耐震不適合と建物老朽化で百貨店が閉店

 2016年3月6日、マルカン百貨店は耐震不適合と建物老朽化を理由に、同年6月7日の営業を最後に閉店すると発表した。その発表後すぐに、「せめて食堂だけでも残してほしい」と地元高校生による署名運動が起きたことからも、地域から愛されていたことがわかる。

 上町家守舎代表取締役の小友康広氏は、マルカン百貨店が閉店すると耳にしたとき、「残せば残すほど価値が増していくようなコンテンツを失うことになる。もったいないと感じた」。

マルカンビルを運営する上町家守舎の代表取締役を務める小友康広氏(写真:日経BP総研)
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 当時、小友氏は地元の若手経営者らとリノベーションまちづくりの手法により、「花巻駅半径200m のエリアにチャレンジする大人が集まるまちをつくる」という理念の下、「花巻家守舎」を設立し、遊休不動産と化していた花巻駅近くの小友ビルの改修を終えたところだった。まさにこれから仲間たちと花巻市でリノベーションまちづくりを推進しようとしているときに、街の一大コンテンツであるマルカン百貨店がなくなってしまうことになったのだ。

 「花巻市で生まれ育った僕は30数年、マルカンを定点観測してきたようなもの。大食堂以外のフロアが減衰していっていたのは目に見えていたが、大食堂はむしろお客さんが増えてるように感じていた。これなら食堂じゃなくても、そのブランドで勝負できるのではと思った。小友ビルでうまくいきつつあった空き物件を活用してエリアプロデュースしていくというリノベーションまちづくりの手法で、マルカンも何とかできるのではないかと思い、『僕やります』と手を挙げてしまった」(小友氏)。

クラウドファンディングなどで改修費を調達

 その後、小友氏はマルカン百貨店から運営の引き継ぎを検討する承諾を得た。そこで、6階の食堂をそのまま残し、1階から5階にはこれまでのような物販店舗ではなく、学習塾やゲストハウスなどのサービスを提供するテナントを入居させる計画を立てた。マルカン百貨店の閉店の発表から1カ月も経たずして、同年3月20日にはテナント入居希望者などの仲間を集める目的で記者会見を開く素早さだった。

 ところが、これまで食堂以外がすべて物販店舗だったマルカン百貨店を他の用途で使用するとなると、用途変更をしなくてはならず、それに伴う改修費がかさみ、当初4億円と推定していた費用が6億円かかると判明した。テナントの家賃を引き上げなければ、初期投資の回収は難しくなる。

 「僕がテナントオーナーなら、高くてとても入居しない家賃だと思った。これでは自分が自信を持って薦められない商品を売ることになる」(小友氏)。そこで、引き継ぎ検討期間を延長し、経費削減策を考えることとした。検討を進める中で、クラウドファンディングなどの寄付により資金を調達する案が出たが、花巻家守舎で寄付を受け付けてしまうと、資金の透明性を担保できないうえ、大食堂を存続させるという目的は花巻家守舎の「花巻駅前エリアにチャレンジする大人を集める」というビジョンとは異なる。そのため、2016年6月1日に上町家守舎を新たに設立した。

 その後、上町家守舎として検討を続け、2階から5階までを閉鎖し、1階の店舗と6階の食堂だけを残す方針に切り替えた。2階から5階までを閉鎖することにより、その階のエアコンなどの設備を買い替える必要がなくなる。それに加え、これまで8階にあった老朽化した非常用発電などの電気設備は廃棄せず、そのまま置いておくこととした。電気設備を新調するとなれば、多くの人は古い設備は廃棄し、新しい設備を導入するのが一般的だろう。しかし、廃棄のために老朽化した設備を1階まで降ろすためにはコストがかかり、その後新しい設備を8階まで運ぶとなればさらにコストがかさんでしまうしまう。そこで8階の老朽化した設備はそのまま置いておくこととし、その代わり、1階の空きスペースに新しい電気設備を設置することで、さらに経費を削減した。その結果、改修費は2億6000万円に抑えられた。

マルカンビルの1階にある物販店舗(写真:上町家守舎)
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