長年の産業振興策を若い創業者にリーチしやすいデザインで

 墨田区が「サブス区」プロジェクトを立ち上げた背景には、区内製造業者の減少がある。宅地開発の増加や経済構造の変化により、区内の製造業事業者数は高度成長期の1970年に記録した9703社をピークに、最近では約2000社にまで減ったという。

 墨田区は産業振興を重要施策として位置づけ、1979年には市区町村で全国初めてとなる中小企業振興基本条例を制定するなど、区の強みである“ものづくり”を中心にさまざまな施策で振興を図っており、活用も盛んだ。経営相談を提供する「すみだビジネスサポートセンター」は年間4000件(2020年度は4048件)もの相談を受けるという。

すみだビジネスサポートセンター窓口(撮影:柳生貴也)
すみだビジネスサポートセンター窓口(撮影:柳生貴也)
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 スタートアップを支援する行政サービスの拡充にも取り組んできた。2001年にはインキュベーション(創業支援)施設「KFCクリエイティブスタジオ」を開設。2013年度には、ものづくりによるイノベーションを創出する「新ものづくり創出拠点整備事業」を始めている。

墨田区の宮里秀作氏(撮影:柳生貴也)
墨田区の宮里秀作氏(撮影:柳生貴也)

 “サブス区”では、こうした実績のある行政サービスを「墨田区のことを全く知らない人たち、墨田区を知っているが、ものづくりや起業のイメージと結びついてない人たちにインパクトのある方法で発信することで、新たなアイデアを持ったスタートアップを区内に引き寄せ、新たな企業連携やネットワークを生み出すことで区内産業を一段の活性化を図る」(墨田区 産業観光部 経営支援課 主事*2の宮里秀作氏)

*2 取材時点の役職。現在は、墨田区 子ども・子育て支援部 子育て支援課 主任

 スタートアップ支援情報は、(1)「モノヅクリ・オン・デマンド」、(2)「SNS(シタマチ・ネットワーキング・サービス)」、(3)「シャチョー・ケア・プログラム」に分類して紹介している。(1)(3)がスタートアップを支援する既存の行政サービスを新しい見せ方で紹介する部分で、(2)がスタートアップを支援する墨田区の文化面の紹介にフォーカスした部分である。

 (1)「モノヅクリ・オン・デマンド」では、前述の「新ものづくり創出拠点整備事業」によって開設した拠点を紹介している。印刷・金属・繊維・デザインなどの各分野の区内民間企業が独自の技術・サービスでスタートアップを支援する。「サブス区」の特設サイトでは、拠点ごとに事業内容をイメージするロゴを制作した。

 (3)「シャチョー・ケア・プログラム」では、「シャチョー知恵袋」という新たな名前で、経営相談を行う「すみだビジネスサポートセンター」、後継者・若手経営者の育成を目指す、私塾形式のビジネススクール「フロンティアすみだ塾」を、「クガハラウド・ファンディング」という新たな名称で、創業5年未満の起業家を対象にした「チャレンジ支援資金」を含む中小企業融資あっせん制度を紹介する。

 (2)「SNS(シタマチ・ネットワーキング・サービス)」では、スタートアップを支援する墨田区の文化にフォーカスを当てている。先輩経営者やベテラン職人、区の職員などが起業家を支援する場面を挙げ、「ヤクニン・ダッシュ」「センパイ・ペイ」「オフロ・イン・サロン」といった「わかれば面白い、じわじわくる名前を付けた」(吉田氏)。

 (2)は行政サービスとして提供しているものではないが、現実にありそうな場面を選んでいる。例えば、「ヤクニン・ダッシュ」は、アマゾン・ドット・コムのサービス「アマゾン・ダッシュ」を参考につくった言葉で、区の職員が「相談にすぐ駆けつける」というスピード感を表す。「実際にはすぐ対応できないときもあるが、日頃から呼び出しを受けたときにダッシュで駆けつける気持ちで職員が対応している」(宮里氏)。