コスモスイニシアは、茨城県笠間市の公共宿泊施設をリノベーション、アウトドアリゾート「ETOWA KASAMA(エトワ笠間)」として2020年7月18日に開業した。開業以来、9月までほぼ満室が続くなど人気を博している。市としては、老朽化し、利用客が減少していた施設を、民間の資金・ノウハウで再生させた形だ。リノベーションの要点や今後の展望について、両者に話を聞いた。

 笠間市とコスモスイニシアの公民連携で開業した「ETOWA KASAMA(エトワ笠間)」があるのは、JR常磐線・岩間駅から車で10分の愛宕山の山頂付近。観光スポット「あたご天狗の森」の西側の一角。10棟のログハウスと6基のグランピング用テント、管理棟(ログハウス)、アウトドアバー、たき火施設、バーベキュー施設、駐車場などで構成されている。名前の由来は「会話」。「会(エ)と話(ワ)」のある施設を目指した。

愛宕山の山頂付近からの眺望が楽しめる「SKY CABIN」(写真:日経BP)
愛宕山の山頂付近からの眺望が楽しめる「SKY CABIN」(写真:日経BP)
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グランピング用テント「GRACE TENT」が建ち並ぶエリア。デッキの高さを少しずつ変えて、利用者がテントを出た際に利用者同士の視線が交わらないようにしている(写真:日経BP)
グランピング用テント「GRACE TENT」が建ち並ぶエリア。デッキの高さを少しずつ変えて、利用者がテントを出た際に利用者同士の視線が交わらないようにしている(写真:日経BP)
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 事業期間は10年。市とコスモスイニシアは2019年12月に公有財産賃貸借契約を結んだ。施設は指定管理料などが発生しない独立採算制で、リノベーション費用もコスモスイニシアが全額を負担した(金額非公表)。ただし、貯水槽などの一部インフラはリノベーション工事前に市が修繕した。

 リノベーション前は「あたご天狗の森スカイロッジ」の施設名で、笠間観光協会が指定管理者として、ログハウスとバーベキュー広場を管理・運営していた。なお、笠間観光協会は現在もETOWA KASAMAを除くあたご天狗の森全体の指定管理者である。

 リノベーションの要点は、土地の有効利用や、「非日常」性の演出だ。リノベーション後の主要ターゲットに据えた「都心に暮らす20代、30代女性」の感性に合う内外装などをデザインした。客室数は16室。内訳は、SKY CABIN(定員4人):4棟、FOREST CABIN(定員6人):4棟、SUITE CABIN(定員6人):2棟、グランピング用テントGRACE TENT(定員3人):6基となっている。

ETOWA KASAMA(エトワ笠間)の施設配置(同施設のパンフレットより)
ETOWA KASAMA(エトワ笠間)の施設配置(同施設のパンフレットより)
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 リノべーション工事では、従来は駐車場だったスペースの半分を使ってグランピング用テント「GRACE TENT」6基を新たに設置した。リノベーションしたキャビン1棟当たりの収容人数をリノベーション前より少なくしたことや、若い世代を中心にクルマ離れが進んでいることもあり、駐車場は半分に減らしても必要量を確保できるという計算だ。

テントの中は十分な広さがあり、冷暖房も完備している。内装は北欧風。開業前にはインスタグラマーを招待してSNSでの広報にも努めた(写真:2点とも赤坂 麻実)
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テントの中は十分な広さがあり、冷暖房も完備している。内装は北欧風。開業前にはインスタグラマーを招待してSNSでの広報にも努めた(写真:2点とも赤坂 麻実)
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テントの中は十分な広さがあり、冷暖房も完備している。内装は北欧風。開業前にはインスタグラマーを招待してSNSでの広報にも努めた(写真:2点とも赤坂 麻実)
夜間はほどよくライトアップ。テントは北欧発のアウトドア用品ブランド「ノルディスク」のもの(写真:コスモスイニシア)
夜間はほどよくライトアップ。テントは北欧発のアウトドア用品ブランド「ノルディスク」のもの(写真:コスモスイニシア)
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デッキの広さを3倍に拡張、家具や寝具は北欧風で統一

 コスモスイニシアR&D部門新規事業推進二課の北川雄喜氏は狙いを次のように説明する。「実は、首都圏には公共交通でたどり着けるグランピング施設がほとんどない。都内から電車で約90分(最寄りの岩間駅からはタクシー10分)の場所に、緑豊かな景観や静かな夜といった“非日常”を手軽に楽しめる空間を作れれば、ニーズは必ずあると考えた」。

