三菱地所:オフィスビルのテナントへの付加価値的サービスとして

 三菱地所は不動産デベロッパーとして、東京・丸の内エリアを中心にオフィス事業を展開している。同社にとって、ワーケーションはテナント企業への“オプションサービス”の一つだ。同社が取り組むオプション施策とは、例えば、大企業とスタートアップのコラボが生まれる交流拠点の整備や、メンタルヘルスなど企業が関心を寄せるテーマでのセミナー開催、スマホで予約・解錠できるテレワーク用の執務ブースの全国設置などである。三菱地所ビル営業部グローバル営業室の三澤圭乃主事は、事業開発の背景を次のように語る。

三菱地所ビル営業部グローバル営業室の三澤圭乃主事。ワーケーション事業の創設メンバーの一人だ。複数の部署をまたぐプロジェクト・チームで事業を推進している(写真:赤坂 麻実)
三菱地所ビル営業部グローバル営業室の三澤圭乃主事。ワーケーション事業の創設メンバーの一人だ。複数の部署をまたぐプロジェクト・チームで事業を推進している(写真:赤坂 麻実)

 「いまや、オフィス床を提供するだけのサービスは時代に合わない。お客さまと接するなかで、イノベーションが促進される環境づくりや、テレワークなどを含めた働き方改革の実施、従業員のメンタルヘルスの維持・増進、CSRの推進といったニーズを感じた。これらを可能にするソリューションの一つとして、ワーケーション拠点を提供することにした」

 2017年夏ごろに企画を立ち上げ、候補地を探し始めた。立地に求めた条件は、東京から距離があって非日常感を味わえること、かつ移動時間はなるべく短いことだ。日帰りや1泊でも十分な滞在時間が確保できる場所を探したという。南紀白浜空港に近い白浜町第2ITビジネスオフィスは、こうした諸条件を満たしていた。

 羽田―南紀白浜空港間のフライト時間は約70分。空港からオフィスまでは車で3分の距離だ。「空港の建物を出ると、ヤシなどリゾートらしい樹木があり、車で走り出してすぐに海が見える。景色が開けていて、それだけで気分が高揚する。街もコンパクトで便利」(三澤氏)という。

WORK×ation Site 南紀白浜の位置。空港から車で3分、オフィスからビーチや繁華街までは車で5分という立地だ(資料:三菱地所)
WORK×ation Site 南紀白浜の位置。空港から車で3分、オフィスからビーチや繁華街までは車で5分という立地だ(資料:三菱地所)
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 2018年8月に三菱地所は和歌山県および白浜町との間で進出協定を締結した。2018年12月には施設をプレオープンして一部顧客への試験的な提供を始め、2019年5月にグランドオープンした。三澤氏は利用実態について次のように語る。

 「プロジェクトチームでの利用が多い。社内横断的なプロジェクトの場合は、メンバーが一堂に会する時間を作るのが難しく、効率的に進められないといった話も聞く。その点、ワーケーションなら事前調整の上で必要なメンバーが全員集まることになる。会議中に誰かがちょっとしたことで自部署に呼び戻されるようなこともなく、集中しやすい環境だ。また、一般に、物理的に近い場所にいる人には親近感がわきやすいものだ。東京のオフィスでは見られないような笑顔やコミュニケーションが生まれる。利用した私たちが実際にそうした体験をし、利用企業からも同様の声が聞かれる」

今のところ「バケーション」要素のニーズは少ない

 一方で、有給休暇の消化を兼ねた使い方は主流でないという。主に、利用企業の社内制度が整っていないためだ。ワーケーションを想定した社内制度がないため、出張扱いでワーケーションを利用する企業もある。そうした企業では、土日と組み合わせて、週休日に熊野古道や温泉を楽しむ利用スタイルが多いという。

 ワーケーションはもともとワークとバケーションを組み合わせた造語だが、「日本では、企業のムードやマインドは、現時点では必ずしもバケーション色を求めていない。当社では『ワーケーション』に、Location(場所を変え)、Motivation(動機付けをし)、Communication(対話の中で)、Innovation(革新が生まれる)といった意味を込めている」と三澤氏は説明する。

 和歌山県としても、バケーション以外の要素を充実させたい考えだ。和歌山県企画部企画政策局情報政策課ICT活用推進班の大谷真一朗主任は「南紀白浜は魅力的な観光地だが、観光だけをフックにしていたのでは、一度訪ねたら次は他の場所を訪れようという発想になる。継続的に和歌山に関わる人口を増やすため、InnovationやEducation(教育)、Collaboration(協業)など、様々な切り口があることが望ましい」と語る。

 WORK×ation Site 南紀白浜では、始業前のヨガ、終業後のバーベキュー、星空ツアー、リフレッシュを兼ねた熊野古道の道普請、海岸清掃など、出張の枠組みでも導入しやすいチームビルディングやCSR(企業の社会的責任)のメニューを導入している。三菱地所と地域の各事業者との連携を、和歌山県が仲立ちした。