「メガソーラービジネス」2021年4月21日付の記事より

102MWのメガソーラーに28MWhの蓄電池

 北海道八雲町は、道南部の渡島半島の中央にあり、太平洋と日本海の両方に面する日本で唯一の町。酪農やホタテ養殖が盛んで、ふるさと納税でもホタテや牛肉のほか、毛ガニやイクラが人気で、全国でも納税受入額の多い自治体の1つになっている。

 昨年10月、同町の元採草放牧地約132haに出力102MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」が営業運転を開始した。容量約27.8MWhもの蓄電池を併設したのが特徴で、稼働済みメガソーラーの出力規模としては全国で5番目、蓄電池併設型のメガソーラーとしては国内最大規模になる(図1)。

図1●102MWのメガソーラー「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」
図1●102MWのメガソーラー「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」
(出所:日経BP)
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 事業主体は、SBエナジーと三菱UFJリースが出資して2017年1月に設立した北海道八雲ソーラーパーク合同会社(北海道八雲町)。太陽光パネルは東芝製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製、蓄電池はLG化学製を採用し、TMEICがシステムを構築した。EPC(設計・調達・施工)は、東芝とTMEICのジョイントベンチャーが担当した(図2)。

図2●太陽光パネルは東芝製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製、蓄電池システムはTMEICが構築した
図2●太陽光パネルは東芝製、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製、蓄電池システムはTMEICが構築した
(出所:日経BP)
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 八雲町は2030年度末に、北海道新幹線「新八雲駅」(仮称)の開業を予定しており、町では複数の産業振興プロジェクトを打ち出している。新駅周辺での農業レストランや牛乳・チーズ工場、ウイスキー蒸留所、ワイナリーなど観光・物産振興のほか、トラウトサーモンの海面養殖の事業化や、酪農振興のための研修牧場の建設などを進めている(図3)。

図3●酪農の町である八雲町には北海道新幹線の新駅が開業予定
図3●酪農の町である八雲町には北海道新幹線の新駅が開業予定
(出所:日経BP)
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 同町では、こうした一次産業の活性化と並行して、2017年に「八雲町再エネ導入促進ビジョン」を作成し、町内での再生可能エネルギーの開発に取り組んでいる。「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」を皮切りに、牧場でのバイオガス発電や小水力発電の事業化を計画している。

 国内有数のメガソーラーとして順調に稼働している「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」だが、そのプロジェクトは当初、必ずしも順風満帆ではなかった。

「変動率毎分1%」が接続条件

 実は、「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」は、2013年度に経済産業省から設備認定を取得したものの、事業化には2つの壁があり、着工できない状況が続いた。電力系統と接続する条件として、北海道電力から「蓄電池の併設」と「無制限・無補償の出力抑制」を求められたからだ。

 「蓄電池の併設」は、2015年4月に北電が公表した「太陽光発電設備の出力変動緩和対策に関する技術要件」によるもの。この要件では、メガソーラー出力の変動幅を、蓄電池の充放電との合成出力で、1分間にPCS定格出力の1%以内に収める「変動率毎分1%」を求めている。系統規模が相対的に小さい北電は、大規模な太陽光と風力発電所の出力変動を緩和し、系統電力への短周期変動の影響を軽減するために、こうした条件を設定した(図4)。

図4●北海道のメガソーラーを対象にした出力変動緩和対策のイメージ
図4●北海道のメガソーラーを対象にした出力変動緩和対策のイメージ
(出所:北海道電力)
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 加えて、同発電所は、北電管内の「30日等出力制御枠」を超えて以降の接続申し込みとなったことから、「無制限・無補償の出力抑制」が系統接続の条件となった。こちらは、太陽光発電電力の出力増により需給バランスが維持できない場合、「上限なしの出力抑制」を求められる。現在道内では再エネに対する出力抑制は始まっていないが、今後、さらに再エネ導入が進んだ場合、年間30日を超える出力抑制が課される可能性がある。

 「蓄電池の併設」による初期投資の増大と、「無制限の出力抑制」による事業収益の不確実性は、プロジェクトファイナンスの組成を難しくしていた。八雲町の岩村克詔町長は、都内にあるSBエナジーの本社に何度も足を運び、「町として協力するのでなんとかメガソーラーを建設してほしい」と要望したものの、「当初は事業的に厳しい状況で色よい返事ではなかった」と振り返る。

 そうしたなかでもSBエナジーは、プロジェクトファイナンスの組成に成功し、ようやく2018年3月に着工した。その背景には、北海道における将来の出力抑制に関する評価・分析が進んできたことに加え、太陽光パネルや蓄電池の価格が下がってきたことが大きい。

