「メガソーラービジネス」2021年3月26日付の記事より

市が直営のメガソーラー

 長崎市北西に位置する三京町は、東シナ海に面した丘陵地帯で南向き斜面が多く、道沿いや林間などに複数の太陽光発電所が稼働している。出力約1MWの「ながさきソーラーネット〔メガ〕三京発電所(三京メガソーラー)」もその1つで、2014年3月から長崎市がリース方式により直営で建設・運営している(図1)。

図1●出力約1MWの「三京メガソーラー」
図1●出力約1MWの「三京メガソーラー」
(出所:日経BP)
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 固定価格買取制度(FIT)スタートにより全国の市町村が、自治体の所有する遊休地などへの太陽光発電所の建設に乗り出したが、そのほとんどは民間の発電事業者に土地を賃貸しする形だった。長崎市のように市が自ら直営で太陽光発電事業に乗り出したケースは全国でも珍しい(図2)。

図2●長崎市が直営で建設・運営している
図2●長崎市が直営で建設・運営している
(出所:日経BP)
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 加えて長崎市は、今年2月から、この「三京メガソーラー」と、市の運営する2カ所のごみ発電による電力を、市庁舎と市立小中学校の合計157もの施設に供給する、いわゆる「エネルギーの地産地消」を開始した。

市が35%を出資

 市有施設に電気を供給するのは、昨年2月に長崎市と地元企業によって設立された地域新電力会社「ながさきサステナエナジー」だ。同社は、資本金は5000万円で、長崎市が出資比率の最大となる35%を出資した。そのほか、協和機電ホールディングスと不動技研工業が各20%、三基と中央環境、長崎地域電力、ホルス、親和銀行が各5%。代表取締役には、不動技研工業の取締役である塩塚武氏が就任した。

 ここ数年、地域の再生可能エネルギーを地域の需要施設に供給する地域新電力の設立が活発化しているが、自治体は出資を見送ったり、マイナー出資にとどまることが多い。

 そうしたなか、長崎市はメガソーラー発電と同様、地域新電力事業でも、市が事業リスクを取って出資し、主体的に経営に関与している。市が事業収益を確保することで、「新たな脱炭素事業を創出して地域内に資金を循環させる」という筋道を明確に打ち出している(図3)。

図3●出資比率は長崎市が35%のほか、地元企業が出資参画した
図3●出資比率は長崎市が35%のほか、地元企業が出資参画した
(出所:長崎市)
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年間約1000万円の収益

 長崎市は、FIT開始以降、「三京メガソーラー」のほか、小中学校など20カ所の公共施設に合計約151kWの屋根上太陽光を設置して、売電してきたほか、市民エネルギーファンドとの連携を通じて再エネの設置を推進してきた。

 最大規模になる「三京メガソーラー」は、市営の一般廃棄物最終処理場(三京クリーンランド埋立処分場)内の遊休地を活用したもので、太陽光の設置容量1.155MW、連系出力1MWに達する。売電単価は36円/kWhで、九電工がEPC(設計・調達・施工)とO&M(運営・保守)サービスを担当し、太陽光パネルは東芝製(250W/枚)、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(500kW機/台)を採用した。キューコーリース(福岡市)と15年間のリース契約を結んだ(図4)。

図4●長崎市の遊休地を利用した。太陽光パネルは東芝製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した
図4●長崎市の遊休地を利用した。太陽光パネルは東芝製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した
(出所:日経BP)
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 年間で約127万kWhの発電量を見込み、これによる売電収入は約4500万円となる。一方、リース料は年間で約3700万円なので、年間で約1000万円の収益が見込める。稼働以来、運転は順調で、市では収益を一般予算とは別会計とし、脱炭素の街づくりなど地域活性化に資するプロジェクトに活用することにしている(図5)。

図5●「三京メガソーラー」の発電量グラフ
図5●「三京メガソーラー」の発電量グラフ
(出所:長崎市)
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約200施設に地産電源から電力供給

 地域新電力会社の「ながさきサステナエナジー」は、三京メガソーラーのほか、市が運営する廃棄物焼却施設である東工場と西工場の廃棄物発電(合計約5.5MW)、そして、学校など公共施設に設置した太陽光発電を自前の電源とし、最終的には、市庁舎や小中学校など公共施設約200施設に供給する計画を持っている。自前の電源で不足する分は、相対契約した電源から購入するとともに、不足分を日本卸電力取引所(JEPX)から調達する(図6)。

図6●ながさきサステナエナジーの事業スキーム
図6●ながさきサステナエナジーの事業スキーム
(出所:長崎市)
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 ながさきサステナエナジーは2020年12月1日から電力供給を開始した。当初、1カ月間は約7割の電気をJEPXから、約3割を相対契約で仕入れた電源から調達し、市内47施設に売電し始めた。今年1月には西工場の廃棄物発電(3.5MW)が加わり供給先は68施設に増加。さらに2月には三京メガソーラー(1MW)と東工場の廃棄物発電(2MW)が加わって、157カ所もの施設に電力を供給している。顧客との契約電力量は約15MWになる(図7)。

