危機感を強めた長門市の動きは素早かった。人口約3万5000人の同市にとって、温泉は失うことのできない観光資源だったからだ。同年7月には、国からの補助を念頭に置きつつ、市が支援する湯本温泉旅館協同組合が事業主体となり廃墟となった同ホテルなどの解体事業に取り組む方針が市議会議員全員の参加する協議会で打ち出された。この時点で、経済産業省の補正事業の活用を念頭に置いていたという。

自治体がマスタープラン作成から依頼した初のケース

星野リゾートでプロジェクトを担当する石井芳明プロデューサー(写真:今村浩一)
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 8月に経産省の「商店街まちづくり事業」として採択されると、12月には市議会に、跡地など3カ所・1万3000㎡を1億2000万円で取得、さらに建物の解体費に3億2000万円(うち国からの補助金2億円、残りは地元負担)を補助するという議案が追加で提出された。そして、翌2015年2月に商店街まちづくり事業補助金の交付が決まると、4月には解体工事に着手し、同年12月までに終えてしまった。

 翌2016年1月、長門市は星野リゾートに跡地利用の基本構想となるマスタープランの策定業務を委託する。白木屋グランドホテルの跡地に新しいホテルを誘致するだけではなく、「長門湯本温泉全体の魅力を高めるブランド力を持つ企業」として地方自治体が星野リゾートにまちづくりのマスタープラン作成までを依頼する初めてのケースとなった。

 星野リゾート側でも、長門湯本の立地条件などに加え、単に宿泊施設を建設して運営するだけでなく、マスタープランの作成からかかわることの意義などについて慎重に検討を重ねた。これまでも施設の再生は手がけてきたが、地域全体の「面」としての再生に取り組むのは初めてだった。地域の課題解決といっても、その状況や思惑はさまざま。意思統一が出来ずにつまずくことも多い。しかし、長門湯本の場合は地域としてのまとまりが強く、その心配はなかった。そうして4月事業協定締結にこぎつけた。

 この頃から多忙を極める星野佳路・星野リゾート代表の長門詣でが始まった。行政や地元の大小12の温泉旅館からなる温泉旅館組合の幹部などとの意見交換だけでなく、住民意見交換会などを繰り返し6月にはマスタープランを最終報告会にも出席し、地元に方針を自ら説明した。

 そして2016年8月、長門市は、そのマスタープランを基に「長門湯本温泉まちづくり計画」を策定した。「地域のタカラ、地域のチカラで湯ノベーション」というサブタイトルを掲げたこの計画の全体像は、大きくは4つから構成される。