福井県の西端にある高浜町は、切れ目のない子育て支援で知られる。町の子育て世代包括支援センター「kurumu(くるむ)」が中心となり、妊娠期から子育て期まで母子やそのパートナーをワンストップで支援しているのだ。特にユニークなのが、町内の民宿や旅館を活用した産後ケアの取り組みだ。子育てを支える地域づくりのきっかけにもつながると注目を集めている。

高浜町(たかはまちょう)
福井県西端に位置する。京都府舞鶴市などと接し、若狭湾に面している。関西電力の原子力発電所がある。海水浴場はビーチの国際環境認証「ブルーフラッグ」をアジアで初めて取得した。人口1万277人(2020年3月末現在)、面積72.40km2
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高浜町は「快水浴場百選」にも選ばれた。町内には100軒を超える海水浴客向けの民宿・旅館がある(写真:井上俊明)
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 高浜町は、昨年、厚生労働省が主催する第8回「健康寿命を延ばそうアワード」の母子保健分野で厚生労働大臣賞・自治体部門優秀賞を受賞した。受賞の決め手となったのが「産後デイサービス」の取り組みだ。町の民宿や旅館と連携しての産後ケア事業だ。

 産後ケアとは、出産に伴うホルモンバランスの急激な変化などにより、心身共に弱っている母親の回復を支援するサービスのこと。人口1万人規模の高浜町には産後ケアを受けられる専門的な施設はなく、車で1時間以上かかる産婦人科などへ行く必要があった。

 そこで町が目をつけたのが町内の民宿や旅館。2018年5月、これら民間宿泊施設を活用した産後デイサービスがスタートした。

 高浜町といえば原子力発電所のまちというイメージが強いが、実は関西では水のきれいな海水浴場のある場所としても知られており、環境省が選定した「快水浴場百選」にも選ばれているほど。そのため町内には海水浴客相手に営業している民宿や旅館が100軒以上ある。

 だが、こうした施設も年々お客の数が減り、新たなサービスを考える必要に迫られていた。お風呂があり食事が提供できる民宿や旅館は、高齢者の居場所となる条件を備えており、実際、海水浴のオフシーズンには、カラオケなどの集まりの場となるところもあった。

  それならば、高齢者だけでなく産後1~5カ月の母親を対象とした産後ケアにも、民宿や旅館を活用できるのではないか――。高浜町では、心身のリラックスを図り子育ての悩みを解消するためのデイサービスを、民宿や旅館に始めてもらおうと考えたのだ。

民宿や旅館を活用、産婦の9割近くがサービスを利用

 産後デイサービスの場を提供している民宿・旅館は現在7施設ある。提供施設の部屋をいくつか借り、午前10時~午後3時の間、1日4組の母子を受け入れてもらう。町の子育て世代包括支援センターから助産師、保健師、保育士が出向き、育児や授乳に関する相談を実施し、赤ちゃんの健康状態をチェックする。母親は子供から手を離すことができるので、ゆっくり昼食を食べたりお風呂に入ったりすることができる。夜泣きが原因で睡眠が十分とれていない母親は、別室のふとんで眠ってもいい。

 「同じ境遇にある者同士、リラックスできる空間にいれば、本音の話もしやすい。今は家族の数も少なく、子供を持つための心構えができないうちに親になるお母さんもいるし、子育てについて夫とのコミュニケーションがうまくとれていないケースもある」と、高浜町役場保健福祉課の保健師、畑中美優寿氏は話す。こうした充実した子育てを妨げる要因も、産後デイサービスへの参加で軽減することが期待できるわけだ。

産後デイサービスの風景。産後5カ月までの産婦が、4人1組で心身のリラックスを図るとともに専門家に相談できる(写真:井上俊明)
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