高齢者住宅や保育所などの福祉施設を軸に、温浴施設やカフェなど様々な施設を街に点在させる街づくりが目立ち始めた。人や建物が「面」的に混ざり合うことで、街の利便性と施設の事業性を同時に高める狙いだ。「日経アーキテクチュア」2017年4月27日号に掲載された「『ごちゃ混ぜ』で街を救う」より、輪島カブーレ(石川県輪島市)の事例を紹介する。

 「ごちゃ混ぜ」と「開放」。社会福祉法人の佛子園(ぶっしえん)が取り組む街づくりの特徴は、この2語で表すことができる。石川県輪島市で整備中の街づくりプロジェクト「輪島カブーレ」は、その最新形だ〔図1〕。

〔図1〕街の中心にサ高住や温浴施設などを点在させる
輪島カブーレは石川県輪島市の中心部で進められている。繁華街に近い住宅地に温浴施設や子育て支援施設、高齢者向け住宅などを点在させ、住民の利便性の向上を図る。移住者や観光客を呼び込むことも狙う(資料:五井建築研究所)
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佛子園の取り組み
人も施設も「ごちゃ混ぜ」に

 市の中心部に、温浴施設やウェルネス施設(スポーツジム)、サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)、子育て支援施設など複数の施設を整備・運営する〔図2〕。高齢者デイサービスセンターなどの福祉施設だけでなく、飲食店や売店なども混在させる。これが「ごちゃ混ぜ」だ。

〔図2〕空き家や空き地を利活用
輪島カブーレの街並みイメージパース。点在する空き家や空き地などのストックを活用。街の空洞化を食い止めると同時に、にぎわいを生む(資料:五井建築研究所)
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 温浴施設の利用は有料だが、一定数の近隣世帯は無料で利用できるようにする。輪島カブーレでは、約180世帯を予定している。また、交流施設として位置付けている自治室は、近隣の学生などが自由に出入りできるようにする。これが「開放」だ。

 高齢者や若いカップル、家族連れなどが分け隔てなく飲食店で食事をし、温浴施設で露天風呂に入る。近隣住民も観光客も利用する。

 「年齢や障害の有無などに関係なく、色々な人が集まり、働き、日常的に関わり合う。そうすれば街が元気になる」。佛子園の雄谷良成理事長は、輪島カブーレの狙いについてこう語る。

 銀行の融資のほかに、国土交通省の空き家再生等推進事業や都市再構築事業などの補助金も活用。輪島カブーレを担当する佛子園の清水愛美理事は、「事業費は10億円超を想定している」と語る。各施設の開業は、2018年4月ごろの予定だ。

 佛子園はこれまで、石川県内の複数の市街地で廃寺や国立病院跡地などを利活用。温浴施設や福祉施設などから成る「ごちゃ混ぜ」の複合施設を整備し、運営してきた。

 佛子園が運営している施設は、どれも障害者が働く「就労支援施設」なので、建築基準法上の優遇措置がある。例えば、第一種低層住居専用地域などでは通常、認められない店舗も、就労支援施設として申請すれば建築確認を取得できる。また、固定資産税が免除されるなど、税制上も優遇される。事業性を高めると同時に、佛子園が運営する障害者福祉施設の利用者の就労先にもなる。

空き家と空き地を利活用

 輪島市は06年に約3万人だった人口が16年時点では約2万8000人に減少。高齢化率も高い。石川県の調査によると、15年10月時点で全人口に占める65歳以上の人口比率は43.3%。全国平均の26.6%を大きく上回る。

 中心市街地の空洞化も深刻だ。07年に発生した能登半島地震では1500棟以上の住宅が全半壊。輪島市交流政策部企画課の田中義則課長補佐は、「能登半島地震以降、空き家が目立つようになった」と話す。

 人口減や空洞化に対する市の危機感は強く、内閣府が地方再生プランを支援する「生涯活躍のまち」事業に名乗りを上げ、先進自治体に選ばれた。この時に市が白羽の矢を立てたのが、08年ごろから福祉を軸に面的な街づくりを仕掛けていた佛子園だ。それまでの実績を評価して、市は「生涯活躍のまち」の事業主として佛子園を選んだ。

 田中課長補佐は、「空き地や空き家などのストックを活用し、多世代交流を図る佛子園の手法が輪島市の再生に有効と考えた」と話す。輪島カブーレは、そこで採択された事業コンセプトに基づいて計画を進めている。

 田中課長補佐が話すように、輪島カブーレでは計画中の7施設はすべて、空き地や空き家を利活用している〔写真1、2〕。

〔写真1〕空き地に温浴施設を
温浴施設の建設現場。敷地奥に温泉をボーリングするやぐらが見える。事業主である社会福祉法人の佛子園は、日本型CCRC(継続介護付きリタイアメント・コミュニティ)のモデルプロジェクトとして知られる「シェア金沢」などでも温浴施設を整備した(写真:五井建築研究所)
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〔写真2〕空き家をショートステイに
空き家を活用し、改修工事を進めている短期入所施設(ショートステイ)。福祉施設と、温浴施設や飲食店などを「ごちゃ混ぜ」に整備している(左の写真:日経アーキテクチュア、右の写真:五井建築研究所)
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 しかし、空き家や空き地の取得に苦労した。佛子園の清水理事は、「空き家同然に見えるのに、所有者が市外の友人に無料で貸していることもあった」と言う。

 住宅地の中に建設することから、近隣住民からの反対にもあった。10人のスタッフが代替地を探し、近隣住民への説明会を開くなどして、1年がかりで計画用地や建物の取得にこぎ着けた。

この記事は「日経日経アーキテクチュア」2017年4月27日号の記事の一部を転載したものです。
全文は「日経アーキテクチュア・ウェブサイト」でご覧いただけます。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/051700014/