茨城県つくば市と住宅デベロッパーのフージャースコーポレーション(東京都千代田区)は、市の中心市街地にある「竹園西広場公園」を公民連携でリノベーションした。隣地でマンションを新築したフージャースが、自社で費用を負担して公園の芝生などを整備、市に寄付。マンション敷地内の公園側にベーカリーカフェを誘致し、公園と切れ目のない空間をつくるなど、マンション住民にとっても地域住民にとっても親しみやすい公園を目指した。

公園とマンション敷地をシームレスにつなぐ

 竹園西広場公園は、つくば駅から南東へ歩いて11分ほどの場所にある。約3700m2の都市公園(街区公園)だ。リニューアル前は、水はけが悪く、遊具も芝生もない公園だった。筑波大生の調査によると「市で最も利用されていない公園」だったという。

 この公園の状態を見て、隣地の国家公務員宿舎跡地を国から買い取って分譲マンション「デュオヒルズつくばセンチュリー」の建設を進めていたフージャースコーポレーション(以下、フージャース)では、自費での公園再生をつくば市に申し出た。地域の魅力向上とマンションの価値向上につながると考えたからだ。

リニューアル後の竹園西広場公園(撮影は2021年4月)。すべり台付きの小山を築き、子どもたちが工夫して遊べるようにした。土壌を改良して植えた芝生が夏季には青々と茂る。公園の小山の奥のマンションがフージャースが開発した「デュオヒルズつくばセンチュリー」(写真:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]
自転車やベビーカーが通れる園路も整備。通り道を明確にすることで芝生の踏圧被害を軽減する効果もある(写真:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
左はリニューアル前の竹園西広場公園。砂利敷きで水はけが悪く利用者は少なかった。右はリニューアル後。2020年7月に撮影(写真:フージャースコーポレーション)
竹園西広場公園の位置(楕円の赤丸で囲まれた「竹西広場公園」部分)。駅前から公園まで、ペデストリアンデッキ(歩行者専用道路)を歩いて到達できる(日経BP 総合研究所がつくば駅前の地図を撮影し加工)
[画像のクリックで拡大表示]

 具体的には、フージャースが費用を負担して芝生や小山(すべり台)、園路、飲食ができるデッキなどを整備し、2019年9月にリニューアル・オープンした。マンションの竣工(2020年10月)、マンション敷地内のベーカリーカフェのオープン(同年12月)に先立って、まず公園が完成した。ベーカリーカフェは、公園に面して建つマンションの共有施設棟の1階に店を構えている。フードやドリンクは、店舗内だけでなく、公園と連続する店舗前のデッキや、公園の芝生でもテイクアウトして楽しめるようにしている。

 公園敷地とマンションの敷地は、段差や木立ちでゆるやかに区切るだけにとどめ、フェンスなどは設置していない。民地側と公園側のデザインにも協調性を持たせている。ランドスケープデザインは、関東学院大学 建築・環境学部の中津秀之准教授が手掛けた。

[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]
マンション敷地と公園の境界。段差や木立ちはあるが、フェンスなどは設置していない(写真:左・日経BP 総合研究所、右・赤坂 麻実)
公園とマンションの平面図。赤い線が両者の境界(資料:フージャースコーポレーションの資料を一部加工)
[画像のクリックで拡大表示]

 さらに、リニューアル後の公園が地域のコミュニティ形成の拠点となるように、芝生を育てるボランティアグループ「つくばイクシバ!」を、フージャースが創設した。芝生の基本的な管理は行政が行い、さらに豊かな芝生にする取り組みを地域の有志が担っていくことになる。

 リニューアル後の竹園西広場公園は利用度が増し、周辺に住むファミリーを中心に、高校生や大学生も立ち寄る場所になっている。公園に隣接するマンション「デュオヒルズ つくばセンチュリー」は2020年10月に竣工した。14階建ての建物が2棟・計229戸を供給する。設計・監理と施工は共に長谷工コーポレーション、販売価格は約3500~5000万円だ。2021年3月現在、約8割の住戸が売約済となっている。一般的にはマンションは窓が南側に面した住戸の人気が高いが、このマンションでは公園がある西側に面した住戸の人気が特に高いという。「窓から公園が見える風景が高評価だったのではないか」(フージャースホールディングス事業開発部事業開発課の大東絵理子氏)。

