住民に求められる災害時の情報を読みこなす力

●「パーソナライズされた災害情報の発信と住民意識向上に役立つリソースリスト」とは?

 分科会2では、「パーソナライズされた災害情報の発信と住民意識向上に向けたリソースリスト」(以下、リソースリスト)を作成した。これは、防災や災害対応に役立つ各省庁からの情報、民間事業者が提供する情報サービスなどを利用対象者や目的に応じて整理したものだ。4つに分かれており、「住民向けリソース」「啓発計画を担当する市区町村担当者向けリソース」「啓発事例」「災害対応時リソース」に整理されている。「災害支援・受援力向上に向けた災害時の情報共有参照データモデルver1.0」と同じく、災害ICT研究会のウェブサイトで公開されている。

Excelファイルとして公開されている「パーソナライズされた災害情報の発信と住民意識向上に向けたリソースリスト」(部分)(資料:国際大学GLOCOM「災害時コミュニケーションを促進するICT利活用に関する首長研究会」)
Excelファイルとして公開されている「パーソナライズされた災害情報の発信と住民意識向上に向けたリソースリスト」(部分)(資料:国際大学GLOCOM「災害時コミュニケーションを促進するICT利活用に関する首長研究会」)
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 リソースリストは、災害が起きる前の住民の啓発活動や防災教育に活用することが大きな目的だ。

 災害発生時に自治体から情報が発信されたとき、「住民はなかなか自分ごととしてなかなか受け止めてくれない」「アクションを起こしてくれない」という悩みを多くの自治体が抱えている。「自分だけは大丈夫」という思い込み(正常性バイアス)が生じるためだ。この住民の正常性バイアスが、避難行動を阻害する要因となる。住民が正常性バイアスに陥らないようにするには、日頃からの防災教育が必要だ。災害時、情報を受け取る住民が理解する力を養うために、リソースリストを用いての防災教育が有効になる。

 藤沢市の大高氏は次のように話す。

 「行政からの避難指示で示される情報は町丁字の単位を対象として発令されるいわば面的な情報だ。ただし、同じ『字』に建つ建物でも、災害の種別や規模、そして立地状況、また『木造平屋か三階建てか』でも住民の危険度は異なり、避難の仕方も変わってくる。まずは住民の皆さん1人ひとりに自分の住んでいる地域についてリソースリストを活用しながら日頃確認し、よく知ってもらえるとありがたい」

 自治体側から情報を一方的に住民に発信するだけでは防災力は高まらない。普段の暮らしの中に防災教育を取り入れていくことが望ましい。住民一人ひとりのタイムライン(防災行動計画)=マイ・タイムラインを作成する上でも役立つだろう。たとえば、研究会メンバーの室蘭市では、リソースリストを活用した防災教育を、地元高校や大学と連携して行う取り組みを2021年11月から予定する*など、活用の動きも出てきた。

 櫻井氏はその先に「パーソナライズされた災害情報の発信」を見据える。

 「災害ICT研究会では『パーソナライズされた情報』と『正しくリスクを理解すること』の双方が行動変容には不可欠だと考えている。『自助』の行動ができるようにするには、自治体から受け取る情報を住民1人ひとりが理解し、周りで災害が起きた場合のリスクを考えて判断をする必要がある。そのためにも、災害時情報発信は、地域ごとではなく、個人の属性に合わせてパーソナライズされた情報発信が必要だ」――。櫻井氏は、個人情報保護法制とのすり合わせも必要であるという前提の上で、このように説明した。

◇       ◇       ◇

 災害ICT研究会では、毎年のように日本各地で起きている地震や風水害などさまざまな自然災害対応の経験や知見を共有することを目指している。ある地域での経験や教訓、ICT の活用の仕方を含めた知見を共有する場をつくることで被害軽減につながる可能性が高い。櫻井氏は次のように述べる。

 「平時の行政手続であれば、法律で定められた法定受託事務など自治体間である程度共通するものは少なくない。確かに、災害でも罹災証明書の発行など自治体間で共通する部分もあるが、臨機応変の判断や突発事項への対応が求められる場面が多い。災害の起きる時期や地理的な特性もあり災害の現場は同じものが一つとしてなく、刻一刻状況が変わるため、各自治体が自主的に進めざるをえないのが実情だ。ただ、過去の知見や教訓をお互いに共有できれば、いざというときに的を絞った対応がしやすくなる。今回の成果物は、分科会に参加する自治体や企業の声をもとにまとめた」