フォロワー数が多い自治体SNSとして知られる神奈川県葉山町の公式インスタグラム・アカウント(@hayama_official)。2万5000人超というフォロワー数は、自治体の公式アカウントとしては異例の多さだ。また「#葉山歩き」というハッシュタグを設けて、一般ユーザーにも葉山町の魅力が伝わる写真の投稿を促し、町の発信力を強めている。

葉山町政策課秘書広報係の宮﨑愛子氏。自身も葉山町の出身。都内の大学に通っていた頃、友人から「葉山町って何県?」と聞かれて、認知度の低さを感じたという(写真:赤坂麻実)
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 葉山町が写真投稿によるソーシャル・ネットワーク・サービス「Instagram(インスタグラム)」の公式アカウントを開設したのは2015年6月。現在、フォロワー数は2万5000人を超え、自治体の公式アカウントとしてはトップクラスだ。町の人口が約3万3000人であることを考えれば、異例の多さと言っていいいだろう。フォロワー数は今も1週間に100~120人のペースで増え続けているという。

 インスタグラムによる情報発信を発案したのは、立ち上げから現在まで携わる宮﨑愛子氏(葉山町政策課秘書広報係)だ。立ち上げ当初には町の職員2人でアカウントを運用していたが、現在は宮﨑氏1人で撮影や画像加工、執筆、投稿などを行っている。

 葉山町の取り組みは、インスタグラムという民間プラットフォームを活用し、一般利用者の力も借りながら、町の情報発信を推し進めたという意味で、公民連携の成功事例ともいえるだろう。宮﨑氏に取材したインスタグラム・アカウントの運営ノウハウを、10項目に整理した。

(1)目的を明確にし、ターゲットに歩み寄る

 「若者がインスタグラムに集まっているなら、町もそこにアカウントを持って情報を発信すればいい」――。当時、若い女性を中心に普及が進みつつあったインスタグラムに、宮﨑氏が着目した理由は明快だ。

 「ホームページや全戸配布の広報誌にも力を入れているが、ちゃんとつくれば若い人も見てくれるかといえば、そういうわけでもない。若い人が“いる”ところに“こちらから行く”べき」(宮﨑氏)。

 そして、葉山町のインスタグラムの目的は、あくまでも「移住促進」だと宮﨑氏は言い切る。

 葉山町では人口のゆるやかな減少と急激な高齢化が課題になっており、町の広報に求められる役割の一つに、移住と定住の促進がある。「葉山町には高校や大学がなく、就職先も限られるため、10代20代の人が町を出るのは止められない。そうした人にも出産・子育てや転職を機に町へ戻る選択肢を持ってもらえるように、町の魅力を伝えようと考えた」と宮﨑氏は説明する。

 もちろん、元町民以外の人が移住を考えてくれるなら大歓迎だ。特に意識しているのは、近隣で人気の高い鎌倉や逗子への移住を考えている人たちだ。「葉山も候補に入れてもらうきっかけになれば」と宮﨑氏。美しい海や森、そしてマリンスポーツにグルメといった写真で町のイメージアップに努めている。

 因果関係までは調査し切れていないが、結果として葉山町では、インスタグラムのアカウントを開設した2015年度に人口の社会増減が大きくプラスに転じた。以降も社会増が続いている。

インスタグラムの葉山町公式アカウント「@hayama_official」のトップ画面(左がパソコン画面、上がスマホ画面)。2015年6月17日に開始した。「4月1日でも10月1日でもない。思いついてすぐに、予算0円で実行に移した」と宮﨑氏。最近は若者に人気の「ストーリーズ機能」も積極的に活用している
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■社会増への影響(神奈川県人口統計調査)
転入者数 転出者数 社会増減
2011年度 1,518人 1,450人 68人
2012年度 1,409人 1,362人 47人
2013年度 1,401人 1,493人 -92人
2014年度 1,384人 1,385人 -1人
2015年度 1,443人 1,277人 166人
2016年度 1,309人 1,222人 87人
2017年度 1,376人 1,304人 72人

(2)SNSの波及力や双方向性、即時性を生かす

 SNSの大きな利点の一つが、その波及力の大きさだ。@hayama_officialでは、撮影した写真を投稿するだけでなく、独自のハッシュタグ「#葉山歩き」を設けて、他のユーザーの投稿を促すことにした。

 「葉山歩き」という言葉をハッシュタグに選んだ理由を宮﨑氏は次のように語る。「葉山町には鉄道駅がない。バスの運行本数も多くはないので、葉山で生活すれば歩くことは避けられないし、歩くことへの抵抗感もなくなる。また、細い小道の先に海が望める景色など、歩く速度と目線でこそ見つけられる魅力がある」。現在までに「#葉山歩き」のついた投稿は5万8000件にも上る。

