2自治体のメリットが一致して実現

 同じ県や同じ市であっても、スムーズに事業が展開できるとは限らない。県をまたいでの広域連携というのは全国的に見ても珍しい。なぜ、成立したのだろうか。まず、2017年から続く、互いの地場産品の販路開拓や、新商品開発などに関する地域連携協定があったことが大きい。南伊勢町としては、海産物の販路拡大の事業モデルを構築したいという狙いがあった。東近江市にしても、イベント会場の集客の目玉として海産物を並べることは効果が高い。お互いにメリットがあったわけだ。

東近江市商工観光部の栗田豊一課長補佐は「南伊勢と東近江は見事に重なっていないデコとボコの関係なんです」と相性の良さを強調する(写真:寺尾 豊)

 もう1つ、それぞれの特徴が重なっていないことも大きい。そもそも、里山と湖の広がる東近江市と、漁業中心の伊勢町の景色は大きく異なる。お互いが相手を観光地として魅力的に感じている。食材も同様で、近江牛は南伊勢町民にとって魅力的であり、南伊勢町のみかんやイチゴなどは、東近江市民にとって果物狩りに出かけたくなるアイテムだ。ほとんど重ならないという関係はありそうでない。“相思相愛”へと発展するのに、時間がかからなかったとしても不思議はなく、これからも良好な関係は続くだろう。

 この5月17日、「ビストロ楓江庵」がオープンした。東近江市役所近く、閑静な住宅街の中にある。もともと、民家だったところを改造したもので、いわゆる一軒家レストランだ。板塀で建物が囲まれており、赤い大きな暖簾を見るまでは、そこが飲食店とは気づかないかもしれない。室内35席のほかに、屋外にウッドデッキ24席があり、風を感じながらイタリアンを楽しめる。東近江の農産物と南伊勢の海産物の調和を楽しめる2店舗目だ。さらに湖南地区に3店舗目の出店を計画している。飲食を柱とした地域活性事業には順風が吹いている。

東近江市役所近くの住宅街に楓江庵の2店舗目が5月に開業した(写真:寺尾 豊)
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 東近江と南伊勢。良好な関係を足掛かりに、次なる展開へと夢が膨らんでいる。東近江は南伊勢との連携を機に、名古屋を始めとする中京市場へ、農産物などの産品を売り込みたいと考えている。逆に南伊勢からは、湖南地域を足がかりに、その先にある京阪市場へと海産物の販路を拡大したいと計画している。2つの地域が結びついて活性化することで、さらなる商圏拡大の可能性が広がる。伊勢からの旅人は、新たな近江商人への道を切り開いたことになる。よく探せば日本全国にも、“化学融合”で発展しそうな組み合わせが、あちらこちらに残されているかもしれない。