「メガソーラービジネス」2018年9月25日付の記事より

30本の電柱で自営線を敷設

 福島県相馬市北部の沿岸地域にある相馬中核工業団地には、多くの国内大手企業が工場を設置している。市街から国道6号線を北上すると、右側に火力発電所の煙突をバックにメガソーラー(大規模太陽光発電所)のパネル群、左側には相馬市下水処理場が見える。

 福島県の沿岸には、東日本大震災後、同県の掲げる再生可能エネルギーの推進ビジョンに沿う形で、固定価格買取制度(FIT)を利用したメガソーラーが次々と運転を開始し、東北電力の送電系統に電力を送り始めている。

 だが、この6号線沿いのメガソーラーは、FITを利用して系統に送電していない。発電した電力は、道を挟んだ下水処理場に直接、供給している。「直接」というのは、東北電力の送配電線を使わず、独自に電線を敷設して、電気を送っているという意味だ(図1)。

図1●「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」内のメガソーラー(出所:IHI)
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 メガソーラーから国道6号線をまたいで下水処理場まで、30本もの電柱を立てて、約1.2kmの架空電線を敷設した。このような「自営線」を通じて、発電所から電気を供給・販売するサービス形態を「登録特定送配電事業者」という。FITによって20年間の安定した売電事業が保証されているなか、メガソーラーによる登録特定送配電事業はたいへん珍しい(図2)。

図2●約1.5kmの自営線で太陽光電力を下水処理場に送電(出所:日経BP)
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系統容量がなく「逆潮ゼロ」に挑戦

 このメガソーラーは、IHIの建設・運営している「そうまIHIグリーンエネルギーセンター」の施設の1つとなる。IHIは、今年4月に同センターの開所式を開催した。5万4000m2の敷地内に出力1.6MWの太陽光発電設備のほか、容量2500kWhの蓄電池などを設置した(図3)。

図3●2.5MWhのリチウムイオン蓄電池(出所:日経BP)
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 同社は1998年から航空宇宙事業本部の生産拠点として相馬市に工場を建設・運営していることもあり、震災後、市と協力し、復興計画と連動したスマートコミュニティ事業に取り組むことになった。コンセプトは、「再エネの地産地消」「防災機能の強化」「地域活性化につながる先進的な事業」、具体的には「水素」システムの活用を掲げた。

 スマートコミュニティ事業のなかでメガソーラー設備を導入する場合、系統連系したうえでFITによる売電で事業性を確保しつつ、地域新電力などを通じてメガソーラーの電力を地域周辺に供給するパターンが多い。

 実は、IHIと相馬市も、2014年にスマートコミュニティ計画を検討し始めた当初、メガソーラーを東北電力の送電線と接続したうえで、その電力を調達して地域に供給するようなイメージで進めていた。しかし、計画途中で近くの電力系統に空き容量がないことが分かり、「逆潮流ゼロ」つまり余剰電力の売電は一切ないことが前提になった。

 そこで、メガソーラーの電力を自営線で隣接する下水処理場に供給することにした。ただ、下水処理場は、東北電力からも買電できるようにしておくことで、電力系統から完全に自立させたマイクログリッドに比べ、蓄電池などへの投資負担を減らした。

乾燥で汚泥処理コスト削減

 「逆潮ゼロ」のシステムでは、仮にメガソーラーからの供給電力が、下水処理場の需要を越えてしまった場合、メガソーラーの出力を抑制しなくてはならず、事業的に損失となる。そこで、今回のスマートコミュニティ事業ではメガソーラー電力の変動に合わせて需要を制御できる複数の仕組みを取り入れた(図4)。

図4●スマートコニュニティ事業のモデルイメージ(出所:IHI)
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 メガソーラーの発電電力は、自営線を通って、相馬市下水処理場の施設運営に使われるのが基本で、余剰電力は、「電気ボイラー(400kW)で蒸気」に、「水電解装置(400kW)で水素」として蓄えられる。蒸気はアキュムレーターに、水素はタンクに蓄えておく。また、グリーンエネルギーセンター内には、蓄電池(500kW・2.5MWh)を併設しているので、これも需給調整に活用できる。

 余剰電力を使って蓄えた蒸気は、今回のスマートコミュニティ事業で導入した下水汚泥乾燥設備の熱源に使う。従来、相馬市下水処理場では、処理に伴って排出される汚泥を産業廃棄物として外部の民間事業者に処理を委託してきた。汚泥乾燥設備によって、汚泥の水分を減らして5分の1に減量した上、造粒成形機でペレット化する試みも始めている。

 産廃処理料金は、容量で決まるため、5分の1に減量することで、処理費用が低減されるという。同下水処理場では、これまで下水汚泥の処理費用として毎年約4000万円を投じていたので、減量化効果でこれが数分の1に減ることになる。加えて、将来的にペレットをバイオマス燃料として販売できれば、収益源にもなる(図5)。

図5●下水汚泥を乾燥させる真空乾燥器(出所:日経BP)
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燃料電池は非常用に限定

 一方、水電解装置で製造・貯蔵した水素は、現在、建設中の水素関連の研究施設で活用されることになっている。水電解水素製造装置(400kW)は、アルカリ型(25Nm3/h・旭化成製)と、固体高分子(PEM)型(30Nm3/h・日立造船製)の2タイプがああり、製造した水素は水素貯蔵タンク2基(400Nm3・日立造船製)に貯めておく(図6)(図7)。

