茨城県坂東市で2016年12月、市内初のビジネスホテル、「ホテルグリーンコア坂東」がオープンした。宿泊施設がほとんどない同市にとって、ホテル誘致は以前からの大きな課題。交通アクセスの悪さといったハンディキャップを抱えながらも、条例の制定や多彩な資金調達手段の活用、事業会社のユニークな出店戦略などが相まって、念願の誘致を実現した。

 坂東市は、茨城県南西部に位置する人口約5万5000人の街。かつての岩井市と猿島町(さしままち)が合併し、2005年に誕生した。市名の「坂東」は、関東地方の古称で、平安時代には坂東一円を制した平将門が、この地に本拠を構えたとされている。

 2016年12月、この街の中心部に市内で初となるビジネスホテル、「ホテルグリーンコア坂東」がオープンした。地上7階建て、延べ床面積3240m2の規模で、120の客室を備える。土地は市有地で、市が建物を所有する特別目的会社(SPC)と30年間の定期借地契約を締結し、貸し出している。それまで昔ながらの旅館が数軒あるだけだった坂東市にとって、ビジネスホテルの誘致は以前から大きな課題だったという。

ホテルグリーンコア坂東の概要
ホテルグリーンコア坂東
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住所:茨城県坂東市岩井3315-5
最寄り駅:東武線愛宕駅駅からバス25分、つくばエクスプレス守谷駅からバス35分
面積:土地3174.65m2、延べ床3240.08m2
階数:地上7階
構造:RC造
客室数:120
事業者:ホテルグリーンコア坂東特定目的会社
運営者:ナビ(金子包装ホールディングスの子会社)
開業:2016年12月

 「当市には、開発工事中や計画中のものも含めると4つの工業団地がある。今年2月には圏央道(首都圏中央連絡自動車道)の茨城区間の全線開通で市内にインターチェンジ(坂東IC)もでき、ビジネスマンの宿泊需要が見込める。年間約45万人が訪れる『ミュージアムパーク 茨城県自然博物館』、11月の『岩井将門まつり』といった観光資源もある。しかし宿泊の受け皿がなく、せっかくの宿泊客が他市に流れていた」(坂東市企画部企画課の田中豊係長)。地元経済界からも、誘致を求める声が数多く寄せられていたという。

岩井将門まつりは1972年から続く坂東市の秋の風物詩。当日は「坂東市いわい将門ハーフマラソン」も開催される(写真:坂東市)
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 市では2013年ごろから、いくつかの金融機関の協力を得ながら、ホテル誘致の可能性を探っていた。相談を受けた地元地方銀行の常陽銀行(本社:水戸市)でも、大手ビジネスホテルチェーン十数社に出店を打診。しかし興味を持つ会社はまったく現れなかったという。「坂東市は国内でも珍しく、市内に鉄道が通っていない。隣市の最寄り駅から中心部までは、バスで25分〜35分くらいかかる。大手チェーンが出店するのは、政令市などの大都市や駅前が基本で、彼らの戦略に合致しなかった」(常陽銀行地域協創部の小松崎光一副部長)。

 そこで常陽銀行では、地方のホテル会社にターゲットを変え、出店の意向を探った。そんななかで関心を示したのが、隣市の古河市に本社を置く金子包装(現金子包装ホールディングス、本社:埼玉県幸手市)だった。

条例制定で土地、固定資産税、下水道使用料を10年間無償に

 金子包装ホールディングスの本業はダンボール製造だが、子会社のナビ(本社:埼玉県幸手市)を通じて、埼玉県幸手市や白岡市などで「ホテルグリーンコア」ブランドのビジネスホテルを運営している。その出店戦略は、大手とバッティングしにくい地方小都市の郊外がメーン。立地よりも営業努力による顧客獲得を重視しているという。ダンボールを加工したホテル向けの建材や家具も生産しており、2015年には常陽銀行が主催する「第3回常陽ビジネスアワード」で、この製品が最優秀賞を受賞している。

 坂東市への出店に踏み切った理由について、金子包装ホールディングスの金子卓司代表は、「これまでの実績を踏まえると、出店する自治体の市町村内総生産が600億円以上なら採算に合う。これに対し坂東市は2000億円以上の規模だ。市が出店に協力的なことも好材料だった」と話す。

 市は2015年2月、出店についてナビと基本合意。7月には「坂東市ビジネスホテル誘致条例」を制定した。条例では定期借地などの契約締結後10年間にわたって、ホテルの土地を市が無償貸し付けし、固定資産税・都市計画税と下水道使用料も免除することを定めた。これによりホテル事業者のコストは、約700万円削減できるという。

 同年秋には、市役所近くの目抜き通り(国道354号)沿いに、ホテル用地約3000m2を、市が約8000万円で取得した。隣地では、明治期の酒蔵などを活用して市の第三セクターが運営する観光交流センター「秀緑(しゅうろく)」の開設が予定されており(16年11月オープン)、ホテルとの相乗効果を狙った。

