愛知県瀬戸市は2021年に介護保険の介護認定審査会を支援する介護認定電子審査会システムを導入。電子ファイルでの審査資料の事前共有・事前審査や審査会のオンライン開催により、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響を抑えて審査会の運営効率化を進めている。導入の背景と目的、システムの概要、成果をまとめた(取材はオンライン実施)。

藤井聡太氏のタイトル獲得を祝う懸垂幕がかかる瀬戸市役所(写真撮影:森田直希)
藤井聡太氏のタイトル獲得を祝う懸垂幕がかかる瀬戸市役所(写真撮影:森田直希)
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瀬戸市(せとし)
瀬戸市(せとし)
愛知県北東部、名古屋市から約20kmに位置する。人口は12万9096人(2021年10月1日現在)、面積111.4km2。焼き物の代名詞「瀬戸物(せともの)」で全国的にも有名な陶磁器の街である。最近では棋士の藤井聡太氏の出身地として知られる。瀬戸市を含む5市1町(瀬戸市、尾張旭市、豊明市、日進市、長久手市、東郷町)で尾張東部医療圏を形成、保健・医療・福祉に連携して取り組んでいる
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 愛知県北東部に位置し、焼き物の代名詞「瀬戸物(せともの)」で全国的にも有名な陶磁器の街、瀬戸市。最近では棋士の藤井聡太氏の出身地として知られる。藤井氏がタイトルを取るたびに歓喜に包まれる瀬戸市の商店街の様子がテレビで報じられるのがもはや恒例となっている。

 瀬戸市の人口は13万人弱。旧市街地を中心に高齢者が多く、65歳以上の高齢化率は29.9%と全国平均の29.1%を上回る(2021年10月1日現在)。尾張東部医療圏(瀬戸市、尾張旭市、豊明市、日進市、長久手市、東郷町)の中でも高齢化率が最も高く、それだけ高齢者介護に対するニーズも大きい地域と言える。

 そこで瀬戸市では、介護認定審査会の電子化を進め、効率的な運用を図ることとした。介護認定審査会は、介護保険を利用した介護サービスを受ける際の要介護度(介護サービスが必要な度合い)を客観的かつ公平に判定するための合議体で、保健・医療・福祉の学識経験者から成る複数の認定審査委員(人数は5人を標準として市町村が定める。瀬戸市では8つの合議体が組織されている)により構成される。

 介護認定は、まず申請者への訪問調査と主治医の意見書に基づくコンピュータ判定(一次判定)を行う。その後、介護認定審査会における話し合いによる二次判定で各申請者の要介護度が決定される。この二次判定のプロセスを電子化し、電子ファイルによる効率的な審査員への資料配布やオンライン会議などを取り入れて効率化しようというのが今回のシステム化の狙いだ。

コロナの感染拡大を懸念してシステム導入を企画

 「介護認定審査会システムの導入を企画したのは令和3年の夏。福島県のある自治体が交付金を活用して介護認定審査会の電子化を行っているのを新聞記事で見たことがきっかけになった」と瀬戸市健康福祉部高齢者福祉課課長の井村厚仁氏はシステム導入の経緯を語る。その自治体が、コロナ感染症対策に必要な機器や業務に要する委託料が全額交付対象になる制度を利用していることを知り、2回目の申請期限(令和3年9月30日)になんとか間に合わせた。

左より瀬戸市健康福祉部高齢者福祉課の大嶋洸次郎氏、井村厚仁課長、丸山拓也係長(写真撮影:森田直希)
左より瀬戸市健康福祉部高齢者福祉課の大嶋洸次郎氏、井村厚仁課長、丸山拓也係長(写真撮影:森田直希)

 申請した理由はいくつかある。瀬戸市の場合、コロナ感染拡大の影響で審査委員が認定審査会に参加できないといった状況は発生していないが、将来的に起こり得ることを想定した。加えて、紙資料の印刷と郵送に要する費用・手間の削減、審査会のオンライン開催により審査委員の移動時間が削減できるなどのメリットを期待した。

 瀬戸市はプロポーザル方式でインターネットイニシアティブ(以降、IIJ)の「介護認定電子審査会システム」を採用した。瀬戸市健康福祉部高齢者福祉課介護認定給付係係長の丸山拓也氏は「豊橋市を中心とした東三河広域連合が数年前に同システムを導入していたことが決め手になった」と語る。同じ愛知県内の先行事例を参考にできると判断し、導入を決めたという。2021年1月にIIJの介護認定電子審査会システムを正式契約し、3月までに初期設定を終えて4月にサービスを導入。同10~11月に審査委員の操作研修・端末の設定を行い、2021年12月にシステムの運用を開始した。

介護認定電子審査会システムにログインする様子(写真撮影:森田直希)
介護認定電子審査会システムにログインする様子(写真撮影:森田直希)
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電子ファイルで事前審査し、審査結果も事前確認

 瀬戸市が今回導入した介護認定電子審査会システムの特長としては、①電子ファイルによる効率的な資料配布、②電子ファイルでの事前審査と集計結果の事前確認、③オンライン会議の開催、④安全に配慮した資料回収の4点が挙げられる。1つずつ説明しよう。

①電子ファイルによる効率的な資料配布
 瀬戸市の場合、一度の審査会で一人の審査員に配布する資料は50~200枚ほど。従来は5人の審査員と市役所の担当職員分の計6人分の資料を審査会のたびに印刷し、レターパックプラス(520円)で郵送していた。同システムを導入することで審査資料をPDFファイルとして電子的に配布することができるため、印刷と郵送の手間とコストを削減することが可能になった。

