泉大津市と南海電気鉄道は、南海本線・泉大津駅近くの高架下に、広場やコンテナ型のユニット建築物などから成るにぎわい施設を整備した。市が掲げる「アビリティタウン構想」に資する施設を目指している。

 泉大津市と南海電気鉄道(大阪市中央区)は2020年3月20日、市内の南海本線高架下に約1100m2の広場「MONTO PARK(モントパーク)」を開設した。また、広場に隣接して整備された約250m2の施設エリア「OZU ROOF(オズルーフ)」は、新型コロナウイルス感染症拡大の影響で開業を延期していたが、6月5日にプレオープンした。OZU ROOFには増減築や移動が容易なコンテナ型の建築物「Archipelago(アーキペラゴ)」を5棟設置した。こちらは南海電鉄の事業エリアだ。

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多目的広場のMONTO PARK。名称は「門」と「公園」を組み合わせたもの。「門」には、泉大津駅側から松ノ浜駅側へ伸びる高架下空間の「入口」などの意味が込められている(写真上:赤坂 麻実、下:日経BP)
多目的広場のMONTO PARK。名称は「門」と「公園」を組み合わせたもの。「門」には、泉大津駅側から松ノ浜駅側へ伸びる高架下空間の「入口」などの意味が込められている(写真上:赤坂 麻実、下:日経BP)
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 泉大津市は、健康増進の選択肢を幅広く取りそろえることを目指すまちづくり「アビリティタウン構想」を推進しており、高架下をその拠点にしたい考えだ。例えば、「アビリティタウン構想の主要事業の一つである「あしゆびプロジェクト」に関連して、子供たちがはだしで遊べる人工芝エリアを設けるなどしている。今後、市民が無料で足型を計測できる設備の導入も予定している。

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左写真は泉大津市が「あしゆびプロジェクト」の一環で、市内の幼稚園児らに提供している足袋型シューズ「NINTABI」。毛布の縁を使って作る「モフ草履」などと合わせ、市では足指が鍛えられる履物を推奨している。上写真は泉大津市都市政策部の山野真範部次長(写真左:日経BP、写真上:赤坂 麻実)
左写真は泉大津市が「あしゆびプロジェクト」の一環で、市内の幼稚園児らに提供している足袋型シューズ「NINTABI」。毛布の縁を使って作る「モフ草履」などと合わせ、市では足指が鍛えられる履物を推奨している。上写真は泉大津市都市政策部の山野真範部次長(写真左:日経BP、写真上:赤坂 麻実)
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 南海電鉄はこのような市側の意向に賛同し、広場と施設エリアの企画・設計・施工を行った。泉大津市都市政策部都市づくり政策課部次長兼課長(成長戦略担当)の山野真範氏は「民間事業者(である南海電鉄)は市民のニーズをよく把握している。ニーズに合致し、よく利用される場所にするため、企画から設計、整備工事まで、南海電鉄に委託した」と説明する。

 運営は、広場を市が、施設エリアを南海電鉄が担当する。土地はいずれも南海電鉄が所有しており、広場部分は同社が泉大津市へ無償貸与した。無償貸与は、2017年に完了した連続立体交差事業に伴う協定に基づくものだ。MONTO PARKの整備費は約2660万円で、市が全額負担している。

広場の設計にも創造性引き出す意図

 MONT PARKはアーチ状の構造物を配置した「アーチ広場」と、はだしで遊べる「芝生広場」、芝生のステージを設けた「イベント広場」から成る。OZU ROOFとの間には、開閉可能なフェンスを設置した。イベントの際には両スペースを一体的に使うことも可能という。