図6●日立造船製のPEM型の水電解装置(出所:日経BP)
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図7●旭化成製のアルカリ型水電解装置(出所:日経BP)
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 また、メガソーラーに併設した蓄電池は、リチウムイオン型(2.5MWh)で、双方型パワーコンディショナー(500kW・東芝三菱電機産業システム=TMEIC製)を介して、需給バランスの維持に活用される(図8)。

図8●東芝三菱電機産業システム(TMEIC)製の蓄電池用のパワーコンディショナー(PCS)(出所:日経BP)
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 このほか、「グリーンエネルギーセンター」内には、純水素型の燃料電池システム(25kW・バラードパワーシステム製)を導入しており、これは災害時に商用電力が停電した場合、下水処理場の隣地にある復興交流支援センターに自営線を通じて送電する(図9)。

図9●バラードパワーシステム製の燃料電池システム(出所:日経BP)
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 センター内の水素タンクから水を供給することで、21日分に当たる最大420kWhの電気を供給できるという。

 IHIでは、水電解装置と燃料電池システムによる水素を媒体にした蓄電システムに関しては、「燃料電池の初期コストと劣化による更新費用を考慮すると、日々の需給変動に活用すると事業的に厳しい」(IHI)と判断し、災害時の非常用電源に限定した。

CEMSが発電量を予測

 平常時の日々の運用としては、メガソーラーからの供給電力が急増した場合、東北電力の系統への逆潮を防止しつつ、メガソーラーへの出力抑制を最小化すること。逆にメガソーラーの発電電力が急減した場合、負荷を減らして東北電力からの受電量(購入電力)を最小化することが、事業性向上におけるポイントになる。

 まず、逆潮防止を確実にするため、東北電力から常に一定量を受電するようにしておき、メガソーラーからの供給が増加して受電量が規定値を下回った場合、蓄電池への充電量増加と、メガソーラーの出力抑制をリアルタイムで制御するようにした。

 下水処理場の最大負荷は約200kWで、これに需要変動に対応できる負荷として、下水汚泥乾燥設備(電気ボイラー)400kW、水素製造(水電解装置)400kW、蓄電池500kWがある。これに対し、100kW前後の買電量をベースに1MW前後のメガソーラー出力で賄う。基本的に短周期変動と夜間の負荷は蓄電池の充放電で対応し、日中の長周期変動に対しては、電気ボイラーと水素製造の負荷変動で需給バランスを合わせていくイメージになる。

 受電量を指標にしたリアルタイム制御に加え、地域エネルギー管理システム(CEMS)からの日照量データを使って太陽光の発電量を予測し、電気ボイラーと水電解装置の負荷制御、蓄電池の充放電電制御を行うことで、メガソーラーへの出力抑制と購入電力を最小化するようにしているという。

 センター内の事務棟には、CEMSの監視画面があり、取材で見学した際には、小雨の降る曇天でメガソーラー発電量324kWに対し、使用電力356kW(下水処理場、汚泥乾燥、水素製造)と蓄電池充電142kWだったので、「324kW÷498kW(356kW+142kW)=電力自給率65.1%」と表示されていた(図10)。

図10●CEMSの監視画面の一例(出所:日経BP)
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 電気自給率は、製造する水素量、汚泥の乾燥量で変動するものの、これまでのところ、晴れの日中で6~8割、夜も含めた全需要でみると半分程度で推移しているようだ。太陽光の抑制率や買電量は、事前の想定程度になっているという。

電気ボイラーが太陽光に追随

 また、IHIの公表した今年3月27日の午前10~11時のデータを見ると、雲の移動でメガソーラー出力が約800kWから数十kWに急減する中、電気ボイラーの消費電力を400kWから200kWに半減させて、買電量の増加を抑えている様子が伺える。

 「電気ボイラ―は8本のヒーターから構成されており、各ヒーターを入り切りすることなどで、太陽光の出力変動に合わせて、予想以上に素早く負荷を制御できることがわかってきた」(IHI)という(図11)。

図11●電気ボイラ―とアキュムレーター(出所:日経BP)
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 水素関連の研究に関しては、まずは水電解装置のPEM型とアルカリ型の特性などを比較してエネルギーストレージとして性能を把握したいという。「一般的に変換効率に関してはアルカリ型、応答性はPEM型に優位性があるとされているが、実際の利用場面での性能を検証してきたい」(IHI)という。

 今回のスマートコミュニティ事業では、「逆潮ゼロ」という制約があったことで、かえってメガソーラー出力が伸びた場合の需要創出、いわゆる「上げDR(デマンドレスポンス:需要応答)」のノウハウ蓄積に期待ができそうだ。

 IHIでは、再エネの大量導入に伴って実施される「出力制御(出力抑制)」に対応し、今後、「余剰電力の有効利用技術」のニーズが高まると見ている。今回の熱、水素、電気を組み合わせた蓄エネルギーシステムを他地域へも展開していきたいとしている。

●設備の概要
施設名そうまIHIグリーンエネルギーセンター
住所福島県相馬市光陽2丁目(相馬中核工業団地東地区内)
発電事業者IHI
土地所有者IHI(相馬市より借用)
設置面積約5万4000m2
出力太陽光パネル1.6MW(パワーコンディショナー出力1.25MW)、蓄電池500kW(容量2.5MWh)、燃料電池25kW
燃料電池バラードパワーシステム製25kW
水電解装置PEM式(170kW・日立造船製)、アルカリ型(160kW・旭化成製)
蓄電池用パワーコンディショナー(PCS)東芝三菱電機産業システム(TMEIC)
開所式2018年4月4日
総事業費約20億円(国および福島県からの補助金などを活用)

この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/102200081/