埼玉県越生(おごせ)町の温浴施設「ゆうパークおごせ(越生町ふれあい健康センター)」は2019年8月、「BIO-RESORT HOTEL & SPA O Park OGOSE(ビオリゾート ホテル&スパ オーパークおごせ)」として生まれ変わった。指定管理者では維持管理のめどが立たず、温泉道場(埼玉県ときがわ町)が20年の長期建物賃借契約を結び、2018年4月からリニューアルをしながら営業を続け、今回、施設名を改めての全面オープンに至った。

8月にリニューアルオープンした「BIO-RESORT HOTEL & SPA O Park OGOSE(ビオリゾート ホテル&スパ オーパークおごせ)」(写真:高山透)
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一新したBBQが楽しめるテントサイト(提供:温泉道場)

 越生町は、埼玉県の中央部に位置し、都心からも程近い。越生梅林や黒山三滝など観光名所として知られるところだ。「ビオリゾート ホテル&スパ オーパークおごせ」(以下、オーパークおごせ)は町の南側の山あいにある。

 前身の「ゆうパークおごせ」は、バブル経済で真っ只中の1995年に開業。約5万m2の広大な町有地に、温浴施設、キャンプ場、バーベキュー場を整備。30億円以上の事業費をかけて整備した林間の行楽地で、町外からも大勢の観光客を集めた。当初は第三セクター方式で越生町も出資する株式会社ゆうパークが運営。開業から5年間は、年間15万人の入館者を集めていたが、近隣に温泉施設が建設されると、温泉ではなく沸かし湯だったことも弱みとなって、その勢いを失っていった。

 2006年にゆうパークによる指定管理に移行。その後、経営難から2011年には全国で指定管理者としての実績のあるシダックス大新東ヒューマンサービス(東京都武蔵野市)を選び、再生を図ったが、右肩下がりの入館者数に歯止めをかけることはできず、2017年度には7万人を切る。

集客力が落ち、老朽化も進む温泉施設の維持に苦慮

 「指定管理では、老朽化した施設の修繕も越生町の負担となるが、ゆうパークの空調設備や温浴施設など、大規模改修は行わず、壊れたものを修繕してきたのが実情。どうしても行政はイニシャルコストは準備できても、ランニングコストがなかなかかけられない」(越生町の担当者)と話すように、思い切ったリニューアルもできない状況だった。

 2014年4月からは、改めて公募によりシダックス大新東ヒューマンサービスを指定管理者に指定(指定期間は3年間)。売上の3%を町に納付するという条件だったが、集客力が落ち、利益が出なければ、指定管理者は納付金を納められない。1年延長した2017年度も納付金は免除となっていた。

 越生町では事業をあきらめ、施設の売却を決めたが応募はなし。途方に暮れていたときに、地元の埼玉縣信用金庫から紹介されたのが、隣町のときがわ町に本社を置く温泉道場だった。

 温泉道場は、埼玉県内を中心に「おふろcafe」ブランドで温浴施設を展開している。風呂に飲食施設を併設し、コーヒーや雑誌・コミック、マッサージチェア、PCレンタルなどの無料サービスを提供するのが特徴だ。お風呂のあるカフェに行く感覚で、サードスペース的に1日ゆっくり過ごせる場をコンセプトにしている。2018年からはフランチャイズ店方式による全国展開にも乗り出している。

越生町の新井雄啓町長。「越生は、自然に恵まれ、『住んでよし、訪れてよしの越生町』をスローガンにしているが、なかなか人口が増えない。東京にも近く、首都圏の『癒やしのまち』として、越生でしか体験できないものを増やし、移住や観光を盛り上げたい。そのためには、温泉道場のオーパークのように民間事業者のノウハウも入れながら、まちの魅力づくりを図りたい」と町長。「ハイキングのまち」「セカンドハウスのまち」「生涯学習のまち」なども推進する(写真:高山透)
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 自ら同社の誘致に乗り出した新井雄啓町長は、「数カ所視察したが、館内にテントやハンモックがあったり、何千冊もの本が置かれていたりと、これまでの温浴施設のイメージとは全く違っていた。越生の近隣には、埼玉医科大学、城西大学、女子栄養大学などがあり、若い世代をターゲットにすれば入館者は見込めるのではと思った」と振り返る。

20年の長期建物賃貸借契約が再生のカギ

 「ゆうパークは当社のあるときがわ町の近隣にあり、私たちもよく知っている施設。当社が地方創生に力を入れていることもあって引き受けた」と温泉道場社長の山崎寿樹氏。

温泉道場の山崎寿樹社長。船井総合研究所時代に温浴ビジネスチームに所属し、日帰り温泉に特化したコンサルティングを行う。2011年に温泉道場を設立。マーケティング力を生かして、温浴施設の事業再生に取り組む。コミュニティのハブとなるお風呂の運営を通じて地域社会と連携し、地域の活性化や地域の担い手となる人づくりに貢献することをミッションとして取り組む(写真:高山透)
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 温泉道場が開発の条件としたのが、20年の長期の賃貸借契約。町では、施設を条例で行政財産から普通財産に転換し、定期建物賃貸借契約を温泉道場と結んで、建物に付随する土地約5万1645m2は自由に使えるようにした。最初の3年間は賃借料ゼロで、4年目と5年目は年額250万円、以降は750万円を町に支払う内容だ。

 「指定管理のほうが、リスクは少ない。ただ、制約は多くなり、温泉道場がやる意味がなくなる。自分たちでリスクを背負い、投資もして、自分たちの裁量で自由に開発できるような契約形態にしてもらった」という。事業化に際しては、施設の老朽化のため、町から3000万円の修繕費が拠出されたが、温泉道場も現在までに約3億円を投資して施設整備を進めている。