MONTO PARK内の芝生広場。この人工芝は、市内の繊維メーカーが開発したもの。泉大津市は、毛布の国内生産日本一を誇る(写真:赤坂 麻実)
MONTO PARK内の芝生広場。この人工芝は、市内の繊維メーカーが開発したもの。泉大津市は、毛布の国内生産日本一を誇る(写真:赤坂 麻実)
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南海電鉄の貝谷力氏(右)と松本新氏(左)。「数百メートルにわたって続く高架下のような土地は他にないので、このMONTO PARK、OZU ROOFを皮切りに、その使い方の面白さを追求していきたい」(松本氏)と語る(写真:赤坂 麻実)
南海電鉄の貝谷力氏(右)と松本新氏(左)。「数百メートルにわたって続く高架下のような土地は他にないので、このMONTO PARK、OZU ROOFを皮切りに、その使い方の面白さを追求していきたい」(松本氏)と語る(写真:赤坂 麻実)
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ジオ-グラフィック・デザイン・ラボの前田茂樹代表。泉大津市とは2021年に移転開設予定の市立図書館プロジェクトで関わりを持った(写真:赤坂 麻実)
ジオ-グラフィック・デザイン・ラボの前田茂樹代表。泉大津市とは2021年に移転開設予定の市立図書館プロジェクトで関わりを持った(写真:赤坂 麻実)
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 南海電鉄は、広場の設計においても、アビリティタウン構想の拠点としてのあり方を意識した。同社都市創造本部PM事業部課長の貝谷力氏(当時。現・グループ統括室広告宣伝部課長)は「使い方の決まった遊具などを配置するのではなく、子どもたちが自ら遊び方を考え出せるような場所にしたかった」と話す。

 南海電鉄から設計を請け負ったジオ-グラフィック・デザイン・ラボ(大阪市中央区)の前田茂樹代表は、設計意図を次のように語る。「市と南海電鉄の考えを受けて、実験的な遊具(アーチ状の構造物)を設置することにした。道行く人に、この場所が『変わった』と印象づけることも大切だと考え、構造物はフェンスより背の高いもの(2.5m)にし、緑を基調に配色した」。

 高架の柱は子どもたちにケガがないように樹脂で被覆している。「森のような空間で、子どもたちがかくれんぼなど様々な遊びを楽しめる。柱をただ柱と見れば、公園にはジャマな存在かもしれないが、木立に見立てれば魅力的な空間に変わる。想像力しだいで、高架下の可能性を広げられる場所になった」(前田氏)。

 前田氏は、駅前商業施設内へ移転することが決まった泉大津市立図書館の設計プロポーザルの審査委員を務めており、図書館で随時開かれる市民ワークショップにも参加してきた。同氏は「ワークショップで高架下施設の話をしたところ、本の読み聞かせや(子供が会社経営を体験する)子ども商店プロジェクトなどで利用してみたいとの反響があった。また、気軽に腰を下ろせる段差があると人が集いやすいなど、設計に関する意見も聞かれた」と地元密着で進めた設計過程を振り返る。

MONTO PARK内のアーチ広場。多様なアクティビティを誘発する目的で、アーチ状の構造物が設置されている(写真:日経BP)
MONTO PARK内のアーチ広場。多様なアクティビティを誘発する目的で、アーチ状の構造物が設置されている(写真:日経BP)
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MONTO PARKは10時から18時まで開放。日没後は照明が点灯する(写真:日経BP)
MONTO PARKは10時から18時まで開放。日没後は照明が点灯する(写真:日経BP)
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 MONTO PARKは定休の木曜日を除き、毎日10時から18時まで開放され、地域の子どもたちの遊び場になっている。南海電鉄都市創造本部施設部課長補佐(当時。現・開発事業部課長補佐)の松本新氏は「思った以上に様々な遊び方をしている姿が見られる。高架に十分な高さがあるので、日光がふんだんに入って明るい点もよかったのではないか。構造物の緑色は黒板塗料なので、イベントの際にはチョークで落書きを楽しんでもらうことも想定している。今後、市民の皆さんにこの場をどう活用してもらえるのか、興味深く見守っている」とした。

 南出市長も広場を使った市民活動に期待を寄せている。「高架下は屋根付きの屋外空間。天候に左右されずにイベントの予定が立つ利点がある。例えば、毎週土曜にはマルシェが開かれるなど、定期的な催しが根付けば、この場所の存在が広く市民に知られるようになるだろう」と話す。