 加えて、蓄電池の容量を相対的に小さくできたこともある。通常、「変動率毎分1%」の達成では、PCS出力の8割程度の蓄電池出力(kW)が目安とされるが、「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」の場合、75MWのメガソーラーのPCS出力に対し、蓄電池の出力は52.5kWと7割で済んだ。それが可能になったのは、メガソーラーと蓄電池のPCSが同じTMEIC製で、メガソーラー出力と蓄電池の充放電を統合制御する「TMBCS(TMEIC蓄電池コントロールシステム)」を採用したことも貢献した(図5)。

図5●TMEIC製「TMBCS(TMEIC蓄電池コントロールシステム)」を採用し、メガソーラー出力と蓄電池の充放電を統合制御
図5●TMEIC製「TMBCS(TMEIC蓄電池コントロールシステム)」を採用し、メガソーラー出力と蓄電池の充放電を統合制御
(出所:日経BP)
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「南北に長いメガーラー」の特性

 TMBCSは、メガソーラーに設置した多数台のPCSを統合して制御する「メインサイトコントローラー(MSC)」が、蓄電池のPCSとも連係し、サイト全体の連系点の発電量をリアルタイムに監視しながら、太陽光の急峻な出力変動を緩和する方向で、蓄電池を充放電制御する。

 サイト南にある蓄電池エリアには、53台のコンテナに蓄電池とPCSを納めている。太陽光発電と蓄電池に別々のPCSを接続し、それぞれの直流(DC)出力を交流(AC)に変換してから合成して、電力系統に送電する「ACリンク」方式を採用した。

 「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」のPCS出力は75MWに達するため、その「1%」は750kWになる。つまり、太陽光発電所から電力系統に送電する出力の変動幅が、1分間に750kWを超えないように制御する。例えば、雲間から日が出て太陽光発電の出力が急増した場合は蓄電池に充電し、逆に太陽が雲に隠れて出力が急減した場合は蓄電池から放電する。

 もともと「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」は、こうした天候変化による出力変動が大きくなりやすい特性を持っているという。東日本フィールドエンジニア(北海道苫小牧市)のソフトバンク八雲ソーラーパーク・八雲管理所長の谷藤重徳さんは、「八雲町のサイトは、太陽光パネルを南北に長く設置しているので、西から東に変わっていく天気による日照変化が大きくなり、『変動率毎分1%』の達成は、通常にも増して難易度が高くなる。運用上、それが心配だった」と打ち明ける。

 太陽光パネルの設置レイアウトが南北に細長い長方形の場合、短辺を横切るように雲の影が移動することが多くなり、そのため同じ時刻に影になってまた日が当たるパネル枚数が増え、短時間での出力変動が大きくなる可能性が高い(図6)。

図6●「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」の全景。南北に長くパネルを敷き詰めた
図6●「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」の全景。南北に長くパネルを敷き詰めた
(出所:SBエナジー)
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出力変動を見事に平滑化

 谷藤さんは、第1種電気主任技術者として、「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」の保安業務から運営・保守を担っている。蓄電池の充放電制御による発電所全体の出力もリアルタイムで監視している。「蓄電池の充放電制御により、出力変動は見事に平滑化されており、これまでのところ、『変動率毎分1%』を逸脱したことはない」と言う。

 蓄電池の充放電制御は、天候を予測しつつ充放電量を調整している。例えば、晴天時にはベースとなる太陽光の発電量が多いため、急峻な出力変動に対応するには大きな電力が必要で、事前に蓄電池の充電量を増やしておく。一方、曇天時にはベース発電量が少ないため、事前に放電して売電量を増やしつつ充電量を減らしているという。

 谷藤さんは、前職は北電で水力発電所の運営・管理を担ってきた。「PCSによる充放電制御の応答性は予想以上に機敏」と驚く。「従来、電力系統の需給管理手段としては、水力発電の応答性の速さが群を抜いていたが、PCSによる応答性はそれを上回る。系統の安定運用に大きな可能性を秘めている」と話す(図7)。

図7●53台のコンテナに蓄電池システムを納めた
図7●53台のコンテナに蓄電池システムを納めた
(出所:日経BP)
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4基のバイオガス発電が稼働

 「2050年・脱炭素」を目指し、世界各国で再エネの大量導入が本格的に始まっている。そうしたなかで分かってきたことは、多くの国で開発余地が大きく再エネの主力になるのは、太陽光と風力という出力変動の大きい電源になることだ。そのため、電力系統の安定運用では、大規模な蓄電池の導入が不可欠になると認識されつつある。

 八雲町では、こうした再エネ社会を先取りし、大型蓄電池を併設した世界有数のメガソーラーが稼働している。北海道新幹線の新駅が開業すれば、見学者が増えることも予想される。SBエナジーでは、これに備え、発電施設を一望できる展望台を設置した(図8)(図9)。

