中之条町(なかのじょうまち)
中之条町(なかのじょうまち)
図1●群馬県の北西部に位置し、新潟・長野県に接する。人口1万5910人(2019年9月1日現在)。面積は439.28m2。森林が面積の8割以上を占める。2013年6月18日に「再生可能エネルギーのまち中之条」宣言を制定
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 群馬県中之条町で活動する「中之条パワー」(群馬県中之条町、図1)は、地域新電力の草分けとして知られる存在である。2015年12月に設立し、親会社の一般社団法人中之条電力から特定規模電気事業者の営業を継承した。

 親会社の中之条電力が、2013年8月の設立であることから、同社が国内初の地方自治体が主導する地域新電力だという。エネルギーの地産地消を目指し、設立以来、町が運営している再生可能エネルギー発電所の発電電力を、町内で活用してきた(図2関連記事)。

図2●中之条町が取り組む電力の地産地消の概要(出所:中之条パワー)
図2●中之条町が取り組む電力の地産地消の概要(出所:中之条パワー)
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 この中之条パワーが今年8月、本社を町役場内から、今までより少し駅(JR吾妻線中之条駅)に近い、自営業者が集まる地区に移し、新たな取り組みを始めつつある。

自営業者が集まる地域に本社を移す

 本社を町役場内から自営業者が集まる地域に移した理由は、事務所が手狭になったためである。地元からの雇用を増やすとともに、山本政雄代表取締役が本来のトップとしての仕事にできるだけ専念し、次の展開につなげていく環境を整える。

 中之条パワーは、山本代表取締役と事務などを担当する専任者1人の計2人で運営してきた。2017年度以降、契約先が大幅に増えたことで、請求などに要する事務作業量が増え、現在は山本代表取締役もこうした作業に少なくない時間を充てざるを得ない状況にある。そこで、専任者をもう1人増やす予定で、そのために広いオフィスへの移転を決めた。

 移転したのは、町が所有する土地にあるプレハブの建物だ(図3)。土地を借りていた労働組合系の団体が建物を撤去せずに去ったため、残された建物は町の所有となっていた。今回、中之条パワーが土地と建物を借りることで、土地と建物の賃借料が、町の新たな収入として増えることにも寄与した。

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図3●新たな本社(上)は、地域の企業や自営業者が集まる場所にある(出所:日経BP)
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図3●新たな本社(上)は、地域の企業や自営業者が集まる場所にある(出所:日経BP)
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図3●新たな本社(上)は、地域の企業や自営業者が集まる場所にある(出所:日経BP)

 中之条パワーが次に目指すのは、町の施設だけでなく、町内の企業や自営業者にも、広く電力を供給していくことである。「まずは、新たな本社がある地域に根付き、ここから新たなネットワークを築いて広げていきたい」と山本代表取締役は意気込む。

 この地区に所属する企業として、区費を支払い、地区の活動に参加する。新たな本社となったプレハブ建物内の改修や修繕、模様替えは、近くの企業に委託する。町の商工会にも加盟し、近隣の祭りなどにも、企業として参加する。

 こうして、地元の企業や自営業者との付き合いが増え始めると、地元企業間の普段の取引の多さや深さに気づくという。町の企業の一つとして、普段の付き合いから仲間として認めてもらい、地元企業や自営業者のきずなの深い地域において、こうした企業や自営業者との契約数を増やしていきたい考えだ。

 電力の地産地消を通じて、地元に新たな雇用を生み出す、新たなネットワークを生み出す、さまざまな機会を通じてできるだけ地元でお金が回り、活性化している触媒のような存在になるという、同社の方針に少しずつ近づいているようだ。