 都市政策部の山野氏によれば「イベントでの施設利用料は、例えばキッチンカーを1日(数時間)出店して300円など、低価格に抑える方向」だという。

市と民間事業者5社で高架下活用の協定

 泉大津市はMONTO PARKとOZU ROOFの活用に向けて、2020年2月20日、南海電鉄、ドリーム・ジーピー(大阪市浪速区)、屋根裏(大阪市浪速区)、田村駒(大阪市中央区)、ファイテン(京都市伏見区)の5社と協定を結んだ。

アーキペラゴが建ち並ぶOZU ROOFの様子。アーキペラゴは大きさが世界共通のコンテナ規格と同じで、輸送しやすいという。泉大津駅からMONTO PARK、OZU ROOFまでは、高架下に沿って徒歩5分ほどだ(写真:日経BP)
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アーキペラゴが建ち並ぶOZU ROOFの様子。アーキペラゴは大きさが世界共通のコンテナ規格と同じで、輸送しやすいという。泉大津駅からMONTO PARK、OZU ROOFまでは、高架下に沿って徒歩5分ほどだ(写真:日経BP)
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アーキペラゴが建ち並ぶOZU ROOFの様子。アーキペラゴは大きさが世界共通のコンテナ規格と同じで、輸送しやすいという。泉大津駅からMONTO PARK、OZU ROOFまでは、高架下に沿って徒歩5分ほどだ(写真:日経BP)
OZU ROOFに入居した「My Foot station 泉大津店」による、子供向け「あしゆびプロジェクト」の啓発イベントの様子(写真提供:ドリーム・ジーピー)
OZU ROOFに入居した「My Foot station 泉大津店」による、子供向け「あしゆびプロジェクト」の啓発イベントの様子(写真提供:ドリーム・ジーピー)
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 ドリーム・ジーピーは足型を3次元計測し、計測データに基づいて作製した靴やインソールなどの商品を販売する事業者。OZU ROOFに設置されたアーキペラゴ3棟を使って「My Foot Station 泉大津店」を開く。

 屋根裏はOZU ROOFに設置されたアーキペラゴの開発元。アーキペラゴ2棟を使って、体験宿泊も可能なショールームを開設する。ファイテンは、このショールームに「アクアチタン」と呼ぶ独自開発の素材や、フットマッサージ器「ソラーチ」を提供する。繊維商社の田村駒は、ショールームの開設と運営を支援する。。

 ドリーム・ジーピー代表取締役の荒山元秀氏は、泉大津市での事業展開に意気盛んだ。「われわれは15年前から足の研究に取り組んできた。泉大津は、市長が旗振り役になって実証実験フィールドを提供しているのが他の都市にない特徴で、行政ではなかなか実現できないようなことも可能になった。例えば、幼稚園で子供たちの足型を計測することができ、研究に役立った。今後は、市民の足型の3次元計測データが市の健康管理データベースに蓄積されていく。そのビッグデータをAIで解析し、解析結果を官民連携で市民の健康増進のために活用していきたい」。

ドリーム・ジーピーの荒山元秀社長。「泉大津のサステナブルな都市づくりに社を挙げて協力したい」と語る(写真:赤坂 麻実)
ドリーム・ジーピーの荒山元秀社長。「泉大津のサステナブルな都市づくりに社を挙げて協力したい」と語る(写真:赤坂 麻実)
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 同社は現在、ユーザー自身の操作で足型の3次元計測が行える装置を開発中だ。今回の高架下施設への導入を目指しており、その後は、泉大津駅前に移設される新図書館など、人が集まる市内の各所に設置を進める考えだ。

 荒山社長は「これによって、気が向いたときにいつでも足を計測できる街が実現する。当社では計測データがあれば、AIによる自動設計のインソールが30分で完成する。これまで靴はメーカーが大量に生産し、大量に販売するのが当たり前だったが、今後は一人ひとりの足に合わせて靴を作るカスタマー・トゥ・マニュファクチャーの形に変わっていくはずだ」と意気込む。

泉大津市と南海電鉄、四半世紀にわたる連携

 泉大津市と南海電鉄の連携は、1995年に都市計画決定した連続立体交差事業に始まる。同事業は、都市計画道路松之浜曽根線から大津川右岸までの約2.4km区間において、鉄道高架化工事と関連側道整備工事を実施したもの。大阪府が事業主体となり、側道工事や用地買収などを泉大津市が、鉄道工事を南海電鉄が手掛けた。連立事業を進めるなかで、3者は2016年に高架下公共利用に関する協定を結んでいた。