インスタグラム「#葉山歩き」のトップページ。宮﨑氏によれば「葉山には有名な観光スポットはないが、絵になる景色がたくさんある」
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 SNSの双方向性を生かすことにも努めた。公式アカウントのフォロワーに「フォロー返し」をして、「#葉山」のついた投稿や町内の位置情報がついた投稿には「いいね!」を押して反応を示すようにした。フレンドリーな印象を持たれてのことか、開始1~2カ月でフォロワーは500人以上に増えたという。

 親しみやすさを演出すると共に、広聴の意味合いもあった。「みんなが葉山以外にどんなところへ遊びに行っているのか、今は何に興味があるのか知りたかった」(宮﨑氏)。

 ただし、現在はフォロー数がインスタグラムの提供する機能上の上限数である7500件に近づいたため、フォロー返しは休止している。また、「いいね!」も網羅的なつけ方はしていない。

 インターネットの即時性も大切にしている。投稿や運用に最低限の基本ルール(下表)はあるが、投稿ごとの上司の決裁は不要とした。公開された投稿に町長や部長が目を通す形だが、現在までのところ、投稿が問題視されて後から削除されたことはない。「桜の開花や今見える夕陽など、タイムリーに掲載したいものもある」(宮﨑氏)といい、それを実現できる運用体制になっている。

参考:葉山町が「インスタグラム公式アカウント運用指針」に定めた禁止事項
  • (1)公の秩序または善良の風俗に反する内容
  • (2)当アカウントの掲載内容に対して、著しくかけ離れている内容
  • (3)町や第三者を誹謗・中傷し、名誉や信用を傷つける内容
  • (4)町を含んだ他者になりすますなど、虚偽や事実と異なる内容
  • (5)政治や選挙、宗教活動またはこれからに類似する内容
  • (6)法律・法令等に違反している、または違反する恐れがある内容
  • (7)わいせつな内容を含む不適切な内容
  • (8)広告・宣伝・勧誘・営業活動、その他営利を目的とした内容
  • (9)町や第三者の著作権、肖像権、その他知的財産権を侵害する内容
  • (10)インスタグラム利用規約に反する内容
  • (11)その他、ページ運営者が不適切と判断した内容


(3)フォロワーから学ぶ

 開始から数カ月が経って、フォロワーが数百人止まりで伸び悩んだとき、次なる一手として考えたのが「オフ会」の開催だ。庁舎などに人を集めて写真講座や撮影会を開くことにした。「どうするとフォロワーが増えるのか、自分たちにアイデアもなければ参考にできる先行事例もなかったので、オフ会を通じてフォロワーに教わることにした」という。

第1回オフ会では、事前にダイレクトメッセージ機能を使ってフォロワー6人にコンタクトを取り、写真の撮影方法やおすすめ撮影スポットなどを語る講師役を依頼。6人とも応じたという(@hayama_officialより)
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 開催日には、庁舎の近くでバザーが開かれる日を選び、当日はバザー会場で直接触れ回って参加者を募った。写真に興味のある人が集まり、初めてのオフ会は30人が参加した。オフ会らしさを意識して、職員もTシャツにGパンという軽装で臨んだ。

 町にとって、写真撮影のコツや撮影スポットなど広報活動に生かせる情報が得られたほか、意図した通り、参加者アンケートから公式アカウントへのニーズがつかめたという。宮﨑氏は「(オフ会の雰囲気や職員の対応について)『いい意味でお役所っぽくなくて楽しい』『親しみやすさが感じられてよかった』といった感想が多かった。@hayama_officialに求められているのもこれだと思った」と話す。

 2015年10月に初開催したオフ会はその後もコミュニティ・ツールとして活用しており、現在までに4回の開催を数える。

(4)受け取り手の感覚になじむ投稿

 オフ会をきっかけに、葉山町の公式アカウントでは、写真に添えるテキストを親しみやすいものに変えた。以前の文章は敬体(です・ます)を使うことが多く、一文がやや長め。客観性の高い説明書きが中心だった。

アカウント開設当初は敬体が中心だった(@hayama_officialより)
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 それを、話し言葉に近い書き方に変え、文を短くした。例えば、光り輝く水面の写真には「てか全てがキラキラしててごめん」、牧場の牛たちの写真には「ぎゅうっと集まれ」とテキストをつけた。句読点は省略することが多く、「~している」などの「い」を省く、いわゆる「い抜き言葉」も多用する。内容もクイズや問いかけ、ダジャレ、投稿者の個人的な感想などが中心だ。