 ログハウスにも手を入れた。デッキを従来の3倍ほどの広さに拡張し、屋外家具を設置した。「従来はほんの数分だけ出てきて景色を見たり新鮮な空気を味わったりする場所になっていたが、リノベーションにより、デッキでゆったりと時間を過ごせるようにした」(北川氏)。

SKY CABINのデッキからの眺め。東向きで豊かな緑を堪能できる(写真:赤坂 麻実)
SKY CABINのデッキからの眺め。東向きで豊かな緑を堪能できる(写真:赤坂 麻実)
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森の緑に包まれた「FOREST CABIN」は2ベッドルームが特徴(写真:赤坂 麻実)
森の緑に包まれた「FOREST CABIN」は2ベッドルームが特徴(写真:赤坂 麻実)
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 また、水回りは全て更新した。屋根は赤褐色から黒色へ塗り替え、スタイリッシュな外観に。デザイン監修は輸入家具などのアクタス(東京都新宿区)が担当し、家具や寝具は北欧風で統一した。畳敷きだった部屋は全て板張りに変えた。

最も広い「SUITE CABIN」は限定2棟。ソファーベッドはアクタスがこのキャビンのためにカスタマイズしたもの。SUITE CABINにはバスタブもある(他のキャビンはシャワールームのみ)(写真:2点とも赤坂 麻実)
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最も広い「SUITE CABIN」は限定2棟。ソファーベッドはアクタスがこのキャビンのためにカスタマイズしたもの。SUITE CABINにはバスタブもある(他のキャビンはシャワールームのみ)(写真:2点とも赤坂 麻実)
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最も広い「SUITE CABIN」は限定2棟。ソファーベッドはアクタスがこのキャビンのためにカスタマイズしたもの。SUITE CABINにはバスタブもある(他のキャビンはシャワールームのみ)(写真:2点とも赤坂 麻実)

 バーベキュー広場だった場所は、小高い部分にはかまどを置かず、たき火を囲んでくつろぐスペースに変更した。そのたき火スペースには地元名産の石材である稲田石を使った。水場だったところは、アウトドアバーとして営業し、笠間エリアの地酒なども提供する。たき火スペースから一段下がった周縁部には日帰りバーベキューが楽しめるエリアを設置。従来のかまどを再利用している。

たき火を囲んで談笑できる「ファイヤープレイス」。稲田石を使っている(写真:赤坂 麻実)
たき火を囲んで談笑できる「ファイヤープレイス」。稲田石を使っている(写真:赤坂 麻実)
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「アウトドアバー」は20時から23時の営業(写真:日経BP)
「アウトドアバー」は20時から23時の営業(写真:日経BP)
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ファイヤープレイスでは、マシュマロを直火であぶって食べる「スモア」体験を提供(写真:コスモスイニシア)
ファイヤープレイスでは、マシュマロを直火であぶって食べる「スモア」体験を提供(写真:コスモスイニシア)
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日帰り客が利用できるバーベキューエリアは、たき火広場より一段低い位置に(写真:日経BP)
日帰り客が利用できるバーベキューエリアは、たき火広場より一段低い位置に(写真:日経BP)
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 笠間市産業経済部観光課の滝田憲二課長は、民間事業者ならではのアイデアを生かした施設になっていると話す。「市が直接、維持管理した場合、あのたき火広場やバーのような空間は作れなかっただろう。デザイン性の高さは民間ならではのものだ。また、笠間市を訪れる観光客は焼き物文化やゴルフに親しむ中高年が中心なので、都心の若い女性という新たな層を誘客しようとしている点にも期待している」。

開業から四半世紀、大規模改修のタイミングで民間の活力を

 笠間市から見た本施設の開発ストーリーを振り返る。ETOWA KASAMAの前身であるあたご天狗の森スカイロッジが誕生したのは、1994年。市町合併で笠間市となる以前の岩間町が開設した。滝田課長によれば、施設は当時、家族連れに人気だったという。

スカイロッジ時代のパンフレットより。屋根の色などが現在とは違っている。畳敷きの客室もあった。内装から受ける印象が現在とは大きく異なる(提供:笠間市)
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スカイロッジ時代のパンフレットより。屋根の色などが現在とは違っている。畳敷きの客室もあった。内装から受ける印象が現在とは大きく異なる(提供:笠間市)
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スカイロッジ時代のパンフレットより。屋根の色などが現在とは違っている。畳敷きの客室もあった。内装から受ける印象が現在とは大きく異なる(提供:笠間市)

