IT業界で活躍する人材を輩出、オープンデータ活用のきっかけに

 まずは、牧野百男市長が市民の声を受け入れるオープンなスタンスと決断力、行動力を備えていたことが、ポイントの一つに挙げられる。加えて、鯖江市はIT業界で活躍する人材を多数輩出しており、それがうまくかみ合った。

 福野jig.jp社長をはじめ、Windows用のテキストエディタとして人気のある「秀丸エディタ」の作者である斉藤秀夫氏、データ復旧サービスなどを提供するエムディエスの田辺一雄代表取締役、サイバーエージェントの藤田晋社長は、いずれも鯖江市出身である。

 2010年12月、Web技術の標準化団体「W3C」(World Wide Web Consortium)に加盟しているjig.jpの福野氏が、W3Cの日本サイトマネージャーである慶応義塾大学の一色正夫教授と共に牧野市長を訪ね、民間などが二次利用することで新たな公共サービスを創出するオープンデータの推進を提案した。W3Cの国際会議に参加しオープンデータのもたらすインパクトを目の当たりにした福野氏らの熱意に市長も動いた。

 「『市民とともにITをまちづくりの力に活用しましょう』という提案でした。Webの考案者であるティム・バーナーズ・リー氏が、世界的なオープンガバメントの取り組みを草の根で進めており、そのひとつにオープンデータが位置付けられている。それなら、ITにゆかりの深い市民が多い鯖江市でもやってみようじゃないかと、市長が提案に賛同しました」と政策経営部の牧田泰一情報政策監は振り返る。

鯖江市 政策経営部 情報政策監の牧田泰一氏(写真:山岸 政仁)

 牧田氏は当時秘書課長だったが、約3カ月後の2011年3月に情報統計課が発足すると、特命で課長に任命された。「その時点では、オープンデータとして開示したデータがどのように使われるかといった明確な目的や効果は見えていませんでした。データ整備などの予算も大してあったわけではありません。ただ、福野さんと相談しながら、避難所とかAED(自動体外式除細動器)とか、位置情報がついているデータを中心に、その時点で出せるもの、できることからやろうと段階的に公開していきました」(牧田氏)。

 手探りだったが、取り組みは政府の目にも留まった。2012年7月に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が発表した「電子行政オープンデータ戦略」に、鯖江市の取り組みが紹介されると、全国的に注目を浴びるようになった。すると、それまでオープンデータの推進を様子見していた県や近隣の市の姿勢も変わっていった。2014年2月には、鯖江市は日本の自治体で初めてW3Cにも加盟した。