メニューに一工夫、地元住民の好みを綿密に事前リサーチ

 話は2017年12月にさかのぼる。南伊勢町は海のない県で海産物の需要を拡大しようと、東近江市と互いの地場産品の販路開拓や、新商品開発などに関する地域連携協定を締結した。もともとは東近江市の小椋正清市長が市内の市場に「海の幸を充実させたい」と考え、三重県南伊勢町との交流が始まったことに端を発する。東近江市で開催されるイベントに南伊勢町の海産物を並べたところ評判が高く、需要があると判断して締結に至った。

南伊勢町と東近江市の位置
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サバの冷たい薫製など、南伊勢から海産物は下処理した状態で納品される。調理の手間を省くのとともに、南伊勢町での雇用につながっている(写真:寺尾 豊)
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東近江では新鮮な海産物の需要が高かった。どのような種類の魚や調理法が好まれるのかを開業前にリサーチした。写真は楓江庵で提供している刺身の盛り合わせ(写真:寺尾 豊)
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「テナントを募集しても最初の2年間は応募者ゼロでした」と語る八日市まちづくり公社の山下慎吾氏(写真:寺尾 豊)

 一方、東近江市や八日市商工会議所、地元商店街組合などで組織する八日市まちづくり公社は、本町商店街の空き家となった民家を商業スペースに改造、テナントの募集を開始していた。だが、2017年から4回公募したが、手を挙げるところはなかった。商店街の人すら知らないような奥まった場所に、積極的に出店しようと言う飲食店はなかった。八日市に出すくらいなら近江八幡か彦根に出店するという声もあった。

 そこで地域活性化事業を手がけるエフライズ(本社:東近江市、社長:小川伸司氏、資本金:900万円)がテナントとして入り、南伊勢町の食材を使った飲食店を運営することになった。南伊勢町の食材の魅力があれば、うまくいくとエフライズは考えたわけだ。その狙いは当たり、連日、にぎわいを見せる店となった。2019年5月には後述のように2店舗目を開業。合わせて月間300万円の売り上げがあるという。

「どんな魚をどんな風に提供したらいいかを徹底的に調査しました」と語る南伊勢町役場の島田将秀係長(写真:寺尾 豊)

 勝算がなかったわけではない。これまで開かれたイベントで、海産物への関心が高いことは分かっていた。そこで南伊勢町からは実験的に、いろいろなものを持ち込んで販売してみた。川魚には馴染みのある東近江市民も、海の魚をいざ目にすると抵抗を見せることがあったという。特に丸ごと売ったのでは、ウロコや内臓の処理をした経験が少なく、切り身にしたほうがいいということが分かった。また一夜干しや薫製など加工した魚は調理しやすく、人気があることも分かった。

 こうしたリサーチ結果が、楓江庵で提供するメニューのうち8割を、南伊勢町で食材の下処理をして運ぶことにつながっている。下処理を担当するのは南伊勢町が設立した地域商社、株式会社みなみいせ商会だ。ここでは15人の雇用に結びついたという。

 また、サバの人気が高いなど、どの種類が好まれるかを調べた結果も反映されている。事前調査があってこそ、繁盛店が生まれたのであって、ただ新鮮な海の幸を売りものにする飲食店では成功しなかっただろう。

楓江庵のメニュー「サバの冷たい燻製」。サバ街道沿いの東近江でも馴染みのあるサバを、南伊勢ならではの加工を施して提供したことが人気につながった(写真:寺尾 豊)
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