オフィス改革が進行中の愛媛県西予市役所。16年秋にレイアウト変更を先行実施した本庁舎4階フロアでは、部局の境界を越えた連携で新しいアイデアも生まれている。職員の意識が変わり始めた。

 愛媛県西予市役所の本庁舎4階。フロアの中央を縦断する廊下に面した細長いエリアには、机やテーブルが多様なレイアウトで並べられている。ここには4つの課が入っているのだが、課の境界はよく分からない。一角には立って使うカウンターや、木のテーブルを木のパーテーションで囲んだ空間もあり、シェアオフィスのような雰囲気だ。

オフィスレイアウトを刷新した西予市本庁舎の4階。総務課、財政課、まちづくり推進課、総合政策課が入っている(写真:編集部)
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 ワークプレースの専門家の協力を仰いでつくり上げたこのオフィスでは現在、総務課、財政課、まちづくり推進課、総合政策課の職員が働いている。西予市は、16年4月に京都工芸繊維大学仲研究室、東洋大学戸梶研究室、オープン・エー(東京都中央区、馬場正尊代表)の3者との間で、オフィス改革に関する連携協定を締結した。仲研究室はデザイン経営工学、戸梶研究室は社会心理学を専門としている、オープン・エーはリノベーションを専門とする一級建築士事務所だ。

 協定締結の後、職員向けの講演会やワークショップを実施し、どんな場で、どんな働き方をしたいかを話し合った。それをもとにリノベーションに着手、16年11月に現在のオフィスが完成した。

オフィス改革は職員減を働き方改革でカバーするため

 西予市がオフィス改革に取り組み始めたのは、2014年秋のことだ。きっかけは、人口減少につれて市職員の数が減ることに対する危機感からだ。「職員が減っても、市民へのサービスは維持しなければならない。そのために業務の効率化、質の向上は不可欠だった」。亀岡敦志行革推進係長はこう振り返る。陣頭指揮をしたのは当時、総務省からの出向で企画財務部長だった大平利幸氏(現・内閣官房IT総合戦略室参事官補佐、西予市政策アドバイザー)。「役所の常識だった部局の縦割りを排し、横断的な連携が生まれるようにする」と、改革に着手した。

 まず実施したのはペーパーレス化だった。なぜか。当時、部局を越えたコミュニケーションをとろうとしても、話し合いのできる場が近くにはなく、わざわざ別の階の会議室まで行かなければならなかった。そこで書類を減らすことでその保管スペースを削り、生まれた空間をコミュニケーションの場に充てようとしたわけだ。「それまでは分厚い資料を作っていた予算編成の作業も、スクリーンに投影して行うように変えた」と山岡薫彦・前財政課長は話す。

ノートPCを持ち寄って会議を行っている。紙の資料はできるだけ使わない(写真:編集部)
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 書類が減った2015年春に、最初のレイアウト変更を行った。変更前は奥の窓際を管理職の席が占め、手前に課ごとの机の島が並んでいた。そして課の間は書類棚で仕切られていた。そこで、まず仕切りを撤去。机の島を平行ではなく扇状に角度をつけて並べ、扇の要の位置に各課長の席を置いた。これによって「隣の課が何を考え、何をしているのかが分かるようになった」(山岡前課長)という。さらに、互いの距離が縮まった課長席の背後には、打ち合わせスペースを新設した。

 さらに改革を進めた現在のオフィス・レイアウトの特徴は、職員が自分の仕事の「モード」に適した場を選べるようにしたことだ。中央には課ごとに仕事を進めるための「チーム」席を設けた。一方、課の全員分の席はあえて用意せず、フリーアドレスとした。「チーム」席の面積は、かつての各課のスペースの半分だ。書類の保管スペースもレイアウト変更前の半分にした。空いたスペースには、「コラボ」「プレイ(リフレッシュ)」「ウエルカム」などテーマを設けた空間をつくった。

●西予市役所4階のオフィス・レイアウトの変遷
2015年春までのオフィスレイアウト。課ごとに仕切られていたので、隣の課とのコミュニケーションがとりにくかった(資料:西予市)
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2015年春に行った1回目のレイアウト変更。課長同士の席を近付け、そこに打ち合わせスペースを新設した。ここを“作戦本部”と位置付けた。(資料:西予市)
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2016年11月に完了した2回目のレイアウト変更。仕事の内容によって席を使い分けられるようにした(資料:西予市)
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「チーム」席の様子。袖机はなくした(写真:編集部)
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コミュニケーション改善で地域活性化策が生まれた