 「ロッジが目新しかったこともあって順調に利用者が増え、開業2~3年目には、年間約1万2000人(バーベキュー広場を利用する日帰り客を含む)が利用した。畳敷きで大勢が寝泊まりできる部屋もあったので、夏休みシーズンには地元の子ども会やスポーツ少年団の利用も多かった」。

 しかし、その開業2~3年目をピークに、利用客は減少傾向に転じた。笠間観光協会が朝食や鍋料理(冬季)を提供するなどのサービスを始めたことで一時は盛り返したものの、2015年以降は再び利用減が続いた。

 笠間市産業経済部観光課の中山考司主査は「利用者数を維持するには、新しいサービスを継続的に生み出す必要がある。施設が老朽化して大規模改修が必要な時期だったこともあり、この機会に指定管理以上の公民連携の形を模索することになった」と説明する。

 笠間市は、公民連携事業の提案を公募し、コスモスイニシアだけが応募。審査委員会の評価を経て、市は2019年9月にコスモスイニシアを事業者に選定した。同社の提案は、誘客促進や、(宿泊客の)市内への回遊性、地場産品の積極的な使用といった要件を満たしていたことなどが評価された。

笠間市産業経済部観光課の滝田憲二課長(中央)、中山考司主査(左)、コスモスイニシアR&D部門新規事業推進二課の北川雄喜氏(右)(写真:赤坂 麻実)
笠間市産業経済部観光課の滝田憲二課長(中央)、中山考司主査(左)、コスモスイニシアR&D部門新規事業推進二課の北川雄喜氏(右)(写真:赤坂 麻実)
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 コスモスイニシアと笠間市は、従来から連携を取っていた。例えば、笠間版CCRC(Continuing Care Retirement Community)の基本計画策定に携わる委員会にコスモスイニシアの役員が参画したり、市内の学校統廃合に伴う跡地利用に関するヒアリングに同社が応じたりしていた。慶應義塾大学SFC研究所のシェアタウン・コンソーシアムには、コスモスイニシアが幹事会員として、笠間市が行政会員として、参画している。

 そうした関係があったことから、市がスカイロッジ再生という課題についてコスモスイニシアに相談したところ、「民間事業者にとっても可能性を感じられる場所・施設だという評価だったことから、公募を決めた」(滝田課長)という。

コスモスイニシアとして、PPPによるレジャー領域進出の第一弾

 一方、コスモスイニシアにとって、本事業は、同社がかねて挑戦したいと考えていた「公的不動産の活性化」と「アウトドアリゾート」の二つを実現するチャンスだった。

SUITE CABINのデッキは特に広く、2家族が集まってリビングのように団らんを楽しむこともできる(写真:日経BP)
SUITE CABINのデッキは特に広く、2家族が集まってリビングのように団らんを楽しむこともできる(写真:日経BP)
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SUITE CABINからの眺め(写真:日経BP)
SUITE CABINからの眺め(写真:日経BP)
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 「当社では今後、ますます増えるであろう遊休状態(もしくは活性化を必要としている状態)の公的不動産に着目していた。また、当社はお客さまに首都圏で住まいを提供している。そうしたお客さまの働き方が変わりゆくときに生じるニーズに応えたいと考えていた。働く場所が固定されない、余暇の時間が増えるといったことが考えられるので、レジャー・エンタメ分野に進出したい思いがあった。当社は既に、主としてインバウンド需要を充足するホテルを東京と京都で運営しているが、アウトドアリゾートは初めて」(北川氏)。

 現地に事業成功の可能性を見出したのは、東京から自動車でも電車でも約90分と比較的近く、かつ標高306メートルの山頂付近からの眺望や、周辺の焼き物文化(笠間焼・益子焼)、地元産の食材など、観光資源が豊かだからだという。

SKY CABINの内装(写真:赤坂 麻実)
SKY CABINの内装(写真:赤坂 麻実)
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SKY CABINの寝室。客室にはあえてテレビを置かず、Wi-Fiも用意していない(写真:日経BP)
SKY CABINの寝室。客室にはあえてテレビを置かず、Wi-Fiも用意していない(写真:日経BP)
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 ETOWA KASAMAでは地元の農業公社から農産物の供給を受けている。また、夕食の主菜には常陸牛や常陸鶏、ローズポークといった地元のブランド肉を採用し、「地の物が食べたい」という観光客のニーズに応えている。

