新型コロナの感染拡大が始まった2020年1月。建設表明から28年の歳月をかけた京都府立スタジアム(サンガスタジアム by KYOCERA)がオープンした。緊急事態宣言や無観客試合や入場数の制限、イベントの中止など、想定外の事態に直面した1年だったが、この春から、eスポーツゾーンやコワーキングスペース、保育施設の開設など新たな動きが始まっている。公民連携で“稼げるスタジアム”を目指すスタジアムの現在地とは。

「サンガスタジアム by KYOCERA」(府立京都スタジアム)の内観(提供:ビバ&サンガ)
「サンガスタジアム by KYOCERA」(府立京都スタジアム)の内観(提供:ビバ&サンガ)
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スタジアム外観(写真:市川史樹)
スタジアム外観(写真:市川史樹)
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 2020年1月、京都府亀岡市に球技専用スタジアム「サンガスタジアム by KYOCERA」(府立京都スタジアム、以下サンガスタジアム)が竣工した。スタジアムはJリーグ2部(J2)京都サンガF.C.のホームスタジアムとして使用される。京都駅からJR山陰本線(嵯峨野線)で約20分の亀岡駅北側徒歩3分に位置する“まちなかスタジアム”だ。収容人員は2万1600人。地上4階建てで観客席の最前列より2m張り出した屋根で全席を覆い、サッカーやラグビー国際試合開催に対応。客席からピッチまでの距離は最短7.5mと迫力たっぷりの観戦を楽しめる。総事業費は約154億円。

 スタジアムは京都府が建設し、スポーツ施設などを経営するビバ(京都市)と、京都サンガF.C.の運営会社である京都パープルサンガの2社が設立したSPC(特定目的会社)合同会社ビバ&サンガが指定管理者として運営する。

 また、京都府内に本社・支店を置く企業を対象に「年間1億円以上、供用開始から10年間以上」の条件でネーミングライツパートナー(命名権者)を募集。京セラが年1億円×20年の総額20億円で取得した。

サンガスタジアムの立地。JR亀岡駅から徒歩3分。京都駅から快速20分、イベント開催日には阪急桂駅からバスを運行する(京都府資料を日経BP総研が一部修正)
サンガスタジアムの立地。JR亀岡駅から徒歩3分。京都駅から快速20分、イベント開催日には阪急桂駅からバスを運行する(京都府資料を日経BP総研が一部修正)
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建設表明から28年、悲願のスタジアム完成

 1992年に京都府が建設を表明してから実に28年。悲願の球技専用スタジアムの誕生だった。

 京都府は2002年のFIFAワールドカップの開催会場に立候補、城陽市の木津川右岸を想定して4万3000人規模の国際試合規格に対応したサッカー専用スタジアム建設を発表した。事業認可を受けて、招致活動を進めていたが、日本単独での開催が日韓共催となった結果、日本国内の開催地が当初の15カ所から10カ所に削減された。京都府は絞り込みにより落選。建設計画は中止された。

 その後2003年には京都市が伏見区の横大路運動公園内の土地を提供、Jリーグ・京都パープルサンガ(当時)が主体となって建設する計画や、京セラの稲盛和夫名誉会長が私財を投じて専用スタジアムを建設することを提案したが、いずれも進展しなかった。

 2011年に京都府は「京都府におけるスポーツ施設のあり方懇話会」を設置、用地の無償提供を条件に候補地を募ったところ、以前にも候補地になった京都市(横大路運動公園内)や城陽市(木津川右岸)のほか、亀岡市、京丹波町、舞鶴市が名乗りを上げた。2012年12月には亀岡市のJR亀岡駅北側に設置される都市公園内に設置が決まった。

 しかし、またしても計画は変更となった。当初の建設予定地近くに生息する天然記念物の淡水魚「アユモドキ」の生息環境への影響を懸念、学会や環境関係者から計画の白紙撤回を求める声が上がった。府と亀岡市は2013年5月に環境保全専門家会議を設置、アユモドキの保全とスタジアムの早期開設に向け、再度検討を重ねることになった。

 アユモドキ問題に対して、環境保全専門家会議の出した提言は、スタジアム建設位置を桂川右岸から亀岡駅北土地区画整理事業地に変更することだった。この提言を受け、2016年8月、京都府は建設予定地の変更。スタジアムは結果的に当初の計画より駅近くに設置されることになった。新たに3.2ヘクタールの用地を取得する必要はあるものの、当初府と亀岡市が計画した予算内に収まり、2018年1月に着工、2年後の竣工に至った。