民間による公園改修は公園施設設置許可で実現

 都市公園のリニューアルを民間事業者が手掛けるという珍しい事業を、つくば市とフージャースがどのように実現したのか、振り返ってみよう。

 フージャースによる公園再生の提案は、つくば市にとっても歓迎すべきものだったという。つくば市学園地区市街地振興室係長(取材当時。現・つくばまちなかデザイン専務取締役)の小林遼平氏は、地域が抱える課題や背景を以下のように説明する。

 「つくば市の中心市街地は高齢化率が7パーセントと低く、住民はファミリー層が中心だ。幼稚園児や小学生も多く、本来は公園のニーズは強いはずだが、市内の公園は30~40年前に完成したものが多く、古くさく遊具が少なく、魅力に乏しい。公園再生は市が抱える課題の一つとなっていた。一方でつくば市は、(筑波研究学園都市建設法が制定されるなどして)1970年から整備が本格的に進んだ国策都市であり、近年はインフラが一気に老朽化している。公園の再生に行政として手が回らない事情がある」

 このような背景から、市はフージャースの提案を受け入れた。2018年11月、フージャースとの間で「竹園一丁目国家公務員宿舎跡地における魅力ある開発の推進に関する覚書」を締結。覚書には(1)周辺の公共施設を考慮した開発の推進、(2)緑化の推進、(3)周囲の環境や自然と調和した建物のデザインや外構計画の推進を盛り込んだ。

 覚書に基づき、フージャースは公園の土壌を深さ30cm分ほど入れ替えて改良し、芝生や小山、デッキなどを整備した。これらは市の都市公園条例に則って、公園施設設置許可を受けて設置したもの。完成後、芝生や小山などはフージャースから市へ寄付した。現在は市の資産となり、つくば市が管理している。デッキはフージャースが引き続き所有し、維持・管理を担っている。

 公園の改修は、市側の費用が発生しないこともあり、市議会の議決は必要なかった。小林氏は「スピード感を持って企画を実行に移せた」と振り返る。ただし、計画当初は「一企業であるフージャースのマンション広告に公園が利用されている」「公園の私物化ではないか」などと懸念する声も一部では聞かれたという。

「デュオヒルズつくばセンチュリー」のウェブサイト。トップページには、マンション手前の公園の緑が生える写真を使用してイメージアップを図っている(資料:フージャースホールディングス)

 「市としては、デッキも含めて誰もが使える公園であることや、市の予算を投入せずに公園が再生するので、市や地域にもメリットのある取り組みであることを説明した。当初は懐疑的な見方をしていた人も、リニューアル後の公園を実際に目にして、好印象に変わったようだ」と小林氏は話す。

 また、フージャースでは公園と連なる立地や景観を積極的にPRしているが、ここでは、公園がマンションの専用庭であるかのような表現を避けることなどに留意したという。

 自費(金額未公表)を投じて公園リニューアルを行ったフージャースでは、「つくばエリアでこれまでに約1500戸を供給してきた事業者として、地域に貢献したかった。また、公園のリニューアルで地域の魅力が増せば、その価値は(マンション購入を検討する)お客さまにもご理解いただけると考えた」(フージャースホールディングス事業開発部の清家仁部長)と同社が公園再生を進めていった背景を説明する。

 リニューアルに当たって、同社は様々な公園を見学し、特に南池袋公園(東京都豊島区)の公園の在り方が参考になったという。「さまざまな世代の方が暮らしの一部のように自然に公園に立ち寄っている様子がすばらしいと思った。芝生がある公園にしたいと考えたきっかけ」と清家部長は語る。

