静岡県藤枝市は、フィトネスクラブ運営のティップネス、静岡産業大学と連携して、昨年4月、市内の蓮華寺池公園の敷地内に、れんげじスマイルホール「キッズパーク」をオープンした。スポーツと健康づくりに特化した独自の子育て支援施設で、初年度13万人と計画の倍を超える集客に成功、現在も入場に整理券が必要な好調ぶりだ。

 静岡県内で数少ない人口増加自治体である藤枝市は、「子育てするなら藤枝」をまちづくりのスローガンに掲げている。そのシンボルで、年に150万人近い来場者がある蓮華寺池公園の第2駐車場内に2016年4月、子供のからだづくりを応援する「キッズパーク」が登場した。移転した高校の体育館を、市が1億2000万円ほどかけて改築・改装したもので、延べ床面積は約680m2。内部は「プレイゾーン」と「スポーツゾーン」に大きく分けられる。

高校の体育館を改修・改装してオープンしたキッズパーク
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 プレイゾーンには様々な遊具が設置されており、小学生までの子供が保護者同伴で体を動かしながら遊べる。藤枝市以外の子供を含め、無料で利用できる。身体感覚を磨く、バランス能力を養う、空間認知能力を高めるなど、健全な発育・発達を促すことがこのゾーンの目的で、静岡産業大学が提唱する「スポーツ保育」の考え方に基づいている。これは文部科学省「幼児期運動指針」の、「幼児は様々な遊びを中心に、毎日合計60分以上、楽しく体を動かすことが大切」に準拠した考え方だ。

プレイゾーンで遊ぶ子供たち。約半数は3歳以下
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 一方、スポーツゾーンでは、子供を中心に大人も参加できる多彩な運動教室が開かれている。「はじめてリトミック」、「はじめてみようストリートダンス」、「女性向けヨガ」……。理学療法士によるシニア層向けの運動教室もある。いずれも有料だ。ほかに健康に関するセミナーなども開催される。

 両ゾーンの運営に当たるのは、首都圏などで60以上のフィットネスクラブを展開するティップネス(東京都港区)。社員1人を常駐させ、総勢12人のスタッフで遊んでいる子供を見守ったり、運動の指導をしたりしている。また静岡産業大学が、遊具選定のアドバイスをしたり、「子供へのかかわり方」といったテーマで、スタッフへの研修を行ったりしている。

キッズパークを運営しているティップネス協業事業部課長代理の山本裕之氏
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「スポーツ保育」の考え方を提唱している静岡産業大学経営学部准教授の山田悟史氏
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 ティップネス協業事業部課長代理の山本裕之氏は、「当社はこれまで子供に対する水泳や体操の指導は手がけてきたが、『スポーツ保育』は新しい分野。主体性を損なわないように、自由に遊んでもらいそれを見守るのが仕事だと考えている。これに対し、スポーツゾーンの運営は得意分野。培ったノウハウを提供していきたい」と語る。静岡産業大学経営学部准教授の山田悟史氏も、「身体能力の向上に加え、積極性・自主性も育つように心がけている。保護者へのアンケート調査でもほとんどの親に支持されている」と話す。

 ティップネスと静岡産業大学は包括連携協定を結んでおり、スポーツ保育を取り入れた独自の運動メニューを開発してキッズパークの利用者で効果を検証、そのエビデンスを、施設の運営や子育て支援の現場などに還元していく。

「子育て世代の定住場所」を旗印に

「当市は、子供が1人、2人いる『子育て世代の定住場所』としてアピールしている。それには子育て支援や教育の充実が欠かせないが、他の都市と差別化も求められる。そこで、スポーツが盛んな土地柄であり、子供の体力低下が課題になっていることを踏まえ、スポーツ保育の場所として『キッズパーク』を開設した」と、藤枝市企画創生部企画政策課主幹の渡邊章博氏は話す。

 開設場所の蓮華寺池公園は、池の周囲に豊かな自然が広がる藤枝市のシンボル的存在で、市は2年前から10億円かけて全面リニューアルに取り組んでいる。子育て世代の来園者を増やそうと付加価値づくりを図り、既に大手コーヒーチェーン、スターバックスのカフェが進出し、集客に貢献している。

藤枝市がリニューアルに取り組んでいる蓮華寺池公園。年間150万人近くが訪れる
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駐車場を挟んだ場所にあるスターバックスコーヒー店とともに、子育て世代の来訪を促す
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「キッズパーク」は付加価値づくりの第2弾。藤枝市は、中心市街地にある図書館やシネマコンプレックスなどで構成される商業ビルを、産官学の連携で整備・運営した実績がある。そこで同様に運営は民間企業に委託し、大学とは事業連携して進めることにした。「からだづくりの効果と集客に、民間のアイデア・ノウハウを生かしてほしい。事業性、採算性の確保には協力していく」(渡邊氏)。

半数超の市外利用者も歓迎

 国の子ども・子育て支援交付金を申請して、年2000万円を運営するティップネスに支払っているのもその一環だ。ティップネスはこのお金とスポーツゾーンで得られる収入で、経費を賄い利益を出す。また改築・改修費用の3分の1はやはり国の社会資本整備総合交付金を活用し、市の負担の軽減を図っている。

 2016年度の利用者についてみると、まず年齢は1歳、2歳、3歳が約半数を占め、小学生は1割ちょっと。居住地別では藤枝市は半分に満たない。焼津市、静岡市など近隣の自治体が半分以上を占める。藤枝市役所の渡邊氏は、「定住人口を呼び込むためには、近隣自治体に住む人に幅広く訪れてもらう必要がある。キッズパークは『藤枝に住みたい』という動機付けの一つになり得る」と評価する。

藤枝市企画創生部企画政策課主幹の渡邊章博氏。「予想以上の集客は産官学連携の成果」と評価する
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 年100回ものイベントを開催したり、フェイスブックで毎日混雑状況を配信しているのも好調な集客の一因だろう。「行くたびに新しい体験ができるように、集客の仕掛けづくりに工夫をしている」とティップネスの山本氏は話す。静岡産業大学の山田氏も、「学術と民間企業が連携した成果だと思う。幼児をはじめ子供のデータは取りにくいので、ここで得られた結果を学術上のエビデンスにまで高めていきたい」と意欲を見せる。

「産官学の連携がうまくいった」と話す藤枝市役所の渡邊氏。次なる展開として、蓮華寺池公園に集まった子育て世代に周辺を回遊してもらい、旧東海道沿いの商店街の活性化につなげたいと考えている。「子育てするなら藤枝」の面では、プログラミング教育などを通して頭脳の育成にも力を入れ、子育て世代に選ばれるための目玉を増やしていきたいという。

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