事業期間10年の「緩やかな指定管理」

 サンガスタジアムのコンセプトは、スポーツ観戦にとどまらず、複合機能を備えて、地域に根ざした日常使いできる“稼げるスタジアム”。さらに観光やアウトドアなど周辺地域との連携の拠点となることを目指している。

京都府文化スポーツ施設課の川崎浩孝課長(写真:市川史樹)
京都府文化スポーツ施設課の川崎浩孝課長(写真:市川史樹)
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 京都府文化スポーツ施設課の川崎浩孝課長は「“稼げるスタジアム”を実現するには、やはり民間のノウハウの最大限の活用が不可欠です。当初から官民連携で民間事業者が主体的に関与できる手法を構築し、地域も一体となって利活用を図っていくことができるようにすることが必要と考えていた」と言う。

 事業スキームの候補となったのは、コンセッションと指定管理。両者におけるVFM(バリュー・フォー・マネー)の試算や、民間企業へのヒアリングを重ねた。

「内閣府民間資金等事業調査費補助事業にも採択され、いろいろな可能性調査をしてきた。その中でコンセッションと緩やかな指定管理では、いずれの方式もここでは可能性がある。選択肢や事業の実施・継続に大きな違いはなく、行政としての手続きや制度的な取り扱いに留まるのではないかと考えた」と川崎課長は当時の議論を振り返る。

 最終的に指定管理となったのは、「初めて造る施設でもあり、実際どのくらいの数字が上がるか見えにくい。コンセッションとしてやるには一定実績の数値を踏まえてやらないと難しいという判断による。ただ指定管理にしても通常の3年、5年という期間では難しい。京都府の指定管理で5年を超えるのはここだけですが、10年という長期の指定管理期間を設定することで、コンセッションと遜色ない収益性を上げられるスキームが構築できるのではないかと考えた」(川崎課長)

 指定管理者となった合同会社ビバ&サンガの小森敏史代表は、ビバでフィットネスクラブの運営や京都市の地域体育館や運動公園など公共施設の指定管理の実績を持つ。2018年1月から京都府が主催して、スタジアムの運営手法の検討などを行った「公民連携プラットフォーム・京都スタジアム分科会」にも参加していた。

指定管理者を務める合同会社ビバ&サンガの小森敏史代表(写真:市川史樹)
指定管理者を務める合同会社ビバ&サンガの小森敏史代表(写真:市川史樹)
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 「これまで指定管理をさせていただいたところとは規模も違う。当初はちょっと別世界のイメージがあった。手を挙げるのは難しいと静観していたが、京都サンガF.C.(株式会社京都パープルサンガ)の役員の方から、何としてもこのスタジアムを成功させたい。サンガの本拠地としてだけではなく、京都から地域の活性化や人材育成の拠点になるスタジアムを作りたいという思いを伺った。ただ、サンガには指定管理のノウハウや運営に係わるスタッフがいなくて困っていると。それなら、清水の舞台から飛び降りるようなものだが、サンガと一緒にやってみようと応募した」(小森代表)

 指定管理の公募では、京都サンガのホームスタジアムとして円滑な試合の開催と、観客のホスピタリティー向上を図ること。府内唯一の専用球技場、最大級の収容数を有する施設として、様々なスポーツ大会やイベントを開催できるようにすること。また、亀岡駅前の施設として亀岡市と連携して周辺地域のにぎわい創出に努めることが求められた。

 応募条件は京都府内に事業所(事務所等を含む)を有する法人その他の団体であること。指定管理期間は2030年3月31日までの約10年3カ月。利用料金制を採用し、施設利用料金は条例及び規則に定める額の範囲内で指定管理者が料金を決定し、収入とすることができる。指定管理料は2019年度3000万円、2020年度7000万円となった。

 指定管理者の業務内容は施設及び付属設備の維持管理と使用承認関連の業務、指定管理者が企画提案するもの。また、にぎわい創出エリアの活用についての提案も必須だった(1階は大河ドラマの展示期間を除くことが条件)。スタジアム4階ではeスポーツやVR、ARなどの技術を活用したスポーツ環境や観戦環境の提供を目的とした事業を実施、また壁面を活用した広告事業の企画提案をすることも条件だった。

従来は期間5年の指定管理が主流だったが。近年は事業期間の長いケースも増えている。長居競技場は従来5年間だったが、2021年4月からセレッソ大阪が指定管理者として30年となった(京都府資料をもとに日経BP総研作成)
従来は期間5年の指定管理が主流だったが。近年は事業期間の長いケースも増えている。長居競技場は従来5年間だったが、2021年4月からセレッソ大阪が指定管理者として30年となった(京都府資料をもとに日経BP総研作成)
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イベントとの両立を前提にした設計