経営が安定し、本社移転が可能に

 中之条パワーの山本代表取締役によると、こうして次の段階に踏み出せるようになったのは、経営状況がある程度、安定してきたからだという。

 具体的には、2017年度以降、同社の経営が好転して同年度に黒字化し、2018年度は税引前で約2000万円の黒字を計上した。

 実は、2016年度は同社が予想していた以上に経営環境が悪化し、約800万円の赤字となっていた。主な理由は、再エネ発電電力の固定価格買取制度(FIT)の運用における、交付金や裁定取引関連の変更に伴うものだった。FITを活用した再エネ発電所の発電電力の転売防止を目的とした運用の変更で、山本代表取締役によると「正当な取引を続けていることを主張し続けたものの、(同社から見ると)経営上、不利になる対応が続いたことが影響した」という。

 さらに、この年度は、大雪による発電量の低下と、同じタイミングでの市場価格の高騰によって収益が悪化した。

 2017~18年度はその状況から好転した。販売電力量が2016年度の444.3万kWhから、17年度は約848.8万kWhに、さらに18年度は約2割増え、金額では約3割の増加となったとしている。

 販売電力量の増加は、電力供給先となる主に公共施設が増えたことによる。2017年度には、中之条町、東吾妻町、高山村が共同で運営しているゴミ処理施設が供給先に加わった。また、同年度末に中之条町の施設のうち、低圧配電線から購入している約400カ所が、中之条パワーからの購入に切り替わった。これによって、町内の公共施設の電力は、街灯などを除いてほぼすべて中之条パワーが供給している。

 そして、2019年度は、より安定感が増してきたという。4~6月は市場環境が良くない中でも700万~800万円の黒字となり、その後の7月は、前年よりスポット市場の環境がよく、より良い経営状態が続いているという。

ユーザーの事務手続きを簡素化

 2017~18年にかけての町の低圧の公共施設の切り替えの裏には、目立たないものの、重要な手続き上の変更が大きく関わっていた。旧・一般電気事業者から新電力に電力購入を切り替えると、表面上は電力購入コストが安くなる利点がある。とはいっても、実際には、月ごとの料金支払いの手続きが煩雑になり、全体のコストが下がっているのかどうかわからないような悪影響が生じることが少なくない。

 中之条町の場合も、東京電力グループから電力を購入していた時期には、毎月の支払いは銀行口座から自動的に引き落とされ、その数値がそのまま会計システムに送られて処理されるような、事務手続きの負担が少ない取引だった。

 これが、中之条パワーからの電力購入に切り替えた後、紙ベースの請求書が町に送られ、担当者はその請求書をもとに起票し、処理するという煩雑な処理が生じることになった。当初の30カ所(図4)の公共施設での電力購入は、1カ所ごとにこの手法で処理されていた。これでは、購入施設が増えるほど、業務の手間は増していく。

図4●左から中之条町役場、ふるさと交流センター、四万清流の湯、自動車教習所(出所:中之条パワー)
図4●左から中之条町役場、ふるさと交流センター、四万清流の湯、自動車教習所(出所:中之条パワー)
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 中之条パワーの山本代表取締役は、町役場で職員としての勤務経験が長い。こうした手間の煩雑さを知るからこそ、地域新電力に切り替えても、東電からの購入と同じように、スムーズに処理できる状況を整備することを急いだ。

 2017年度末頃に切り替わった後の約400カ所の処理は、東電からの購入と同じように、銀行口座からの引き落としとそのデータ処理だけで処理できるようになった。町の関係者、金融機関との協議を繰り返すことで実現した。

 山本代表取締役は、「いくら表面上の電力購入コストが下がるといっても、町の担当者の業務を煩雑にするような変化は、不評しか生まない。地元に根付いて、地産地消して経済を回すというからには、業務の負担も最小化できるのが望ましい姿だ」と強調する。

値上げと、卒FIT住宅への対応

 経営状況の改善には、町の協力もあった。2017年度から、売電単価の値上げを受け入れたのだ。2016年度の中之条パワーの経営不信は、市場変動リスクを吸収しきれないことがあるレベルの単価の設定にもあることを、町も理解した。

