「メガソーラービジネス」2020年7月7日付の記事より

19カ所に太陽光と蓄電池

 事業活動に必要な電力需要を「再生可能エネルギー100%」で賄うことを目指す動きが国内外で活発化している。世界的に導入量が急増している太陽光発電は、いまや再エネの花形となったが、晴れた昼間に発電量が集中するため、太陽光だけで事業所や住宅の全電力需要を賄うのは難しい。太陽光だけでは、再エネ比率20~30%がやっとで30%を超えるのは難しい、というのが実態だ。

 こうしたなか、太陽光からの電力だけで、「再エネ比率36%」を実現している再エネプロジェクトがある。「北上市あじさい型スマートコミュニティ構想モデル事業」がそれだ。

 岩手県南西の内陸部に位置する北上市は、1991年に北上市、和賀町、江釣子村の3市町村が合併して誕生した。早くから工業団地の造成や企業誘致に積極的に取り組み、幅広い業種の企業が立地する県内トップの工業集積地となっている。

 東日本大震災では、震度5強を記録し、数日間にわたって停電や断水、通信や交通が途絶し、市民生活が困窮した。停電によって通信インフラが寸断され、本庁の災害対策本部と地域の避難所が相互に情報を共有できず、迅速な対応に大きな課題を残した。

 こうした反省に立ち、同市は新しい街づくりに取り組んできた。その1つが、「あじさい型スマートコミュニティ構想モデル事業」だ。市の本庁舎と16地域の拠点などに再生可能エネルギーを導入して、自立運転できるようにし、災害に強い持続可能な都市を目指す。事業費は総額約16億円で、そのうち約5億円を国からの補助金で賄った(図1)。

図1●「北上市あじさい型スマートコミュニティ構想モデル事業」の対象施設
(出所:北上市)
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 「あじさい」とは、市を構成する各地域を花になぞらえ、それぞれが輝きつつ、全体が結びつくことで、大輪の花を咲かせる、というイメージを表している(図2)。

図2●北上市内に咲いたアジサイの花
(出所:日経BP)
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CEMSで空調・照明も制御

 モデル事業では、市内の重要な公共施設・合計19カ所に太陽光発電システムと蓄電池を設置して自家消費しつつ、CEMS(地域エネルギー管理システム)で最適制御する。CEMSは各建物のBEMS(ビルエネルギー管理システム)と連係しており、蓄電池の充放電や空調・照明を対象にしたデマンドレスポンス(DR=需要応答)などで省エネと再エネ比率の向上を目指しつつ、災害時には市庁舎などの電源を確保する(図3)。

図3●市内19カ所に太陽光発電システムと蓄電池を設置して自家消費しつつ、CEMSで制御する
(出所:北上市)
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 加えて、市営のメガソーラー(大規模太陽光発電所)を建設して、固定価格買取制度(FIT)で売電し、地域新電力を通じて市の施設などに電力を供給する、という仕組みだ。

 市役所の本庁舎には、出力30kWの太陽光と容量300kWhの蓄電池のほか、電気自動車(EV)、急速充電器を設置した。北上陸上競技場には出力45kWの太陽光、容量25kWhの蓄電池、市営のオフィスビル(オフィスアルカディア北上)には20kWの太陽光と15kWhの蓄電池を設置した。さらに16地区の交流センターにも5kWの太陽光と5kWhの蓄電池を設置した。これらの太陽光発電設備は、FITを使わず、すべて自家消費している。

 2016年1月に各拠点の設備の設置が済み、CEMSの本格的な運用が始まっている。CEMSの運用は、NTTファシリティーズが担っている。

2.9MWの「市営メガソーラー」

 一方、市営のメガソーラーは、上江釣子(かみえづりこ)などに位置する市所有の遊休地に2区画に分けて野立てで建設した。出力は、両サイト合わせて2.9MWに達する。こちらは商用系統に連系し、FITを活用した発電事業になる。2014年3月に運転を開始した。

 メガソーラーの愛称は、市民公募により「かむいソーラー」となった。「かむい」とは、アイヌ語の「カムイ・ヘチリコホ」(神々の楽園)から引用した。立地する上江釣子の地名の語源との説があり、太陽光を神々からの恵みであることを表現した。