  “稼げるスタジアム”を実現、収益性を確保するためには、コンサートなどに利用できるようにすることが不可欠だ。そのため、スタジアムの芝生の保護は大きな課題だ。トップレベルの競技にふさわしい天然芝とイベントの両立には多くの施設が頭を抱えている。

 屋根付きスタジアムは日陰が多く、通風も悪くなりがち。とはいえ頻繁に張り替えるのも採算を考えると好ましくない。京都府は芝生の実証実験を京都サンガに委託、調査や実験を重ね、日陰に強く回復が早い新品種の「セレブレーション」を選定した。また、当初はスタンド最前列を芝生のピッチと同じ高さにする「ゼロピッチ」を予定していたが、芝のコンディション維持に必要な通風を確保するため、座席を1.2m高くした。

 さらに、芝へのダメージを最小限に抑えピッチ上に敷設する天然芝保護用の養生材「テラプラス」を導入した。

「通常は、イベントを開催する際に養生材を借りてくるのが一般的ですが、コストをかけることなく自前でできるようにスタジアムに備えています。ユニット単位で養生材の貸し出しも行っています。例えば他の会場、西京極の競技場でイベントをやるから使いたいという時はこのスタジアムでの使用予定がなければ有料で貸すこともできます」(川崎課長)

 スタジアムをプロフィットセンター化するため、日常、つまり、ハレとケなら「ケ」の時にも人が集まるような工夫も凝らしている。

国内最大規模のスポーツクライミング施設。リード(左)、スピード(右)ボルタリング3種すべての国際競技基準を満たしている(写真:市川史樹)
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国内最大規模のスポーツクライミング施設。リード(左)、スピード(右)ボルタリング3種すべての国際競技基準を満たしている(写真:市川史樹)
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国内最大規模のスポーツクライミング施設。リード(左)、スピード(右)ボルタリング3種すべての国際競技基準を満たしている(写真:市川史樹)

 その一つが屋内型クライミング施設「グラビティリサーチ サンガスタジアム by KYOCERA」。屋内ではスポーツクライミングの3種目(ボルダリング、リード、スピード)すべての国際競技基準を満たす日本初の施設でもある。ビバ&サンガがクライミングジム「グラビティリサーチ」を運営する好日山荘に業務委託。子ども用ウォールも設けるなど、様々な年齢やレベルに合わせたクライミング・ボルダリングを楽しむことができる。

大河ドラマ館の跡地には保育園がオープンする(写真はイメージ・提供:ビバ)
大河ドラマ館の跡地には保育園がオープンする(写真はイメージ・提供:ビバ)
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 近い将来には文字通り「スタジアム育ち」の子どもたちも生まれる。スタジアム1階のバックスタンド裏には開業当初、亀岡にゆかりの深い明智光秀が主人公の「麒麟がくる京都亀岡大河ドラマ館」がオープンした。『麒麟がくる』は2021年2月に放映が終了し、大河ドラマ館は閉館したが、隣接して併設されていた「光秀大河物産館」を保育施設に改装し、2021年6月にビバが運営する企業主導型保育園「びばっこ保育園」として開園する。当初は0~2歳児を各10人ずつ受け入れる。3年後には施設エリアを拡張し、対象を5歳児まで広げる予定だ。

保育園にスポーツクライミング、eスポーツで地元に根ざす

 びばっこ保育園の理事長も兼ねる小森代表は「ピッチの芝生を園庭のように走り回ったり、スタジアム内のフィットネスやクライミング施設を使ったり、近くを流れる保津川での遊びを取り入れるなど、五感を育む『遊育』をキーワードに、子どもたちの未来に繋がる保育を目指したい」と言う。

 スタジアム4階は「スカイフィールド」先端テクノロジーを活用したスポーツや健康づくり、イノベーション、人材育成の拠点として位置付けている。

 4月10日に「VR/フィットネスゾーン」、6月には「eスポーツゾーン」「コワーキングゾーン」がオープンする予定だ。

 「eスポーツゾーン」のオープンに先立ち3月28日、こけらおとしイベントと京都スタジアム杯eスポーツ選手権を開催した。「eスポーツゾーン」の利用料金は80円(一般、15分)からとリーズナブルに設定。市民に安い料金で提供するだけでなく、eスポーツ大会会場としても積極的に活用し、eスポーツスタジアムとして運用していく構想を明らかにしている。

