書籍『クアオルト・リテラシー』(日経BP、2021年4月発行)の一部を再構成。

ドイツ生まれの健康法であるクアオルト健康ウオーキング*を活用し、市民の健康づくりや総合的なまちづくりに取り組む自治体が増えている。日本クアオルト研究所によれば、同ウオーキングに取り組んでいる自治体は全国で20団体。69の専門コースがつくられている(2021年6月末現在)。

そんな中、恵まれた自然環境や食材などを活用し、質の高い健康保養地(日本型クアオルト)となることを目指し、“クアオルト・プロジェクト”に取り組んでいるのが三重県志摩市。健康、運動、休養という3つの言葉をキーワードに、住民の健康増進と観光誘致を図る一方、その移動手段にMaaS(次世代移動サービス)を駆使するなど、様々な施策にクアオルト健康ウオーキングを取り入れた活動をしていることで注目を集めている。プロジェクトの推進役である同市観光課に、同ウオーキング導入の狙いや今後の展開について聞いた。

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志摩市では2018年よりクアオルト健康ウオーキングを活用し、質の高い健康保養地「日本型クアオルト」の実現を目指している(写真:志摩市)
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志摩市では2018年よりクアオルト健康ウオーキングを活用し、質の高い健康保養地「日本型クアオルト」の実現を目指している(写真:志摩市)
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志摩市では2018年よりクアオルト健康ウオーキングを活用し、質の高い健康保養地「日本型クアオルト」の実現を目指している(写真:志摩市)

海を感じる2つの専門コース

――志摩市では2019年に「横山天空コース」と「ともやま公園コース」の2つの専門コースがオープンしました。導入のきっかけは何だったのですか?

 2017年に新潟県妙高(みょうこう)市で開催された国立公園関係都市協議会定期総会に出席したとき、紹介された同市の日本型クアオルトへの取り組みに感銘を受けたのがきっかけでした。

 志摩市は市全体が伊勢志摩国立公園に指定され、起伏に富んだ地形や豊かな自然、美しい風景に恵まれ、クアオルト健康ウオーキングに取り組むには最高の立地です。温浴施設や真珠の養殖、海女小屋などの観光資源や、伊勢海老やアワビなどの食材も豊富で、ウオーキングと組み合わせた取り組みに可能性を感じました。その後、既に導入していた自治体や企業と情報共有しながら、志摩市ならではの「日本型クアオルト」を検討していきました。

――完成したコースにはどんな特徴がありますか?

 「横山天空コース」は、64の島々が点在する英虞(あご)湾の絶景を一望でき、景色を満喫しながらリラックスして歩けます。コースの途中に横山天空カフェテラスがあってそこでコーヒーを飲んだり、鰹バーガーなどの地域の食材を使った食事も楽しんだりできます。もう1つの「ともやま公園コース」もサンセットの景観で有名な写真スポットで、海の国立公園の志摩市らしく、潮風を感じながら歩くことができます。

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全長約2キロメートル、累積高度差124メートルの「横山天空コース」。複雑なリアス海岸の英虞湾を一望できる横山展望台を目指す(写真・資料:4点とも志摩市)
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全長約2キロメートル、累積高度差124メートルの「横山天空コース」。複雑なリアス海岸の英虞湾を一望できる横山展望台を目指す(写真・資料:4点とも志摩市)
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全長約2キロメートル、累積高度差124メートルの「横山天空コース」。複雑なリアス海岸の英虞湾を一望できる横山展望台を目指す(写真・資料:4点とも志摩市)
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サンセットで有名なスポットもある「ともやま公園コース」では、海をさらに近くに感じることができる(写真・資料:3点とも志摩市)
サンセットで有名なスポットもある「ともやま公園コース」では、海をさらに近くに感じることができる(写真・資料:3点とも志摩市)
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* クアオルト健康ウオーキングとは、ドイツのクアオルト(療養地・健康保養地)で利用されている自然を生かした運動療法(気候性地形療法)を、日本の気候や地形に合わせて行うウオーキングのこと。野山の斜面などにつくられた専門コースを専門ガイドと共に歩く。市民の健康増進の施策として有効であることはもちろん、地域資源を生かした独自のプログラムをつくれることも魅力の1つだ。

SDGs未来都市づくりにクアオルトを活用

――2018年の「太陽生命クアオルト健康ウオーキングアワード」の受賞では、SDGsへの取り組みにクアオルトを活用した施策が評価され、導入の支援を受けられることになりました。

 志摩市は、「日本の豊かな自然と伝統文化の原風景が残る地域」として評価され、2016年の伊勢志摩サミット開催地になりました。会議ではSDGsが議題に上がり、志摩市でも歴史や文化、環境を生かした「SDGs未来都市」に向け、舵を切りました。SDGsの17の目標に関わる成果指標などを活用して、豊かな自然環境を保全し、志摩市の基幹産業である観光業と御食国(みつけくに)として歴史のある食材を生み出す農林水産業などと連携しながら、持続可能なまちづくりを進めています。そのエンジンの1つになるのが、クアオルト健康ウオーキングです。

 導入のきっかけは、地域資源を活用した住民の健康増進と誘客ですが、市内の農林水産・観光事業者と連携しながら、観光で志摩市らしい、魅力あふれる「日本型クアオルト」を実現したいと思っています。