電子的に配布した審査資料(データはダミー、資料提供:IIJ)
電子的に配布した審査資料(データはダミー、資料提供:IIJ)
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審査委員は審査資料をオンラインで事前確認(データはダミー、資料提供:IIJ)
審査委員は審査資料をオンラインで事前確認(データはダミー、資料提供:IIJ)
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②電子ファイルでの事前審査と集計結果の事前確認
 従来、審査委員は郵送されてきた審査資料を基に事前審査を行い、審査会の当日に持ち寄って審査結果を集計・検討していた。しかし本システムの導入後は、電子ファイル化された審査資料(PDF)を基に事前審査を行い、審査結果をシステムに登録することで、審査会の2日前に集計結果をネットで確認できるようになった。集計結果を事前に確認することで、会議時間の削減も期待されている。なお、審査委員は審査会前に集計結果を見ることはできるが、審査の独立性を維持するために、他の審査委員の個々の判定結果については事務局以外は見ることができない仕組みになっている。

事前審査の集計結果画面(データはダミー、資料提供:IIJ)
事前審査の集計結果画面(データはダミー、資料提供:IIJ)
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③オンライン会議の開催
 従来、審査委員は市役所の会議室に出向いて審査会に参加していた。しかし本システム導入後は、オンライン(マイクロソフトの「Microsoft Teams」を利用)での参加が可能になった。個々の審査委員の評価と集計結果を画面上で共有しながら会議を進め、合議の上で議長がオンライン上でサイン登録すれば審査が終了となる。

 瀬戸市は2022年2月までに約20回の審査会で介護認定電子審査会システムを利用してきたが、一部の合議体(全部で8つの合議体がある)では会議時間の短縮効果も見えてきたという。瀬戸市健康福祉部高齢者福祉課介護認定給付係の大嶋洸次郎氏は「1回の審査会に従来は30分から1時間半程度を要していた。それが15分から30分程度、短くなっている合議体もある」と語る。

 オンラインで参加する審査委員も着実に増えている。2022年2月時点で審査委員40人中25人がオンラインで審査会に参加し、感染リスクの低減に役立ったほか、会議室への移動時間が削減され、特に診察などで多忙な医師などに好評だという。さらにオンライン参加であれば審査委員になってよいといった声も出てきており、将来的な成り手不足の解消にもつなげたい意向である。

④安全に配慮した資料回収
 審査会資料は、所定の時間が経過すると自動的に削除される。国の医療情報システムの安全管理に関するガイドラインをクリアしており、セキュリティもしっかりと担保されているため、個人情報の流出の懸念が解消されているという。

 介護認定電子審査会システムについて、井村氏は「いち早くオンライン開催に慣れて、オンラインが日常的になるようにしていきたい」、大嶋氏は「審査委員全員がオンラインで参加するようになると審査資料の印刷や郵送が効率化できるため、審査会までの日程も短縮できる」と今後の展開に期待する。

医師会と連携した地域包括ケアのプラットフォームへ

 今回採用したIIJの介護認定電子審査会システムは、同社の「IIJ電子@連絡帳サービス」のオプション機能として提供されている。IIJ電子@連絡帳サービスは、地域の医療・福祉・介護に携わる専門職(在宅医師、看護師、ケアワーカーなど)が登録患者の情報を簡便かつ迅速に共有することを可能にする多職種連携プラットフォームである。

 2018年12月、瀬戸市と隣の尾張旭市では、瀬戸旭医師会が運営する瀬戸旭在宅医療介護連携推進協議会が主体となり、同サービスを導入した。これは「瀬戸旭もーやっこネットワーク」の名称で運用され、瀬戸市と尾張旭市の医師・訪問看護師・介護士などの医療関係者により、在宅医療を必要とする患者をケアする医療・介護連携システムとして日常的に利用されている。

 瀬戸市では、瀬戸旭医師会と連携して、「瀬戸旭もーやっこネットワーク」をベースに地域ネットワーク情報連携基盤の構築も2020年9月から進めている。これまでに独居高齢者の見守り、災害・消防システムとの連携、医療ケア児・者の社会参加支援などの機能を追加してきており、今回の介護認定電子審査会システムの導入もそうした機能拡張の一環との位置付けだ。

「瀬戸旭もーやっこネットワーク」を活用した地域ネットワーク情報連携基盤のイメージ(出所:一般社団法人瀬戸旭医師会、瀬戸市、IIJ)
「瀬戸旭もーやっこネットワーク」を活用した地域ネットワーク情報連携基盤のイメージ(出所:一般社団法人瀬戸旭医師会、瀬戸市、IIJ)
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 介護認定電子審査会システムについて言えば、「瀬戸旭もーやっこネットワーク」を普段から使用している審査委員は介護認定電子審査会システムをスムーズに利用開始できるようになっている。両者はIDが統合されており、画面の色、ファイルやボタンの配置などのUI(ユーザーインタフェース)も統一されている。

会議認定電子審査会システムは「瀬戸旭もーやっこネットワーク」と連携している(資料提供:IIJ)
会議認定電子審査会システムは「瀬戸旭もーやっこネットワーク」と連携している(資料提供:IIJ)
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 最後に井村氏は、「IIJ電子@連絡帳サービスには高齢の要支援者のデータを既に取り込んでいる。高齢者の通いの場のデータなども取り込んで地域包括ケアシステムをより強化し、DXのプラットフォームにしていきたい」と、地域ネットワーク情報連携基盤の構築について展望を語った。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/031700209/