今年4月、赤磐市立赤磐市民病院の跡地に複数の介護・福祉施設が入った「あかいわハートフル太陽」がオープンした。小規模多機能型居宅介護事業所、サービス付き高齢者向け住宅、障害者グループホーム、介護予防などの機能を備える。施設整備に際して赤磐市は、設計者(デザインビルド事業者)より先に指定管理者を選定して、施設に民間の運営者側の意見を反映させるなど、事業者選定にも工夫を凝らした。

高齢者の介護や住まい、障害者の生活支援、地域交流など多岐にわたる機能を持つ「あかいわハートフル太陽」(写真:井上俊明)
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 2019年4月、岡山県赤磐市の熊山地区にオープンした「あかいわハートフル太陽」。小規模多機能型居宅介護事業所のほか、サービス付き高齢者向け住宅、障害者グループホーム、介護予防など、様々な機能を備えた複合施設だ。2014年に閉院した赤磐市立赤磐市民病院の跡地に、市が8億円近い費用をかけて施設を建設。指定管理者となった社会福祉法人昭友会、医療法人たくふう会など2つのグループの5法人の民間事業者に、5年間賃貸して運営する。

 まずは、主な入居施設の概要から見ていこう。ハートフル太陽には、下の表に示す事業所やスペースがある。介護保険に関しては、まず1階北側にある小規模多機能型居宅介護「キバラ」(登録定員25人)。デイサービス(通い)、ショートステイ(宿泊)、ホームヘルプ(訪問)を組み合わせて、高齢者が自宅で自立して過ごせるよう介護サービスを提供する。介護している家族の病気などの際、高齢者が一時的に宿泊できる部屋も9室設けてある。

あいかわハートフル太陽の運営担当事業者
表中の3事業者のほかに医療法人たくふう会と(株)岡山スポーツ会館が指定管理者に名を連ねている。また地域交流スペースなども設置し、赤磐市が運営する
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 2階には、見守りや生活相談のサービスを受けつつ高齢者が安心して暮らすための住まい、サービス付き高齢者向け住宅「エルダーホーム」が20戸ある。国の基準通り1部屋25㎡。予約も含め7月下旬時点で18戸が埋まっている。運営するたくふう会グループのエルダー(岡山市)は、社会福祉法人昭友会ともども、岡山市内に本拠を置く「たくふう会グループ」傘下の法人。グループ中核の医療法人たくふう会も、訪問リハビリテーションの提供などでハートフル太陽にかかわっている。

 昭友会が運営する居宅介護支援事業所の「えんじゅケアプランセンター」は1階に入居。3人のケアマネジャーが約100人の要介護・要支援の高齢者の介護サービス計画を作成している。

 1階の「さんさん広場」や食堂・機能訓練室からなるスペースは介護予防、健康づくり、子育て支援などのために設けた。運営するのは岡山市をはじめ、岡山県内でスポーツクラブを多数経営するOSKヘルスプロモーション。健康運動指導士が、要支援の高齢者を対象に市町村が行う介護予防サービスを提供するほか、地域住民向けの運動教室も実施。昭友会と経営者同士が知り合いだったことがきっかけで指定管理に加わった。

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(左)小規模多機能型居宅介護の宿泊スペース。(右)居宅介護支援事業所では施設外の高齢者のケアプラン作成も手掛けている(写真:井上俊明)

障害者グループホームは民間からの提案

 「あかいわハートフル太陽」で特徴的なのは、事業者選定の手法だ。まず、施設の設計者選定を指定管理者選定後にしたこと。これは、より運営しやすい施設づくりを目指し、指定管理者の意見を設計に取り入れるためである。

 赤磐市は指定管理者の意向を反映させた施設の条件書を作成して、設計・施工事業者の選定に入り、大和リース岡山支店を代表企業に、地元岡山のユー・ディ・ディ設計も加わった企業グループと、設計・施工一括(デザインビルド:DB)契約を締結。その後も関係者が会議を重ねて詳細を煮詰めていった。利用者に目が届きやすく、かつスタッフの動線が短くなるようにサービスステーションの配置場所に配慮したり、災害時に福祉避難所となるよう太陽光発電パネルや備蓄庫を設けるなどの工夫が凝らされている。

 例えば、2階北側の5室と食堂、居間、浴室などで構成される一角にある障害者グループホーム(共同生活援助)。指定管理者募集の際の条件にはなかったが、昭友会側からの提案で盛り込まれた。日中職場や作業所で働いたり、病院などのデイケアに通う障害者が、生活指導員などからサポートを受けて日常生活を送る場所だ。現在3人の障害者がここで生活している。

 もう一つの特徴的な事業者選定手法は、指定管理者の募集・選定の過程で、応募者は市と事前相談を行い、公募時の事業内容を変更できるようにしたこと。ハートフル太陽は利用料金制で指定管理が行われるため、事業採算を見ながら調整していく必要があった。

 事前相談で変更になった部分としては、ショートステイの機能がなくなったことが挙げられる。指定管理者募集の際には、小規模多機能型居宅介護のほか、ショートステイと地域交流スペースの開設が必須とされていた。このうち定員20人分での運営が求められていたショートステイは、事前相談の段階で採算および近隣との競合を理由に外され、地域交流スペースは予定通り1階に設置された。

