「メガソーラービジネス」2020年4月3日付の記事より

 2019年9月9日に関東地方を直撃した台風15号では、千葉県の広範囲が大規模な停電に陥った。同県東部に位置する睦沢町でも、一時的に町の全域が停電した。町域すべてが復旧したのは11日になり、町民の多くが3日間、電気のない生活を余儀なくされた。

 そんななか、町内に建設されていた「むつざわスマートウェルネスタウン」にある道の駅と隣接する住宅には、9日の夜、停電で町内が暗闇に包まれるなか、照明が灯っていた。翌10日からは、周辺住民に温水シャワーを無料で提供し、延べ800人が利用するなど、災害復旧に大きく貢献した(図1)(図2)。

図1●町内全域が停電のなか、道の駅に電気を供給した
(出所:CHIBAむつざわエナジー)
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図2●町内全域が停電のなか、住宅に電気を供給した
(出所:CHIBAむつざわエナジー)
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ガスコージェネを自立運転

 「むつざわスマートウェルネスタウン」が、商用系統の停電時でも、電気と温水の供給を継続できたのは、敷地内に定格出力160kWのガスエンジン・コージェネレーション(熱電併給)・システム、そして太陽光発電と太陽熱温水器を備えていたからだ。平常時は、タウン内のエネルギー需要を最大限に自活し、非常時にも自立運転できる機能を持っていた。

 同タウンは、地域循環型のエネルギー供給システムと環境にやさしい街づくりを目指す睦沢町肝いりの重点プロジェクトで、9月1日に開所した。台風15号の来襲は、そのわずか1週間後だった。街開き早々にその真価を問われることになり、見事、想定していた、町のレジリエンス向上に貢献した。

 

 プロジェクトの事業区域は約2.86haで、温浴施設や直売所、レストランなどを備える「道の駅エリア」と、33戸の戸建て住宅と交流施設、児童遊園のある「住宅エリア」から構成される。総事業費・約27億7000万円は、民間提案型のPFI(民間資金を活用した社会資本整備)を採用しSPC(特別目的会社)に対してプロジェクトファイナンスを組成した。また、経済産業省と環境省の補助金制度も活用した(図3)(図4)。

図3●「むつざわスマートウェルネスタウン」の道の駅エリア
(出所:日経BP)
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図4●「むつざわスマートウェルネスタウン」の住宅エリア
(出所:日経BP)
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地域新電力がエネルギー管理

 SPCであるむつざわスマートウェルネスタウンの代表企業は、建設系コンサルタント・調査会社のパシフィックコンサルタンツ(東京都千代田区)で、道の駅エリアの設計・工事監理から、完成後の維持管理・運営も担っている。

 睦沢町は、同タウンの開所に先立ち、2016年6月に町も出資する地域新電力として、CHIBAむつざわエナジー(千葉県睦沢町)を設立していた。町のほか、パシフィックコンサルタンツ子会社のパシフィックパワー(東京都千代田区)、地域の企業、金融機関などが出資したもので、太陽光など県内の発電所から電気を調達し、町営施設や企業、住宅に電気を供給している。

 「むつざわスマートウェルネスタウン」プロジェクトでも、エネルギーサービス事業は、CHIBAむつざわエナジーが担っており、敷地内に設置したガスエンジン・コージェネと太陽光、太陽熱設備を自家消費しつつ、不足分は系統を通じて給電している(図5)(図6)。

図5●「むつざわスマートウェルネスタウン」の全景イメージ
(出所:CHIBAむつざわエナジー)
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図6●「むつざわスマートウェルネスタウン」のエネルギーフロー
(出所:CHIBAむつざわエナジー)
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CEMSで需給を制御

 タウン内にあるエネルギー設備は、定格出力80kW機・2台のガスエンジン発電設備、そして出力20kWの太陽光発電システム、37kWの太陽熱温水器になる(図7)(図8)。

図7●屋根上の太陽光発電設備
(出所:CHIBAむつざわエナジー)
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図8●屋根上の太陽熱温水器
(出所:CHIBAむつざわエナジー)
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 ガスエンジンに供給されるガスは、千葉地域の地下にある南関東ガス田から産出したものだ。天然ガスを含んだ地下水から水溶性ガスを取り出している。自治体の運営する公営都市ガス事業から供給を受ける。これをエンジン燃料に使い、ガス採取後の地下水をコージェネの排熱で加温して、温浴施設で利用している。これにより、地元産の天然ガスと地下水を無駄なく使い切ることができるという(図9)。