 指定管理者制度は、自治体など公的施設の管理・運営を民間事業者などに代行させるもの。民間のノウハウを生かして、コスト削減やサービスの向上も期待されるが、公の施設としての運営であり、業務内容は仕様書で細かく決められていることが多く、民間の創意工夫の余地は限定的になりがちである。越生町での20年の定期借家契約による事業再生は、経営難や老朽化した公的施設の活性化、スリム化のための手法としても注目され、町や事業者への問い合わせも多い。温泉道場では、視察研修ツアーの申し込みも受付中だ。

 同社としても、自治体の資産を活用しての施設運営はオーパークおごせが初めてとなる。「我々も自治体の制度を勉強して、実現可能なスキームを提案した。賃貸借契約など、町の弾力的な対応があって今回の事業は実現できた。町には情報発信や視察、イベントの協賛など協力してもらう事もあるが、過度に依存することなく、いい関係を維持できている。『町が協力しています』と言ってもらえるだけで、交渉や調達などスムーズに進む」という。

宿泊型の「O Park」ブランドを新展開

 2018年に同町と賃貸借契約を締結。おふろcafeカフェブランドは使わず、広大な敷地を持つ「ゆうパーク」の資源を活用した新業態をプランニング。翌月から施設に少しずつ手を入れながら営業を続け、今年8月に「BIO-RESORT HOTEL & SPA O PARK OGOSE」としてリブランドオープンさせた。梅の里「越生町」の里山の深い緑に囲まれた大自然の中で都心の喧噪を忘れ、ちょっと贅沢な時間を過ごすこと。キャンプやBBQ、水着で入れるお風呂に、フィットネスなど、家族や仲間同士で楽しめる施設。「ゼロから始まることを意味するO(オー)を施設名に入れ、一気にリニューアルせず、徐々に新しいエリアを増やしながら、いろいろな〝物語〟がこれから生まれるというコンセプトにした」と山崎氏は話す。

改装したオーパークの温浴施設に設置された休憩エリア。ハンモックや書棚など、温泉道場らしい内装にリニューアル(写真:高山透)
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 温浴施設の2階の休憩室は、壁紙や床材を取り替え、ハンモックや書棚、大きなテーブルなどを置いてまったりできる空間に模様替えした。ゆうパーク時代との大きな違いは、温浴施設を最大の収益源とはせず、キャンプ(宿泊)やBBQで稼ぐビジネスモデルに転換したところ。家族で使える大型のグランピングキャビンや地元のゆるキャラのドームキャビンなどを追加、フリーテントサイトも一新し、宿泊施設を増強した。

 「このエリアは宿泊のイメージが希薄だが、宿泊して楽しむことのできる目的地となるような施設にしたい」と山崎氏。アーティストを招聘してお風呂フェスやベンチャー企業を集めた就活生向けのキャンプイベントを仕掛けるほか、BBQなどのアクティビティを楽しむ企業の研修、ファミリー層向けに森を使ったワークショップなども始めている。来春には、半露天でサウナパーティーもできるフィンランド式のサウナスイートキャビンも導入予定だ。今のところ温泉を掘削する考えはないようで、「近隣で泉質が自慢の玉川温泉なども運営していて、回遊してもらえばいい」とスタンプラリーなども取り入れている。

 客足はここにきて、ようやく上向き始めたところ。2019年度は、ゆうパーク時代の1.5倍の売り上げを見込んでいる。「一度下がり始めた施設を上げるのに1年では無理。時間はかかるけれど、いい施設になると思う」と話す。

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風呂は水着で入浴できるのでファミリーやグループに人気(提供:温泉道場)
森の中に浮かぶドーム型のテントはファミリーに人気(写真:高山透)
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宿泊強化のためにキャビンも整備(提供:温泉道場)
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5つのベッドを持つトレーラーハウスタイプのグランピングキャビン(写真:高山透)
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お風呂事業の全国展開も進行中

「ときたまひみつきちCOMORIVER(コモリバ)」のウェブサイト。埼玉県ときがわ町で、自治体の遊休資産を活用し、宿泊、バーベキュー、キャンプ場などを併設したレジャー施設をオープンした

 「当社の強みはマーケティング。地域の特徴やパートナーの要望に合わせ、オーダーメイドの業態が作れる。洋風だったり、和風だったり、ワイワイガヤガヤのところもあれば、まったり落ち着けるところもありバリエーションが多い」と山崎氏。

 温泉道場では、ブランドとノウハウを提供してフランチャイズによる全国展開を始めている。11月に滋賀、12月に北海道芦別市で新店鋪の開業を予定。公民連携の取り組みとしては、越生町に続き、2018年7月には本社を置く地元・ときがわ町で自治体の遊休資産を活用し、宿泊、バーベキュー、キャンプ場などを併設したレジャー施設「ときたまひみつきちCOMORIVER(コモリバ)」もオープン。自治体からの引き合いも急増しているという。

 「(公民連携案件もそれ以外も)自分たちからやりたいと申し込んだ施設は一つもない」と山崎氏。「持ち込まれた案件で、実際に手掛けるのは50件に一つくらいの割合。温泉道場らしさが出せて、当社のメンバーが楽しく働けるプロジェクトかどうかが引き受けるポイント」だという。

越生町(おごせまち)
人口は1万1521人(2019年10月1日時点)、面積40.39km2。越生梅林や黒山三滝を持つほか、飯能市のムーミンバレーパークにも近く、観光に力を入れる。オーパークは、ムーミン物語(埼玉県飯能市)とパートナーホテル契約を2019年8月締結
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この記事のURL https://project.nikkeibp.co.jp/atclppp/PPP/434167/102300122/