「メガソーラービジネス」2017年7月4日付の記事より

 鹿児島県の北端に位置する湧水(ゆうすい)町は、霧島連峰と九州山地に囲まれた盆地で、川内川の流域には水田が、山の斜面には茶畑が広がる。冷水の湧き出る複数の池があり、町名の由来となった。水道の水源や、水田の灌漑用水として利用されている(図1)。

図1●鹿児島県湧水町は名水で知られる
(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]

ゴルフ場開発が頓挫した遊休地

 ソフトバンク子会社の再生可能エネルギー事業などを手掛けるSBエナジー(東京都港区)は6月1日、この湧水町にメガソーラー(大規模太陽光発電所)「ソフトバンク鹿児島湧水ソーラーパーク」を完成し、運転開始式を開催した。

 太陽光パネルの設置容量は約32.3MW、連系出力は23MWとなる。稼働後の年間発電量は、一般家庭約9883世帯分の消費電力に相当する、約3558万2000kWhを見込んでいる。

 事業用地はかつて民間企業がゴルフ場開発を進めたが、未完成のまま頓挫した経緯がある。町が買い取り、再開発を目指したが、未利用のままになっていた。

 式典には、湧水町の池上滝一町長など、約80人が出席した。「長い間、町の懸案だった未利用地が、クリーンな電気を生み出す太陽光発電所になり、まさに感無量だ。二酸化炭素削減への貢献は、町の進める環境政策にも沿っている」。池上町長はこう述べた(図2)。

図2●運転開始セレモニーの様子
(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]

5万6800m3の大規模な調整池

 SBエナジーの藤井宏明副社長は、「計画から5年かかったが、町と共存し、安全と環境保護に資する発電所が完成した。湧水町は豊富な湧き水で有名。大規模な調整池を適切に運用するなど、町と共に名水を守っていきたい」とあいさつした。

 メガソーラーの竣工式に関わらず、藤井副社長が太陽光パネルでなく「大規模な調整池」について触れ、「水を守る」ことを強調したのには、この地域特有の背景がある。

 湧水町や隣接する霧島市は、日照に恵まれているうえに、ゴルフ場の開発跡地など広大な遊休地も多く、全国有数のメガソーラーの建設地になっている。一方で、この地域に独特の白い火山灰土壌(シラス)に覆われているエリアが多く、林地開発によって保水力が低下すると、表面流水で土壌が流出しやすいという特徴がある。

 実際、霧島市では、メガソーラーの建設現場から大雨の後に濁水が流れて川が濁るなど、新聞で度々報道され、周辺の農家などが対策を申し入れるケースも出てきた。

 「鹿児島湧水ソーラーパーク」は、約36.2haの敷地に太陽光パネル約12万4000枚を並べるとともに、3つの調整池を設置した。敷地内に深さ約1mのU字側溝を整備して調整池に雨水を貯め、土砂を沈殿させたうえで外部に流すようにした。3つの調整池の貯留能力は、合計で約5万6800m3に達する(図3)。

図3●「ソフトバンク鹿児島湧水ソーラーパーク」の全景
(出所:SBエナジー)
[画像のクリックで拡大表示]

「林発」制度が求める森林と調整池

 丘陵の林間を上り、同ソーラーパークの敷地に入ると、まず目に付くのは、太陽光パネルではなく、コンクリートで固められた約2万m3もの巨大な調整池だ。池の中央には、放水量を調節するための雨水オリフィス(孔口)枡が据え付けられている(図4)。

図4●発電所に入ると約2万m3の巨大な調整池が目に入る
(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]

 これらの大規模な調整池は、森林法に基づく林地開発許可制度に対応し、鹿児島県森づくり推進課の指導を経て設計したものだ。開発着手から完成まで約5年を費やしたのは、同制度に対応するため、慎重に設計を進めたという面が大きいという。

 同制度は、森林開発による災害や水害を防ぎ、水や環境を守ることを目的とする。1ha以上の開発行為が対象となる。具体的には、一定割合の森林を残すことに加え、土木工事に伴う法面の勾配、排水施設、調整池などに関して技術基準が定められている。

 太陽光発電所も1ha以上の規模であれば対象となり、残置森林の割合(森林率)は25%以上が求められる。森林率は、開発目的に応じて定められており、スキー場は60%以上、ゴルフ場は50%以上。太陽光発電所は、「工場・事業場」の25%以上が適用される。

調整池の容量は一律に決まらない

 「鹿児島湧水ソーラーパーク」の場合、パネルを設置してフェンスで囲ったエリアは約36.2haとなるが、町から賃借した事業用地全体は約51.4ha。事業面積が敷地面積を超えるのは、フェンスを囲むように残置森林を設けているからだ(図5)。

図5●フェンスを囲むように残地森林がある
(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]

 一方、調整池の容量は、目的や開発規模で一律に決まっているわけではない。技術基準では、「下流の流下能力を考慮の上、30年確率で想定される雨量のピーク流量を調整できること」と規定されている。

 つまり、30年に1回の大雨でも開発地の下流域で洪水が起こらないことを前提としている。例えば、開発地に降った雨が流れ出る川が細く堰が低いなど、一定の時間に水を流せる「流下能力」が小さいと一時的に雨水を貯めて置く調整池に大きな容量が必要になる。加えて、隣接地からも開発地に雨水が流れ込むような地形の場合、その分も含めて調整池の容量を確保しておく必要がある。