図7●東工場の外観。処理能力300t/日のストーカ炉で廃プラを焼却し、発電出力は2MW。設計施工は三菱重工業
図7●東工場の外観。処理能力300t/日のストーカ炉で廃プラを焼却し、発電出力は2MW。設計施工は三菱重工業
(出所:日経BP)
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 2021年度中には公共施設の屋根上太陽光の電気を加え、供給先は約170施設まで増やす計画で、売上高は5億3000万円の計画を立てている。また、長崎市にとっては、ながさきサステナエナジーから電気を購入することで、従来に比べ年間で6400万円以上の電気代削減効果を実現できる見込みという。

市場価格高騰で一時的に「逆ザヤ」

 ながさきサステナエナジーの船出は、奇しくも昨年12月から今年1月にかけて起きたJEPXの価格高騰に翻弄された。今回の電力価格高騰で、全国の地域新電力にとって打撃だったのは、JEPXからの電力調達のほか、固定価格買取制度(FIT)を利用した再エネを「特定卸供給」の仕組みで調達していた事業者が多かったからだ。特定卸供給による再エネ調達では、電力の購入単価は、JEPXの市場価格に連動すると決まっている。

 ながさきサステナエナジーの電源のうち、太陽光とバイオマス発電(廃棄物のうち生物由来成分)はFITを利用しているため、市場価格と連動している。一時的に1kWh当たり200円前後で仕入れた電気を10円以下で売る形になり、大幅な逆ザヤとなった。

 このため、同社では、今回の市場価格高騰により、2021年度の業績見通しを下方修正し、収益については6800万円から2800万円に引き下げた。それでも黒字を確保できる見通しなのは、市場価格の高騰に備えて、電源の約3割を市場外の相対契約で仕入れていたことが功を奏した。加えて、廃棄物発電のうち、バイオマス以外はFITが適用されず、こちらも市から固定価格で全量を仕入れ、夜間など、供給先で使いきれない余剰分を市場で販売しているため、その分は、市場価格高騰で収入増となった(図8)。

図8●西工場の外観。処理能力240t/日のストーカ炉で一般廃棄物を焼却し、発電出力は5.2MWだが、系統連系して売電できる容量は3.5MWに制限されている。設計施工は三菱・フジタ・菱興特定建設工事共同企業体
図8●西工場の外観。処理能力240t/日のストーカ炉で一般廃棄物を焼却し、発電出力は5.2MWだが、系統連系して売電できる容量は3.5MWに制限されている。設計施工は三菱・フジタ・菱興特定建設工事共同企業体
(出所:日経BP)
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 ながさきサステナエナジーは現在、供給電力の約3割が太陽光とバイオマス発電(西工場の約3分の2)、約3割がバイオマス以外の廃棄物発電(西工場の3分の1と東工場)、3割が相対契約で仕入れた電源、残りがJEPXから調達という電源構成という。つまり、市内の電源比率は約6割、再エネ比率は約3割になっている。

 同市では2026年に東工場の建て替えに伴い廃棄物発電の出力を増強する予定で、そうなると同工場からの調達量は、現在の2MWから5MWまで増える。これに合わせて、電力を供給する公共施設などをさらに増やしていく計画だ。

パシフィックパワーが需給管理を代行

 小売電気事業の運営で、カギを握るのが、需要と供給を一致させるバランシング(需給管理)業務だ。小売電気事業者や発電事業者は電力広域的運営推進機関に事前に提出した需要量や発電量の計画と、当日の実績を30分単位で一致させることが求められる。電力の安定供給に欠かせない需給管理の責任を事業者が個々に負う仕組みで、これを「計画値同時同量制度」という。逸脱した場合、インバランス(ペナルティ料金)を支払うことになる。こうした需給管理は、専門的なノウハウが必要で、特に太陽光や風力発電など天気によって出力が変動する再エネを採用した場合、バランシングには高度な知見や経験が必要になる。

 そこで、ながさきサステナエナジーでは、バランシング業務をパシフィックパワー(東京都千代田区)に委託した。パシフィックパワーは、建設コンサルタントのパシフィックコンサルタンツの100%子会社で、2015年4月に小売電気事業として設立した。

 自治体による地域新電力の立ち上げサポートでは、国内トップの実績を持ち、13の地域新電力に出資しているほか、2つの地域新電力には、出資せずにサポート業務を提供している。ながさきサステナエナジーもその1つで、需給管理を担っている。

 具体的には、本来、ながさきサステナエナジーが担うべき再エネの計画発電量の作成をパシフィックパワーが代行し、需要量は、パシフィックパワーの管理するバランシンググループ(BG)の一員として加わり、まとめてパシフィックパワーが計画値を予測する(図9)(図10)(図11)。