 また、南海電鉄は2017年3月に泉大津駅前の高架下に商業施設「N.KLASS(エヌクラス)泉大津」を開業。この際も市と南海電鉄は連携し、市が整備する歩道のデザインは、N.KLASSとマッチするように、南海電鉄が描いたイメージイラストをもとに設計者へ発注された。その設計者も、南海電鉄の委託先と同じ事業者が選ばれている。一連の事業で培われた協働関係が、今回の高架下開発にもつながった。

N.KLASS泉大津。店舗前面の遊歩道で駅から街へ回遊しやすくなっている。遊歩道と市が整備した歩道のデザインに連続性を持たせた(写真:日経BP)
N.KLASS泉大津。店舗前面の遊歩道で駅から街へ回遊しやすくなっている。遊歩道と市が整備した歩道のデザインに連続性を持たせた(写真:日経BP)
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N.KLASSの高架下店舗の並びに市の子育て支援施設「ココフレア」と市営駐輪場が整備されている。これらは南海本線の高架化に伴う公共利用分の一端だ。ココフレアはセントラルスポーツが指定管理者となって運営しており、入口は写真奥のスポーツクラブ「セントラルスポーツジムスタ24」と共通化している。写真は新型コロナウイルスの影響で休業時のもの(写真:日経BP)
N.KLASSの高架下店舗の並びに市の子育て支援施設「ココフレア」と市営駐輪場が整備されている。これらは南海本線の高架化に伴う公共利用分の一端だ。ココフレアはセントラルスポーツが指定管理者となって運営しており、入口は写真奥のスポーツクラブ「セントラルスポーツジムスタ24」と共通化している。写真は新型コロナウイルスの影響で休業時のもの(写真:日経BP)
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 N.KLASSの高架下店舗の並びには、市の子育て支援施設「ココフレア」と市営駐輪場が整備されている。これらは南海本線の高架化に伴う公共利用分の一端だ。ココフレアの入口は写真奥のスポーツクラブ「セントラルスポーツジムスタ24」と共通化。セントラルスポーツが駅前広場とココフレアの指定管理者となり、一体的に運営している。

 泉大津市の山野氏によれば、広場整備の構想自体も、駅前商業施設の開業がきっかけになっているという。「当初、MONTO PARKを整備した場所には駐輪場などを作る予定だったが、駅前に商業施設や広い通りができて考え方を変えた。商工会議所などが駅前でイベントを行う際に、高架下の空いたスペースを借りたいと申し出るようになり、イベントにも使えるような広場が、市民の側からも求められているのを感じた。また、市としてアビリティタウン構想の実証フィールドが欲しかったこともあり、広場整備の方針が固まった」。

泉大津市と南海電鉄の協議で、植栽やタイルなど歩道の魅力を向上(写真:日経BP)
泉大津市と南海電鉄の協議で、植栽やタイルなど歩道の魅力を向上(写真:日経BP)
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 南海電鉄の貝谷力氏は、南海電鉄にとっては今回の事業は「チャレンジ」の位置づけだと話す。「当社では、高架下の空間活用といえば、これまで駐車場や倉庫が中心だった。しかし、この泉大津の高架下は、(繁華街の)難波からも関西国際空港からも近いという地理的な優位性があり、かつ行政の積極的な協力が得られる。高架下で新しいチャレンジをするなら泉大津が適しているということで、今回のプロジェクトに乗り出した」。南海電鉄では、OZU ROOFの開発・運営などで得られた知見を、同社の他の高架下開発に今後生かしていく方針だ。

泉大津市(いずみおおつし)
泉大津市(いずみおおつし)
大阪府の南部に位置し、北部・東部は高石市と和泉市、南部は大津川を境として泉北郡忠岡町と隣接している。7万4420人(2020年年6月1日現在)、13.67km2。毛布の生産量は全国1位。市によると国内で生産される毛布の約90%が泉大津とその近隣地域で生み出されているという
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この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/062900157/