兵庫県川西市は、「キセラ川西」と名付けた市の中央北地区の土地を、民間活力の導入により医療、文化、福祉などの中心にする計画を進めている。区画整理に続き、昨年秋、ホールや公民館などからなるPFIによる複合施設をオープンさせている。この3月には市立川西病院の新築・移転に伴う基本事業計画を策定。民間病院との統合や指定管理者制度の導入によって行う方針だ。公民連携の手法を駆使してまちづくりを進める川西市の事例を紹介する。

 今年3月29日、兵庫県川西市は「(仮称)川西市立総合医療センター、キセラ川西センター整備基本計画書」を策定した。市の北部にある市立川西病院(235床)を、市の中央北地区の「キセラ川西」と名付けた開発エリアの近くにある医療法人協和会の協立病院(313床)と統合し、新病院「キセラ川西センター」を建設しようというものだ。新築移転・整備する場所はキセラ川西のエリア内となる。開院は2022年秋が目標だ。

協立病院(写真左)と市立川西病院(写真右)を統合し、キセラ川西に新病院を建設する(写真:井上俊明、以下同)
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キセラ川西エリアと病院建設予定地(図中の「医療施設予定地」)。また、図中の「文化会館等複合施設」は、後述の「キセラ川西プラザ」のこと(資料:川西市)
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 病床数は400床と現在の病床数合計より150床ほど少なくなるが、救急搬送されたり手術をしたりした後の重症患者用ベッドを新たに設け、原則として病室を個室化するなど、機能やアメニティの面で充実を図る。

 病院が新設されるキセラ川西は、阪急宝塚線の川西能勢口駅から歩いて10分ほどの場所にある皮革工場の跡地。川西市役所にも近く、南北に長い川西市の玄関口といっていい場所で、約22万3000m2ある。5年前に奥村組を代表企業とするグループが、PFI方式で土地区画整理事業を実施。道路や公園の造成など、まちづくりが進められている(川西市中央北地区PFI事業*1)。

*1 川西市中央北地区PFI事業の概要
受託企業 キセラ川西PFI (SPC:特別目的会社)
優先交渉権者
(〇印はSPCの構成企業)
〇奥村組(代表企業)、〇玉野総合コンサルタント、〇太平ビルサービス、京阪電鉄不動産、東レ建設、〇三菱UFJリース
事業費 23億2154万円
事業方式 PFI(BTO方式)
事業概要 都市施設整備業務(道路・公園の設計・施工・維持管理)、まちづくりコーディネート業務(市民参加、低炭素、エリアマネジメント)、付帯業務(住宅の誘致:市関連用地の売却・住宅誘致)
事業スケジュール 2013年9月~2023年3月

建設費の半分は民間、国からも多額の補助金

 市立川西病院は、市の中心部から離れた立地が災いし、入院患者に占める川西市民の割合は約6割にとどまるなど、集患は決して順調ではなかった。市の南部の住民の中には、隣接する池田市や大病院のある吹田市の医療機関を受診する人が目立ち、市内での医療完結率が5割に満たないという原因の1つになっていた。

 経営も厳しく、2012~14年度の3年間は毎年4億円を超える経常赤字。15、16年度は赤字額こそ減ったが、この5年間、市は毎年10億円前後の補助金をつぎ込んできた。築後35年が経過した建物は老朽化し建て替えが必要だったのに加え、医師を安定して確保するためにも、交通の便利な場所に設備の整った病院が求められていた。

 これら様々な課題を解決する道として川西市が選択したのが、協立病院との統合によるキセラ川西への新築移転と、協和会を指定管理者とする公設民営化。まず今年4月から、協和会が現在の市立川西病院の運営にあたる。

川西市総合政策部副部長の作田哲也氏。「2病院の統合で地域医療を守りたい」と語る

 7~8階建て・延べ床面積約3万5000m2を想定しているキセラ川西センターの建設費は、一部土地の取得費を含め約266億円。現病院跡地に建設する診療所の分などを合わせると、総事業費は350億円を超える見通しだ。半分は指定管理者となる協和会が負担し、残りのうち約128億円は国からの地方交付税で賄えるため、川西市の負担は50億円弱で済むという。総合政策部副部長の作田哲也氏は、「国が進める公立病院の再編・ネットワーク化のスキームに沿った計画だから、多額の財政支援を受けられる。集患については、個室化や、いずれ近隣にオープンする大規模商業施設の効果に期待している」と話す。