 メガソーラーの設計・施工は、NTTファシリティーズ、千田工業、南部電気工事、北上電工による特定建設工事共同企業体が担った。太陽光パネルは中国トリナ・ソーラー製の多結晶シリコン型(290W/枚)を1万44枚設置した。パワーコンディショナー(PCS)は、東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製の500kW機を6台導入した(図4)。

図4●市営の「かむいソーラー」。「かむい」はアイヌ語で「神々の楽園」を意味する
(出所:北上市)
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 「かむいソーラー」から電力を調達し、市の施設に供給する地域新電力は、NTTファシリティーズが出資した北上新電力(岩手県北上市)が担っている。同社は、2014年11月に設立され、北上市、NTTファシリティーズ、北上新電力の3者により、再エネの地産地消の推進に向けた基本協定を結んだ。

 「北上市あじさい型スマートコミュニティ構想」では、目標指標として、プロジェクトの対象となり自家消費型太陽光を設置した19施設の電力需要のうち、20%以上を再エネで賄うという数値を掲げた。再エネ電気は、各施設に設置した太陽光発電設備の自家消費分と、北上新電力を通じて「かむいソーラー」から供給された電力を合計したものになる。

蓄電池の放電でピークカット

 プロジェクトの本格運用が始まって4年半が経過した。目標指標として掲げた「再エネ比率20%以上」を余裕もってクリアし、平均で36%を達成しているという。

 「太陽光比率30%」さえ難しいとされるなか、36%まで上げられた要因はいくつかある。もともと市の公共施設は、住宅に比べると夜間の電力消費が相対的に少ないため、太陽光発電で賄える割合を増やしやすいという面もある。

 加えて、「屋根上太陽光で足りない分は、2.9MWのメガソーラーから供給を受けられることが、再エネ比率向上に大きく貢献した」(NTTファシリティーズ)と言う。

 出力規模の小さい屋根上太陽光では、曇りや朝夕には、需要に対する比率が大きく下がってしまうのに対し、メガソーラーの場合、もともとの出力規模が大きいため、曇りや朝夕でもまとまった出力があり、これを活用することで、再エネ比率を押し上げられる。

 また、CEMSによる蓄電池の充放電制御と、空調・照明に対するDRも、再エネ比率向上に貢献する。ただ、CEMSの目的は、再エネ比率の向上のほか、省エネによる電気代削減、災害時に備えたレジリエンス(回復力)の強化も重要なテーマになっているため、これら3要素のバランスを取りながら運用しているという。

 例えば、蓄電池の活用方法では、まず災害による停電に備えて定格容量の半分を常に充電しておく。そのうえで、需要ピークとなる昼前後に放電して受電量を減らす「経済性重視の運用」と、昼間に屋根上太陽光の余剰分を充電しておき、早朝や夕方に放電する「再エネ比率重視運転」の2パターンの運用を季節や天候によって使い分けているという(図5)。

図5●本庁舎の蓄電池でピークカット制御を行ったケース
(出所:北上市)
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DRで空調温度を1~2度変更

 また、DRについては、冬場の悪天候時にエアコン暖房の設定温度を1~2度下げ、照明の一部を消すDR指令を出すことで、省エネと再エネ比率を上げる効果があるという。

 冬場の積雪や曇天時には、太陽光の発電量が伸びない中、気温が下がる。このため、エアコン暖房の稼働率が上がるにつれて、再エネ率が下がっていく。この時に、空調の設定温度を下げて空調負荷を落とすと、省エネと再エネ比率向上につながる(図6)。

図6●本庁舎の空調・照明をDRで制御したケース
(出所:北上市)
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 「ただ、建物内で働く人たちの快適性を犠牲にし過ぎることも避けたいため、手動による空調操作が行われた場合、DR指令は解除されるようになっている」(NTTファシリティーズ)という。DRの課題は需要家の快適性との両立にあることが改めて浮き彫りになった形だ。

 また、蓄電池の制御も、そもそも今回導入した蓄電池の容量が需要に比べて相対的に小さいため、ピークカットや再エネ比率向上への効果は限定的という。今回のプロジェクトで導入した蓄電池としては最大容量になる本庁舎の蓄電池(300kWh)でさえ、レジリエンスなどを考慮したうえで日常的に充放電できる容量は120kWh程度に過ぎない。