23時以降は「サイレントタイム(静寂の時間)」と定め、照明を落とす(写真:コスモスイニシア)
23時以降は「サイレントタイム(静寂の時間)」と定め、照明を落とす(写真:コスモスイニシア)
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 食事をはじめとするサービスを充実させたこともあり、宿泊料はスカイロッジ時代に比べて、高く設定した。スカイロッジは4人用ログハウスの休前日の宿泊料(素泊まり)が1棟単位で1万7200円(税込)だったが、ETOWA KASAMAでは4人用ログハウス「SKY CABIN」に11月の休前日に宿泊すると夕食・朝食がついて1棟5万~7万円程度(税別、利用人数による)だ。

9月の利用者はリノベ前の2倍を突破

 初年度(7月18日から12月31日)の目標は利用者4500人。稼働率では、リノベーション前の40%前後に対し、50%超を目指しており、いずれも達成する見通しという。

FOREST CABINの並び(上)と内装(右)(写真:2点とも赤坂 麻実)
FOREST CABINの並び(上)と内装(右)(写真:2点とも赤坂 麻実)
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 現在までの利用状況・予約状況は好調だ。7月18日から8月17日の茨城県在住者限定の先行オープン期間は、連日ほぼ満室。8月18日のグランドオープン以降も9月末まで満室が続いている。9月の利用者数はリノベーション前の2018年同月比で2倍超になる。10月も週末はほぼ予約で埋まり、平日も7割ほどの稼働という(※9月17日現在の予約状況)。

 「本施設は分棟タイプのアウトドア型宿泊施設。いわゆる“三密”を避けやすいこともあって、コロナ禍で客足が鈍るといった負の影響は少ないようだ」と北川氏はみている。

管理棟ログハウスの外観(上)管理棟にもシャワールームが用意されている(右)(写真:2点とも赤坂 麻実)
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管理棟ログハウスの外観(上)管理棟にもシャワールームが用意されている(右)(写真:2点とも赤坂 麻実)
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管理棟ログハウスの外観(上)管理棟にもシャワールームが用意されている(右)(写真:2点とも赤坂 麻実)

 客層は、未就学児のいる若いファミリー層が中心で、次いで女性グループ、カップルなどとなっている。県内の利用が66%を占めており(2020年9月実績)、スカイロッジの2018年実績では76%だったのに比べると、県外からの利用率が上がっている。ただし、「東京都内からは14%にとどまっていて、これはコロナ禍が影響したとみられる」(北川氏)。

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管理棟の2階 (左写真:赤坂 麻実)には、打ち合わせをしたり、雨天の際にバーベキューをしたりできるスペースが。コスモスイニシアは、ワーケーション利用にも対応したい考え。キャビンやテントには地元・笠間焼のコーヒーカップが用意されている(上写真:日経BP)
管理棟の2階 (左写真:赤坂 麻実)には、打ち合わせをしたり、雨天の際にバーベキューをしたりできるスペースが。コスモスイニシアは、ワーケーション利用にも対応したい考え。キャビンやテントには地元・笠間焼のコーヒーカップが用意されている(上写真:日経BP)
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 今後の課題は、二次交通だ。現在は、自動車を運転しない利用者は、笠間駅から自己負担でタクシーを利用することになる。「今後は当社が何らかの送迎サービスを提供するのか、市のモビリティと連携して提供するのかなど、検討や協議を進めていく。また、(笠間城跡や焼き物の窯元などの)笠間市の観光エリアはETOWA KASAMAからも鉄道駅からも距離があるので、併せて回遊性を改善したい」とした。

 加えて、笠間観光協会との連携を深め、協会や会員企業が提供している着地型ツアーとETOWA KASAMAの宿泊を組み合わせて提供することも検討したいとする。市内に複数あるゴルフ場でのゴルフとセットにしたツアーも今後用意する考えだ。

笠間市(かさまし)
笠間市(かさまし)
茨城県中部の県央地域に位置する。首都圏から約100キロメートル、県庁所在地の水戸市に隣接する。人口7万3664人(2020年10月1日現在)、面積240.40km2。江戸時代中期、安永年間(1772~1781年)に始まる笠間焼は、近隣の益子町の益子焼と合わせて「焼き物文化(笠間焼・益子焼)」として、2020年6月に日本遺産に認定された

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/101300165/