図9●ながさきサステナエナジーが電力を供給する長崎市市庁舎
図9●ながさきサステナエナジーが電力を供給する長崎市市庁舎
(出所:日経BP)
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図10●ながさきサステナエナジーが電力を供給する長崎市立桜町小学校
図10●ながさきサステナエナジーが電力を供給する長崎市立桜町小学校
(出所:日経BP)
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図11●ながさきサステナエナジーが電力を供給する長崎市立長崎中学校
図11●ながさきサステナエナジーが電力を供給する長崎市立長崎中学校
(出所:日経BP)
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需給管理システムを独自開発

 パシフィックパワーはこうした一連の業務を、独自開発した需給管理システムを使うことで大幅に効率化しているという。発電量と需要量を直近のデータや過去の同月同日のデータなどを元にコンピューターが予測し、電力広域的運営推進機関に提出するまでの業務をほぼ自動化しているという。

 同社によると、こうした小売電気事業者向けの需給管理システムは、パッケージ化されたシステムが製品化されているが、同社が多く手掛ける地域新電力の業務を想定し、より自治体のニーズに合ったシステムを独自に開発したという。

 ただ、FITによる再生可能エネルギーの発電量予測に関しては、「FITインバランス特例制度の1」を採用しているため、一般送配電事業者が行っている。これは、FITによる再エネ電気を特定卸供給によって調達している場合に認められる仕組みで、インバランスのリスクが免除されるため、ほとんどの小売電気事業者は、「特例1」を利用している。

 とはいえ、パシフィックパワーは、将来、FITによらない再エネから電源を調達することや、VPP(仮想発電所)のアグリゲーターとして事業機会を拡大することも想定し、天気予報や日照予測などのデータから太陽光など再エネの発電量を予測するノウハウは蓄積しているという。

 現時点でも、地域新電力の電源に多い廃棄物発電では、バイオマス比率の予想が必要になっており、これは各自治体の環境行政や季節などによって特有の傾向があることから、独自のノウハウが求められるという(図12)。

図12●西工場の外観。変動するバイオマス比率を予測する必要がある
図12●西工場の外観。変動するバイオマス比率を予測する必要がある
(出所:日経BP)
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 廃棄物発電の発電量については、焼却施設の稼働状況に連動するため、自治体から事前に運営計画の情報を提供してもらうことが重要になる。メガソーラーに関しても、九州ではすでに春秋など頻繁に出力が抑制されているため、これに関しても発電事業者である長崎市から出力制御に関する情報を入手して、計画発電量に加味する必要がある(図13)。

図13●「三京メガソーラー」には出力制御が頻繁に要請されている
図13●「三京メガソーラー」には出力制御が頻繁に要請されている
(出所:日経BP)
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 需給管理システムによる自動化といっても、このように手動で追加的に入力したり、修正したりする部分はどうしても残るという。パシフィックパワーの合津美智子社長は、「需給管理システムの運用では、コストをかけて大掛かりなシステムを構築していくというより、手動で微調整する部分も適切に残しながら、全体として効率的に精度を高めていくことが重要」と言う(図11)。

地域新電力が「脱炭素」の核に

 ながさきサステナエナジーでは、パシフィックパワーにバランシング業務を委託しつつも、日々の需給管理状況は共有している。さらに毎月、勉強会を開いてノウハウを蓄積することで、3年後をめどにバランシング業務を内製化する目標も掲げている。「12月から1月にかけての市場価格高騰は、収益悪化という痛みを伴ったものの、需給バランス業務の知見を高めるという点では、たいへんに貴重な経験だった」と、ながさきサステナエナジーの加藤直子さんは振り返る。

 長崎市では、メガソーラー事業や地域新電力事業による収益と、地域新電力に切り替えたことによる電気代削減分を原資に、再エネや省エネ、地域のレジリエンス向上など脱炭素に向け新たな事業を育ていくことを目指している。すでに地域新電力への出資者と長崎市による検討会を開催して、有望な事業分野などについて議論を始めているという(図14)。

図14●ながさきサステナエナジーによる「エネルギー地産地消」
図14●ながさきサステナエナジーによる「エネルギー地産地消」
(出所:ながさきサステナエナジー)
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 さらに長期的には、地域新電力を「エネルギー地産地消」推進の核と位置づけており、民間企業が市内に建設したメガソーラーのFIT売電期間満了後の受け皿や、長崎県沖で計画されている洋上風力や潮流発電など海洋の次世代再エネとも連携しながら、徐々に電源を増やし、エネルギー事業を拡大していくことも視野に入れている(図15)。

図15●長崎市が描く「脱炭素」街づくりへの道筋
図15●長崎市が描く「脱炭素」街づくりへの道筋
(出所:ながさきサステナエナジー)
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