 こうした背景から、「CEMSによるDRと蓄電池の運用による再エネ比率の押し上げ効果は、1ポイントにも満たないのが実情。再エネ比率36%の達成では、やはりメガソーラーからの電力供給の貢献度合いが大きい」(NTTファシリティーズ)という。

「高圧直流」で10%効率化

 北上市では、「あじさい型スマートコミュニティ構想モデル事業」のほかにも、2016年以降、国による他の補助事業を活用し、19カ所に続き北上総合体育館や小中学校2校、中央図書館などに太陽光と蓄電池を導入したほか、LED照明など省エネ改修を行った。これにより、現在CEMSで管理している施設は39まで増えている(図7)。

図7●学校の屋上に設置した太陽光パネル
(出所:日経BP)
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 そのなかでも二子小学校と和賀東中学校には、全国的にも珍しい高圧直流(HVDC)による給電を導入することで、システム効率を約10%向上させた(図8)。

図8●学校の屋上に設置した蓄電池と高圧直流(HVDC)システム
(出所:日経BP)
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 屋根上太陽光と蓄電池を電源に職員室などのLED照明に直流・380Vの電気を供給する。一般的に太陽光の電力を自家消費する場合、LED照明のように直流で作動する機器であっても、パワーコンディショナー(PCS)で交流に変換して送電し、機器内の回路で直流に戻して稼働している。このため直流と交流間の変換が2回になり、そのたびにロスがある。

 HVDCによる給電で一度も交流に変換しない場合、こうした直交変換ロスがないため、構内系統のシステム効率が向上する。ただ、DC給電専用のLED照明の量産化が進んでいないため、現時点では初期投資が高くなるという課題がある(図9)。

図9●校舎内にあるHVDC出力分電盤
(出所:日経BP)
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 北上市の学校に導入したHVDCシステムでは、既存の構内交流系統にも双方向型PCSを介して接続しており、曇天時や夜間でもLED照明が使えるほか、LED照明で使いきれなかった太陽光電力は交流に変換されて、構内交流系統で使われる(図10)。

図10●直流の供給で点灯するLED照明
(出所:日経BP)
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好調な「直営メガソーラー」

 再エネ比率向上に大きく貢献している「かむいソーラー」は、2014年3月に稼働して以来、たいへん好調に発電量を伸ばしている。年間予想発電量は約249万kWhと試算していたが、2016年度は約337万kWh、2017年度は324万kWh、2018年度は339万kWh、2019年度は352kWhと、見込みより30~40%の上振れで推移している。

 事業用地は、市庁舎の建設予定地として市が購入したものの、計画の進んでいなかった遊休地を活用した。事業費は9億7200万円で、そのうち8300万円を補助金でまかなった。FITによる買取価格は40円/kWhとなっている。

 2012年7月にFITがスタートして以降、多くの自治体がメガソーラーを誘致したが、ほとんどの場合、土地貸しで、自治体自らが発電事業の主体となったのは珍しい。土地貸しでは収入が限られるが、事業リスクを取って直営でFIT事業を行った分、収益は大きい。

 北国のメガソーラーでリスクとなる積雪に対しては、架台設計で対策を打った。太陽光パネルの設置角を30度、パネル最低部と地面との設置高1mを確保し、雪を滑り落ちやすくしつつ、落ちた雪がパネルとつながりにくくした(図11)。

図11●積雪時の「かむいソーラー」。設置角は30度、設置高は1mを確保した
(出所:日経BP)
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 実際、2014年に運転を開始して以降、O&M(運営・保守)事業者の判断で、一冬で1回程度、除雪作業を行ったケースはあるが、積雪による破損などはなく、降雪後もすぐに滑り落ちるため発電量のへの影響は想定したよりも小さいことが分かってきた(図12)。

図12●太陽光パネルは中国トリナ・ソーラー製、PCSは東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製を採用した
(出所:日経BP)
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訂正履歴
弊サイトでの初出時に引用していた大阪府知事のツイートを削除いたしました。 [2020/11/26 11:30]

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