■志摩市が日本型クアオルトの実現を目指した背景
  • SDGs未来都市に選定されており、その取り組み内容がクアオルトとの親和性が高い
  • 豊な自然があり、伊勢志摩国立公園など環境に配慮された地域である
  • 自然、食、伝統文化、温泉、リゾート施設など特色ある農林水産・観光資源がある

――SDGsの17の目標を見ると、「3=すべての人に健康と福祉を」「8=働きがいも経済成長も」「9=産業と技術革新の基盤をつくろう」「11=住み続けられるまちづくりを」「14=海の豊かさを守ろう」「17=パートナーシップで目標を達成しよう」など、市の進めるSDGsとクアオルトは親和性が高いですね。

 今、多くの企業でSDGsに取り組んでいますので、連携して産業育成の他、健康増進や健康経営などを実現させたいと思っています。例えば、健康経営に取り組んでいる百五銀行とは、同市と連携協定を結び、行員の方の健康のために、クアオルト健康ウオーキングを実施しています。

――百五銀行は経済産業省が認証する「ホワイト500(健康経営優良法人)」を3年連続で取得している県内企業ですね。

 従業員の満足度を上げ、若い人の採用につながることもあって、企業の健康経営への関心は高まっています。ホワイト500は健康経営に積極的な企業を計る1つの物差しになっており、クアオルト健康ウオーキングへの取り組みは、認証のためのポイントにもなります。

 市では、大企業向けのホワイト500の他、中小企業向けのブライト500の企業の認証取得を推進しながら、健康経営やワーケーション、従業員の福利厚生に取り組む企業に、志摩市でのクアオルト健康ウオーキングの活用を働きかけていきたいと思っています。

――これは保険料や医療費の削減にも役立ちますね。

 保険財政は国も自治体も厳しい。医療費も含め、削減していく必要があります。そのためには、まずは病気になる前に予防対策をやっていくことが大切です。クアオルト健康ウオーキングはその解決策にもなります。今、志摩市ではアオサやヒジキなど、体に優しい地元の食材を使った健康食材弁当を作っていて、企業や旅行客にも売り込んでいく予定です。伊勢志摩国立公園の自然の豊かなコースを歩いてもらい、地域のおいしい食材を味わってリフレッシュしてもらえば、病気の予防や健康増進にも役立つはずです。

民間事業者との連携により販売を開始した「御食国(みけつくに)志摩の健康食材弁当」。志摩の魚や海藻が用いられている。クアオルト健康ウオーキングをはじめとする市内でのスポーツイベントなどで販売している(写真:志摩市)
民間事業者との連携により販売を開始した「御食国(みけつくに)志摩の健康食材弁当」。志摩の魚や海藻が用いられている。クアオルト健康ウオーキングをはじめとする市内でのスポーツイベントなどで販売している(写真:志摩市)
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MaaSも導入、日本型クアオルトを観光に生かす

――2019年に近鉄グループと連携協定を結んで推進している「志摩MaaS」でも、クアオルト健康ウオーキングのコースが目的地になっていますね。

 志摩には英虞湾を望む横山展望台や外国人にも人気のある海女小屋、あるいは大王埼灯台など、観光スポットが点在しており、駅からの移動手段が必要でした。2020年1月から3月にかけて、志摩MaaSアプリ「ぶらりすと」を使った実証実験を行いました。アプリに目的地を入れると移動手段が検索できて、予約をして決済までできる仕組みです。

 例えば、「横山天空コース」には、オンデマンドバスやオンデマンドタクシーに乗車して接続できるようにしました。4日間有効の「伊勢・鳥羽・志摩デジタルフリーパス」は、近鉄の乗車券や各種施設の入場割引券がセットになって大人6000円で提供され、好評でした。志摩MaaSの第2弾の実証実験は同年3月で終了しましたが、今後、伊勢志摩エリアに拡大され、かつデジタルフリーパスが使えるようになれば、クアオルト健康ウオーキングを楽しむ旅行者獲得にも追い風になると思います。

――今後のクアオルトの普及に向け市ではどんなことに取り組んでいますか?

 クアオルト健康ウオーキングは、一緒に歩くことで親交が深まり、参加者の一体感も生まれます。企業のチームビルディングや取引先企業との交流にも使えます。2020年の秋から三重県が県内の自治体と連携し、ワーケーションも推進しています。志摩市でも伊勢志摩リゾートマネジメントと連携して、複合リゾート施設のネムリゾートでクアオルト健康ウオーキングを活用したモニターツアーが行われるなど、新しい試みがスタートしました。コロナ禍により、一般向けの「毎月ウオーク」の参加人数を制限する事態になるなど、先行きの不透明感はありますが、ポストコロナに向け、健康増進と誘客につなげる様々な施策にチャレンジしていきたいと思います。

志摩市では、クアオルト健康ウオーキングとヨガを組み合わせて、海洋性の気候を活用するプログラムも開発中だ(写真:志摩市)
志摩市では、クアオルト健康ウオーキングとヨガを組み合わせて、海洋性の気候を活用するプログラムも開発中だ(写真:志摩市)
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*「クアオルト」「気候性地形療法」は登録商標です。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/070500184/