 市立病院がなくなる市の北部については、「地域医療が手薄にならないように手当てしていきたい」(作田氏)。市が跡地に診療所を建設して協和会が運営、さらに民間の介護事業所も誘致する。キセラ川西センターとの間にはシャトルバスを走らせる計画だ。医師に場所を貸して診療所を開設してもらうなど、ここでも公民連携を考えている。

 一方、統合相手である協和会理事長の北川透氏は、「協立病院とともに地域の急性期医療の中心を担ってきた市立病院が立ち行かなくなったら、市民はもちろん協和会も困る。市内の人口の流れも踏まえると、キセラ川西に移転した方がより多くの市民に貢献できるだろう。協立病院も耐震基準を満たすために建て替えが必要。総事業費の50%を負担しても自力で建設するよりいい」と、双方にメリットのあるスキームだと評価する。

この4月から市立川西病院の指定管理者となる医療法人協和会で、理事長を務める北川透氏

 さらに北川氏は、「川西市で不足している高度急性期医療は、範囲を絞って手掛ける。病床数と近隣の大病院の得意分野を考慮して、心臓外科や高度救命救急までは手を広げない。また個室化は当会から提案した。集患の目玉だが、看護師の労働強化になるので運営の失敗要因にもなり得る。ナースステーションの配置を工夫するほか、7割を占める無料の個室にはトイレは設けないことにした。高齢者は排せつ中に発作を起こしやすいことを踏まえた配慮でもある」と話す。

 協和会は、既に1年前から、市立川西病院に5人の職員を派遣している。「民営になっても経営を優先するようでは職員はついてこない。『良質な医療と介護の提供』『人材育成』といった法人の理念で職員を引っ張っていきたい」(北川氏)。新病院の開院目標は3年後の2022年秋。指定管理の契約期間はそれから20年間に及ぶ。

多世代交流のスペースが誕生

 キセラ川西には、既に2018年9月、文化棟と福祉棟からなる複合施設、「キセラ川西プラザ」がオープンしている。3階(一部4階)建てで延べ床面積が約1万1000m2を超えるこの施設も、PFI(BTO方式)で整備した。優先交渉権者となった三菱UFJリースグループ(代表企業=三菱UFJリース、構成企業=奥村組、JTBコミュニケーションデザイン、太平ビルサービス、協力企業=大建設計)によるSPC、川西市低炭素型複合施設PFIが、約98億2174万円で2015年9月から2038年3月末まで23年間にわたる契約を結んでいる。

昨年秋にオープンしたキセラ川西プラザ。文化棟と福祉棟で構成されている
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 SPCの社名で分かる通り、川西市は、PFIの要求水準書にエネルギーマネジメントも盛り込んだ。それを受けてキセラ川西プラザには、太陽光パネルやLED照明が導入されている。ホールでは風通しをよくして温度があまり上がらないような設計の工夫もこらすなど、二酸化炭素排出量の削減に努めたことで、キセラ川西プラザは建築物環境性能評価制度(CASBEE)で最高ランクを取得した。

 コンセプトは「出あい、触れあい、支えあい」。世代などの枠を超え、様々な市民が交流できる場所にしようというものだ。下に掲げた文化棟・福祉棟のレイアウト図にもそれが反映されている。