 「チーム」席以外の空間は、テーマごとにそれぞれ意図が込められている。大小の丸テーブルが置かれている一角は「コラボ」席。ここは他の部局の職員との打ち合わせなどに使う。窓に面して一列に机が並んでいる場所は、1人で資料の作成などに取り組むための「集中」席だ。立ったまま使うカウンターがあるのは「プレイ(リフレッシュ)」空間。気分転換の場となっている。

窓に沿って設けた「集中」席。ここでは電話の使用も控える(写真:編集部)
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「プレイ(リフレッシュ)」空間。雑談から仕事のアイデアが生まれることもあるという(写真:編集部)
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「コラボ」席の一角にある木の空間。オープンなフロアの中で、ここだけに間仕切りがある(写真:編集部)
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 廊下に面した「ウエルカム」空間は、市民とのミーティングに使う。カウンター越しに市民と職員が向かい合うだけでなく、小さなテーブルを囲んで話し合える場もつくった。

職員が持ち回りで「ウエルカム」空間の受付席に着き、来訪者の用件に対応する職員に取り次ぐ(写真:編集部)
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 オフィス改革によるコミュニケーション改善効果は、もう上がり始めている。例えば「ジオミュージック」。西予市では、地域内にある山や海などの見どころ「ジオサイト」に着目した「ジオパーク」活動を、地域活性化策の一つとして展開してきた。ジオミュージックは、各ジオサイトにふさわしい楽曲を公募によって選ぶものだ。

 この企画が生まれるきっかけになったのが、「ゲームにBGMがあるように、リアルな風景にもBGMが付けられたら面白いね」という、所属の異なる職員同士のちょっとした雑談からだった。ジオミュージックの審査委員長には「ファイナルファンタジー」などのゲーム音楽を手掛けてきた作曲家の植松伸夫氏を迎え、2015年11月から16年1月にかけて楽曲を募集。百数十曲を選んだ。現在、ジオパークを巡る観光客に、曲を収録した音楽プレーヤーを1日100円で貸し出している。

ジオミュージックのパンフレット(資料:西予市)
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将来は4つの支所をサテライトオフィスに

 今回の本庁舎4階のリノベーションは、庁舎全体のオフィス改革を推進するうえでのモデル事業との位置付けで、約1000万円をかけた。内訳は、什器購入に約630万円、PHS導入に約230万円、間仕切りやカウンターなど内装改修に約180万円などだ。

 さらに2016年度には庁舎のICT化として、電子決済・文書管理システム導入に約950万円、各階会議室の無線LAN環境構築に約800万円などを投入。オフィス改革を支える仕組みも整えた。

 「ただし、これでオフィス改革が終わったのではなく、環境がそろっただけ。これからどう業務の質を向上させるのかが問われる」と亀岡係長は気を引き締める。

 また、これらの出費とは別に、市はオフィス改革の連携協定を結んだ京都工芸繊維大学に対して400万円を寄付。連携先の3者がワークショップ開催やオフィスレイアウト設計にかけた経費は、この中から賄っている。連携協定の内容としてオフィス改革の効果測定も含まれており、3者は7月をめどに報告書を市に提出する予定だ。

 一部の市民や市議からは、オフィス改革に関する出費を疑問視する声も聞かれるという。亀岡係長は「必要性をしっかり説明して、できるだけ早く本庁舎全体、さらには市内の4つの支所のオフィス改革も進めていきたい」と意気込む。

 特に支所のサテライトオフィスは、5つの町の合併で生じた課題を解決する場として期待がかかる。2004年の合併で同市が誕生して以降、職員を本庁に集中して配置するようになり、かつての町役場だった現在の支所の職員数は減っている。それによって、市民に遠く離れた本庁まで足を運ばせる機会が増えている。また、災害発生時には職員が本庁から駆け付けなければならず、時間がかかるようになった。

 「支所が本庁同様の環境が整ったサテライトオフィスとして使えるようになれば、市民の要望に応じて本庁の職員が支所に出向き、本庁と同じサービスを提供できる。田舎こそICT化で受ける恩恵は大きい」と亀岡係長は語る。この構想が実現すれば、合併した自治体の“働き方改革”のモデルとなるかもしれない。

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