明治時代の酒蔵を改修した坂東市観光交流センター「秀緑」。体験型工房や観光情報案内所などが設けられている(写真:坂井敦)
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常陽銀行が中心となり資金調達スキームを構築

 一方で開発に際しての資金調達の面では課題があった。「大都市圏のホテルと異なり、開業後の稼働が予想しにくいことや、土地が市の所有なので担保にできないことなどから、金融機関による通常の融資が難しかった」(常陽銀行の小松崎氏)。そこで、この開発を地元の活性化に寄与する地域貢献型の事業ととらえ、常陽銀行が中心となって、地元金融機関や公的制度などを活用した資金調達スキームを構築した。

 ファイナンスにあたってはSPCの「ホテルグリーンコア坂東特定目的会社」を設立。リスクの度合いに応じて、3層(シニア・メザニン・エクイティ)の優先劣後構造を設け、資金調達ルートを多様化した。ローリスクのシニア部分は、常陽銀行・商工中金・筑波銀行によるシンジケートローンを組成。中間のメザニン部分は、特定目的会社が発行する社債を常陽銀行と地域経済活性化支援機構(REVIC)が設立した「いばらき商店街活性化投資事業有限責任組合(いばらき商店街活性化ファンド)」が引き受けた。最もリスクの高いエクイティ部分は民間都市開発推進機構(MINTO機構)と金子包装がそれぞれ出資する形とした。MINTO機構からの融資にあたっては、国土交通省から民間都市再生整備事業計画の認定を受けた。こうしたスキームによって「結果的に、通常の融資より有利な条件で、事業者への資金提供ができた」と小松崎氏は話す。

ホテルグリーンコア坂東の資金調達スキーム
(資料:常陽銀行資料より一部抜粋し編集部で作成)
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夕食は地元飲食店に宿泊客を誘導

ホテルの朝食コーナーを一般開放する「街cafe」の案内板(写真:坂井敦)
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 完成したホテルは、設備や運営面においても地域貢献を意識した工夫がみられる。例えば食事は、セルフサービスで朝食のみの提供とし、ホテル内に食事処を設けていない。夕食については近隣の飲食店を紹介するほか、近隣店の食事代をセットにした宿泊プランを用意。宿泊客を地域社会に誘導するように試みている。

 1階の朝食コーナーは、500円で一般の人も利用できるほか、9時から17時までは「街cafe」として開放する。街cafeは300円でドリンク飲み放題、食事の持ち込みも可能で、時間制限はない。近隣住民のなかには“常連客”もいるという。

 同じく1階フロアには、200名を収容できるコンベンションホールも設けた。地元企業の要望を受けて市が設置を求めたもので、企業や団体の会合や歓送迎会などに利用されている。このほか地元農協が開催する朝市に駐車場を提供したり、清掃スタッフも含めた従業員の大半を現地採用したりするなどの試みも実施している。

 地域貢献以外の大きな特徴としては、全20室の「パレットルーム」がある。靴を脱いで過ごす掘りごたつ式のフローリングの居室で、床下の骨組にはグループ会社のダンボール建材が使われている。掘りごたつ部分に天板をはめることで、床面をフラットにでき、布団などが敷ける。主にファミリー層の獲得を狙って設置したもので、土、日はまずこの部屋から予約が埋まるという。

コンベンションホール。隣接する朝食コーナーと一体利用すれば、最大300名まで収容可能(写真:坂井敦)
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ホテルのキーには坂東市のイメージキャラクター「将門くん」がデザインされている(写真:坂井敦)
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掘りごたつ式のパレットルーム。天板をセットするとフラットな空間になる(写真:坂井敦)

工業団地への営業を市もサポート

坂東市の企業立地パンフレット(部分)。ホテルの案内も掲載している(資料:坂東市)
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 もっともホテルの経営は、今のところ赤字が続く。オープンから約5カ月を経た2017年4月時点では、売上げに対して約2割の赤字となっている。しかし金子代表にとって、この数字はある程度想定の範囲だったようだ。「当社グループのホテルは、大手チェーンと違って認知度が低い。新しいホテルの存在が知られるようになるには、どうしても時間がかかる」。実際、開業時に25%程度だった稼働率は、4月時点で45%まで上昇しているという。「稼働率が55%程度になれば採算がとれる。できれば8月ころまでにこの水準を実現したい」(同)。

 利用者はビジネスマンが中心で、全体の約8割を占めるという。「近隣の工業団地に地道に営業を続けたことが、稼働率の向上につながった」と同ホテルの寺田和江マネージャーは説明する。一方、坂東市でも、企業立地や工業団地のパンフレットで同ホテルを紹介したり、工業団地の協議会や商工会の事務局担当者をホテルサイドに紹介したりするなど、ホテルの営業をサポートしている。

 「駅のない街でビジネスとして成功し、街の活性化にも貢献できれば、それは当社にとって貴重なノウハウとなる。まずはここで実績を重ね、いつか同じような悩みを抱える他の自治体でも挑戦してみたい」(ナビの金子祐子社長)。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/052300018/