図8●見学者用の展望台を設置した
図8●見学者用の展望台を設置した
(出所:日経BP)
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図9●展望台に設置したメガソーラー設備の案内図
図9●展望台に設置したメガソーラー設備の案内図
(出所:日経BP)
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 岩村町長は、「メガソーラー運営はたいへん安定した事業でもあり、計画段階では町も出資したいとの要望を事業者に伝えてきたが、最終的に出資には至らなかった」と打ち明ける。それでも年に3億5000万円もの新たな固定資産税収入は町にとって大きい。「将来、蓄電池の革新で運搬が容易になれば、災害時などにメガソーラーから可搬式の蓄電池に充電して町の重要施設に給電する仕組みも可能になるのでは」と期待する。

 八雲町では、次の再エネ事業の目玉として、酪農を生かしたバイオガス発電と、山がちな日本海側での小水力発電の開発に取り組んでいる。また、すでに民間企業が洋上風力発電の事業性調査を始めており、こちらにも積極的に協力していきたいという。

 バイオガス発電は、牛舎などから排出される畜糞をタンクに貯め、嫌気発酵させてメタンなど可燃性のバイオガスを取り出し、それを燃料にガスエンジン発電機を稼働して電気を生み出す仕組み。八雲町では、すでに4カ所の大規模な酪農施設でバイオガス発電を稼働しており、固定価格買取制度(FIT)で売電している(図10)(図11)。1施設の発電規模は定格出力150~200kWになる。

図10●八雲町で稼働中のバイオガス発電施設。蓄糞をメタン発酵させて可燃性ガスを取り出す
図10●八雲町で稼働中のバイオガス発電施設。蓄糞をメタン発酵させて可燃性ガスを取り出す
(出所:日経BP)
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図11●八雲町で稼働中のバイオガス発電施設。発酵後の廃液は液体肥料として活用
図11●八雲町で稼働中のバイオガス発電施設。発酵後の廃液は液体肥料として活用
(出所:日経BP)
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小水力の電気でサーモンの陸上養殖

 さらに同町では、酪農の規模拡大や担い手の育成を担う、町営の「八雲町研修牧場」で250kWのバイオガス発電を導入する計画を立てている。

 「研修牧場」は、乳牛や肉牛、育成牛を合わせて1500頭を超える牛を飼育する大規模な畜産施設で、町や農協、民間企業が出資した青年舎(北海道八雲町)が運営している。今年4月に竣工し、今後、発電施設を建設し、2年後に売電を開始する予定だ(図12)。

図12●今春に稼働した町営の「八雲町研修牧場」
図12●今春に稼働した町営の「八雲町研修牧場」
(出所:日経BP)
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 さらに町内の小規模な酪農施設など3~4カ所へのバイオガス発電の設置を目指している。岩村町長は、「小規模な酪農家への発電施設の導入では、設備を町が所有し、青年舎がまとめて管理する体制にして効率的に運営する計画。酪農家には売電収入の一部を還元したり、廃液を液肥として提供したりして、酪農経営の収益基盤の安定に貢献していきたい。町は売電収入を活用し、次の再エネプラントに投資していく」と話す。

 また、小水力発電では、日本海側の熊石地域に流れる平田内川で定格出力350kWの発電プロジェクトが進んでいる。同地域は川が山から海に一気に下るため、十分な落差を確保できる小水力発電の適地が複数あるという。「小水力への投資は1カ所5億円程度かかるが、維持コストが安いので長期的には収益性が高い。まず、1カ所稼働させて、うまくいけばさらに2~3カ所は開発できそうな適地がある。小水力発電は、太陽光と違い常に一定量を発電できることが大きな魅力」(岩村町長)。

八雲町の岩村克詔町長
八雲町の岩村克詔町長
(出所:日経BP)
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 岩村町長は、将来的に地域の再エネと、農業や漁業など一次産業を組み合わせた形で運営していく構想を持っている。

 例えば、町が事業化を進めているトラウトサーモンの養殖では、まず陸上の淡水養殖施設でマス(トラウト)を育成した上で、海面養殖でさらに大きく育てて出荷する。「陸上養殖は、品質が安定する利点があるが、電気代がかかることが課題になっている。将来、この電気を価格が安い小水力で賄いたい」と岩村町長は期待する。

 実は、バイオマス発電も当初、自家消費モデルも検討したという。しかし、酪農作業による電力需要に時間的な偏りが大きく、バイオガス発電がそれに対応するのが難しいため断念したという。ただ、「将来的にさらに蓄電池が安くなるなど技術革新があれば、酪農の電力需要に対応してバイオガス発電を自家消費することも可能になるかもしれない」と、岩村町長は見ている(図13)。

図13●八雲町内の牧場。将来的にはバイオガス発電の電気を畜産施設に活用も
図13●八雲町内の牧場。将来的にはバイオガス発電の電気を畜産施設に活用も
(出所:日経BP)
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