「eSPORTS ゾーン」。PC席10席とコミュニティソーン15席がある。ゲームは約20タイトル。eスポーツ大会のほか、プログラミング体験教室なども実施する(提供:ビバ&サンガ)
「eSPORTS ゾーン」。PC席10席とコミュニティソーン15席がある。ゲームは約20タイトル。eスポーツ大会のほか、プログラミング体験教室なども実施する(提供:ビバ&サンガ)
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 サンガスタジアムにはauのローカル5G基地局を設置、すでに観戦イベントも実施しているが、eスポーツにも活用。4階「eスポーツゾーン」だけではなく、ピッチや駅前広場を活用したイベントや大会も視野に入れている。

「VR/フィットネスゾーン」。プロジェクションマッピングを備えたスタジオもある(提供:ビバ&サンガ)
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「VR/フィットネスゾーン」。プロジェクションマッピングを備えたスタジオもある(提供:ビバ&サンガ)
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「VR/フィットネスゾーン」。プロジェクションマッピングを備えたスタジオもある(提供:ビバ&サンガ)
デジタル映像に合わせてバイクを漕ぐサイクルワークアウトスタジオと「コワーキングゾーン」(提供:ビバ&サンガ)
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デジタル映像に合わせてバイクを漕ぐサイクルワークアウトスタジオと「コワーキングゾーン」(提供:ビバ&サンガ)
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デジタル映像に合わせてバイクを漕ぐサイクルワークアウトスタジオと「コワーキングゾーン」(提供:ビバ&サンガ)

「当初の構想ではスカイレストランが想定されていたが、京都府からも最先端のVRなどの技術を活用した事業をしてほしいという要望があり、提案した。eスポーツの大会だけではなく、プログラミング教室なども開催する。6月にオープンする『コワーキングゾーン』もテレワークなどの場所として使っていただくほか、大学などと連携して学びの場としても活用したい。スタジアムの1階が主に人間力を育むような拠点なら、4階はテクノロジーやデータ分析、スポーツビジネスなどの学びや人材育成の拠点にもしたい」(小森代表)

コロナで地元にさまざまな利用法をアピール

 新型コロナの感染拡大は開業一年目のサンガスタジアムに少なくない影響をもたらした。Jリーグは当初無観客でスタート。シーズン終盤でも上限定員の50%、10月10日のアルビレックス新潟戦までビジター席の受け入れはなかった。コンサートやライブなどのイベントもほとんど実施されず、団体旅行の受け入れがなかった大河ドラマ館の入場者数も当初の計画を大幅に下回った。

 しかし、思わぬ副産物もあった。密になることなく、オープンに使える場所ということで、地元や関係者に様々な使い方をアピールすることができたのだ。ピッチを使用して地元中学校の体育祭を実施、亀岡市の成人式を開催した。京都府の新規採用職員の研修にもスタジアムを使用した。また、人気ドレスショップ TAGAYAがプロデュースするスタジアムウエディングも注目を集めている。

 都市にも近く、自然も豊かな亀岡は近年、子育て世代などの移住希望者が増えている。嵯峨・嵐山に隣接し、周辺には湯の花温泉やトロッコ列車など観光名所にも恵まれている。多くの京野菜の産地でもあり、地域資源も豊富だ。京都府は亀岡市など府中部の5市町および京都市右京区の旧京北町エリアを「森の京都」として位置付けている。

 スタジアムは『森の京都』の入口としての役割も期待されている。京都府は亀岡市や各自治体、様々な事業者と一緒にエリア活性化の拠点を目指している。まちづくりのガイドライン策定や様々なイベントなど地域一体となった取り組みを通じ、エリアマネジメントの体制を整え、発展させようとしている。

 川崎課長は「『サンガスタジアムに行ったら、きっと楽しいことがあるよ』『ちょっと行ってみよう、スタジアムで遊んでくるわ』地元の方に早くそう思ってもらえるようにしたい」と言う。そして、その手ごたえも感じている。

 例えば、予約制で無料で使用できるようにしたスタジアム併設の3×3のバスケットコート(2面)がそうだ。

無料で利用できる3×3バスケットコート(写真:市川史樹)
無料で利用できる3×3バスケットコート(写真:市川史樹)
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 3人制バスケットボール、KYOTO BBのプロ選手が練習していることもあり、「地元の中高生がプレーするだけではなく、プロ選手のプレーを目の前で見ることができるかもしれないということで、私たちが思っていた以上の人気スポットになっているようです。コロナで閉鎖している時期も、『まだ開かないのですか』という問い合わせが、かなり指定管理者にあったようです」(川崎氏)。

 コロナ渦中のオープンから1年。日常づかいできるスタジアムとして、確実に歩みをはじめている。

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