図9●ガスエンジン・コージェネ設備
(出所:日経BP)
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 ガスエンジンと太陽光で発電した電気は、道の駅と住宅に供給し、ガスエンジンの排熱は、廃熱利用ボイラを通じて熱回収し、貯湯槽に貯めておく。貯湯槽の加温には太陽熱温水器も併用する。最終的には、貯湯槽に貯めた熱水と熱交換して温水を作り、温浴施設の給湯に供給される。

 こうした電気と熱の供給は、CEMS(地域エネルギー管理システム)によって統合制御している。空調などの需要側設備も制御しながら、ガスエンジンを運用し、需給バランスを維持する。商用系統には逆潮しない連系契約のため、電力需要の8割程度をガスエンジンと太陽光で自活し、2割程度は系統電力で賄うというイメージで運用しているという。

 温浴施設の熱需要も加味しながらガスエンジンを運用し、商用系統からの受電量を最小に抑えることが、タウン全体のエネルギーコストの削減につながる。まだ、開所から間がなく、住宅への入居数が少ないこともあり、試行錯誤しながら、最適なCEMSの運用を探っている段階という。

電線地中化で倒壊リスクなし

 こうしたなか、開所からわずか1週間後、「ウェルネスタウン」は、台風15号の来襲によって、商用電力の停電という緊急事態に置かれることになった。

 9月9日午後、台風15号の暴風により東電の送電系統が損傷し、午後5時頃に睦沢町全域が停電に陥った。同タウンのエネルギーシステムは、平時は系統連系を前提に運用しているため、停電すると解列して、運転が止まる。そのため、同時にタウン内も停電した。

 パシフィックパワー取締役で、むつざわスマートウェルネスタウンの嶋野崇文代表は、台風に備えて、スタッフとともにタウン内で待機していた。嶋野代表によると、ガスコージェネを自立運転に切り替えて再稼働させる前に、タウン内の電気設備に浸水や漏電など損傷がないか確認する必要があり、その作業に4時間以上かかったという。

 幸い、タウン内設備に送電するケーブルは、美観向上も兼ねて、すべて地中化していたため、倒壊リスクはなく、浸水もなかった。また、地下ガス田から産出する天然ガスの供給を受けるガス設備やガス導管にも被害はなく、ガスの調達にも問題なかった(図10)(図11)。

図10●無電柱化により、強風による倒壊リスクがなくなった
(出所:日経BP)
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図11●電線の管路は車道の真ん中に埋設した
(出所:日経BP)
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 ただ、開始して1週間の試行的な運用を行っていた段階でもあり、系統停電時のガスコージェネの自立運転に関して、現場技術者にも十分な経験がなかったという。平常時の運転では、系統電力の周波数に合わせる形で、2台のガスエンジンを起動させ、回転数などを調整していくが、停電時にはこうした起動手順が使えない。

 基準となる系統周波数がない中、2台のガスエンジン発電機を使い、いかに安定的に出力と周波数を維持していくかが、自立運転における大きな課題となった。2台同時に起動すると、協調制御が不安定になることから、まず1台だけ起動し、それを系統周波数と見立てて、もう1台を起動して同期させるという手順を採用し、うまくいったという。

800人以上が温水シャワーを利用

 こうして午後9時には、2台のガスコージェネを自立運転し、住宅と道の駅に電気を供給し始めた。さらに翌日の午前10時には、排熱を活用した温浴施設への給湯も可能になり、周辺住民に対して、温水シャワーを無料で提供し始めた(図12)。

図12●午後9時にはガスエンジンを再稼働して電気を供給した(出所:CHIBAむつざわエナジー)
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 東電の停電が続くなか、延べ800人以上が、道の駅を訪れて温水シャワーを利用した。スマートフォンの充電やトイレの提供とともに、温水シャワーを提供できたのは、地域産の天然ガスを利用したガスコージェネの設置が功を奏したと言える(図13)(図14)。

図13●9月10日以降、温水シャワーを無料開放
(出所:CHIBAむつざわエナジー)
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図14●延べ800人以上が温水シャワー、トイレ、スマホ充電を利用
(出所:CHIBAむつざわエナジー)
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 コージェネによる施設・周辺地域への電気と熱の供給を、災害時にも実現したケースとしては、東日本大震災時の六本木ヒルズ(東京都港区)が知られている。また、地域資本による自営線による住宅への電気供給では、宮城県東松島市のスマート防災エコタウンがある。

 「むつざわスマートウェルネスタウン」は、地域資本を主体にコージェネ電源と太陽光・太陽熱の利用設備を導入し、自営線を使って電気と熱を供給するという点で、全国初の試みになる。環境性とエネルギー地産地消、そして地域のレジリエンス向上を兼ね備えている。経産省が固定価格買取制度(FIT)の抜本見直しで、今後の再エネの在り方として打ち出した「地域活用電源」を先取りしていると言えそうだ。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/042000152/