こちらが“タメ口投稿”。フォロワーのタイムラインに友人や好きな著名人のアカウントと並んで表示されても違和感がなくなった(@hayama_officialより)
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 この書き方が次第に評判になり、メディアで「タメ口投稿」と取り上げられ、フォロワーが急増した。新聞の地方面の記事がYahoo!ニュースに転載された日や、NHKの番組で紹介された日はフォロワーが1日で500~1000人増えたという。フォロワーが1万人を超えると、それが信頼感につながり、誘い水のように新規フォロワーを呼び込んでいった。現在、フォロワー数は1週間に100~120人の増加とペースが落ち着いたが、右肩上がりで推移している。

 ただし、どの自治体でも「タメ口」が効果的だとは限らない。宮﨑氏は「オフ会でフォロワーの意見を聞き、フレンドリーなほうが喜ばれると分かったので、そうした」と強調する。「例えば『御用邸のある町だから格調高いものがふさわしい』と言われていたら、方向性は違っていたかもしれない。タメ口ありきではなく、求められるものに合わせようという考えだった」(宮﨑氏)という。

(5)分析をおこたらずにニーズを探り続ける

 ニーズはオフ会だけでなく、インスタグラムの解析機能「インサイト」を注視して日頃から探っている。多くの新規フォローにつながった投稿を把握し、人気が出やすい写真の傾向をつかんで以降の投稿に生かす。海や夕陽の写真が多いのはそのためだ。

 フォロワーの属性も意識する。現在は約7割が40代以下で、約6割が女性。また、95%が国内で、葉山町内に居住するフォロワーは3%という。横浜市が18%、逗子市が7%、横須賀市が5%、さらに世田谷区、港区、川崎市がそれぞれ3%という内訳だ。

 宮﨑氏は「若い女性は購買行動の決定権を握ると聞くので、しっかり町の魅力を伝えたい。子育てをするときになって葉山町を選んでもらえたらうれしい。近隣地域のフォロワーが多いのも心強い。移住を考える際に現実的な候補の一つに加えてもらいやすいはず」と捉えている。

 また、写真の撮り方、撮影した画像の加工などはインスタグラムの人気アカウントに学んでいる。「(870万人ものフォロワーを持つ)タレントの渡辺直美さんのアカウントなどがお手本。画像加工は特にトレンドの移り変わりがあるので、著名人ではないのにフォロワーが多いアカウントなども合わせて参考にしている」。

ドローンを使った撮影。外国人の目を引くのに有効という。葉山町では外国人の移住も促進したい考えで、町の活動に参加する語学ボランティアを募集している(@hayama_officialより)
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 最近はドローンを使った空撮映像や画像も投稿している。「ドローンで撮影したスケール感のある動画は、町をよく知る人にも新鮮な視点を提供できる上に、外国人にウケがいい。東京五輪(東京オリンピック・パラリンピック競技大会)開催時には訪日観光客も増えるはず。葉山にも訪れてもらえるように、印象的な写真や動画できっかけをつくりたい」と宮﨑氏は意気込む。

(6)自治体として公平性は意識

 自治体の公式アカウントとして、公平性は常に意識している。写真ばえするグルメ情報などは投稿の題材として人気だが、載せ方は配慮する。「あくまで町のすてきな風景として写す。宣伝文句は載せない。セットメニューの内容やお店へのアクセスなども基本的には掲載しない。店名もハッシュタグや位置情報で伝えることが多い」。

グルメ投稿の例。飲食店から自店を取り上げてほしいと直接頼まれることもあるが、約束も拒否もせず「時間があったら行きます」と答えるなど、軽やかな対応を心がけている(@hayama_officialより)
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 また、@hayama_officialについたコメントにも原則、返信はしない。「あの人には返信して、私には返信がなかった」といった不公平感を与えないためだ。ただし、「花火大会はいつですか?」などの質問にはダイレクトメッセージ機能を使って回答する。「質問した人が町を訪れる機会が失われないようにしたい」と宮﨑氏は説明する。

(7)リアルでも連動企画を

 写真展やフォトブックといった“リアル”(インターネットを介さない活動)の企画も、公平性の観点から生まれたものだ。インスタグラムでの情報発信は、スマートフォンを所有し、特定のアプリをインストールした人にしか届かない側面がある。インスタグラムの活動で得られたものを町民の誰もが目にしたり、手に取ったりできるよう、リアルへの展開を企画した。

葉山歩き写真展。庁舎のほか、地元のヨットハーバー「葉山マリーナ」でも開催。庁舎を会場にした展示では平日の日中にしか来場者を受け入れられなかったが、マリーナでの開催により、休日を含めて写真を鑑賞できるようになった(@hayama_officialより)
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 具体的には、「#葉山歩き」付きの一般ユーザーによるインスタグラム投稿から選定した写真群を、投稿者の許可を得て「葉山歩き写真展」として庁舎に飾った。同様に、選定した写真に説明文をつけて、持ち歩きやすいサイズの冊子にまとめ、「HAYAMA NOTE 2017」として町内で無料配布した。