エルダー代表取締役の津島周史氏(写真:井上俊明)
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 入居者集めのPRは順調のようだ。エルダー代表取締役の津島周史氏は、「これほどスムーズに入居が進むと思っていなかった。赤磐市はチラシで広報してくれ、2回の見学会に計500人の住民が訪れるなどそのバックアップは大きかった」と語り、オープン4カ月目で手応えを感じている。同時期の小規模多機能の登録者数は10人強。全体の採算はなんとか黒字になるぐらいの見通しであり、大きな規模の事業ではないが、施設運営の事業性だけでなく、「公設民営」「共生」の事業に参加したことで、たくふう会グループのブランド向上の効果があると期待している。加えて、職員採用の面でもプラスになりそうだという。

市民病院の病床を医師会病院へ

 赤磐市がハートフル太陽に、制度ができてまだ歴史が浅く、あまり普及していない小規模多機能型居宅介護の事業所を必置としたのには理由がある。下の表に、ハートフル太陽が完成するまでの経緯を示した。この場所には、2014年3月まで50のベッドを持つ赤磐市立赤磐市民病院があったが、患者数が減少傾向にあったうえ、経営が苦しく毎年一般会計からの繰り入れを余儀なくされていた。施設の老朽化にも直面。2010年には大学から外科医の派遣を打ち切られ、当直体制が維持できなくなった。

あかいわハートフル太陽が誕生するまでの主な経緯
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 このころ、総務省は再編・ネットワーク化など公立病院の改革を推し進めており、各自治体病院に検討を促していた。赤磐市でも委員会を立ち上げて議論した結果、赤磐市民病院を無床の診療所に模様替えして、医療と介護の連携機能を強化することになった。

 具体的には市役所などがある市中心部の赤磐医師会病院にベッドを49床移し、リハビリテーション専門の病棟を増築。一方旧赤磐市民病院は廃止し、代わりに道路の斜め向かい側にベッドを持たない診療所を新築した。熊山診療所と名付け、外来診療のほか在宅療養の支援にも力を入れている。

 その後赤磐市は、市民病院の跡地利用について住民にアンケート調査を実施した。すると、入院設備のある病院がなくなり同時期にベッドを持つ別の診療所も閉院したことから、自宅で療養する高齢者が、夜間などに悪化した場合の不安を訴える声が多くあがってきた。そこで赤磐市は、「泊まれる施設」を望む住民の要望に沿い、宿泊スペースのある小規模多機能型居宅介護の運営を、指定管理者選定の第一条件にしたわけだ。

閉院した赤磐市民病院に代えて、市が道路の反対側に新築した赤磐市国民健康保険熊山診療所(写真:井上俊明)
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赤磐市保健福祉部参事で熊山診療所担当の川原達也氏(写真:井上俊明)
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 2016年には複合型の介護福祉施設を公設民営で建設・運営する方針を決定。赤磐市保健福祉部の川原達也氏は、「民間ノウハウの活用により、運営コスト削減とサービス向上を狙ったもの」と説明する。指定管理者を公募したところ、複数の事業者が手を挙げ、最終的に昭友会を代表とする民間5事業者のグループに決まった。

地域住民が気軽に立ち寄れる地域交流スペースも

OSKヘルスプロモーション代表取締役社長の石尾正紀氏(写真:井上俊明)
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 ハートフル太陽の賃貸料は月額で52万8000円。民間事業者が分担して負担している。OSKヘルスプロモーション代表取締役社長の石尾正紀氏は、「家賃が安くて助かる。開設・運営コストは町中で展開する場合の10分の1程度だから、思い切ったチャレンジができる」と話す。施設内のサ高住の入居者で運動教室に参加する人もおり、公設民営の複合施設で、介護予防や健康づくりの事業を展開するメリットが出ている。

 一方で市が所有する施設なので、無料で利用できると思っている住民も少なくないため、有料の利用者を確保するには苦労もある。石尾氏は、働き盛りの人を対象にしたダイエットのための運動教室を市の負担で開催するなどして、利用者確保に取り組んでいこうと考えている。市もPR面などでバックアップしていくという。「まずは強みである運動から手掛け、新しいプログラムの開発や自治体・他の事業者と連携するノウハウを蓄積していきたい。子育て支援の拠点づくりも行う」(石尾氏)。

 ハートフル太陽の周囲には、熊山診療所のほか、デイサービスセンターなどが入った市の保健福祉総合センターやJAもある。赤磐市保健福祉部健康増進課課長の石原万輝子氏は、「市が運営する地域交流スペースは、近くのお店やこうした施設に来た際、ふらりと立ち寄れる喫茶店のような場所にしていきたい。壁を取り払えば30人以上が入れる広さがあるから、子供を含む地域住民の方のサークル活動などに活用してほしい」と話す。

ハートフル太陽1階に市が設けた地域交流スペース。地の利を生かし、地域住民が集まる拠点づくりを目指す(写真:井上俊明)
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 総務省が進める自治体病院の再編・ネットワーク化には、跡地利用の問題がついてまわる。2019年下旬には、厚生労働省が再編統合も視野に入れた医療機能の見直しを求める公立・公的など424病院のリストを公表、自治体病院の再編の流れが加速しそうだ。公民連携で複合型介護福祉施設をオープンした赤磐市の取り組みは、一つのモデルとして参考になるだろう。

赤磐市(あかいわし)
岡山県中南部に位置する。2005年3月7日、赤磐郡内の山陽町、赤坂町、熊山町、吉井町の4町が合併して誕生した。南部の山陽地域は岡山市のベッドタウンとなっている。人口44,180人(2019年10月1日現在)面積209.36m2
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