月3万円だからこそ、うまくいく

 2018年6月に、「とっとりプロフェッショナル人材戦略拠点」は「鳥取県立ハローワーク」全県展開に伴って、県立ハローワークの鳥取拠点(鳥取県立鳥取ハローワーク)内に移設され、これによってビジネス人材誘致に取り組む本格的な体制が整った。これ以降、松井氏の組織と県立ハローワークが一つのチームとして試行錯誤を続けるようになる。

“ライト”な副業・兼業人材の獲得戦略とそのノウハウについて語る松井氏(写真:高山和良)
“ライト”な副業・兼業人材の獲得戦略とそのノウハウについて語る松井氏(写真:高山和良)

 こうして、月3万円から5万円という安価な報酬で副業・兼業人材を募るというプロジェクトの骨格が定まっていった。報酬に合わせて解決すべき経営課題も大がかりなものではなく、コンパクトに限られた課題に絞り込まれ、2019年度の「鳥取県で週1副社長~とっとり副業・兼業プロジェクト」という形に結実する。

 鳥取県の副業・兼業プロジェクトがうまく回っている最大の理由は、逆説的だが、成果報酬の安さである。通常、良い人材を得るには報酬は高額なほど有利といえる。しかし、月3万円から5万円と安く設定したからこそ、お金だけを目的としない半ばボランティア的な貢献をしようという人が応募してくれることになったと松井氏は言う。

 受け入れる企業にとっても大きな負担にならない。このプロジェクトに求人応募してくる会社は、中小企業というよりもむしろ個人商店レベルに近い規模のところが多い。そうした会社にとっても、月3万円~5万円の支払いなら対応できる。しかも期間は1カ月単位で自動更新もできれば打ち切りもできる柔軟な契約だ。

 応募する側からみても、この金額は副業の手始めとして気負わずに済む金額でもある。いきなり高額な報酬を提示されれば本業に近くなる。成果を出さないといけないというプレッシャーが生まれてしまう。しかし、軽めの課題を解決する程度なら、本業の妨げにならない範囲で腕を試しながら誰かの役に立ち、それでいて報酬も得られる。優秀なビジネスパーソンにとってはおいしい話とも言える。逆に報酬が高いと、採用側も応募者側も期待と責任が大きくなる。“重い”関係性は、互いの動きをがんじがらめに縛りかねず、期待に実態が伴わず、マッチングは失敗に終わりがちだ。

 松井氏はこう指摘する。「プロのコンサルだったら月50万円、下手をすれば100万円かかります。副業・兼業とはレベル感が全然違います。また、県内企業が欲しいのは、知恵であり伴走相手です。労働力はいりません。(コンサルよりもはるかに安く、それでいて)経営者に伴走してくれて一緒に動いてくれる人が必要です」

 ただ、このような“ライト”なマッチングを成功に結び付けるには、マッチメイクする側にそれなりの工夫とノウハウが必要になる。松井氏は言う。「県内企業側から出てくる課題の切り出しが重要になります。それをプロ拠点が丁寧にやっている。この事業が成功するか否かは、課題の切り出し次第です」と松井氏は断言する。「切り出し」とはつまり企業側の課題をきちんと精査し、副業・兼業で解決できる“粒”の大きさに整理することだ。

 「月3万円から5万円の報酬でできるような案件の切り出しをやるのがノウハウです。うちのサブマネージャーにはうまく切り出しができるように研修をして私の知識やスキルをきちんと伝えています」と松井氏。

「公民連携」がもたらすスピードアップと機動性

 言うまでもなく「とっとり副業・兼業プロジェクト」は県の事業だ。少し細かく言うと、県内の雇用や企業支援、産業振興などを担当する「商工労働部雇用人材局」の事業である。鳥取県が「とっとりプロ人材戦略拠点」戦略マネージャーである松井太郎氏が所属する県内企業(あきんど太郎)に業務を委託しており、実体は「公」と「民」の連携プロジェクトと言える。この「公民連携」がスムーズに行っていることもプロジェクト成功要因の一つとなっている。

 鳥取駅にある「鳥取県立 鳥取ハローワーク」課長補佐の細田浩一氏はこう語る。「例えば、県が何かを直接実行しようとすると、どうしてもそれなりの手続きがあって日数がかかります。これが『とっとり副業・兼業プロジェクト』は、民間ならではのスピードと機動性が発揮しやすくなります。拠点メンバーからちょっとアイデアが出たらすぐに実行してみるとかですね、そういったところがうまく機能できているんじゃないかと思っています」。

JR鳥取駅にある「鳥取県立 鳥取ハローワーク」の前で、副業・兼業プロジェクトについて語る鳥取ハローワーク課長補佐の細田浩一氏。「県立ハローワークの事業には、女性、若者、ミドル・シニアの就職支援等5つの柱がありますが、その中の1つの柱が企業の人材確保を支援することで、その中にプロフェッショナル人材事業というものを位置づけています」(写真:高山和良)
JR鳥取駅にある「鳥取県立 鳥取ハローワーク」の前で、副業・兼業プロジェクトについて語る鳥取ハローワーク課長補佐の細田浩一氏。「県立ハローワークの事業には、女性、若者、ミドル・シニアの就職支援等5つの柱がありますが、その中の1つの柱が企業の人材確保を支援することで、その中にプロフェッショナル人材事業というものを位置づけています」(写真:高山和良)

 予算面でも自由度が高い。

 細田氏は、こう説明してくれた。「新しいことをしようと思っても県の場合はきちんと予算があって、執行する側はその中で決められたことをしないといけません。けれどもプロフェッショナル人材戦略拠点に委託している中では、こういうことをしてみようかと新しいアイデアが出た時に、拠点が委託費の範囲内で使う額を振り分けたりしてすぐ新しいことに向かえます」。このように、公と民がうまく連携することで行政単独で進めるよりもずっと柔軟で素早くできるスキームになっている。