「メガソーラービジネス」2020年3月24日付の記事より

県外企業の草刈り場!?

 「日照の良い熊本県には大規模な太陽光発電所が急増しているが、地域の資本によるものはほとんどない。このままでは県外企業の草刈り場になってしまう」――。熊本いいくに県民発電所(熊本市)の石原靖也社長は、国内最大級の屋根上太陽光が建設された背景に、こうした危機意識があったと打ち明ける。

 同県南関町にある廃棄物最終処分場「エコアくまもと」の屋根上には、出力約2MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)が稼働している。2015年12月に運転を開始し、固定価格買取制度(FIT)で売電している。約3万3000m2という巨大な屋根に、約8000枚の太陽光パネルを東西に分けて設置している。

 発電事業者である熊本いいくに県民発電所が、処分場の事業主体である熊本県環境整備事業団から屋根上を賃借りして太陽光パネルを設置した。

 設置スペースに限りのある屋根上太陽光は、大規模なプロジェクトでも出力1MWを超えるのがやっとで、2MWに達する発電所は、全国でも数例しかないと見られる(図1)。

図1●「熊本いいくに県民発電所」の全景
(出所:熊本いいくに県民発電所)
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県が「県民発電所」認証制度

 熊本県内には、「熊本いいくに会」という企業経営者や消費者、学生などの有志からなる親睦会が2005年に結成され、約100社が参加している。スポーツ大会や清掃ボランティアなど地域の企業と市民が交流を深めつつ、新しい発想で地域づくりを進めている。

 「熊本県が県外企業の草刈り場になってしまう」との危機意識は、同会で企業経営者などが議論する中で、共有されていたという。そこで、同会会員企業を中心に、地域企業や県民の出資で建設する「県民発電所」構想を練り、熊本県に提案した。

 こうした構想に県側も応え、「くまもと県民発電所」認証制度を発足させた。同制度は、県内事業者が主体となって県民も出資し、地域に利益還元するなどの要件を満たした場合、県が認定して、「県民による、県民のための発電所」とのお墨付きを与える仕組みだ。県が認めた「地域の発電所」となることで、住民対応などが進めやすくなる利点がある。

 「エコアくまもと」の屋根上メガソーラーが、同制度の認証第1号となった。その後、さらに4案件が認証されるなど、「地域による発電所」は着実に広がっている。このコンセプトは、現在、国のFIT制度の抜本見直しで新たに創設された「地域活用電源」を先取りしたものともいえ、今後の再エネ推進の1つの方向性を示している(図2)。

図2●「くまもと県民発電所」認証の第1号となった
(出所:熊本いいくに県民発電所、写真は建設中のもの)
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146人の県民が出資

 屋根を提供した「エコアくまもと」は、熊本県が関与した産業廃棄物最終処分場で、熊本県環境整備事業団が運営している。一般的に、産廃は民間ベースで収集して再資源化や焼却処理し、最終的に残る残渣を埋め立てる。ただ、民間で用地確保の難しい埋め立て処分地が不足すると、不法投棄が増える可能性があることから、自治体が関与して、産廃用の最終処分場を建設する例が増えている。

 「エコアくまもと」は、埋め立て地内で発生した水を河川などに流さない「管理型」処分場で、さらに屋根付きで雨水が入らない構造にしたことが大きな特徴だ。その結果、埋め立て地の上には、縦220m、横155mの巨大な屋根で覆われることになった。こうした特定エリアを覆って雨風を防ぐ構造物を、「覆蓋(ふくがい)施設」と呼ぶ(図3)。

図3●「エコアくまもと」屋根下にある埋め立て地
(出所:日経BP)
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 国内の産廃向け管理型最終処分場で屋根付き施設は、「エコアくまもと」を含めて4カ所しかなく、いずれも公共関与型になる。屋根のない場合に比べて雨水が流れ込まないので、埋め立て地からの排水処理を計画的に行える利点がある。

 「エコアくまもと」の覆蓋施設は、建設時から、屋根上に太陽光パネルを設置することを前提に、強度を設計していた。

 屋根を貸す太陽光発電事業者に関しては公募プロポーザルが実施され、地域の企業10社で設立した熊本いいくに県民発電所の提案が採用された。県民を巻き込んだ、資金調達スキームなどが評価されたという。

 資金調達では、47社に対する私募債で合計4900万円、個人向け小口ファンドを活用して1口2万円で2500口・合計5000万円を調達し、残りを地域の金融機関から融資を受けた。小口ファンドの出資に占める熊本県民の比率を見ると、出資者数では全328人のうち146人(44.5%)、出資額では5000万円のうち3750万円(75%)となり、狙い通り「県民発電所」といえる出資構成となった。

 私募債・小口ファンドとも償還期間は10年で、分配金のほか、定期的に熊本県の特産品を贈呈することになっている。県産品を金額換算した分も含め、投資10年間での想定表面利回りは7~8%以上になる見込みという。

環境教育の拠点にも

 「エコアくまもと」を訪れると、埋め立て地を囲む覆蓋施設の西側には、雨水の溜まった池があり、その周囲は散策路になっている。約11万5000m2の敷地全体のうち、埋め立て面積は約3万1000m2に過ぎず、残りの多くは、自然環境エリアとして水鳥や昆虫など水辺観察のために適するように整備し、「廃棄物と教育に関する環境拠点」を目指している(図4)。

