参照モデルを作成した背景について櫻井氏は、「自治体の担当部署ごとに収集する情報のフォーマット(項目や記述内容)にばらつきがあり、国や都道府県、住民が知りたい情報が手際よく集約できないという課題がある」と説明する。災害ICT研究会でも、基礎自治体における災害発生時の共通の悩みとして「庁内での情報収集を効率的に行えない」「情報共有が円滑にできない」「住民から寄せられる類似の問い合わせや回答に限られた職員の人手を割かれて一刻を争う災害対応が遅れてしまう」といった声が聞かれたという。

 「私たちが提案する参照モデルは、この課題の解決につながることを目指している」と、櫻井氏はそのねらいを説明する。藤沢市の大高氏は、基礎自治体の職員にとって参照モデルを利用するメリットについて次のように述べている。

 「災害対応時にデータを入力していくことで、『どこの部署・組織でどのような情報が不足しているのか』『あの現場にはどの職員が確認に向かったのか』といったことが関係者間で共有できるようになる。もちろん、災害時には予期しない停電が起きることもある。紙とペンで記録せざるをえない場面もある。そうした場面でも参照モデルを参考にしながら情報を整理することで現状を把握する作業の効率化につながるはずだ。また、蓄積された情報は、災害後に振り返りをする際にも役立つ。振り返りの積み重ねは次の災害に備える対応力の向上につながる」

災害対策の立案や災害対応アプリでも活用できる

 参照モデルは、災害発生後だけでなく災害対策立案の議論の際にも役立つ。参照モデルを用いることで、どのような情報を対策に盛り込めばよいかポイントが絞りやすくなる。その特徴を生かして、防災や災害対応のアプリ開発においても参照モデルは実際に活用されている。

 研究会メンバーの佐賀県玄海町では、町の職員が参照モデルを参考にクラウドアプリを活用し、災害対策業務アプリケーションのプロトタイプを開発している。主な利用者は各部署の庁内職員だ。開発した災害対策業務アプリケーションを通じて災害情報を迅速に記録・共有し、住民への適切な対応策を講じられるようにすることを目指している。

 日本マイクロソフトも参照モデルを利用している。災害ICT研究会のメンバーでもある同社は、「リスクへの備えパッケージ」という仕組みを開発して2021年6月から無償提供している。そのパッケージの1つ「災害対応アプリケーション」において、参照モデルが利用されている。同アプリは、火災被害、人的被害、河川被害、倒木被害などの情報が一覧化されているダッシュボードだ。各項目に担当する職員が数値などを記録すると、自動的に集計される。これにより関係部署間で最新の状況を閲覧することができる。

日本マイクロソフトがGithubで無償公開している災害対応アプリケーションの画面例(資料提供:国際大学GLOCOM「災害時コミュニケーションを促進するICT利活用に関する首長研究会」)
日本マイクロソフトがGithubで無償公開している災害対応アプリケーションの画面例(資料提供:国際大学GLOCOM「災害時コミュニケーションを促進するICT利活用に関する首長研究会」)
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