芝生ボランティアは、市のアダプト制度など活用

 フージャースは、竹園西広場公園を拠点とした地域コミュニティの形成のサポートも行っている。2019年9月には、「BIG TABLE」と称して、隣接するマンションの契約者や地域住民を集めた昼食会を開いた。地元産の野菜を使ったサラダやスープ、公園に面する人気ベーカリーカフェのパンなどを用意し、交流が円滑に進むようにはからった。このほか、ヨガやコーヒーの無料配布など、小規模なイベントも実施してきた。

 フージャースの大東氏は「イベントを通じて公園の認知度を高め、地域の皆さんに日常的に使われる公園になればと考えている。ハレとケでいえば、ケの日にも、当たり前に立ち寄って時間を過ごす場所になるように、お手伝いしていきたい」という。

「つくばイクシバ!」の活動例。2020年10月に、桜の木の植樹活動「mineo green project」を認定NPO法人グリーンバード (東京都渋谷区)とオプテージ(大阪市)、フージャースホールディングスと共同で行った(写真:認定NPO法人グリーンバード)
[画像のクリックで拡大表示]

 前述のように、近隣住民の手で公園の芝生を維持・管理するプロジェクトも立ち上げた。黎明橋公園(東京都中央区)の芝生管理ボランティアのスタイルを参考にしたという。「つくば市は芝の名産地ということもあり、芝生に関心を持ってくれる人も多い。最初からコミュニケーションを目的にして集まることは難しいが、芝生の育成を目的に集まった人の間で自然とコミュニケーションが生まれる」とフージャースの大東氏はイクシバ活動への期待を寄せる。

 2020年5月から芝生の育て方を学ぶオンライン勉強会を開き、6月には、「つくばイクシバ!」の名称で、市の「アダプト・ア・パーク」団体として登録した。アダプト・ア・パークは、公園の里親になったつもりで、愛情を持って清掃や除草を行う団体(5人以上)をつくば市が募集するというもの。登録された団体には、市が作業に必要な用具を提供したり、その団体が収集したゴミを市が処理したりする制度だ。

 2020年6月以降、つくばイクシバ!は月1回のペースで落ち葉掃除や雑草取りなどの活動をしている。同時にブログやFacebook、Twitterで情報発信をして、参加者を募ってきた。清家部長は「毎回必ず参加しなければ責められるようなムードになってしまうと足が遠のくかもしれない。参加したい人が参加したいときに無理なく参加できるゆるやかなコミュニティを構築することが、活動持続のポイントだと考えている」と語る。

上:竹園西広場公園は市の「アダプト・ア・パーク制度」に登録している。右:ベーカリーカフェでは公園側に向けて看板を設置。イクシバ活動の周知に協力している。(写真:2点とも赤坂 麻実)
[画像のクリックで拡大表示]
[画像のクリックで拡大表示]

 フージャースでは、この芝生維持活動をいずれは地域へ引き継ぐ考えだ。既に地元企業がリーダー役に名乗りを上げ、自走の道筋が見えてきた。活動費用は肥料代など少額であり、メンバーが個々のスキルを生かして公園で収益イベントを開いたり、寄付を募るサポーター制度を導入したりすることで、まかなえそうだという。

公園に賑わいを広げる人気ベーカリー

 地域コミュニティの形成には、ベーカリーカフェも一役買っている。マンションの共有施設棟1階に出店した「Café Boulangerie Takezono(カフェ ブーランジェリー タケゾノ)」は、茨城県内を中心に関東に10以上の店舗を持つクーロンヌジャポン(茨城県取手市)の新店舗。各地の同社の既存店には行列が絶えず、新規出店の依頼も殺到しているという人気ブランドだ。

ガラスばりのベーカリー。ペデストリアンデッキ側(写真)と公園側の2カ所に出入口がある。路面店ではない不利な立地だが「町の食堂になりたい」と田島社長は語る(写真:赤坂 麻実)
[画像のクリックで拡大表示]

 つくば市は有名ベーカリーが多く「パンの街」とも呼ばれる。人を呼び込むため、またパンやサンドイッチがテイクアウトに適していることもあり、フージャースは公園に面した場所に人気ベーカリーを誘導することにこだわり、クーロンヌジャポンに出店を依頼した。同社の田島浩太社長は出店を決めた経緯を次のように振り返る。

