近い漁港』と言われている。駅も含めて回遊性を高めれば、さらなる集客が期待できるだろう」(佐藤課長)。

小田原市(おだわらし)
神奈川県西部の中心都市で、戦国時代に後北条氏の城下町として、江戸時代には東海道の宿場町として栄えた。定置網を中心とした漁業が昔から盛んで、蒲鉾や干物などの水産加工品が名産品として知られている。面積113.81km2、人口18万9715人(2020年2月1日現在)

*記事内容は取材時のもの。3階のビュッフェレストランと2階の多目的室は、新型コロナウイルスに対する感染拡大防止の政府発表を受け、3月3日から自主休業している