 残置森林の配置や、調整池の設計には、周辺の地形や河川などを綿密に調査する必要があり、林地開発許可制度や河川管理を所管する県の担当部署と十分に協議を重ねて、適切な設計について指導を受ける必要がある。

調整池が大規模になったワケ

 「鹿児島湧水ソーラーパーク」は、南側に1つ、西側に2つの調整池があり、それぞれ約2万7000m3、約2万m3、約9000m3の容量の水を貯められる。敷地内に降った雨のうち、浸透しなかった表面流水は、U字側溝からどれかの調整池に流れ込む(図6)。

図6●深さ約1mものU字側溝で表面流水を集める
(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]

 調整池から先の水の流れは、まず700~800mの管路から、沢を経て河川に流れる。県の河川課がこの間で最も流下能力の小さい個所を調べ、30年に1回の大雨でもそこが氾濫して水害が起きないよう、調整池の容量を計算した。

 相対的に大きな容量になったのは、下流の流下能力が小さかったことに加え、発電所の敷地が緩やかな丘陵の中腹に当たり、南側の山から雨水が流れ込んでくる可能性も含めて必要な調整容量を算出したからだ(図7)。

図7●西側に建設した約9000m3の容量を持つ調整池
(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]

 今年6月1日の運転開始式の時点で、南側の調整池にはすでに土砂が貯まって底が見えない状態になっていた。池に土砂が堆積すると、大雨の際に貯められる水量が減るとともに、平常時でも下流域に濁水が流れ出る恐れが出てくる。今後、どの程度の頻度で貯まった土砂を浚渫するかが、運用上の課題になる(図8)。

図8●南側に建設した約2万7800m3の調整池
(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]

2つの杭基礎工法を併用

 「鹿児島湧水ソーラーパーク」の土壌は、シラスではないものの、火山灰の交じった黒ボクと呼ばれる土壌でやはり雨で流れやすい。もともとほぼ平坦だったため、本格的な造成をせず、基本的に土地なりにパネルを設置した。このため、表面土壌の多くは安定している。

 ただ、サイト中央は、造成して法面を形成した。土壌が不安定なうえ、上のサイトから雨水が流れてくる恐れもあった。そこで、法面を植栽シートでカバーするとともに、その下の一帯を防草シートで覆って、表面土壌の流出を防いだ(図9)。

図9●北向き斜面に設置したパネルと防草シート。パネルはカナディアン・ソーラー、パワコンはTMEIC製を採用
(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]

 太陽光パネルは、設置角を5度まで低くし、アレイ(パネルの設置単位)間の距離を80cmまで近づけることで設置枚数を増やした。一部の北向き斜面では、影が長くなるため、10m間隔でアレイを配置した。アレイの構成は、パネル横置きで7列4段の28枚とし、1アレイを前後6本の杭基礎で支えている。

 杭基礎の施工方法は、専用の杭打機を使い、施工効率の高い「ラミング工法」を基本とした。ただ、地耐力が弱く、杭の打ち込みだけで、強度を確保できない地盤では、コンクリートミルクを流し込んで杭基礎を固定する「キャストイン工法」を採用した。

 湧水町には、冬季に霧島連峰から「霧島おろし」と呼ばれる冷たい強風が吹く。こうした強風を前提に構造計算し、地中に2.1~2.5mの深さまで杭基礎を打ち込み、それでも強度が出ないエリアにはキャストイン工法で杭を固めて補強した(図10)。

図10●地耐力の低いエリアはキャストイン工法で杭を固定
(出所:日経BP)
[画像のクリックで拡大表示]

パネルはカナディアン、パワコンはTMEIC

 事業主体である特定目的会社(SPC)は、「鹿児島湧水ソーラーパーク合同会社」で、SBエナジーと三菱UFJリースが折半出資で設立した。SPCが町有地を賃借し、固定価格買取制度(FIT)を利用して発電事業を行う。買取価格は40円/kWh(税別)となる。

 みずほ銀行を幹事に、十八銀行、中国銀行、鹿児島銀行、北九州銀行、鹿児島相互信用金庫といった地方金融機関の参加したプロジェクトファイナンスを組成して融資を受けた。

 EPC(設計・調達・施工)サービスは九電工、土木工事は清水建設が担当した。太陽光パネルはカナディアン・ソーラー製(260W/枚)、パワーコンディショナー(PCS)は東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(500kW機)、基礎・架台は日本ヒルティ製を採用した。

 稼働後のO&M(運用・保守)サービスは、九電工が担当し、技術者2人が常駐するほか、除草を担当する専任の要員も常時、配置する予定という。

設備の概要
発電所名ソフトバンク鹿児島湧水ソーラーパーク
住所鹿児島県姶良郡湧水町木場字上床6269番他
発電事業者鹿児島湧水ソーラーパーク合同会社(SBエナジー50%、三菱UFJリース50%)
土地所有者湧水町
敷地面積約36.2ha(約36万2000m2
出力太陽光パネル容量・32.3MW、連系出力23MW
年間予想発電量約3558万2000kWh(約3万5582MWh)
EPC(設計・調達・施工)サービス九電工
土木工事清水建設
O&M(運用・保守)九電工
太陽光パネルカナディアン・ソーラー製(260W/枚)
パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製(500kW機)
基礎・架台日本ヒルティ製
着工年月2015年7月
運転開始日2017年6月1日
買取価格40円/kWh(税別)

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/070600024/