店内の様子。「クーロンヌ」の名物パンや、店舗オリジナルのパンなどが並ぶ(写真:赤坂 麻実)
[画像のクリックで拡大表示]
店内でパン作りの材料を量り売りしている。田島社長は「お客さまが材料の使い方などをご質問くださるので、コミュニケーションの機会になる」と意図を説明。さらに「コロナ禍が収束したあかつきには、パン教室なども開催したい」と話す(写真:赤坂 麻実)
[画像のクリックで拡大表示]

 「出店した竹園西広場公園の隣地は、大通りに面していないし、商業施設内でもないので、店舗の立地としてはタブーともいえる場所だ。しかし、マンションデベロッパーのフージャースが公園再生や地域活性化に情熱を持って取り組んでいるのを知り、その理念に共感した。新しいお店が地元の皆さんの朝食会の会場になったりするイメージを膨らませ、楽しい気持ちになり、ぜひプロジェクトに参加したいと思った。当社も創業(1994年)から月日が経ち、自分だけよければいいという企業観ではいけない、CSRやCSVにもしっかり取り組みたいと考えていたタイミングだったので、出店を決定した」

三代店長によれば、このお店では「甘いパンより、塩味系のパンがよく売れる傾向がある」とのこと。理由はよく分かっていないそうだ(写真:赤坂 麻実)
[画像のクリックで拡大表示]

 三代隆洋店長は店舗の状況について「地元のファミリーを中心に多様なお客さまがいらっしゃいます。毎朝、コーヒーを飲みにいらっしゃるお客さまもいれば、小学校のPTAなどの集まりにご利用いただくこともある。わたしはカフェも課題解決の場だと考えているので、『何か食べたい』『友達と話したい』『勉強したい』『休憩したい』など、お客さまのあらゆる課題を解決できる場所であるように、適切なおもてなしをしていきたいと考えています。(公園と隣接しているだけに)現在は天気の悪い日に客足が鈍るといった傾向があるが、われわれが天候に左右されないだけの実力をつければいいことであり、立地をネガティブに捉えてはいない」と話す。

 Café Boulangerie Takezonoは開店以降、地域住民の憩いの場として定着しているという。公園内に整備したフージャースのデッキには、フージャースからクーロンヌジャポンへ寄付したイス、テーブルを設置。クーロンヌジャポンがフージャースの委託を受けて、デッキを維持・管理している。デッキは、一部が公園敷地にまたがって敷設されている。ベーカリーのテイクアウト客に限らず誰でも自由に使えるようになっており、公園側へもカフェの賑わいが広がる空間演出だ。

 また、クーロンヌジャポンもつくばイクシバ!のメンバーであり、店内の看板で活動を告知。さらに、公園利用者が無料・無登録で借りられるゴザの束を毎朝、公園へ出して、毎夕、片づける役割も担っている。

ベーカリーカフェから公園に連なるデッキ(公園側から撮影)。イス、テーブルの所有者はクーロンヌジャポンだが、ベーカリーカフェへの来店者に限らず、すべての公園利用者が自由に使える(写真:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]
デッキから園路につながる部分には、貸し出し用のゴザが。つくばイクシバ!の活動の一環だ(写真:日経BP 総合研究所)
[画像のクリックで拡大表示]

市内の公園への横展開を推進

 つくば市では、国家公務員宿舎跡地にマンションが建設される例がほかにもあり、公共空間に開いたレイアウトになるよう、市としてデベロッパーに要望を伝えてきたという。「そうした“お願い”に法的な根拠はないので、難しいところがあったが、竹園西広場公園という目に見える先例ができたことで、他の事業者からも同様の取り組みをしたいと相談があった。市としても、他の公園にもこのような取り組みを展開していきたい」(小林氏)。

 フージャースも「他社から当社にご相談があり、市のご担当者を紹介させていただいた。地域のためになるなら、ノウハウを積極的に共有したいし、イクシバ活動も一緒にやっていけたらありがたい」(清家部長)としている。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/041200177/