2017年版のフォトブック。宮﨑氏は「2019年版は写真の選定もオフ会の企画にできたら」と考えている(@hayama_officialより)
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 反響は大きかった。写真好きの高齢者がシニア向けスマートフォンを持って窓口を訪ねてくることもあり、「アプリのダウンロード(インストール)や設定をその場で一緒に行った。ちらほらと7~8人は訪ねてこられた」。

 「#葉山歩き」の投稿写真の質が向上する副次的効果も見とめられた。インスタグラムは誰もが投稿できるが、選ばれて飾られる展示・冊子への展開があることで、ユーザーのモチベーションが高まったとみられる。フォトブックは2017年版の1万部がほぼ在庫切れ。第2弾として、2019年版の制作に向けた予算が承認されている。

(8)予算がないなら他業務と資産を共有

 葉山町は、フォトブックの発行に約170万円の予算を計上したが、インスタグラム運用のための予算は取っていない。撮影用のデジタル一眼レフ・カメラは宮﨑氏の私物で、ドローンは広報活動全般のために購入した。撮影した画像は宮﨑氏が個人所有のスマートフォンを使って加工し、庁舎のWi-Fi経由でアップロードしている。

 オフ会の開催にも予算は付かない。参加者が発言しやすいように用意した「いいね!棒」は発泡スチロールを使って手作りした。担当者は広報誌と兼任のため、広報誌の取材で出かけた行き帰りに@hayama_official掲載用の写真を撮るなど、業務にかける時間のやりくりも工夫している。

(9)民間企業の力を借りる

 予算を使わずして町の発信力や影響力を高める手法としては、民間企業のコラボ企画も効果的だったという。例えば、京浜急行電鉄とは「葉山女子旅きっぷ」のキャンペーンで連携した。葉山女子旅きっぷを使って葉山町を訪れた人が、インスタグラムで@hayama_officialをフォローの上、写真を撮って指定のハッシュタグをつけて投稿すると、町の特産品が当たる期間限定キャンペーンだ。特産品は町が選び、費用を京急が負担。約200件の応募があった。

葉山女子旅きっぷでのキャンペーンのページ。葉山女子旅きっぷは、京急の電車やバスの乗車券と、葉山町の複数店舗から選んで利用できる「ごはん券」「おみやげ券」をセットにした商品で、現在も販売中(資料提供:葉山町)
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 パナソニックとは2017年2月、情報発信に関する協定を締結した。@hayama_officialのオフ会の第3回をパナソニックとの共同開催とし、写真講座と撮影会を実施。葉山町のヨットをテーマにしたフォトコンテストも開催した。オフ会では参加者にプロカメラマンの撮影技術が伝授され、パナソニック製デジタルカメラ「LUMIX」新機種の貸し出しも行われて好評だったという。

パナソニックが運営する写真共有サイト「LUMIX CLUB PicMate」上の写真コンテストのページ。同社は葉山町を含め複数の自治体と協力して地域の魅力をテーマに撮影会を催してきた

 旅行業者のエイチ・アイ・エスとのコラボ企画は、同社が運営するコミュニティ「タビジョ」(tabi_jo)のオフ会を葉山町で開催するというもの。2018年5月、多数のフォロワーを抱えるメンバー30人が葉山町に集まり、町の魅力が伝わる写真をインスタグラムに投稿した。町の役割はガイド役。「建物外観がおしゃれな郵便局、海が望める小道など、知る人ぞ知る撮影スポットを案内した」(宮﨑氏)。

(10)届けたい相手の顔を思い浮かべる

 @hayama_officialに関して、現在も視察や取材が引きも切らないという。視察に訪れる自治体の多くは、SNSを観光推進に活用したい考えだ。「どうしたらフォロワーが増えるのか?」と聞かれた場合にどう答えるのか。宮﨑氏に尋ねたところ、こんな答えが返ってきた。

 「様々な工夫を同時並行してきたので、どれが効いたのか、よく分からない」と前置きしながらも「ざっくりと『若い人向け』では茫洋としているので、オフ会でフォロワーの顔が見られたのはよかった」と語った。

 「オフ会以降は『あの人なら、こんな冗談を喜んでくれるかも』と具体的に顔を思い浮かべながら投稿できるようになった。不思議なことに、そうした投稿には他のフォロワーも含め、反応が返ってきやすい。相手を大切にするというと言い過ぎかもしれないが、相手を思うことは大切」と持論を述べた。

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