ラジオ体操より高齢者向きの市の健康体操

イオン高岡店で体操の会がスタートしたきっかけは、2019年3月の太田敦士店長の着任。太田氏は、店舗の置かれた環境やその方向性を検討するべく、前年に実施された来店客調査の結果を分析し、お客の半分近くが60代で、平均して週3~4回来店するという特徴を把握した。冷蔵庫代わりに1日3回来店する高齢者もいて、「何度も来てくれるお客様に何か価値のあることを提供したい」という方針が固まったという。
同店を経営するイオンリテールには、シニア向けの店舗づくりのノウハウを持つ部署もあり、新設時にそれを取り入れた店舗もあった。しかし、35年以上前からある高岡店での実行は困難。そこで太田氏は、こうした既存店でも実行できる取り組みとして、毎朝のラジオ体操会を思いついた。
「『健康』をテーマにすることに迷いはなかった。ラジオ体操なら、誰でも知っているしお金もかからないから、近隣の高齢者も参加しやすいだろう」(太田氏)。
そして、高岡市の高齢介護課と健康増進課に相談に行った。高岡市は健康寿命延伸の一環として、オリジナルの健康体操を4つ作り、公民館などで実施していたからだ。全身を使うラジオ体操に比べ、健康体操はストレッチが中心。足腰の悪い人は座ってもできる。
ラジオ体操と併せて健康体操の実施を持ち掛けたところ、「当市は、公民館などを利用して、高齢者が元気なうちから健康づくりをするための住民主体による『通いの場』を増やしていこうとしている。ほかにも、定期的に通って社会参加できる場ができるのは喜ばしい」(高岡市高齢介護課課長の森川朋子氏)と、賛同を得ることができた。
具体的な協働として、高岡市は体操の会がスタートした最初の2週間、保健師を派遣して参加者に健康体操の見本を見せてくれた。その後は、店長の太田氏をはじめイオン高岡店のスタッフが、指導者として実施。併せて健康体操のDVDも流している。
開催の告知は、店内にPOPを掲示したり、スタッフがビラを手で配ったり常連客に声をかけたりするなど。口コミを中心とした広報だが、当初5人ほどだった参加者は休日には小学生などを含め、40人ほどにまで増えた。イオン高岡店の1日の来店者数は数千人だが、「オープン時からの従業員もいる地域に根付いた店で、お客様とスタッフの距離が近い」(太田氏)ことが、チラシなどによる大がかりな告知をしなくても、参加者が集まった理由とみられる。