図4●自然観察エリアでは水生生物などを観察できる
(出所:日経BP)
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 この自然環境エリアの南側の端に、見学用の見晴らし台があり、覆蓋施設の上に設置した「熊本いいくに県民発電所」を見学できる。見晴らし台には、現時点の出力と今年度の合計発電量、そして、それによるCO2排出削減量が掲示されている(図5)。

図5●屋根上メガソーラーのための見晴らし台
(出所:日経BP)
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 周辺の学校からの見学と環境教育を積極的に受け入れており、埋め立てに関連した設備とともに、水辺の自然観察、そして、屋根上メガソーラーが見学できるようになっている(図6)。

図6●見晴らし台から見た「熊本いいくに県民発電所」
(出所:日経BP)
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 実は、熊本県環境整備事業団は、屋根上をメガソーラー発電事業者に賃貸しするとともに、水処理施設を設置した建物の上に、30kWの太陽光発電パネルを導入し、こちらは「エコアくまもと」の設備として、全量を自家消費している。

 覆蓋施設の上にあるメガソーラーのパネルは近くで見られないが、水処理棟の太陽光発電のパネルは、施設見学のコースのなかで、間近から見ることができる(図7)。

図7●水処理棟の上に設置した自家消費型太陽光の一部
(出所:日経BP)
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200kW分を自立運転に切り替え

 「熊本いいくに県民発電所」は、九電工がEPC(設計・調達・施工)を担当し、完成後のO&M(運営・保守)サービスも担っている。太陽光パネルは東芝製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した。

 設備面での大きな特徴は、天窓のある屋根中央部を除いたほぼ全面に太陽光パネルを敷き詰め、約8000枚で出力2MWものシステムを実現できたたことだ。これが可能になったのは、屋根形状が中央線から両側に傾斜している切妻タイプとはいえ、東西傾斜でそれぞれの傾きも数度で水平に近いという事情もある。

 一方、PCSは、覆蓋施設の南側にある駐車場奥の地上スペースを借りて設置した。500kW機3台と100kW機2台で、合計出力1.7MWという構成になっている(図8)。

図8●駐車場の裏にPCSを設置
(出所:日経BP)
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 このうち100kW機は、商用系統が停電しても自立運用できる単独運転機能を持っている。このため、災害時など九電からの電力供給が止まっても、自立運転に切り替え、最大200kWを「エコアくまもと」管理棟の非常用コンセントに供給できる(図9)。

図9●PCSは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用
(出所:日経BP)
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熊本地震でも異常なし

 「エコアくまもと」が完成して、「熊本いいくに県民発電所」が売電を開始したのは2015年12月。その翌年、2016年4月14日、熊本県では、最大震度6強の熊本地震が発生した。南関町でも最大で震度5弱を記録したものの、幸い大きな被害はなかった。

 「エコアくまもと」の埋め立て処理関連の設備も損傷はなく、屋根上のメガソーラーにも異常はなかった。地震後の復旧では、建物の倒壊で生じたがれきなど、大量の災害廃棄物を埋め立て地に受け入れることで、地域の復興に貢献した。

 屋根上の太陽光発電所は、強風に晒されることから、台風でパネルが飛散するなどの事故が起きることがある。実際、2018年9月に関西に上陸した台風21号では、大阪市住之江区にある物流施設の屋根上に設置されていたメガソーラーのパネルが大規模に飛散した。

 稼働後、九州地方も、勢力強い台風や豪雨に何度か見舞われ、被災した太陽光発電所があったが、「熊本いいくに県民発電所」には損傷もなかったという。ただ、周辺地域での落雷で系統などを通じた誘導雷として影響を受け、一時的な停止が数回あったという。

 発電実績は順調で、事業計画で見込んでいる予想発電量を年間ベースで10%以上、上振れしている年もあるという(図10)。

図10●熊本地震でも損傷はなかった
(出所:熊本いいくに県民発電所)
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 熊本いいくに県民発電所(熊本市)の石原社長は、「上振れした収益の一部は、次の再エネ発電ヘの開発投資に活用することで、さらに地産地消型のエネルギー源を増やし、それに関連した産業を振興していきたい」と言う。

 すでに熊本県内で小水力発電の開発に取り組んでいるという。クラウドファンディングなども活用した県民からの資金調達や、収益の地域還元などのスキームを検討している。

●設備の概要
発電所名熊本いいくに県民発電所
住所熊本県玉名郡南関町下坂下4771-3「エコアくまもと」内
発電事業者熊本いいくに県民発電所(熊本市中央区・地元企業10社により設立)
建物所有者公益財団補人・熊本県環境整備事業団
屋根面積3万2857m2
出力太陽光パネル・2.002MW、連系出力1.7MW
年間予想発電量212万3731kWh
EPC(設計・調達・施工)サービス九電工
O&M(運用・保守)九電工
太陽光パネル東芝製(250W/枚)・8008枚(東側3636枚、西側4382枚)
パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(500kW機・3台、自立運転型100kW機・2台)
着工日2015年7月
売電開始日2015年12月
総事業費約5億5000万円

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