 2016年度まで、町の公共施設の電力購入コストは、平均で約10%下がった。これを平均で約3%ポイント上げるような料金に変え、現在は平均で約7%下がっている状況に抑えた。各地の新電力や一般電気事業者も、こうした料金形態に変えつつあり、どの電力会社にとっても難しい価格設定だったのではないかと振り返る。

 2016年度に始めた住宅向けへの電力供給は、町内を中心に135世帯と契約している。中之条町ではふるさと納税の返礼として、中之条パワーの電力を供給する取り組みを始めている。このふるさと納税分の供給先の住宅も、約50世帯ある。

 また、住宅では、居住者が自宅に設置した太陽光発電システムの、再エネ発電電力の固定価格買取制度(FIT)を活用した売電の期間が終わった後の活用法、いわゆる卒FITの住宅の太陽光発電電力をいかに適切に地域内で活用できるのかが、地産地消をうたう地域新電力に求められている。

 中之条パワーでも、町と連携し、卒FIT住宅の太陽光発電電力の取り込みを模索している。自治体支援サービスなどを手掛けるIT(情報技術)関連企業のトラストバンク(東京都目黒区)と、中之条電力に出資し、町における地産地消に深く関わる新電力のV-Power(東京都品川区)による、卒FIT住宅太陽光の余剰電力を地方自治体に寄付・売電できるサービスを活用する(関連記事)。

 このサービスでは、余った太陽光発電電力を、対象となる地方自治体を選んで公共施設などに寄付・売電できる。寄付の返礼品として、地域ポイントや特産品を還元することを検討している。電力会社を選んで信託し、収益を得ることもできる。寄付先として、中之条町は参画を表明しており、中之条町への寄付分の電力は中之条パワーが町内の契約先への売電に使う。

 新たな仕組みだけに、現在は、寄付や地域ポイントの還元の具体的な方法、この電力を使った際の小売価格の値下げ幅、値下げに必要な原資の確保の方法などを調整しているという。

再エネ電源を追加、小水力発電所も加わる

 再エネ発電電力の調達先は、サービス開始時から新たに2カ所が加わった。出力1999kWの沢渡温泉第3太陽光発電所と、出力135kWの美野原小水力発電所である(関連ニュース)。いずれも町が発電事業者で、それぞれ2017年6月、同年4月に稼働を開始した。

 これによって、中之条パワーの調達先の再エネ発電所は、太陽光発電所が4カ所(図5)、小水力発電所が1カ所(図6)となった。元々の調達先も、出力1000kWのバイテック中之条太陽光発電所(2013年9月稼働、発電事業者はバイテックグループ)を除くと、いずれも町営の太陽光発電所だった。沢渡温泉第1太陽光発電所(2013年10月稼働、出力1990kW)、沢渡温泉第2太陽光発電所(2013年12月稼働、出力1990kW)である(関連記事)。

図5●4カ所の太陽光発電所(出所:中之条パワー)
図5●4カ所の太陽光発電所(出所:中之条パワー)
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図6●1カ所の小水力発電所(出所:中之条パワー)
図6●1カ所の小水力発電所(出所:中之条パワー)
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 調達先の再エネ発電所が2カ所加わり、供給先も大きく増えたが、供給した電力の調達先を表す「電源構成」は、以前と大きく変わっていない。太陽光発電のピーク時に太陽光の発電電力が余り、夕方以降の太陽光発電が止まる時間帯に電力が不足する状態は変わらないためである。

 2018年度の実績で、太陽光発電が43.5%、小水力発電が2.5%、卸市場からの調達分が53.8%などとなっている(図7)。町で開発するバイオマス発電所の電力も活用する構想があったが、バイオマス発電所の開発計画が予定通りには進まず、実現には至っていないのが現状だ。

図7●2018年度に供給した電力の構成(出所:中之条パワー)
図7●2018年度に供給した電力の構成(出所:中之条パワー)
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 住宅など低圧の需要家を獲得して販売電力量を増やしていくとともに、それに応じていかにして再エネ電力の調達力を高めていくかが、当面の課題だ。

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/100400120/