キセラ川西プラザのレイアウト図。入居施設:キセラホール/川西公民館(旧中央公民館)/予防歯科センター/兵庫県川西こども家庭センター/社会福祉法人 川西市社会福祉協議会/地区福祉委員会/川西市民生委員児童委員協議会連合会/川西市障害者団体連合会/川西市身体障害者福祉協会/川西市身体障害児者父母の会/NPO法人 川西市手をつなぐ育成会/むぎのめ家族会/川西市障害者協働作業所あかね/社会福祉法人むぎのめ むぎのめ作業所/一般社団法人 川西市歯科医師会/川西市歯科医師会立 訪問歯科センター/川西市ボランティア連絡協議会/川西市老人クラブ連合会(キセラ川西プラザのウェブサイト〔2019年5月5日時点〕より)
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 文化棟の目玉は1000人を収容できるホール。9月に地元兵庫県立オーケストラがこけら落としの演奏会を行ったほか、11月には名門大阪フィルハーモニー交響楽団も登場した。70人前後が入れる2つの多目的スタジオや大会議室も備え、ダンスやバレーの練習、演劇のリハーサル、講演会・会議などにも有料で利用できる。

 「座席がゆったりしている、駅から近い、音響もよくなったなど、市民からは新しいホールを評価する声が寄せられている」と、川西市市民環境部文化・観光・スポーツ課課長の西川明宏氏は話す。ホールの2階には防音工事を施した親子席を設け、幼児を連れた若い母親でも周囲に気兼ねなくコンサートを楽しめるよう配慮した。

文化棟のホールは1000人を収容できる。2階の奥は子供連れ向けの親子席

 もう一つの福祉棟には、分散していた公民館や社会福祉関係の機能を集約した。1階には市の社会福祉協議会、障害者団体連合会、民生委員児童委員協議会連合会などが入居。市の障害者共働作業所や民間の福祉作業所も入り、市役所や近くの会社から弁当の注文を受けたり、クッキーを作ってプラザ内で販売したりしている。

歯科医療や食育のスペースも

 福祉棟の2階には、保健関係の機関が入居している。市の歯科診療所や予防歯科センター、川西市歯科医師会やその訪問歯科センターなどだ。幼児から成人、通院が困難な高齢者までを対象に、協力して健診や教育、摂食嚥下機能の回復など歯と口の健康づくりに取り組んでいる。また、食育推進のための部屋も用意されている。

福祉棟の歯科予防センターには、子供が喜ぶ仕掛けが施されている

 3階には公民館のほか、もう1つの目玉である「こども・若者ステーション」がある。幼児から学生、若者まで幅広い年齢層を支援している機関だ。具体的には、保健師や保育士、臨床心理士などが、子育てに不安を持つ両親、引きこもりの青少年やその家庭などに、一時預かり、産後ケア、就労支援などを行っている。親子が集まって情報交換ができる場としてプレイルームを設置したほか、児童や生徒がやってきて談笑したり自習したりできるフリースペースもある。

 若者までを対象に一貫して支援する施設は、兵庫県で初めて。同じ3階には兵庫県の川西こども家庭センターも入居、市と県が連携して広い意味での“子育て支援”に取り組んでいくことになっている。

川西市市民環境部文化・観光・スポーツ課課長の西川明宏氏(写真左)と都市政策部副部長の井上博文氏(写真右)

 PFI方式の採用により、設計、建設、監理の部分で10%ほどのコストが削減できた。運営・維持管理を含めて7%近いコスト減を見込んでいる。 「キセラ川西プラザは、様々な世代が集う地域の拠点になり得る。今後、さらに集客が図れるイベントを考えていきたい」。川西市役所の西川氏は意気込む。

 川西市は、キセラ川西エリアの区画整理(前述の川西市中央北地区PFI事業)にあたり、広場や遊歩道をいくつも設けた。プラザの西側には、約2万6000m2の「せせらぎ公園」が広がる。弓道場や総合体育館もある。市の都市政策部副部長の井上博文氏は、「病院や文化、福祉、健康関係の施設を核に、このエリア全体が“賑わい空間”になるように、まちづくりをマネジメントしていきたい」と抱負を述べている。

福祉棟1階には川西市出身の元プロ野球選手、古田敦也氏のギャラリーも
* 記事中の市職員の肩書は2019年3月時点のものです。

■変更履歴
本文中、北川氏の氏名を「北川徹」としていましたが正しくは「北川透」でした。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。
[2019/5/25 00:58]

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/041100104/